現金輸送専門の警備会社「フォーティコ」に、採用基準ギリギリで就職した「H」。
しかし彼は、現金輸送車が強盗に襲われた時に豹変、難なく強盗団を制圧してしまう。また別の日には、「H」の顔を見た強盗は、一目散に逃げ出してしまった。
一体、「H」とは何者なのか、、、
監督は、ガイ・リッチー。
英国出身。
主演のジェイソン・ステイサムとは、
『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・パレス』(1998)
『ミーン・マシーン』(2001:製作総指揮として参加)
『リボルバー』(2005)
『Five Eyes』(2022:予定)にてコラボしている。
他の監督作に、
『スナッチ』(2000)
『シャーロック・ホームズ』(2009)
『シャーロック・ホームズ シャドウゲーム』(2011)
『コードネーム U.N.C.L.E』(2015)
『キング・アーサー』(2017)
『アラジン』(2019)
『ジェントルメン』(2019)等がある。
原作は、
ニコラ・ブークリエフの監督作品『ブルー・レクイエム』(2004)、
本作は、そのハリウッドリメイク作品。
出演は、
H:ジェイソン・ステイサム
ブレット:ホルト・マッキャラニー
ボーイ・スウェット・デイヴ:ジョシュ・ハートネット
デイナ:ニーヴ・アルガー
テリー:エディ・マーサン
ジャクソン:ジェフリー・ドノヴァン
ジャン:スコット・イーストウッド 他
今や、アクション俳優の重鎮の一人とも言える、
ジェイソン・ステイサム。
英国人の彼は、
そのキャリアの初期、
同じく、英国人のガイ・リッチーが監督や製作で手掛ける作品に多く出演していました。
そんな二人が、
米国ハリウッドにて、久しぶりにタッグを組んだのが、
本作『キャッシュトラック』です。
原作映画の『ブルー・レクイエム』は、
主人公が非力な銀行員だったそうですが、
本作の主役「H」を演じるジェイソン・ステイサムは、
筋肉モリモリの男性ホルモンぶりぶりであります。
その「H」は、
強面の寡黙、
同僚に絡まれても、余裕でクールに切り抜ける。
世間で重宝される、
人当たりが良く、チャラい男性とは真逆の存在。
ハードボイルドな男の静かな怒りが炸裂します。
なんせ、本作の英語版の原題『Wrath of Man』、
直訳すると「男の怒り」なのですから。
こんな言い方をしますと、
「成程、脳筋バトルものか」と思われるかもしれません。
しかし、
本作の面白さは寧ろ、その脚本、
起承転結のハッキリした、
ストーリー構成の妙にあります。
映画作品に対する、私の持論として、
面白い作品は、
「起承転結」がしっかりしている
というモノがあります。
そんな本作は、ハッキリと解る4幕構成であり、
計算され尽くしたストーリー転換を観せてくれます。
「H」というものは何ものなのか?
何か、理由があって行動しているのか?
その目的は?
「起」の部分で興味を惹き、
そこからグイグイとストーリーにのめり込ませてくれます。
映画のジャンル的にハードボイルドですが、
脚本と、構成、その作り方、
それ自体が「硬派」で基本に忠実な作品です。
令和の時代に舞い降りた、
時代遅れのガチンコオヤジ!!
しかし、
ストーリーと構成は、
練りに練られた最新鋭。
男の怒りを目撃せよ!
それが『キャッシュトラック』です。
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『キャッシュトラック』のポイント
硬派な男の怒りのアクション
起承転結が素晴らしい、構成の妙
因果応報
以下、内容に触れた感想となっております
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素晴らしい起承転結の構成
本作『キャッシュトラック』は、
一見、アクション映画の様にも見えますが、
その実、
クライム・サスペンスとも言うべき作品。
なので、
そのストーリー、構成こそが、
作品の面白さを支えています。
先に言いましたが、
本作は、起承転結をキチンと整えている作品。
それに加えて、
冒頭に、「序」とも言うべき、魅力的な「つかみ」の場面があります。
ここで私が言う、
映画における「序」とは、
作品の冒頭のインパクトのあるシーンであり、
それを設ける事で、
作品のトーンの方向性を、観客に知らしめられます。
例えば、
「序」起承転結のハッキリした作品には、
『ダーティーハリー』(1971)や『ダークナイト』(2008)などがあります。
本作の「序」は、
現金輸送車が襲撃されるシーン。
同僚同士の、
何気ない日常の仕事の会話が、
突如、危機的状況に陥り、
強盗の襲撃を受け、死に至るという場面。
現金輸送の警備という仕事のリスクをまざまざと知らしめる場面です。
しかし、本作では、
そういう「これから物語るのは、そういう危険な職場の話だ」という
啓蒙の場面かと思いきや、
実は、その効果だけでは無く、
後々の伏線となって、何度も活きてきます。
さて、
本作の起承転結の構成は、
起:
謎の男「H」が登場、
強盗団を難なく退けた彼は、
強盗に恐れられる存在の様だが、
彼は、何故警備会社に就職したのか?
