映画『パージ:エクスペリメント』感想  倫理か、欲望か!?ここは正に、世紀末!!

経済が混乱、崩壊し、アメリカの政権は、NFFA(New Founding Fathers of America:新しいアメリカ建国の父たち)が握っていた。不満と怒りに満ちあふれる国民に、大統領は強いアメリカを蘇らせると宣言。殺人を含む、全ての犯罪が合法となる「パージ法」の施行せんとする、、、

 

 

 

 

監督は、ジェラード・マクマリー
長篇映画作品として、Netflixの
『ヘルウィーク』(2017)がある。

 

出演は、
ディミトリ:イラン・ノエル
ナヤ:レックス・スコット・デイヴィス
イザヤ:ジョイヴァン・ウェイド

立案者、アップデール博士:マリサ・トメイ 他

 

 

開始から12時間、
何をやっても許される。

強盗も、
レイプも、
殺人も!

 

本作『パージ:エクスペリメント』

この、衝撃的な設定で、既に面白いのです。

 

正に、
アンアイディアの勝利。

今まで、ありそうで、無かった映画だな~

と、思っていたら、
何と本作、
シリーズものでした。

しかも、
『パージ』(2013)
『パージ:アナーキー』(2014)
『パージ:大統領令』(2016)
に続く、4作目

 

そうです、
本作はシリーズものではありますが、

過去のシリーズを全く知らない、
私の様な人でも楽しめます。

 

何しろ本作は、
「パージ法」が施行される前夜の、
「実験(experiment)」段階のストーリー、

つまり、
「ビギニング」もの、
「第1話」の更に過去の話という設定なのですから。

 

 

社会に不満、怒りを抱える国民のガス抜きの為に、

開始から12時間、
あらゆる犯罪が許される「パージ法」が企画、立案され、

その実験として、
先ずは「スタテン島」に限定して、
先行実施される事になった。

「パージ(浄化)」に参加する人間には報奨金50万ドルが支給される。

予め参加登録をし、
居場所は追跡装置にて把握、

更に、
「パージ」の度合いによって、
報奨金が加算されるシステムであった。

そして、
「パージ」を行うものは、
支給された特殊なコンタクトレンズを通じて、
その様子が記録、放映される事になる、、、

 

 

設定のみを見た時、
「こんな、『北斗の拳』のヒャッハー的な状況に、好んで参加するアホは居ないだろう」
と思ったものですが、

「金」を貰えるとなったら、話は別

家に居るだけで、「50万ドル」貰えるとしたら、、、
更には、
むしろ、犯罪を犯した方が、より高額報酬を貰えるとしたら、、、

本作の設定は、
倫理と道徳に鋭く切り込んだテーマ性を持っているのです。

 

それでありながら、
本作、

その「人間の本性」を追求したり、
社会実験として、特殊な状況でのシミュレーションを行うというストーリーでは無く、
どちらかというと、

エンタテインメントとしての、
アクション寄りの作りとなっています。

 

テーマはテーマとして、
観客自身に考え、感じてもらい

その一方、
一映画としては、
エンタテインメントとして楽しんで観て欲しい。

そういう、
サービス精神と社会性がマッチした作品となっております。

 

一見、
ワンアイディアを追求した、
B級映画のイメージですが、

しかし、
現代の社会の状況を反映し、

そのテーマ性は考えさせる所もある、

それでありながら、
エンタテインメントとして面白い。

『パージ:エクスペリメント』は、そういう作品なのです。

 


 

 

  • 『パージ:エクスペリメント』のポイント

テーマ性を持ちながら、エンタテインメントとして楽しめる

倫理や道徳を陵辱する、暴力

政府の建前と本音

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 


スポンサーリンク

 

  • 現代社会を鋭くえぐるテーマ性

失業率が増加、
株価は暴落、
オピオイドの蔓延により、薬物中毒者が増加、

国民は、怒り、不満を溜め、
共和党も民主党も勢力を失い、

宗教系の政党NFFAが勃興。

大統領は、こう宣言します。
「強いアメリカを再び蘇らせる」と。

 

…アメリカの現状と、トランプ大統領を彷彿とさせるシークエンスで、
開始早々、
観客の共感をガッチリ掴む
それが本作『パージ:エクスペリメント』の冒頭です。

 

本作は、
基本の作りは、

『マッドマックス』や『北斗の拳』を彷彿とさせる、
ヒャッハー的ノリが蔓延するディストピアSF
であり、
そんな社会をアクションでサバイバルするエンタテインメント映画となっております。

それでいて、
テーマ的には、
社会の問題点に即した状況を提供しており、

映画としてはエンタテインメントを楽しみながら、
一方で、
テーマに触れた観客は、
各自、その問題を考察し、顧みる事になる作りとなっています。

このバランスが、
本作を、ただのB級映画に留めていない部分と言えるでしょう。

 

  • 欺瞞と建前を暴け

本作で描かれる「パージ法」は、
より「パージ(怒りや不満の浄化)」に参加すれば、
より報奨金が上乗せされるというシステムになっています。

端的に言うと、
ド派手に犯罪を行えば、お金をタンマリ貰えるのです。

 

「パージ」参加者は、
特殊なコンタクトレンズを装着し、
それにより、
行動の録画、記録、放送が出来るシステムとなっております。

しかし、
そうそう、長年身に付いた「倫理観」は捨て去れるものでは無く、

「パージ」開始直後は、
精々、
「花火の付いた人形を破裂させて、通りがかりの人間を驚かす」
位のイタズラレベルと言えます。

思った様な成果が上がらない状況を見て取り、
そこで、政府が、テコ入れというか、自作自演を行います

民間軍事会社に委託し、
「スタテン島」という、エリア外部から「暴漢」を投入、

「パージ」参加者に所持させた発信装置を追跡し、
住民を根こそぎ狩るという暴挙に出ます。

何故、政府はこんな事をするのでしょうか?

