映画『クロニクル』感想  陰キャの怨念爆発!!取り扱い注意の特殊能力!!

 

 

 

スクールカースト底辺にいる高校生のアンドリューはビデオカメラを購入、自らの日常の撮影を始める。皆にキモがられていたが、あるパーティーの夜、空き地にあった謎の「穴」に侵入する様子を撮ってくれと言われ、従兄弟のマット、人気者のスティーヴと共に行くが、、、

 

 

 

 

監督はジョシュ・トランク
本作で、北米興行収入第1位を取った最年少監督(当時27歳)となった。
他の監督作に
『ファンタスティック・フォー』(2015)がある。

 

主演のアンドリュー役はデイン・デハーン
見た目からしてピッタリの役である。
他の出演作に
『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命』(2012)
『メタリカ・スルー・ザ・ネヴァー』(2013)
『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』(2017)等がある。

他の主な出演者に
マット:アレックス・ラッセル
スティーヴ:マイケル・B・ジョーダン
ケイシー:アシュリー・ヒンショー
リチャード:マイケル・ケリー

 

見た目が個人的に好きな俳優、デイン・デハーン。
名前も声に出して言いたい感じがあります。

新作出演作が公開という事で、デイン・デハーン特集。
第一弾は『クロニクル』です。

 

本作『クロニクル』の大部分は、

アンドリューが撮影するカメラ目線、
いわゆるモキュメンタリー(疑似ドキュメンタリー)方式の作品です。

 

「穴」の中で謎の光る物体に接触したアンドリュー、マット、スティーヴの3人は超能力を獲得。

初めは投げるボールを止めたり、
レゴを手を使わずに組み立てたりする程度ですが、
色々試す内に段々能力が強くなって行きます。

ある日、道路で煽ってきた車に能力を発動、
その車は運転を誤りガードレールを突き破ってしまいます。

人を傷つけた彼達は、超能力を使う時の3つのルール、
1:生き物に使わない
2:怒っている時は使わない
3:人前では使わない
というルールを作りますが、、、

何しろ、青春真っ只中の彼達、
特に、陰キャのアンドリューには鬱屈が色々溜まっています。

病気の母、無職の父、学校ではいじめっ子に絡まれる日々、

陰キャが「力」を獲得して、
何も起きないハズも無く、、、

 

青春モノ+超能力+POV視点という、色々と複合要素のある映画、

暗い青春を送って来た「陰キャ属性」の人であればあるほど、
思う所が多いと思われる本作『クロニクル』。

一見の価値ありの作品です。

 

 

  • 『クロニクル』のポイント

モキュメンタリー形式

陰キャと超能力

青春そのものの苦しみの描写

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 


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  • 大友克洋

監督は、本作『クロニクル』を作るに当たって大友克洋の漫画、
『AKIRA』や『童夢』の影響を間違い無く受けていると言います。

残念ながら私はどちらも読んでいませんが、
映画の『AKIRA』と『クロニクル』を観比べた場合、
確かに通ずるものがあるなと思われます。

映画『AKIRA』も、不意に超能力を手に入れた鉄雄がコンプレックスを爆発させて破滅に向かって行く作品でした。

本作も、アンドリューの性格が陰キャであるが故に破滅に向かった映画であると言えます。

 

  • 青春の蹉跌

あなたは学生時代、どの様に過ごしましたか?
もしくは、今現在、高校生真っ盛りですか?

私はアンドリューほどではありませんでしたが、
まず間違い無く陰キャよりでした。

なので、どうしてもアンドリューの事が他人には思えない、
まるで自分の若かりし頃を思い起こさせる胸苦しさがあります

学校では基本、他人から無視。

話しかけられるのは、文句を言われる時か、からかわれる時のみ。

話し相手は、従兄弟のマットくらい。
今日も一人飯をグラウンドで食べています。

そういう内向的な性向なのは、病気の母親を看病する心労か?

消防士の仕事中に怪我をし、
現在は無職で飲んだくれ、DVをふるう父親の影響か?

