小説『超動く家にて』宮内悠介(著)感想  バカぶっても隠せ得ぬ教養!!

 

 

 

10人が住まう円形の家には出入り口が無く、しかし、そこで殺人事件が起きた。その家は出入り口が無いだけではなく、しかも動くという。いやそれだけでは無く、10人のハズが、11人いる!?これで事件が起きないハズも無く、、、

 

 

 

 

著者は宮内悠介
デビューから順当にキャリアアップして行っている。
著作に
『盤上の夜』
『エクソダス症候群』
『彼女がエスパーだったころ』
『カブールの園』
『あとは野となれ大和撫子』等がある。

 

 

 

本作『超動く家にて』では帯に「バカをやる必要があった」と書かれています。

これを見て、

「あぁ、私みたいなバカでも読めるレベルの作品を書いてくれたのか」

 

と思い、本作を手にとってみました。

結論から言うと、
バカバカしくて楽しめた作品がある反面、
やはり教養が必要な作品もあり、

結局は、知識も教養もある人が、計算してバカを演出している作品群なのだなと思いました。

 

帯のアオリをそのまま受け止めて「バカSF」を期待しすぎるのは少し違うなと感じます。

しかし、各種文学賞を受賞している著者が、敢えてハッチャけて書いたという短篇を集めた本作。

バリエーション豊かなジャンルの作品を楽しめる短篇集です。

 

 

  • 『超動く家にて』のポイント

教養のある人が書いた、バカを演出した作品

ミステリ、SF、文学とバリエーション豊かなジャンル

一歩引いたメタなネタを真面目に語る面白さ

 

 

以下、内容に触れた感想となっております。

 


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あくまで、個人の感想ですが、
私が宮内悠介氏の作品を読むと、否応なく基礎的教養の差を見せつけられる思いがします。

文中の細かいネタや面白さを理解するのに、事前にそれを教養として身に付けている必要を感じるのです。

「ネタ」である事は分かるのに、それの意味する所が解らない。

自分の無知さをまざまざと解らされるばかりで、自己の未熟さを再確認させられます。

著者が「バカをやる必要があった」という作品を読んで私が感じるのは、
「このレベルでバカと言うのなら、私はどんだけバカなんだよ、、、」
という思いなのです。

しかし、世間の評価は高く、
直木賞の候補になったり、
吉川英治文学新人賞、三島由紀夫賞を受賞している事を見ると、
分かる人が読めば面白いのだという証左と言えます。

世間が面白いと言っている作品の面白さが分からない、、、

「読書の好み」と「作品を正しく評価する」事は別問題なので、
その判断が出来ない自分の未熟さを思うと、
より一層の精進の必要性を感じます。

 

  • 作品解説

『超動く家にて』には全16篇の短篇、ショートショートが収録されています。

巻末に著者自身の作品解説もありますが、読者目線という意味で、私も感想、解説をして見ます。

自分が面白かった作品のみを抜粋して紹介します。

 

トランジスタ技術の圧縮
まるで少年漫画の様なノリを真面目にやってくれているのが嬉しい作品。

文学部のこと
読んで『もやしもん』かなぁと思ったら、解説にもそう書いてありました。
日本酒を文学として捉えた作品?なのかな。

アニマとエーファ
よく言われる、
「サルにデタラメにタイピングさせたら、いつかシェークスピアを書き上げる」
という文学の意義についての言葉があります。

学習型AIはサルとは全く違いますが、物量がいつしか質に転化するという発想の共通点が面白く思いました。

超動く家にて
バカミステリというか、SFというか。
本一冊ぶんのネタをトランジスタ技術圧縮してしまっている豪華さがあります。

夜間飛行
一瞬分かりませんが、パイロットがロボでナビが人間という転倒ぶりの一発ネタが良いです。

弥生の鯨
これまたビルドゥングスロマンとして一冊のネタとして使えそうですが、短篇にしたからこその面白さなのかもしれません。

法則
メタミステリなのですが、これをやっつけで作ったというのがただただ凄いです。

ゲーマーズ・ゴースト
ロード・ムービー的な展開から、洒脱なオチに至るのが気持ち良い作品。

スモーク・オン・ザ・ウォーター
地震、雷、火事、親父、と言いたいだけなのでは?
しかし、その副題のゴリ押しぶりがイイね。

星間野球
バカバカしいネタを本気でやる。
ゲームの勝利に心血を注ぐ。
この、他人から一見するとどうでもいいものを真剣にやる事に、勝負に懸ける純粋さが生まれるのです。

 

 

面白い作品がある一方、『クローム再襲撃』の様に私には何が書いてあるのか全く理解出来なかった作品もあります。

この作品の振れ幅こそが、著者の多才さを示す物であり、
それが文学賞を取る所以として、広く評価されている部分なのだと思います。

デビュー以来、ハイスピードで作品を作り続けている著者の行く先に、今後も注目です。

 

 


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さて次回は、技巧によらず、シンプルでも、それはミステリとして面白い『月下の蘭/殺人はちょっと面倒』について語ります。