映画『Pearl パール』感想  ミア・ゴス、魅惑の顔芸、ここに極まれり!!

1918年、アメリカ、テキサス。時は第一次世界大戦中、スペイン風邪のパンデミックで誰もがマスクを付けていた。
人里離れた農場に住むパール。結婚した夫のハワードは出征し、厳格な母、介護が必要な病気の父と共に暮らしていた。そんな彼女の楽しみは、映画を観て自分がいつかスターになる事を夢見る事だった。
そんなある日、彼女は映画館の映写技師に出会う、、、

 

 

監督は、タイ・ウェスト
前作『X エックス』(2022)に続いて、監督となる。
他の監督作に、
『キャビン・フィーバー2』(2009)
『V/H/S シンドローム』(2012)
『ABC・オブ・デス』(2012)
『サクラメント 死の楽園』(2013) 等がある。

 

出演は、
パール:ミア・ゴス
映写技師:デヴィッド・コレンスウェット
パールの母、ルース:タンディ・ライト
パールの父:マシュー・サンダーランド
ミッツィー:エマ・ジェンキンス=プーロ 他

 

2022年に公開された、
正統派スラッシャーホラー映画『X エックス』。

昔懐かし、王道の作品作りで、
ホラー映画ファンに支持された作品でした。

 

そんな『X エックス』ですが、
エンドロールの後、
唐突に、映像が流れ、
続篇!!『Pearl』!!という文字が!!
おいおい、気が早ぇな!!

と、思いつつも、
楽しみに待っていました。

どうやら、
『X エックス』のクランクアップ後、
即、その場で、同じ場所を再利用して、
続篇の撮影を開始していたとの事。

エコというか、
周到というか、

幸い、
一作目の『X エックス』が好評だった為、

なし崩し的に、
3部作(!?)である事が公表され、
実は、
第2作目である『Pearl パール』は、既に撮影済みです!!

とか言いやがりました!!

まぁ、楽しみでしたけどね!

 

本国アメリカでは、
2022年3月18日に『X エックス』が公開され
直ぐさま、
2022年9月16日に『Pearl パール』が公開されたとの事。

いや、流石に早すぎダロ!!

 

まぁ、日本では、
前作が2022年の7月8日、
本作が2023年の7月7日公開と、
丁度1年経過しており、

まぁ、これ位が丁度良いのではないでしょうか。

 

さて、そんな期待の『Pearl パール』ですが、

実際、鑑賞したらどうだったのでしょうか?

 

いやぁね、本作はね、

ミア・ゴスの
ミア・ゴスによる
ミア・ゴスを愛でる映画

 

と言えます。

 

昔、吉野屋とかで、
ワンオペが問題になった事がありました。

ブラック企業、
ブラック職場にあるあるですが、

そういうブラック環境が成り立つのは、
意外と、
仕事がバリバリに出来るエース職員が居るからこそ

という場合が多いです。

 

本作は、
正にパールを演じたミア・ゴスのワンオペ映画
彼女一人の存在で、映画を成り立たせています

そう、

ミア・ゴスが
「力こそパワー」系の演技でねじ伏せてくるのです

狂気の長回しと、
圧巻の顔芸を披露します

 

 

ミア・ゴスは、
「顔面力」が突出している役者です。

美人では無い、
可愛いタイプでも無い、
セクシーを売にしてもいない、

それでも、
何故だか魅力的な存在、

そういうタイプの人間です。

そして、
ミア・ゴスの場合、
特に顔が凄いのです。

その千変万化する表情を観ているだけで楽しい映画、

それが本作『Pearl パール』と言えます。

 

逆に言うと、
ミア・ゴスに魅力を感じなければ、
本作は、
ちょっと無理かもしれません。

実際、
前作は正統派のスラッシャー映画で、

多数の犠牲者 vs 殺人鬼という構図が成り立っていましたが、

本作は、
圧倒的な「パール」という単独のキャラクターのみで成り立っている作品だからです。

 

兎に角、ミア・ゴスを観て!!
ぶっちゃけ、私は気に入ったから!!
そんな頭の悪いオススメの言葉が出てしまう、

それが本作『Pearl パール』なのです。

 

  • 『Pearl パール』のポイント

圧巻のミア・ゴスの顔芸映画

恐怖と笑いは紙一重

夢が破れる時

 

以下、内容に触れた感想となっております

 

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  • ミア・ゴスこそ至高!!

