映画『バースデー・ワンダーランド』感想  カラフルな不思議の国で、前のめりの大冒険!!

12歳の誕生日の前日、嫌な事があり小学校をズル休みしたアカネ。そんなアカネを叱るでも無く、母のミドリは、叔母のチィの所に誕生日プレゼントを取りに行けと言う。世界各地で色んなコモを集め、骨董屋を営むチィの店に行ったアカネ。その店で、ひょんな事から地下室の扉が開き、錬金術師のヒポクラテスと名乗る者が現われて、、、

 

 

 

 

監督は原恵一
「クレヨンしんちゃん」の映画シリーズの監督を多数手掛けた。
主な監督作品に、
『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』(2001)
『河童のクゥと夏休み』(2007)
『カラフル』(2010)
『百日紅 ~Miss HOKUSAI~』(2015)等がある。

 

原作は柏葉幸子(著)、『地下室からのふしぎな旅』。

 

声の出演は、
アカネ:松岡茉優
チィ:杏
ミドリ:麻生久美子
ヒポクラテス:市村正親
ピポ:東山奈央
ザン・グ:藤原啓治
ドロポ:矢島晶子 他

 

 

 

冒険の始まりは、
いつも、突然に。

『ホビットの物語』のビルボ・バギンズを始め、
自らは預かり知らぬ所でいつの間にか話が出来上がっており、
本人の意に関わらず、
旅に出る事になるのです。

 

本作『バースデー・ワンダーランド』も、
冒険物語です。

地下室の扉から、異世界へと旅立つ。

まるで、

『ナルニア国物語』の入り口から、
『不思議の国のアリス』的な冒険が始まる、

 

そんなイメージを受けます。

そう、
本作は、

真っ当な、
冒険ファンタジー物語なのです。

 

 

地下室から、
錬金術師のヒポクラテスに導かれ、異世界へと旅だった、アカネとチィ。

そこは、
美しい景色が広がる、
牧歌的な世界だった。

しかし、ヒポクラテスが言うには、
この世界から、徐々に色が失われているとの事。

それは、
世界の「色」を保つ「水」の守人たる王が、力を発揮していないからなのだ。

若い王子は世界を救う為に、
代々受け継がれて来た「水切りの儀式」を行わなければならない。

しかし、
王子は現在、病に伏せって引き籠もっており、

同じ様な事が起こった600年前には、
その王子を「緑の女神」が救ったとの伝承が残っている。

その伝説の女神がアカネであると、
ヒポクラテスは言い、

是非、王子の力になって欲しいと、
彼はアカネに頼むのだが、、、

 

 

冒険ファンタジーである本作、

先ず、一目で印象に残るのが、

カラフルな色合いが綺麗です。

 

ビビッドな色彩が鮮やか、

アニメではありますが、
景色を観て、「凄ッ!」と思わず唸ってしまう程です。

目に鮮やかな花の色、
雪の清澄な白色、
舞い散る落ち葉の振る舞い、
水中で揺れ動く藻の緑、
砂漠の砂のグラデーション、

監督の原恵一は、
過去に『カラフル』という映画を撮っておりますが、

本作こそ、
正にカラフル

「色が失われつつある世界」という設定なのに、

「色彩の洪水」とも言える映像美が観られます。

 

 

少女の不思議な国の冒険は、
色彩豊かな異世界で。

そんな『バースデー・ワンダーランド』です。

 

 

  • 『バースデー・ワンダーランド』のポイント

不思議の国の冒険ファンタジー

色彩豊かな映像美

重責と、支え

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 


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  • 犬、猫、あるある

色彩豊かな映像美が映える『バースデー・ワンダーランド』。

その題名から、
『不思議の国のアリス(Alice in Wonderland)』的な冒険を、
カラフルな映像美は、
監督自身の過去作『カラフル』を超える鮮やかさを感じます。

 

その映像美を支えるのは、
細やかで、丁寧な写実性。

どの色とどの色を合わせれば気持ち良いか、
そして本作では、
どの色の中にどの色を会わせれば、対象が際立つのか
その事に拘った画作りが素晴らしい作品です。

 

しかし本作は、
細部に拘っているのは、画作りだけではありません。

例えば、
猫のゴロ兵衛が、
寝ているアカネの顔に、
自身の「お尻」をくっつけてきているシーンがありました。

アレ、
何でやるんでしょうかね?

猫に限らず、
犬も、
寝ている飼い主の顔にケツを向けるのは、テンプレなんでしょうか!?

