家来と共に狩りに出たラリバール・ウーズは、峻険な山間にて怪しげな老人に出会う。ラリバール・ウーズの登場で儀式が失敗に終わった腹いせに、老人は彼に「呪い」をかけ、魔神の供物とするが、、、
著者はクラーク・アシュトン・スミス。
発表した小説作品は全て短篇である。
現在本邦にて新刊本で入手出来るのは
『魔術師の帝国《1 ゾシーク篇》』
『魔術師の帝国《2 ハイパーボリア篇》』(本書)
の2冊である。
クラーク・アシュトン・スミスの『魔術師の帝国《2 ハイパーボリア篇》』。
本書は
ダーク・ファンタジー。
ハイパーボリアとは「氷河に覆われんとする極地の大地」であるという。
その場所で
奇怪なモノが蠢く様を幻想的に描いている。
何処とも知れぬ場所にて魔法と怪物が跳梁し、餌食となる人間をついばむ。
異界においては、人間はただ狩られる存在であり、最後には絶望が常に待つ。
正に、暗黒幻想怪奇譚と言える本作。
ファンタジー好きも、
そして怪奇小説好きも一読の価値があるだろう。
以下ネタバレあり
スポンサーリンク
本書には巻末に安田均氏による解説が付されている。
これが面白く、これを読めば私の解説などいらないとは思うが、作品から何を受け取るのかは人それぞれだと思うので、私の感想も以下に記したい。
-
怪奇!!モンスター・ファンタジー!!
『魔術師の帝国《1 ゾシーク篇》』は死と退廃の物語。
ネクロマンサーとゾンビの物語であった。
その雰囲気は『魔術師の帝国《2 ハイパーボリア篇》』にもある。
しかし、その一方本書にはよりバリエーション豊かな「異界のモノ」が登場する。
様々な怪物に、多彩な方法で人間が餌食になるのだ。
著者クラーク・アシュトン・スミスはH・P・ラヴクラフトと親交があり、クトゥルー神話の怪物等も本書には見られる。
それ以外でもファンタジー的怪物、SF的宇宙人など、色々な「異界のモノ」の跳梁跋扈が見られるだろう。
-
作品解説
本書『魔術師の帝国《2 ハイパーボリア篇》』は全15篇の短篇からなる。
物語の舞台は
ハイパーボリア
星々の物語
ポセイドニスと世界の涯
の3つからなり、大まかに分かれている。
それぞれ、簡単に解説してみたい。
「ハイパーボリア」
ハイパーボリアの女神
ハイパーボリアに捧げる詩。
七つの呪い
儀式を中断された腹いせに、ダンテばりの地獄巡りをさせられる男の物語。
たらい回しのイライラ感も、死と隣り合わせなら恐怖でしかない。
アブースル・ウトカンの悲惨な運命
自分が馬鹿にした相手の方が、実は利口であったという。
欲をかきすぎると破滅するのだ。
何故だが、「水木しげる」風の絵で漫画化したら面白いだろうな、と思った。
白い巫女
幻覚に囚われようと、本人が幸せならそれで良いのかもしれない。
理想の存在とは、結局主観の問題なのだから。
ウボ=サスラ
いわゆる「呪いのアイテム」系の物語。
時空を越えて原初まで叩き込むという壮大なイメージが面白い。
「星々の物語」
記憶の淵より
世界の終わりを謳う詩。
マアル=ドゥエブの迷宮
決死の潜入も、魔術師の前では一時の退屈しのぎにすぎない。
無慈悲に破滅を与えるだけの存在とは、目を合わせてはいけない。
君子危うきに近寄らず、である。
花の乙女たち
Lv.を上げすぎたRPGで、装備無しでダンジョンに入るようなノリである。
しかし、縛りプレイをするより、他のゲームをした方が楽しいと思うゾ。
ヨー・ヴォムビスの地下墓地
展開や物語がストレートな怪奇小説である。
ともすれば、ありがちで退屈な話だが、迫力ある描写で読ませる。
日本の妖怪で言うと「一反木綿」とか「衾(ふすま)」みたいな怪異である。
予言の魔物
収録作では最長(と言っても40ページ)。
SF的なノリからロマンチックな終わり方。
既存の物を自分の良いように解釈し、自らの権利を主張し周囲にそれを強制する。
そんな事をしたら周囲の反感MAXなのを理解すべきである。
悲しみの星
妖魔が妖魔に語る破滅の物語。
情緒的な印象の作品。
「ポセイドニスと世界の涯」
スームの砂漠
バカップル最強!みたいな話。
二重の影
慣れ親しんだ手順で、自信のある作業であったとしても、未知の事象に挑む時は過信は禁物である。
また、異変を感じたら速やかに報告をすべし。
傲慢さと拙速により危機管理に失敗した話である。
ヨンドの魔物たち
自由意志を与える振りだけしながら、実は破滅の罠に相手を追い込む輩は実際にいるので注意である。
夜のメムノン
破滅を悼むかの様な音が響く詩。
短篇に特化した作家なだけあり、ワン・アイデアを活かし、まとまった破滅の物語をバリエーション豊かに描く。
実生活でも、「こういう事あるワ」と思わせるのが面白い。
とは言え、基本はダーク・ファンタジー。
ファンタジーは、何も『指輪物語』や『ハリポタ』だけでは無い。
邪悪と退廃に満ちた暗黒のファンタジーだってあるのだ。
空には紫のオーロラ、
まばらな雪が残る茶色の大地、
魔物が跳梁し、
人間の絶望は供物でしか無い。
そんな世界をあなたも妄想した事は無いだろうか?
本書『魔術師の帝国《2 ハイパーボリア篇》』は、そんな世界を現出させた、ある意味理想の暗黒物語なのである。
スポンサーリンク
さて次回は、怪奇な世界というか、怪奇マンガを語った作品、『昭和の怖い漫画』について語りたい。