映画『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』感想  正義なき境界での、飽くなき闘争!!


アメリカ国内の商業施設で自爆テロ発生!!国防長官は会見を開き、テロ組織には力で応戦すると宣言した。手始めにCIAの工作員マットが呼び出され、メキシコ経由で入国したと思われる犯人達を支援した、麻薬カルテルを壊滅させよという指令が下される、、、

 

 

 

監督はステファノ・ソッリマ
イタリア人。
父親は映画監督のセルジオ・ソリーマ。
ドラマの監督を多く手掛ける。

 

出演は
アレハンドロ:ベニチオ・デル・トロ
マット・グレイヴァー:ジョシュ・ブローリン
イサベル・レイエス:イザベラ・モナー
ミゲル・エルナンデス:イライジャ・ロドリゲス

他、マシュー・モディーン、キャサリン・キーナー、ジェフリー・ドノヴァン 等。

 

 

 

前作『ボーダーライン』は、

監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
主演:エミリー・ブラント

で、メキシコの麻薬カルテルとの戦いをシビアに描いた作品でした。

 

その、前作のシリーズ続篇として作られたのが、

本作『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』です。

とは言え、ストーリーとしては、
前作の続きという訳では無く、

世界観と登場人物を継承した、
別作品といった趣です。

 

何しろ、
主演、監督が違い、
脚本家は同じですが、
前作のアクの強いサブキャラのみが登場するという作品なのですから。

 

そして描かれるは、

アメリカとメキシコの国境における、
正義無き戦いの顛末。

 

前作では、
正義と信じたものが転落する様を見せられましたが、

本作では、
その、

堕落してしまった正義を奮うもの達の有り様が描かれます。

 

 

CIAのマットは、
メキシコ国内の麻薬カルテルを同士討ちを目論みます。

一方の弁護士が殺され、
その報復として、もう一方のボスの娘イサベル・レイエスが拉致されますが、

両方とも、マットが仕掛けたマッチポンプ、
自作自演の破壊工作なのです。

アメリカ国内で、
DEA(麻薬取締局)がイサベルを保護した、
という体を整えたマットは、

旧知の工作員、アレハンドロと共に、
メキシコ国内にイサベルを移送しようとするのですが、、、

 

正に、
リアル全員悪人!

正義無き世の中で行われる作戦と闘争は、
どんな場所に通じて行くのか?

希望無き世界を観せつける、
そんな作品、
『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』です。

 

 

  • 『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』のポイント

正義無き者が、力を振るった顛末

麻薬カルテルと密入国

勝者無き世界

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 


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  • ボーダーライン

『ボーダーライン』、
そして本作、
『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』にて描かれるのは、
アメリカとメキシコの国境をまたいで描かれる、
正義無き闘争の顛末です。

 

国境、そして、難民。

日本は、
他国と国境線を接していない為に、
イマイチリアルに感じ無い所がありますが、

しかし、
人類に国という概念が発生したその時から、

隣接する国同士は、
あまり仲が良くないという印象を受けます。

 

アメリカにおいては、
メキシコから流入してくる難民が、

アメリカ側の治安を悪化させ、
地元民の仕事を奪い、
自らの生活を脅かすという恐怖があります。

トランプ大統領は、
その根源的な恐怖を煽って大衆に迎合し、
大統領に当選しました。

さらには、
メキシコとの国境に壁を作ると言い、
それを実行に移さんとしています。

 

しかし、
トランプ大統領がメキシコに対して強硬策をとればとるほど、
それに比例して麻薬の末端価格が暴騰し、
結果、
麻薬カルテルの資金源が潤うという皮肉な結果を産みだしていると、

本作『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』の中でも言及されています。

そして、
麻薬カルテルは儲けた資金で、
アメリカから最新の銃火器を購入し、

重犯罪を犯し、
犯罪現場の目撃者の口封じを行い、
警察を牛耳り、

好き勝手にやっているというのが、
現在のメキシコだと言われています。

 

メキシコはアメリカに麻薬を売り、
アメリカはメキシコに銃火器を売る

この負の連鎖こそが問題であり、

一方のみの恐怖を煽り、これを非難し、対抗策を講じても、
それは根本的な解決にはならないと、知るべきなのです。

 

メキシコの麻薬カルテルの横暴、
それから、逃げる形でアメリカを目指す難民達。

その麻薬カルテルの武力を下支えするのは、
アメリカで売った麻薬で購入した銃火器であり、

密入国をビジネスとしているのもまた、
地元のギャング。

本作では、
弱き者を徹底的に叩く世の中の、
その理不尽な現実を描いているのです。

 

前作、
そして本作の原題は、
『Sicario』
『Sicario: Day of the Soldado』です。

日本語に訳すると、
『暗殺者』
『暗殺者:兵士の日』といった所です。

これを邦題は、
『ボーダーライン』
『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』と名付けています。