本作『Pearl パール』は、
ミア・ゴス映画。

兎に角、
最初から最後までミア・ゴスを愛でる作品と言えます。

 

口うるさい母親のお小言と、
父親の介護に逐われる日々。

友達は農場の動物たち。

趣味の映画を鑑賞して憂さ晴らし、
妄想もはかどり、
いつか、自分も、
その隠れた才能を発揮して、スターダムに登り詰める…

 

う~ん、
イタ過ぎる、
まるで、自分を観ているみたい、
あなたは私ですか!?

 

前作の『X エックス』では、
セクシー女優を演じていたのに、

本作では、
まるで女子中学生(既婚者)の様な純情無垢っぷり。

からの

アヒルをピッチフォークでグサーからの
アリゲーターでバクー

あ、やっぱりヤベェヤツじゃん
って解るオープニングが抜群です。

 

で、
前半はそれでも、
おとなしめのパールことミア・ゴスですが、

後半、
イカれはじめてからのミア・ゴスが最高です。

オーディションで踊るミア・ゴス
即、落とされて「私はスタァァァ」と駄々をこねるミア・ゴス
会場の教会の裏でエシディシみたいに泣き喚くミア・ゴス
聞かれてもいない事まで、
全部長回しで自分の凶行をゲロるミア・ゴス
ラストシーン、
顔面の表情のみは「笑顔」ですが、
狂気のにらめっこで、恐いけれど笑えるミア・ゴス etc…

 

もう、圧巻。
ミア・ゴスを観ているだけで、面白いというか、
幸せな映画です。

ミア・ゴスって、
顔面力が高い役者です。

特に特徴的なのは、
あの、
眉毛の無いデコのシワの表情です。

いやぁ~、
人間のデコが表情を物語るなんて、
初めて知りましたヨ!!

 

で、思い出したのですが、

ミア・ゴスの「パール」って、
「Mr.ビーン」なんですよ。

『Mr.ビーン』というのは、
ローアン・アトキンソンが演じるTVシリーズのキャラクター。

英国中年紳士なのですが、
やる事は5歳児並のイタズラばかり。

そのギャップが面白いく、
常に、顔芸を披露しているのも、
おかしみがあります。

この「ビーン」は、
傍から見る分には面白いですが、
自分が直接関わるのはご免被るという類いのキャラクターです。

 

この「ビーン」はギャグメインの作品ですが、

「パール」の狂気の言動と、
どことなく、共通点があります。

よく、
笑いと恐怖は紙一重と言いますが、
正に、
本作のミア・ゴスの演技を観ていると、
如実にそう思いますね。

もう、ね、
言動がサイコパス過ぎて、
怖いを通り越して笑えますもんね。

 

  • どちらにしても、死亡フラグ!?

ラストシーン、
死んだ両親と、
腐って蛆が湧いている豚で食卓を彩り、
夫のハワードを迎える狂気の笑顔のシーンは最高ですが、

それを長回しで、
貼り付いた笑顔で延々にらめっこを行う狂気のエンディングが、
もう最高のシーンです。

 

他にも、
私が好きなシーンは、
映写技師と、ミッツィーが選択肢に遭遇する場面。

先ず最初に二人とも、
家に入る前に、
ウジの湧いた豚を目撃しているのですよ。

これは、
虫の知らせ」とか「サイン」とか言われるもので、
まぁ、いわゆる、
凶事の先駆け」ってヤツ。

そこから二人は家に入り、
狂気のパールから質問をされます。

 

映写技師は、
「急に冷たくなった!!」
「私の事が嫌いになった!?」と
メンヘラ質問をされて、

正直に、自分が思っている事を言ってしまいます。
「いや、別に冷たくないし」
「何か、ちょっと怖いだけ」と。

パールに質問され、
彼女の疑いを否定したが為に、
「嘘吐くな」と刺し殺されてしまいます。

 

で、翻って、ミッツィー。

聞いてない事までベラベラ喋ったパール。
更に、
オーディションも、受かったンでしょ?(アンタ、ブロンドだからね)と尋ねてきます。

どうやらミッツィーも落とされた様ですが、
パールの只ならぬ様子から何かを感じ、
パールの疑いを否定する事なく、
「え、ええ、まぁ、ね」と言います。

 

