映画『記者たち 衝撃と畏怖の真実』感想  全てを疑え!!そこから始まる自己防衛!!

 


 

 

2001年9月11日、米国同時多発テロ発生。9月20日、ブッシュ大統領は「対テロ戦争」を宣言する。次第に、その標的が「イラク」に絞られる中、新聞社「ナイト・リッダー紙」は、その政府の方針に疑問を投げかけていた、、、

 

 

 

 

監督はロブ・ライナー
映画監督でありながら、
俳優としても多くの作品に出演する。
代表的な監督作に
『スタンド・バイ・ミー』(1986)
『恋人たちの予感』(1989)
『ミザリー』(1990)
『ア・フュー・グッドメン』(1992)等がある。

 

出演は、
ジョナサン・ランデー:ウディ・ハレルソン
ウォーレン・ストロベル:ジェームズ・マースデン
ジョン・ウォルコット:ロブ・ライナー
ジョー・ギャロウェイ:トミー・リー・ジョーンズ

ヴラトカ:ミラ・ジョヴォヴィッチ
リサ:ジェシカ・ビール

 

 

 

『記者たち 衝撃と畏怖の真実』。

なんとも大仰な邦題ですね。

ですが、原題も『shock and awe』。
直訳すると、「衝撃と畏怖」になります。

「awe」の定義について、
グーグル翻訳によると、

「a feeling of reverential respect mixed with fear or wonder.」
と、あります。

つまり、
「尊敬の念と、恐怖または不思議な気持ちが混在している」
解り易く言うと、
戸惑い混じりの畏怖」と言った所でしょうか。

 

そして、この「shock and awe」というのは、
米国が、イラクに侵攻した時の作戦名。

つまりアメリカはイラクに、
ビビって、怖れ、敬え!」と言っているのですね。

 

しかし、
この、アメリカが仕掛けた、対イラク戦争というものは、
そもそも正当性があったのか?

そこに、当時から疑問を投げかけ続けた新聞社があった。

 

本作は、その「ナイト・リッダー紙」(Knight Ridder Newspaper)に所属する、
主に4人の記者たちを通じて、
問題提起を投げかける作品です。

 

我々は歴史と結末を知っています。

イラク戦争の根拠とされる「大量破壊兵器は、無かった」。

そう、報告されています。

その事を考慮するに、
邦題の「衝撃と畏怖の真実」というのは、
実は、ダブルミーニングになっているのですね。

つまり、
米国の「shock and awe」作戦の真実を暴く
という意味と、

暴かれた真実自体に「ビビり、怖れる」、
という意味が込められているんですね。

原題に「真実」という言葉を付け加えただけなのに、
これだけ深い意味になる。

中々、洒落た邦題です。

 

内容自体は、
ごく最近の、しかも、印象的な出来事を扱っていますので、

今更感を覚える人も多いでしょう。

しかし、
本作で扱われるテーマは、

むしろ、
今後の人生を生きて行く上での、
重要な意味合いが込められているのです。

 

ごく近い歴史ですが、
充分、教訓としての意味合いが込められた作品、
それが『記者たち 衝撃と畏怖の真実』なのです。

 

 

  • 『記者たち 邀撃と畏怖の真実』のポイント

全てを疑え

複数の情報にあたれ

トップの罪は、末端が贖う

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 


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  • 情報の信憑性

我々は既に知っています。

アメリカが起こした、
イラク戦争の欺瞞性を。

日本に生きていた私達としては、
客観的に見て、
アメリカの言う、
「イラクの大量破壊兵器」が本当にあるのか?
その事に、当時から疑問を感じていました。

しかし、
アメリカは強行した。
国際的な支持を得ていないにも関わらず、です。
(因みに、日本は支持した)

何故、アメリカは戦争に踏み切れたのか?

それは、
国際社会の同意よりも、
自国の世論に後押しされたものだったからです。

しかも、
その「自国の世論」なるものが、
政府の情報操作により形成されたものだったとは、、、

 

本作『記者たち 衝撃と畏怖の真実』では、
アメリカの世論が、
どの様にして戦争に向かったのか、
その過程を描いているとも言えます。

本作におけるその解釈は、

先ず、
イラクへの侵攻という目的があった

そして政府は、
イラクとアルカイダの関連性について、
その目的に添う情報のみを採用して、テロリストの背後にイラクが居たという根拠にした

その政府の発表を、
報道機関が後押しした

アメリカの国民は、
政府が言った事、
それを新聞やTVなどのメディアで繰り返し流され、

「イラクとアルカイダは関係がある」
「イラクは大量破壊兵器を所持している」
「イラクを放置していれば、大量破壊兵器を使用してしまう」
「イラクが大量破壊兵器を使用する前に、先制攻撃を行う必要がある」

と、
どんどん理論を飛躍させて行ったのですね。

 

後から、映画としてこの展開を観ると、

まぁ、どうにも、
人々の不安を煽って、思考を誘導するという、
カルトや詐欺師が行う、洗脳の手法と同じだと分かります。

しかし、
当の本人(ここでは、アメリカ国民)にとっては、
まさか、自分が騙されているとは気付かない、
夢にも思っていなかったのです。

政府が、嘘を吐くなんて、、、

 

