映画『To Leslie トゥ・レスリー』感想  人生のやり直し、それに遅すぎるという事は無い

宝くじで高額当選を果たしたシングルマザーのレスリー。これで人生大逆転だと、TVの前で大はしゃぎ。
しかし、レスリー、豪遊!!賞金は、全て酒に消えた。
6年後。家賃が払えず追い出されたレスリーは無一文。独り立ちした息子の下に身を寄せるが、、、

 

 

 

 

 

 

監督は、マイケル・モリス
数々のTVシリーズで監督を務め、
本作で長篇映画監督デビュー。

 

出演は、
レスリー:アンドレア・ライズボロー
ジェームズ:オーウェン・ティーグ
スウィーニー:マーク・マロン
ロイヤル:アンドレ・ロヨ
ナンシー:アリソン・ジャネイ
ダッチ:スティーヴン・ルート 他

 

 

皆さん、宝くじは買いますか?

宝くじって、
ぶっちゃけ、当たらないですよね。

でも、
買って、もし当たったら
何しよう
何買おう、
それを色々妄想するのが、実は、一番幸せな時間なのかもしれないですね。

 

でも、
結局、どうせ当たらないので
宝くじを買うのに使う(ハズだった)お金で、
何か、美味しいモノを食べた方が有意義なのではないか?

そう思うと、
宝くじは買わなくなってしまいましたね。

 

 

しかし、
本作『To Leslie トゥ・レスリー』のレスリーは、
19万ドルもの高額当選を果たした!!

で、
宝くじの賞金が全部酒に消えたという、
ろくでなしの話。

 

 

え?
おい?
辞めろよ!?

っていうクズムーブが満載です。

あれですね。
ダメな時のカイジ的な、
情けなさっぷりがあります。

 

そのダメさ加減を支えるのは、
アカデミー賞の女優賞にもノミネートされた

アンドレア・ライズボローの演技力、
そして、顔面力が凄い!

 

 

もう、
顔を観ているだけでも面白い!

 

身も蓋もない事を言ってしまいますが、

人の不幸は蜜の味と言いますか、
ダメ人間のダメさ加減を、
自分が全く関係の無い場所から眺めるのは、
ある種の愉悦です。

本作にはそんな、
歪んだ優越感がくすぐられますが、

それだけだと、
只、単に胸クソ悪い話になってしまいます。

 

ですが、安心して下さい。

本作には、

 

失敗した人間のその後、
人生の再生の物語でもあるのです。

 

 

人生、失敗したら、それで終わりなのか?

そうじゃないだろう?

漫画『キン肉マン』で、
ラーメンマンがマーベラスにこんな感じの事を言ってました。
「新しい事を始めるのに、遅すぎるという事は無いんだぞ」と。

 

本作『To Leslie トゥ・レスリー』は、
やらかした人物の、
その後の足掻きと再生を描く、

ある種、人生そのものの物語と言えるのではないでしょうか。

 

 

 

  • 『To Leslie トゥ・レスリー』のポイント

アンドレア・ライズボローの顔面力

ダメ人間のクズムーブ

やらかし人物の再生の物語

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 

 

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  • 顔面力

本作『To Leslie トゥ・レスリー』は、
レスリーを演じたアンドレア・ライズボローの演技力が良いです。

酒を探す時の、
ベロを出して上唇を舐める様子とか、
閉店間近の酒場で、
何か考えてる風で何も考えていないっぽい感じの表情で上目遣いで音楽に感じ入る様子とか。

 

本作のレスリーは、
自分では関わらなければ、
観ている分には面白い、興味深い存在です。

本作はドラマですが、
寧ろ、キャラクターとしては、
ギャグであるTVシリーズ『Mr.ビーン』のビーンとか、
ホラー映画の『Pearl パール』(2022)のパールに近い感じがします。

 

そのビーンを演じたローワン・アトキンソンとか、
パールを演じたミア・ゴスとも共通しますが、

本作のアンドレア・ライズボローも、
その風貌というか、
顔面力が強い役者と言えます。

 

美人では無い、
可愛いくも無い、
セクシーでも無い、
けれども魅力的である。

特に、
一見して忘れ難いその風貌に、
「力」がある。

「顔面力」とは、そんな迫力のある風貌の魅力と言えます。

 

例を挙げると、
ウィレム・デフォーとか、
ジョエル・エドガートンとか、
ジェシー・プレモンスとか、

アクの強い感じの役者です。

日本では、
塩顔が流行っていますが、

阿部寛とか、
田中泯とかが当て嵌まりますかね。

 

