父親のコネで時間航行士の補欠人員となった「ぼく」。遂に完成したタイムマシンの栄えある最初の行き先として選ばれたのは、無限のエネルギーを創出する「ゲートレイダー・エンジン」が初起動された1965年だったのだが、、、
著者はエラン・マスタイ。
著者近影のドヤ顔がかがやいています。
本作が小説デビュー作。
本作『時空のゆりかご』は
一人称語りの時間SF。
まずキャラ付けの為でしょうか、最初に主人公の「ぼく」の人物描写がなされます。
*以下、本文の内容に即した描写の説明となります。
無限エネルギーの使用で戦争も、何不自由も無い2016年。
父親の名声のおかげで就職場所にこと欠かない「ぼく」ですが、それを片っ端から辞めます。
「父の影に隠れるぼく不幸」
そして、母の死を利用して、元カノ3人とSEX。
あと、友達とも。
「ぼく可哀想」
ッパーン(本を床に叩き付ける音)
作者が意図してムカツクキャラクターを作っていると分かっていても、
それでも限度があります☆
このキャラクターの一人称の語りを読まされる方の身にもなってほしいですな。
補欠時間航行士の「ぼく」はモーレツ系の女性ペネロピーのパックアップです。
ある日、訓練でなんやかんやあって、二人同時にシャワールームに入る事がありました。
ペネロピーの裸を見て「ぼく」は勃起しますが、
それを見るペネロピーの方もまんざらでもなかったと判断、
「彼女はぼくに恋してる」
がっ、がっ(うめき声しか出ない)
勘弁してくれ☆
読み進めると主人公のキャラクターが変わり多少はマシになりますが、
それでもここまで嫌なヤツにする必要があったのかな?
と思います。
SF的なアイデアがあっても、
キャラクターでそれを台無しにする。
そういう事もあるんですね。
400ページ超を総ツッコミで楽しめる。
それが『時空のゆりかご』の楽しみ方なのかもしれません。
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『時空のゆりかご』のポイント
一人称の語りのウザさ
ツッコミを楽しめる「ぼく」のキャラクター
内容とは関係無い邦題
以下、本作と時間SFについて、ちょこっと語ります
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時間SFいろいろ
一言で時間SFといっても、実は内容は色々あります。
1:時間の経過にトリックがあり、オチやネタがミステリ的な作品。
2:時間経過の結果や時間旅行先にて冒険活劇が繰り広げられる作品。
3:タイムマシンの使用によりパラドックスが起こり、世界線や時間軸が分岐する多元世界的量子論SF作品。
勿論、どれがどれ、と明確に区別されている訳では無く、どの作品も1、2、3の全ての要素を多かれ少なかれ含んでいます。
あくまで、大まかな傾向です。
短篇作品は「1」が、
長篇作品は「3」が多い印象です。
映画の時間SFは「2」が多いですね。
そして、本作『時空のゆりかご』は「3」のタイプです。
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時間SFへのツッコミ
『時空のゆりかご』の面白い点は、タイムマシンの実現不可能性について言及している所です。
タイムマシンは時間を移動するだけではダメだ。
何故なら、惑星は公転しつつ、宇宙空間を移動しているから。
よって、空間の移動を伴ってこそ実現出来る。
とツッコんでいます。
このタイムマシン(時間移動)の非実現性を指摘しておいて、本書では一体どんな時間移動の理論を見せてくれるのか?、その点が大いに期待出来ました。
特に説明も問題も無く、時間移動してしまいます。
しかも、2種類のパターンで。
…なんだ?コリャ!!
塞がらない開いた口を閉じてフォローしますと、
未だかつて誰も為し得て無いのに、一介の小説書きが実現可能なタイムマシンの理論を作れるハズ無いじゃないか、と冷静に判断出来ます。
これは、
「時間SFにツッコみつつ、自分も意図して気にせずタイムマシンを使った、この私にツッコんで」
という作者の誘い受けなのでしょうか?
そう思いましょう。
ツッコんだら、負けかな?と思っています。
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邦題で期待してはいけない
さらに本作はその邦題も特徴的です。
原題は『ALL OUR WRONG TODAYS』。
シェークスピアの『マクベス』の台詞をもじったものだそうです。
日本人には馴染みが薄いので、それを代えるのは良いと思います。
しかし、それが『時空のゆりかご』なのは、何故でしょう?
内容と全く関係ありません。
『時空のゆりかご』だと、まるで時空が生まれた揺籃期まで時間をさかのぼる壮大なストーリーをその題名で連想してしまいます。
しかし、実際には50年さかのぼるだけ。
しかも、1965年という年について、舞台設定的な特別な意味は無いという体たらく。
色んな意味でツッコミ甲斐がありますね。
以上の様に『時空のゆりかご』はツッコミが沢山楽しめる作品となっております。
たまにはこういう読書も良いかもしれませんね。
どうでしょう、あなたも挑戦してみては?
きっと読み終わった後は、能面の様な表情が顔に張り付いているでしょう。
そんな作品です。
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