映画『空の青さを知る人よ』感想  青春の、その後も人生は続いて行く!!

山に囲まれた町、秩父。高校二年生の相生あおいは、進路相談にて、勉強も、就職もせず、東京でバンドをやると見得を切った。
そんなあおいがベースを演る切っ掛けになったのは、姉・あかねの恋人(?)だった金室慎之介(しんの)の影響だった。
あかねとしんのは、共に東京の専門学校に行こうと約束していた仲だったが、相生家の両親が事故で亡くなり、あかねはあおいを育てる為に、町に残ったのだ。
そんな鬱屈を抱え、ベースの練習をするあおいの前に、突然、高校生時代のしんのが現われる、、、

 

 

 

 

監督は、長井龍雪
数々のTVアニメシリーズを手掛け、
『あの日見た花の名前を僕たちはまだ知らない。』の劇場版、
『劇場版 あの日見た花の名前を僕たちはまだ知らない。』(2013)にて、
長篇アニメ映画デビュー。
他に、
『心が叫びたがってるんだ』(2015)がある。

 

声の出演は、
相生あおい:若山詩音
相生あかね:吉岡里帆
金室慎之介/しんの:吉沢亮

新渡戸団吉:松平健 他

 

 

皆さん、
子供の頃、将来の夢とかありましたか?

アイドル?
プロ野球選手?
オリンピックで金メダル?
学者になって、ノーベル賞?
小説家?
それとも、バンドマン? etc…

 

だけど、成長して、大人になると、知ります。

自分の、身の程というモノを、、、

夢は、無邪気に見ている時が、
一番、輝いていたなぁ、、、

そんな思い出に浸るのが、
枯れた大人というものです。

 

しかし、子供は、まだそれを知らないのです。

まだ、
自分が世界と対決出来ると信じている、
自分が世界に勝利すると信じている、

夢は、叶うと信じている。

 

だからこそ、
子供は、大人に「分かってくれない」と言い、

大人は、子供に「分からず屋」と言うのです。

 

本作は、正に、これ、

世代間の軋轢

 

を描いた作品ですが、
その軋轢が、

同一人物間で発生したらどうなる!?

 

という、
何とも奇妙な状況を描いているのです。

 

31歳の姉・あかねと同級生の金室慎之介。

今は、演歌歌手・新渡戸団吉のバックバンドを演っている。

東京で、バンドマンを演ると言っていた、
かつての夢は何処へ、、、!?

あかねも、あおいも、複雑な思い抱くが、
慎之介は、突き放した態度を取る。

その夜、
あおいは、ベースの練習をしているお寺の境内に行くと、
そこには、
昔のまんまの、しんの(慎之介)が居た。

 

…!?

何故か発生した昔のしんのは、
それこそ、昔のまま。

あおいの、憧れの存在のままだった。

憧れの存在と同級生になったあおいは、
しんのの真っ直ぐさに惹かれるが、

当のしんのは、無邪気に、
慎之介とあかねをくっつけてくれ、とあおいに頼む。

姉が大好きなあおいだが、
しんのに惹かれる自分の感情に、気持ちが揺れる、、、

 

そう、本作は、

何とも奇妙な、恋愛の「四角関係」を形成しているのです。

 

う~ん、

恋愛と夢、

ここまでストレートに、
青春してくれちゃったら、

馬鹿馬鹿しくて観てられないって?

そんな事はありません。

本作は、
丁寧に、キャラクターを作っている印象。

陰キャの人が観ても、
ギリギリ、嫉妬心に駆られない程度に、
手堅く纏められています

…きっと、作った人も、
陰キャなんでしょうね、、、

 

あまりにも、爽やかな青春!

子供時代、そして、青年時代にそれぞれ迎える、
人生模様が交差する、

『空の青さを知る人よ』は、
そんな青春真っ只中ストーリーなのです。

 

 

  • 『空の青さを知る人よ』のポイント

世代間をまたぐ「夢」と「現実」の物語

奇妙な四角関係の行方

されど、空の青さを知る

 

 

以下、内容に触れた感想となっております


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  • 夢と現実の相克

皆さん、お歳はおいくつですか?