 

本作においては、
「パージ」開始後、殺人を行うのは、
ごく少数。

薬物依存でイカれたスケルターと、
ギャングのディミトリ達が、自己防衛にて行う程度です。

それが、
民間軍事会社の投入で、
悪夢のヒャッハーが展開するのですが、

政府は、
そんな殺人現場をTV放映します。

 

何故TVで放映するのか?

人が惨殺される所を放映するなんて悪趣味でしかありませんが、
それには、狙いがあるのです。

一つは、
「人はタブーを踏みにじる」という先例を示す為、

もう一つは、
「犯罪は楽しい」というノリを、
観ている人間に感じさせる為です。

 

人は、
「最初の一人」になる事は困難ですが、
誰か一人でも先例があれば、
続々と、後に続く者が出て来ます。

「アイツがヤッているのなら、俺も」

そういうノリで、犯罪が行なわれてしまうのです。

 

しかも、
誰しも心に、暗い闇の部分があるのではないでしょうか?

「憎い奴を、このドサクサに殺したい」とか、
「思いっきり暴れて、派手に大量殺人を行いたい」とか。

普段は、
妄想で済ましている事が、
この場では、肯定される、
あまつさえ、お金が貰え、推奨される。

 

TVにて、
虐殺がライブ映像で流れる事で、
「俺も、やりたい」と、
社会にルサンチマン(不平、不満)を抱える者達が、
羨ましがる部分が確かにあるのです。

 

勿論実際の社会においては、
自らの抱える不満は飲み込み、上手く解消し、

倫理観や社会規範、法律、憲法等のルールにて規制、
穏健な道を模索する必要があります。

しかし本作では、
政府が敢えて、
不平不満を、暴力により「浄化(パージ)」する事を推奨しているのです。

それは、何故か?

この問いは即ち、最初の問いである、
政府は何故そんな事をするのか?と同意です。

 

それは、
人口削減による、社会保障費の削減を狙ったと、
本作では言われています。

 

そもそも、
「パージ」開始時に、
スタテン島から富裕層は退去しています。

つまり、
残った貧困層同士で、殺し合いをしろという意図があるのです。

人を殺したら、金を貰えるぞ、
と、政府が煽っているのです。

しかし実際は、
そういう倫理観の欠如は訪れなかった為、
民間軍事会社による貧困層の「狩り」が行われますが。

 

結局、
地域の貧困層の抹殺、
これが、「パージ法」の目的であるのです。

国民に対するPR的には、
「皆やってるよ、楽しいよ」と言いながら、です。

 

  • 匿名性の凶暴さ

では、実際に参加する国民側には、
一体、どんな事が起こっているのでしょうか。

 

「パージ」を行う者達は、
その多数が仮面、仮装を施しています。

それもそのハズ。

12時間の期限が過ぎれば、
その後は、また隣人となる相手に合法的な犯罪を行おうと言うのです。

身元を隠さないと、
後で、復讐される事が確実でしょう。

 

また、
それ以外にも理由があると思われます。

「パージ」中は、
いわば、祭りの様なモノ。

そんな、
非日常に参加する場合、
自らも、仮面を被った「他人」になる必要があるのです。

 

分かり易い例に、
ハロウィンがあります。

去年(2018)のハロウィン、
東京、渋谷にて、仮装した参加者が暴徒化、
車を横転させ、後日、逮捕に至ったのは記憶に新しい所です。

 

祭りにかこつけて、
仮装にかこつけて、
まるで、自分に責任が無いかの様に振る舞う。

この、
場の空気(社会)に支配され、
自らの思考を放棄した存在

それこそ、
映画にて繰り返し描写されてきた、
ゾンビ(的思考、存在、行動)そのものなのです。

 

コンタクトレンズを嵌めて、
不気味に町を徘徊する、
「パージ」というゾンビの群れ。

そして、
それを狩り、政府の意思代行をする民間軍事会社。

 

一見、オイシイ話には、
必ず裏がある

自分で考え、判断しなければ、
オイシイハズが、
実は、自分がオイシく喰われるディナーとなってしまう

その事を、
本作は教えてくれます。

 

 

 

現代社会の歪んだ状況を題材にし、

あり得る未来描写(ディストピア)としての法施行を描いた
『パージ:エクスペリメント』。

作品の作りとしては、
アクションエンタテインメントでありながら、

そのテーマ性と、
ある種のリアリティがある故に、

面白さと共に、
観客自身が、物事を考える事を促します。

低予算ながら、
しっかりとした作り。

本作には、
荒唐無稽さ、リアリティ、社会性、エンタテインメントと、
映画の面白さが詰まっているのです。

 

 

現在公開中の新作映画作品をコチラのページで紹介しています。
クリックでページに飛びます

 

 


スポンサーリンク