この邦題は、原題よりもセンスがあると思います。

「borderline」とは、国境線という意味。

本シリーズは、
国境線を舞台に、
正義無き飽く無き闘争を描いていますし、

そして、もう一つのテーマとして、

倫理の境界(borderline)を越える、
その瞬間を描いた作品でもあるからです。

国境線を越え、
そして、
倫理観や、正義の範疇を越える、そのボーダーライン上の葛藤を描いている、

「ボーダーライン」シリーズは、
そういう作品なのです。

 

  • ボーダーラインを越えた者達

本作のメインの登場人物、
マットとアレハンドロは、
その倫理の境界線を越えてしまっているキャラクターです。

マットは手段を選ばぬ非情な工作員。

アレハンドロは復讐に燃える謎の元検事。

共に、目的の為には、
手段を正当化する存在です。

 

しかし、それは前作におけるキャラクター。

本作においては、
そんな二人にも、人間らしい葛藤というものがある事が描かれています。

 

マットは、
何度も倫理の境界を越えたせいか、
そのキャラクターは尊大で、横暴にも見えます。

しかし、
仕事仲間に対する最低限の仁義のみは失っていないというのが、
本作で描かれるマットのキャラクター。

 

アレハンドロも、
前作では、手段の為に、目的など選ばぬ、
圧倒的な不気味さを持ち得たキャラクターでしたが、

本作では、
自らの仇敵である、レイエスの娘を前に、
彼女を守るという選択をします。

娘を殺した相手の、その娘イサベル。

イサベルを害する事は、
娘を殺した相手と同じ立場に立つという事、
それを自らに許せなかったのか、

そういう仁義を自らに課している様にも見えます。

 

倫理の境界を越え、
手段を選ばぬ存在であるからこそ、

自らに課した最低限のルール(仁義)のみは、
守り続けねばならない

自らは正義で無くとも、
そういう矜持を持つ事が、
自らが悪と戦う存在であるという、最後の拠り所であるのかもしれません。

 

本作においては、
国防長官の依頼にてミッションがスタートしますが、

「テロリスト、アメリカ人だったわ」
と、中盤にて、いきなり作戦の前提を投げ出す始末。

そして、
マットのチームが
メキシコ側の(汚職)警官を射殺したという作戦上の瑕疵を見つけると、
これ幸いと、逆ギレする形で作戦中止を命じました

ですが、

部下が汚れ仕事を行うのは、
上司がケツ持ちをするという前提があっての事

その仁義を覆すならば、
そこに忠誠は無く、
組織の上司に対してすらも境界線を越えてしまう事態になってしまうのです。

マットがイサベルを保護したのは、
そんなささやかな反抗の現われなのです。

 

  • 若き越境者達

そんな古参の二人と対象的に描かれるのは、
若い二人のキャラクター、
イサベル・レイエスと、
ミゲル・エルナンデスです。

 

イサベル・レイエスは、
父である麻薬王の威を借りて、
学校ではやりたい放題。

級友を素手でグーパンし、
校長を脅して平気の平三です。

しかし、
イキっていられるのも、日常においてのみ。

拉致され、
麻薬戦争の駒としてぞんざいに扱われる現実を目の当たりにし、
結果、感情が喪われます。

駒として消された方が、いっそ良かったのでは?

そんな事さえ、観る者に思わせる、空虚な眼差しを見せる彼女は、
日常という境界線を越えてしまったのです。

 

ミゲル・エルナンデスは、
成り立ての若きギャング。

若者という存在は、
現状に不満を持つからこそ、若者なのだと言えます。

その若きミゲルを操るのが、
悪い大人のギャング達。

先輩ギャングに誘導される形で、
アッサリと犯罪を犯し続け、
それをエスカレートさせて行くミゲルという存在、

金の為か、力の為か、
メキシコにおいて、
奪われるより、奪う存在を選んだ若者が、
倫理を越える決定的な瞬間を、

敢えて無味乾燥に描く事で、
若者が犯罪者へと堕ちるのは彼の地においては、ある種の日常であるのだと、物語っているのです。

 

CIAに保護された、麻薬王の娘イサベル。

アレハンドロに見出され、
暗殺者(シカリオ)の手駒にされたミゲル。

彼達の行く末を案じると、
暗澹たる思いに駆られます。

 

 

 

国境線における、
正義無き闘争を描く『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』。

苛酷な現実の前で、
人は倫理の境界線を越えざるを得なくなります。

正義も、
倫理も、
勝者すら居ない戦いの空虚さと、
そして、それが日常という苛酷な現実を描いた作品であるのです。

 

 

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コチラは前作『ボーダーライン』です


 

 


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