青春、真っ只中ですか?

それとも、それは、かつての話ですか?

本作は、
夢と希望に満ちた、高校生世代と、
人生をある程度経た、31歳組との、
世代相克が、
テーマの一つとなっております。

ここで言う世代相克とは、
別に、対立という訳では無く、

いわゆる、
歳を取って、丸くなるという感じ。

 

子供時代は、「自分、最強」と言わんばかりに、
世間を舐めきっていますが、

いざ、その世間に挑んでみると、
自分の身の程知らずぶりを知ってしまいます。

その、世間の中で、
自分が、取るに足らぬ存在だと知ってしまった時、

ある意味、子供時代が終わると言っていいでしょう。

それこそ、
「夢」の終わり、「現実」の始まり、と言えます。

 

しかし、
昔の自分が、
今の自分を見たら、何と思うか?

素敵な、カッコ良い人間になりたかったハズなのに、
こんな、ダッセェ奴になっちまって、
ガッカリしないか?

そんな葛藤も、
時には思うものです。

 

それが、本作では、
現実に、目の前に、昔の情熱を持った自分が現われたら、
どうなるのか?

という事を描いて居ます。

身の程を知っても尚、
その上で、
昔と変わらない思いも、あるのでは無いのか?

 

あきらめたら、そこで試合終了ですよ?

『スラムダンク』で、安西先生も、そう言っていました。

確かに、
望み通りの、理想の自分になれていないのかもしれない。

それでも、

青春の「熾火」というものは、
何時までも、残っている、

一度火種に点火すれば、
そこから、再び思いが燃え上がる!

本作は、
その様子を描いていると言えます。

 

まぁ、ぶっちゃけ、
31歳なんて、まだまだヒヨッコ

人生はそこから、
二転三転して行きます。

自分の健康状態の悪化、
親、兄弟、友人、知人の死、
老人介護、葬式、遺産相続問題、、、

次から次へと襲いかかる、
煩雑な日々の連続、

生きる喜びなんて、
遠い記憶の彼方に消え去ってしまいます。

人生、擦り切れ、枯れ果てるのは、
これからなんだよなぁ、、、

 

でも、何となく、
一番幸せそうなのは、
作中では、一番ベテランの演歌歌手・新渡戸団吉なのは、
歳を取ってもハッピーよ、
という事を表しているのかも、しれませんね。

 

  • 空の青さを知る人よ

本作の題名『空の青さを知る人よ』は、

劇中では、
金室慎之介が、唯一リリースした楽曲の題名として描かれています。

 

ニュアンスとしては、

慎之介は、
明らかに、あかねへ向けて作った曲と言えます。

そして、
本作のテーマへも、繋がっている作品なんですよね。

 

地元を出なかった、あかね。

その世界は、限られたもの。

そんな、
盆地の町から、外を夢みて想う事は、
もしかして、
井の中の蛙が、大海を想う気持ちと、共通しているのかも知れません

 

確かに、世間の「広さ」は知らないでしょう。

しかし、世間という海の「青」とは違った、

見上げるからこそ見える、
空の「青」の色もまた、美しいもの。

 

君の見ている海は美しくて、
尊いものなのだよ、と、
慎之介は歌っているのだと思います。

 

この事は、翻って、

世間という「大海」を、未だ知らない若者でも、

その「想い」の純粋さは、
海の青に負けない澄みやかさがあるのだと、

本作は伝えているのです。

 

 

本作は、ある意味、
実写でも、描けるテーマ性を持っています。

とは言え、
アニメならではの荒唐無稽さというか、

アニメだからこそ、素直に受け入れられる設定であるとも言えます。

若い頃の想いとは、無鉄砲で、傲岸不遜。
しかし世間を知り、身の程を弁える時に、
人は大人になってしまいます。
それでも、子供の頃の純粋な熱い想いは、
大人になった後でも本当に大切なものと繋がっている。

慎之介にとってそれは、
あかねの笑顔を見る事だったのではないでしょうか?

 

『空の青さを知る人よ』で描かれるのは、
ガキの世間知らずの、戯言。

しかし、
それこそが、最も尊いものだと描かれているのです。

 

 

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