他にも、

学校で微妙な人間関係に悩まされたり、

怖い人に睨まれて、
見てないフリして目を逸らしたり、

こういう、
何気ない「あるある」が、
観客の共感を呼び、
そこで、感情移入の切っ掛けとなるのですよね。

 

  • 誕生日プレゼント

さて本作、
言わずもがなな設定として、
実は、母のミドリが600年前に異世界に訪れた「緑の女神」だというオチがあります。

作中に、
それを匂わすヒントがあり、
観客は、いつ、それに気付くのか、
というお遊びを、
制作者側が用意しています。

 

先ず、
最初にヒポクラテスがアカネの事を、
「緑の女神」と言います。

言葉で言うと解りづらいですが、
文字で見ると、
「緑」は、母の名前そのものの「ミドリ」であるという、
そのものズバリのオチが、
イキナリ最初に提示されているのですね。

 

その後、
ケイトウの村で、
世界の常識をヒポクラテスが説明してくれますが、
その時語る伝承と同時に、
タペストリーに描かれている「緑の女神」が出て来ます。

その「緑の女神」の顔のホクロの位置が、
母親のミドリと同じ所に付いているのです。

 

そして、
ラスト近く、
王族からもらうという「編み物」が、
新しいものと、古びたものの、2枚映っているシーンがあります。

つまり、
アカネの分と、
ミドリの分、二枚分の「編み物」があるという訳です。

 

つまり、
ハッキリとは言いませんが、
今回の冒険ファンタジーは、
母から娘へ向けた誕生日プレゼントと言えるのかもしれません。

母ミドリに、
その自覚が無かったとしても、です。

 

因みに、
600年前に「緑の女神」が現われたと作中では言及されていますが、

同時に、
異世界での一日は、
現実での1時間に相当するとも語られています。

これは、
異世界では、現実の24倍のスピードで、時が流れるという事。

異世界600年を24で割ると、
現実で何年経過しているか分かるという事です。

答えは25年。

つまり、
ミドリは、25年前に、異世界に行っていたという事になります。

ミドリの年齢(12歳前夜)を考えると、
大体、計算が合いますね。

 

  • 生まれながらの重責

本作で、王子が直面しているのは、
生まれながらの重責、というヤツです。

 

王子は、
代々その家系が、
世界に秩序を保つため、
清澄な「水」を維持する為に、
「水切りの儀式」を行っており、

王子は、
否が応でも、その役割を果たさなければなりません。

 

我々のような普通の人間でも
例えば、
多かれ少なかれ「親の期待」を、その成長過程で受けて育ちますが、

それが重みに感じる事もあるでしょう。

王子は、それが、
積み重なった歴史レベル、
全国民の期待レベルの大プレッシャーなのです。

そのストレスは、
如何ばかりか、

王子が壊れてしまうのも、
無理ないと思われます。

 

さて、
これ程の期待を、一人の人間に背負わすのは、
何もファンタジーに限った事ではありません。

現代の日本でも、

国民の象徴として、
国家の安寧を祈る役割を、
一人の人間に負わせています

そう、
天皇陛下ですね。

 

上皇陛下が、
その天皇在位の最後に、印象深いお言葉を述べられました。

「象徴としての私を受け入れ、支えてくれた国民に、心から感謝します」と。

 

人は、重責を、何も自分一人で背負わずとも良いのです。

利害関係無しに、
無条件に、自分を信じてくれる存在が、
時に、
最も自分を支える力となる

上皇陛下のお言葉からは、そういう事が察せられ、

また本作も、
王子は、アカネのそういう思いに応えようと、
奮闘する勇気を得たのだと思います。

 

  • 声優補足

本作では、
最近のアニメ映画の流れを汲んで、
メインキャラの声を、有名人が担当しています。

また、
サブキャラは有名実力声優を起用するというのも、
最近の流れ通り。

 

印象的なのは、
母ミドリ役の麻生久美子

すっかりお母さん役が板に付いてきた印象

声優としても、
安定して聞いていられる、
実力派だと言えるのではないでしょうか。

 

また、ドロポ役の矢島晶子は声優の本領発揮といった所。

語尾に「~もんね」という特徴的な言葉を付けますが、

その「もんね」で、
様々な感情を込めて、表しているのが流石です。

「クレヨンしんちゃん」の「野原しんのすけ」役の印象が強いですが、

それも、確かな声優としての力量があっての事であり、

今後、色々な作品で、声を聞けるようになるのかもしれません。

 

 

 

時に前のめりになっても、
人から貰う期待は、重責だけでは無い、

勇気と覚悟にもなると、
『バースデー・ワンダーランド』は訴えているのです。

美しい映像美と不思議な冒険で、
本作はその事を教えてくれるのです。

 

 

 

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コチラが、原作の児童文学『地下室からのふしぎな旅』


 

 


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