アンドレア・ライズボローは、
マンディ 地獄のロード・ウォリアー』(2018)でもそうですが、

自分の風貌を活かした演技が凄いです。

ガリガリで、
眉毛無し、
それでいて、悪びれず堂々としている。

そこで行われるクズムーブであるからこそ、

説得力と、
そして、ある種の共感を呼ぶのではないでしょうか。

 

  • やらかし人生の再生の物語

本作『To Leslie トゥ・レスリー』は、
折角当てた宝くじの高額当選を酒で使い尽くし、
家族、友人達から総スカンを喰らい、

ホームレス同然に落ちた人間が、
そこから
人生を立て直す物語です。

 

さて、
人間というのは残酷で、
成功者のドヤ顔話を聞くより、

やらかし人物の失敗譚を聞く方が、
よっぽど楽しいし、面白いです。
(自分が関わらなければ)

 

それは歪んだ優越感であり、
自分より下の人物を見て安心するという
人間の心理でもあるのですが、

しかし、

これまた興味深いのですが、

クズ人間を見ていて、見下していたハズの観客は、
いつしか同情と共感を覚え
「おい、そんなんじゃないだろ!?」
「勿論、立ち上がるよな!?」と、
次第に、応援する様になるのです。

 

つまり、

物語においては、
失敗した人間が失敗したまま終わってしまう話は、
支持される事は少なく、
最後はハッピーエンドで終わって欲しいという願望もあるのです。

 

この匙加減が難しく、
さっさと更生したら
「お涙頂戴かよ」と反感を買い、

逆に、ラストだけがハッピーエンドだったら、
肩透かしというか、
取って付けた感になってしまいます。

ワガママな心理ですが、

まぁ、
体感、大体3分の2位がクズムーブで、
そこから、再生へ向けて更生して行く位が、
映画としては丁度良いのかもしれません。

 

本作のレスリーは、
家族、友人達からはそっぽを向かれますが、

偶々知り合った新しい知人との交流から、

これが、ラストチャンスとばかりに再起へ向けて、
「断酒」に挑みます。

 

人間、やらかしてしまっても、
その後の人生は続いて行きます。

それは、
やらかしたそれ自体より、
ある種、苦しい生とも言えますが、

しかし、
生き続けるからこそ、
浮上する芽というものも生まれます

一生這いつくばって、
惨めに身を晒すだけが人生ではないと、

レスリーの様に、
図太く、しぶとく生きるべきだと
本作は訴えているのではないでしょうか。

 

それは『To Leslie トゥ・レスリー』という題名にも表われています。

「レスリーへ」と訳される、この題名には、

閉店間近の酒場で流れた曲
ウィリー・ネルソンの『Are You Sure Hank Done It This Way』が、
息子から母へ宛てた歌詞だと思われる点、

また、
脚本を書いたライアン・ビナコは、
本作を「母親へのラブレター」だと言っている点、

そして、また、
本作は、
本作を観る全てのダメ人間(=レスリー)へ向けて、
「再起を決心する事に、遅すぎるという事は無い」をいうメッセージを込めているのではないでしょうか。

 

 

因みに、ラストシーンでナンシーが告白する場面。

これで、今までのストーリーの印象が転換するシーンも印象的です。

ナンシーは、
「(レスリーの)転落を、止めようと思えば、止められた」
「寧ろ、面白がっていた」と告白します。

つまり、
物語では語られませんが、
レスリー自身の脇の甘さもあったのでしょうが、
友人連中から、大概たかられたという面も、大いにありそうです。

更に、
高額当選したというやっかみから、
「不幸になっちまえ、クソが」みたいな、
理不尽な妬みを皆から受けていた様な感じもします。

ロイヤルみたいな、
面識があるだけで付き合いの無い人間は、
雰囲気に呑まれて「レスリーはダメ人間」の印象を持っていたようですが、

しかし、実際は、
レスリーから金銭をたかりにかたった連中が、
その罪悪感を紛らわせる為に、
過剰に「レスリーはクズ」と言いふらしていた面もありそうです。

 

勿論、
本人の自覚が一番ですが、
そういう、
環境的な要因も、転落に一役買っているとラストに仄めかす、
この鮮やかさも、見事なものです。

つまり、

普通の人でも転落し得るし、

また、

レスリーのクズムーブに至った背景には、
同情の余地があったのだと、
優しい気持ちになれる「仕込み」だと言えます。

 

 

説得力のある演技で、
圧倒的ダメ人間のクズムーブを描くからこそ、

観客の共感を呼び、

そこからの
レスリーへの応援が、

翻って、
観客自身の人生の再生をも促す

 

『To Leslie トゥ・レスリー』は
そういう、
中々凝った作りのドラマと言えるのではないでしょうか。

 

 

 

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