1957年10月、メイン州デリー。何日も続いた大雨が多少やわらいだ日、少年ジョージは兄ビルに紙の小舟を作って貰い、それを流して遊んでいた。その小舟が排水溝に落ち込むと、その穴からピエロが覗きジョージに語りかけてきた、、、
著者はスティーヴン・キング。
言わずと知れた「モダン・ホラーの帝王」。
多くの作品が映像化されている。
代表作に
『キャリー』
『シャイニング』
『ザ・スタンド』
『スタンド・バイ・ミー』
『ペット・セマタリー』
『ミザリー』
『グリーン・マイル』
『11/22/63』
『ダーク・タワー』等がある。
名作の多い作家、スティーヴン・キング。
中でも、本作
『IT』は名実共に作者の最高傑作という呼び声が高い。
最高の作家の最高傑作。
つまり、
ホラー小説の最高傑作と言っても過言では無いのだ。
細かい状況描写、
続きが気になる、圧倒的リーダビリティ、
容赦無いホラー展開、
どれも素晴らしい。
だがやはり、本作の特筆すべき特徴は、
子供パートと
大人パートの比較描写にあるだろう。
子供時代に「IT(それ)」としか形容出来ない存在と「何か」があった。
大人になり、過去を忘れたかつての仲間達が、再び集まり悪夢と対峙する。
このストーリーと展開の上手さに、
読者自身の感情も激しく揺さぶられる。
現在進行形の子供も、
そして、かつて子供時代があった大人なら尚更、
本作『IT』は楽しめる事請け合いだ。
以下ネタバレあり
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スティーヴン・キングの最高傑作
誰が呼んだか、かつては「モダン・ホラーの帝王」と称されたスティーヴン・キング。
名作を多作するという希有な作家で、私にとっては「ハズレの無いお気に入り作家」の一人である。
多数の名作
『シャイニング』
『ミザリー』
『11/22/63』等、挙げたらキリが無いが、
本作『IT』こそ、スティーヴン・キングの最高傑作との声が多いのではないだろうか。
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キング作品の特徴を体現する作品
『IT』が最高傑作と言われる理由。
その理由の一つは、スティーヴン・キング作品の特徴がこの一作に凝縮されているからであろう。
まず、細かい状況描写。
背景、場所、心理、セリフ。
これでもかこれでもかとネチッ濃く描いてくる。
しかし、描写すればするほど、しつこいと感じるより、登場人物や町、歴史に共感して行くのが流石である。
そして、圧倒的リーダビリティ。
兎に角続きが気になる。
盛り上げ方の波が上手い。
さらに、先の展開の「予告」をさりげなく挟んでくるからどうしても読むのを止められなくなるのだ。
また、容赦の無いホラー展開。
モブキャラも、悪人も、子供でも、仲間でも、愛する者でも死ぬ時は死ぬ。
そして、恐怖の描写が上手い。
話が超常的であっても、そこで描かれる「恐怖の感情」たるホラーは正しく本物であるので「他人事」と切り捨てられない。
感情を揺さぶり、読者の気持ちをストーリー展開と同期させる。
これが上手いのだ。
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重なる二つのストーリー・ライン
勿論『IT』は、そのストーリーもバツグンに面白い。
それを支えるのは、計算され尽くした構成である。
それは、子供時代と大人時代がシームレスに繋がるストーリー構成である。
これが見事だ。
ビル達仲間の7人は、一人を除いて皆記憶を失っている。
その記憶が蘇って行き、子供時代に何が起こったのかというのを、読者は登場人物と共に臨感溢れる筆致で知る事になる。
最初は断片的に過去を概要として思い出し、
そして徐々にその「歯抜けの記憶」がしっかりと埋まって行く。
この展開が素晴らしいのだ。
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黄金の時代の記憶
38歳という大人、人生の折り返しが見えてきた年齢であり、気力、体力が急激に低下する頃でもある。
その大人達がかつての仲間と集まり、11歳の自分たちの思い出を語る。
人生の黄金時代とはいつだろう?
それは人によって違うだろうが、最も無垢で活力に満ち希望と人生への夢、愛に溢れた年代と言えば10~18歳位までだろう。
本作ではその黄金時代、11歳の夏の日々を思い出す。
大人の自分がかつての子供時代を思い出す、それは約束された勝利の記憶かも知れない。
しかし、この輝ける子供時代の記憶、体験こそが本作の核となっているのだ。
この圧倒的ジュブナイル感。
彼等7人の体験。
それは、『IT』を読んでいる私自身の体験、記憶でもあるのだ。
嫌ないじめっ子に脅されたり、
チャリンコに乗ってすっ飛ばしたり、
友達と隠れ家を作ったり、
好きな子を見てドキドキしたり、
全て私自身の子供時代と同じである。
ビルやリッチィ、ベンにベヴァリー、エディ、スタン、マイク達が集まり語り思い出す子供時代、
その行為は、楽しい思い出も恐怖の思い出も、読者自身の子供時代の思い出をも共に蘇らせる。
この読書体験。
ストーリーは子供時代と大人時代が二重に重なる。
その一方、「はみだしクラブ」の思い出でと読者の思い出をも重なって行く。
この「二重の二重性」とも言うべき構成が圧巻である。
私は久しぶりに『IT』を読んだ。
それこそ、25年ぶり位である。
(27年では無いのはご愛敬)
子供時代に夢中でハラハラ読んだ名作。
それが、今読んでも面白い。
それどころか、今読むからこそ分かる面白さがある。
ビル達と共に忘れていた「はみだしクラブ」のかつての日々を思い出し、
同時に自らの子供時代をも思い出す。
こんな事があるのか、
そしてこんな事が起きうるからこそ、本作『IT』が名作と呼ばれているのを、遅まきながらに気付いたのだ。
素晴らしく幸福な時間を過ごさせて貰った。
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さて、何故久しぶりに『IT』を読もうと思ったのか。それは勿論、映画『IT ”それ”が見えたら終わり』の公開に合わせたからである。この映画版『IT』について次回は語りたい。