学校にも家にも居場所が無い彼が、
世間との間に「ビデオカメラ」という障壁を置き、
自らの生活を客観化する事で現実感の消失を目論んだ(現実逃避)のも無理無い事かと思います。

しかし、アンドリューは超能力を得て、
ある種の自信を手に入れます。

従兄弟のマットだけで無く、
人気者のスティーヴとも交友を深め、超能力を駆使したマジック・ショーにて一躍人気者に成ります。

しかし、それも一夜の夢。

童貞だったアンドリューは、いざ事に及ぼうという時にゲロを吐き、初体験を失敗してしまいます。

さらには、ビデオ撮影の趣味を父親に罵られ、アンドリューはキレます。

この辺りの描写、
私にも覚えがありますね。

私も始めてSEXした時は、謎の吐き気に襲われました
幸い飲酒していなかったのでゲロは吐きませんでしたが、アンドリューの気持ちは良く分かります。

また、父親が何をするにも威圧的に頭ごなしに否定するというのは、私も体験した事です。

酒に酔って怒鳴り散らすのは、結局自分の鬱憤を相手にぶつけているだけなんですよね。
それを、子供の過失につけ込んで良い様に喚き散らされるのは、言われる方は腹が立ちます

学校もつまらない、家にも帰りたくない、
私は放課後教室に残って、学校が終わるまで自習してましたね。

学校が終わった後はバスに乗らず、遠回りして歩いて帰っていました。

そんな日々を送っていたら、瞬間的に、大声で叫びたくなりますよ。

しかし、アンドリューの場合はそういう感情の爆発が悲劇を起こしてしまいます。

 

  • 頂点捕食者

アンドリューはカメラに向かって語ります。(1:02:20~)

力を手に入れた自分は、人間の上に立ったと。

俺は食物連鎖の頂点捕食者(apex predator)であると。

ライオンが狩りをする時、ガゼルに対し罪悪感を感じるだろうか?

それは重要な事だとアンドリューは言っています。

しかし、これは実は、裏返しの感情の告白です。

この直前、学校内、公衆の面前でいじめっ子の歯を超能力でもぎ取ります。

初体験をゲロで台無しにした事を、からかわれたからです。

アンドリューは
1:人間に
2:怒りにまかせて
3:人が見ている前で
超能力を使います。

彼は、ルールを全ツッパしてしまいます。

その罪悪感を無視する理由付けとして、
自分を人間以上の超越者と位置づける必要性があったのです。

つまり、
ルールを無視して良い理由や根拠を設定したのです。

とは言え、自分の行動を正当化=罪悪感を無くす必要性が満たされるならば、それは、何でも良いのです。

タガが外れたアンドリューの行動はエスカレート。

近所の不良からカツアゲを敢行します。

これは、私が好きなシーンの一つ。

おそらく、かつては尊敬していたであろう、父の消防士時代の防火服を纏い、
母の薬代を稼ぐべく、「正義の象徴」として出立します。

しかし、カツアゲ開始10秒で正体バレバレ。
結局、超能力で相手をぶちのめしてしまうという、身も蓋も無い展開になってしまいます。

カツアゲをし、(失敗し)
強盗をし、(失敗し)
父を殺そうとし、(失敗し)
街を破壊しながら「ほっといてくれ」と言い放ち、(無理がある)
自らの破滅を招くのです。

 