その目的は?
承:
「H」が警備会社のフォーティコ・セキュリティに潜入した経緯が語られる。
冒頭の「序」の場面にて、
犯人に銃撃されて死んだ、巻き込まれた民間人というのは、彼の息子だった。
「H」自身、
犯罪組織のボスであり、
総力を挙げて強盗団を探す
転:
強盗団の様子が語られる。
彼達は、アフガニスタンの帰還兵であり、
日々の日常に物足りなさを感じている。
「序」に至るまでの展開、
そして、
「結」の大仕事へ向けての準備が語られる
結:
フォーティコ・セキュリティそれ自体を攻撃する強盗団、
それを迎え撃つ、「H」と警備員の戦いを描く
本作は上記の様に物語が展開し、
それぞれフォーカスが当たるキャラクターが、
起:警備員「H」
承:ギャングのボス「H」
転:アフガニスタンの帰還兵達
結:ラストバトルの攻防戦
といった感じに分けられており、
「起承転」で盛り上げた展開を「結」にて、
見事に締めくくっています。
物語が進むにつれ、
冒頭の場面が、単なる導入部なのでは無く、
最重要な場面である事が解り、
それ以外にも、
様々な動機や行動原理、理由が、
ちゃんと、
ストーリー展開に併せて解消されて行く辺りに、
本作の構成の見事さが表われており
まるで、
ジグソーパズルが嵌って行くかの様な快感があります。
それは、
自分が見ていたものが、実は、大きなものの一部だったと知らされる驚きと、
その謎が解けて行く快感です。
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因果応報
『キャッシュトラック』にて、
強面で寡黙な「H」は、終始ムッツリしていますが、
唯一、
笑顔を見せる場面があります。
それが、
第二幕にて、息子と会話するシーン。
如何にも、仲の良い親子という関係が、一目で見てとれます。
しかし、
自身がもたらした「情報」が、
巡りめぐって強盗団の手に渡り、
直後、最愛の息子は死に至ります。
自分の「仕事」が、
自分の「最愛」を奪う、
この因果応報ぶり。
また、
アフガニスタン帰還兵の強盗団も、
表の顔は、
マイホームでパーティーする様な、
品の良い家庭だったりしても、
平和な世界での日々の生活、
例えば、
スーパーマーケットの店員として働く自分達は、
世の中から正しく評価されていない、
と、感じています。
世の中が、我々を正しく評価しないのなら、
自らの手で、その対価を得てやろう、
世間に牙を剥いてやれ、と、
自分勝手な理由付け、特権意識にて、
強盗を正当化しています。
しかし、
彼達も又、
一度の成功で味を占めたが為、
「自分が死なない」という思い上がりに足を掬われ、
結局、全滅の憂き目に遭います。
他にも、
息子を殺された「H」が、
情報を求めて、
他のギャングを狩りまくるのも、
悪人が、
悪人を裁いている様子が描かれるのですが、
そこには、
爽快感というよりも、
ある種の閉塞感、無常観が漂っており、
渇いた砂漠の様な、
無間地獄の様な、
そんな陰鬱な気持ちになります。
さて、
地獄と言えば、
「H」が息子と会話している時に、
携帯電話が鳴りますが、
その着メロが、
ワーグナーの「ワルキューレの騎行」として知られる音楽。
これは、
映画『地獄の黙示録』(1979)でも使われた楽曲です。
正に、その場面から、
「H」の地獄巡りが始まるのですが、
『ニーベルンゲンの歌』の中心人物であるブリュンヒルデを思い浮かべる音楽が、
(彼女は嫉妬心と復讐でジークフリートを殺すのですが)
男の怒り(Wrath of Man)の復讐譚の切っ掛けになる辺りに、
そこはかとないセンスを感じます。
そして、
この着メロがラストに再び鳴る時、
即ち、
現金の袋の中に忍ばせていた携帯電話が鳴り響き、
息子を殺した張本人であるジャンが逃げ切れていないと判明する事で、
物語の円環が幕を閉じる、
何度も言いますが、
本当に、センスの溢れる構成と展開だと思います。
熟練の監督が、
円熟味のあるアクション俳優と作り上げた『キャッシュトラック』。
アクション・サスペンスである本作は、
寧ろ、
その構成が素晴らしい作品、
アクションと謂えども、
その描き方、ストーリーにて、
これ程面白くなるという証明の作品であると、言えるのではないでしょうか。
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