  • 情報の自己防衛の時代

本作では、
記者たちが所属する「ナイト・リッダー紙」は、
政府の言葉、行動をそのまま信じる事なく、

裏を取る為に、
政府のインテリジェンスの現場に携わる末端に取材し、
情報の信憑性を確かめました。

その結果、

情報筋は、イラクとアルカイダには、関連性が無いと断言しているにもかかわらず、

政府は情報の取捨選択を行い、
「イラク侵攻」という目的に添うものばかり、
「根拠」として採用している、

そういう事実に行き当たります。

ナイト・リッダー紙は、
その事を報道した。

 

本作、
面白いのは、
ナイト・リッダー紙の記事に絡めて、

途中で、イラクとアルカイダの関係について、
ジェシカ・ビール演じるリサが、分かり易く説明するシーンが入れられている所です。

こういうさりげない親切は、映画を観る方としては、嬉しいですね。

 

しかし実際は、

TVで、
ジョージ・W・ブッシュや、
ディック・チェイニー、
コリン・パウエルが演説したり、

大手新聞社の「ニューヨーク・タイムズ」が、
政府の報道を後押しする記事を載せたりした、

そして国民は、
そちらを信じたのです。

 

因みに、後に、

ニューヨーク・タイムズの記者ジュディス・ミラーの「イラク大量破壊兵器開発の可能性」という記事、
そして、それを受けて副大統領のチェイニーがTVで、
「イラクに大量破壊兵器は存在する、ニューヨーク・タイムズも記事にしている」
と発言したという一連の流れは、

実は、
ジュディス・ミラーの情報源自体が、
チェイニー側の人間のリークに拠るものであったと言われています。

 

政府が有力紙にリークし、
新聞はそれを記事にし、
TVに出た政府関係者が、それを裏付ける。

この自作自演のループが行われていたのですね。

この様に、情報機関が政府の官報となってしまうと、
それを質す為の存在であったハズなのに、
本来の存在意義が失われてしまいます。

 

国民を守り、信じるべき政府が嘘を吐き、

大手情報機関がそれを補佐するプロパガンダへと堕したならば、

我々は、何を信じたらいいのでしょうか?

本作では、こう言っています。

ナイト・リッダー紙の方針は、
全てを疑え」と。

まるで、『X-ファイル』の「ディープ・スロート」のセリフ
「Trust no one」(誰も信じるな)みたいですね。

しかし、悲しい事に、

最早現代は、
政府の報道を含め、
情報を、そのまま鵜呑みにする時代では無いのですね。

 

現代は、
情報が大量に氾濫し、
しかも、簡単に入手出来る時代
です。

我々は、その大量の情報を、
自ら複数、検証しなければなりません

そして、
常に、その情報自体の信憑性を疑い、
自分自身で、その正確性の判断をしなければならないのです。

謂わば、現代は、
情報に対する、自己防衛の能力が必要な時代と言えるでしょう。

 

常に、必ずしも正しい判断が下せるとは限りません。

しかし、大量の情報の中に、
「ああ、こんな情報があったな」と、
記憶の片隅に留めておけば、自らの行動の指針となり得る。

そうで有るのと、無いのとでは、
雲泥の差があるのです。

 

  • 末端が贖う罪

本作では、
情報を、無理解に信じた結果として、
下半身不随になった兵士アダム・グリーンのエピソードが盛り込まれています。

 

作中、伝説の記者と言われたジョー・ギャロウェイはこんな趣旨の事を言っています。

「戦争において、政府の罪は、末端の兵士が贖う」と。

 

トップの欺瞞は、現場で働く末端が、そのツケを支払う事になるのです。

しかし、それも、
そもそもは、
「政府の発表」という嘘を、
なんの疑いも無しに信じた国民が馬鹿だった、

そういう辛辣な自己批判にも繋がっています。

嘘を吐いた人物がのうのうとし、
それを信じた普通の人が、馬鹿をみてしまうのです。

 

本作では、
TVや有力新聞を信じて、
ナイト・リッダー紙の情報の方をコケにするシーンが何度か出てきます。

しかし、
どの情報が「当り」なのかは、
それこそ、後にならないと判別出来ない、

この事を胆に命じておくべきなのです。

 

そして、これは、
アメリカのみの話ではありません。

日本でも、
例えば、
消費税増税について、
当初、新聞は、政府のそれを批判していましたが、

政府が、
「新聞は増税対象外」と規定した途端、
その増税の可否に対する議論自体、新聞から消えた様に感じます。

「お前達に対しては増税しないから、黙って従え」

そう、政府に言わず語らず示唆され、
新聞各社は、それを忖度しているのです。

我々も、
情報をそのまま鵜呑みにせず、
また、語られぬ情報もあるという事を理解し、
その結果、何が起こるのか?

想像力と判断力を逞しくして、
自らの思考と行動を規定しなければならないのです。

 

 

 

 

政府が言ったから、
有力情報機関が裏付けたから、

その情報を鵜呑みにする事の危険性を訴える、
『記者たち 衝撃と畏怖の真実』。

情報が氾濫する現代においては、

自分自身でそれを取得し、
その中から、冷静且つ的確に判断を下す事が必要になっています。

先ずは、全てを疑え。

そこから、情報に対する自己防衛が始まる、

そういう時代になったのだと、
本作は警告し、教えているのです。

 

 

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