  • 若さ故に

アンドリューの破滅。

それは、若さ故の過ちです。

高校生という狭い視点の中では、
自分の世界が圧迫され、潰される様な息苦しさを感じていた事でしょう。

しかし、学校を卒業し、もっと世界は広いと知っていたならば、彼の選択は違っていたハズです。

人生、恵まれている人もいますが、
実はたいていの人間は何らかの悩みを抱えており、

自分が死にそうに悩んだ事も、
実は太古の昔から、色んな人が思い悩んだありふれた事であり、
決して乗り越えられない壁では無いと知れたハズなのです。

アンドリューはその視点が足りませんでした。

エクステンデッド・エディションには、
陽キャで金持ち、人気者のスティーヴさえも、親の諍いに悩んでいる描写が挿入されています。

形が違っても、人それぞれ悩みがあるという証左ですが、
アンドリューは自分の事があまりに辛くて、他人の事まで想いが及ばなかったのです。

高校生なので仕方ありませんが、
他人を思いやる視点さえ獲得出来ていれば、心の余裕を得る事が出来たハズなのです。

人間、自信が出来ると、

例えば、「相手が誰でも1分で倒せる」という確固とした事実を自分で分かっているならば、
人が無礼な事をしでかしても、笑って許せるものです。

しかし、現実世界では、
自分の弱さを自分で分かっているが故に、
自分が人より強い立場に立った時、
それを傘に着て相手を責め立ててしまう人が多いです。

アンドリューは自分が弱いと認識していた
(世間から、弱者だと押し付けられていた)からこそ、
凶行に及んでしまったのです。

「俺は、こんなに強いんだ、キサマらに従う謂われな無い」と。

全ては、自信が無い人間が、
より自分より弱い人間を叩く事で連鎖する不幸の所為なのです。

ザ・ブルー・ハーツの『トレイントレイン』ですね。

自信とは、毎日の積み重ねで獲得するものです。

そして、そういう日々を積み重ねた後、過去を振り返れば、
苦しみの日々を、きっと過ぎた事として、いつか受け入れられる準備が出来ているのです。

それを、超能力という形で一足飛びで獲得、
そして、それを正しく行使する精神的安定がなかったからこそ起こった破滅であったと言えます。

 

  • 映像コラージュ作品

本作の様な作品は、モキュメンタリーを呼ばれるモノです。

モキュメンタリー(mocumentary)とは
Mock(偽物の、~の真似をして)という単語と
Documentary(実録、記録映像)という単語の混成語です。
つまり実録っぽく撮った映像作品の事です。

また、こういう映像のつなぎ合わせ的な作品は、
「ファウンド・フッテージ」とも言われます。

ファウンド・フッテージ(found footage)とは
Found(発見された)
Footage(未編集の映像)の事、
つまり、第三者が未編集の映像を発見して、それを公開した作品、という様な意味合いがあります。
また、既存の映像をコラージュ(繋ぎ合わせ)した作品の事も言います。

そして本作、『クロニクル』が特徴的なのは、
ビデオを構えるアンドリューのPOV(一人称視点)から始まりますが、
視点は固定しておらず、徐々に自由度が増して行く部分です。

マットが撮影した映像、
ケイシーが撮影した映像、
アンドリューの超能力で客観視された三人称視点での撮影、
監視カメラやTV映像の画面、
さらに、ケイシー自身の視点で見た光景(と思われる)

これらの視点が入り混じり、コラージュを形成しています。

この、ある意味素人感のある、
手探りで作り上げた映像という感触が、
青春の悩みを表現する事に一役買っているのです。

 

  • 出演者補足

陽キャのスティーヴを演じたのはマイケル・B・ジョーダン

彼は本作の監督の別作品、『ファンタスティック・フォー』(2015)にもヒューマン・トーチ役で出演しています。

他には、ライアン・クーグラー監督の
『フルートベール駅で』(2013)
『クリード チャンプを継ぐ男』(2015)
ブラックパンサー』(2017)
にも出演。

どうやら、同じ監督の作品に続けて出演する傾向がある様です。

 

 

青春の悩みを超能力の獲得という題材にて描いた作品『クロニクル』。

また、「ビデオカメラ視点」を主とし、
その視点が様々に変化する点も面白い部分です。

私にとってはとても他人事と片付ける事の出来ない、そんな不穏な、しかし、印象深い作品、
だからこそ面白い、『クロニクル』とは、そんな作品です。

 

 

*ジャンルは違いますが、POV視点のモキュメンタリー映画である『トロールハンター』もオススメです。

映画『トロール・ハンター』感想  仕事人!!たった一人で世界を守る男の物語!!

 

 


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さて次回は、『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命』について語ります。
デイン・デハーン特集第二弾です。