我々は映写技師の失敗を知っているので、

「お、ミッツィーナイス」正しい選択肢を選んだ、
と、
内心、胸をなで下ろすのです。

…ですが、
家から出たミッツィーを、
斧を持って追いかけて来たパール。
やっぱり、ミッツィーも惨殺してしまいます。

おいいいぃぃぃ!!結局正解の選択肢無いンかい!!
と、
全観客がツッコんだでしょう。

『X エックス』にて、
ブロンドが嫌いなのよ、と、パールは言っていましたが、
オーディションが原因だったのですね、
完全に逆恨みですが。

 

結局、
パールを説得しても、
取り入っても、
どっちも殺されるという正解の無い選択肢。

…の、様に思われますが、

実は、コレ、
最初の家に入る場面で、
「ウジの湧いた豚」の「サイン」にて、
後の「凶兆」を察する事が出来れば、
回避出来た悲劇であったとも言えます。

 

バイクの運転中、
事故りそうになる直前とか、

地震が起きる直前、
地鳴り、海鳴りが轟く時など、

ヤバい事が起こる前、
後から考えると、
その「先触れ」があったと気付く事もあります。

思わぬ事が命取りになるやもしれぬ。
努々、警戒を怠る事なかれ、です。

 

まぁ、でも、
その観点からすると、
食卓にウジ豚が饗されていたハワードなんかは、
回避不能のハメだったという事になるンですがね!!

 

  • 夢が破れる時

本作『Pearl パール』は、
ミア・ゴスのインパクトの魅力を語りましたが、

ストーリー部分が疎かかと言うとそうでは無く、

寧ろ、
前作の『X エックス』との絡みで、
「ああ、コレは、こういう事だったのか」とか
「あ、コレは前作と繋がるな」という部分も多く、
そういう意味でも楽しめる作品となっております。

 

中でも、
パールの我慢が限界に達し、
親子喧嘩が度を超してしまうシーン。

そこで母親は
「どうせオーディションに落ちる」
「その時知る、私がアンタを見る度に思う気持ちを」という台詞を言います。

 

中盤、
パールは手懐けていた(?)アリゲーターの卵を握りつぶします。
その時、
妄想の中で、
帰郷した夫のハワードが爆発四散するのです。

このシーンは、
例え夫であっても、
そして、卵=子供が出来ようとも、
私の夢を阻むことは出来ないという、
パールなりの所信表明とも言えるシーンではないでしょうか。

 

前作にて、
パールはマキシーンに、
「私も昔は才能があった」
「スターにもなれた」という台詞がありました。

そして、過去のパール自身も、
自分が失敗するとは夢にも思わなかったハズです。

しかし、本作を観ると、
実際は自分が思った程には、
人を魅了する才能(シリーズ中で言及される「Xファクター」)は無かった訳です。

結局彼女は、
選ばれなかった人間が、

昔話で、
事実をねじ曲げて自分をアゲていただけであり、
そこはかとない哀しさ
があります。

 

パールの母が言った
「アンタを見る度に思う」という気持ち。

それは、
自分に無い可能性を持つ者への嫉妬

ドイツ系移民の自分は帰る故郷が無く、
病気の夫の介護を、
ワガママな娘の愚痴に付き合わされるだけの人生。

それで詰み。

一方、まだ若いパールには、
何だかんだ(自分を弁えれば)無限の可能性がある。

自分の手の届く範囲の生活を守るだけで精一杯。
だけれども、
それがドンドン狭まって行く喪失感と無力感と恐怖。

 

そして年を取り、
恐怖の連続殺人鬼となったパール(『X エックス』の時点:1979年)もまた、
母と同じ感情を抱いているのではないでしょうか。

若い犠牲者の連中に対して。

 

性行為の代替としての殺人が、
前作にはありましたが、

それだけでは無く、

可能性に対する嫉妬、
自分には無いものを持っている者への怒りの慟哭とテロ行為、

それを
母親の呪いの言葉にて縛られているという、
そういう哀しき側面も、あるのではないでしょうか。

 

持たざる者が過ぎたる夢を見る希望、

それが儚く砕け散る絶望と喪失と恐怖。

故に、
自分に残された手に届く範囲のモノを守ろうと、
他者に過剰な攻勢に転じる狂気。

この感情のうねりを、
ミア・ゴスというたった一人の執念の演技で描ききった『Pearl パール』。

 

愛しさと切なさと、
ある種の心強さも、ミア・ゴスに感じる本作は、

個人的には傑作の部類と言える作品です。

 

そして、
三部作の完結篇として、

営為制作中の『MAXXXINE』も楽しみです。

 

 

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