映画『Diner ダイナー』感想  極彩色の美意識が炸裂!!これは、観る宝石箱や~♡


 

主体性の無い人生を生きてきたオオバカナコは、怪しいバイトに手を出し、ギャングに捕まり、身売りされてしまった。辿り着いた先は、殺し屋専門の飲食店「ダイナー」。そこの王を名乗るシェフのボンベロから、24時間、365日休み無く働けと言い渡される、、、

 

 

 

 

監督は蜷川実花
写真家として名の知れた映画監督。
監督作に
『さくらん』(2007)
『ヘルタースケルター』(2012)
『人間失格 太宰治と3人の女たち』(2019)がある。

 

原作は、平山夢明の『ダイナー』。

 

出演は、
ボンベロ:藤原竜也
オオバカナコ:玉城ティナ

スキン:窪田正孝
キッド:本郷奏多

マテバ:小栗旬
マリア:土屋アンナ
ブレイズ:真矢ミキ
コフィ:奥田瑛二 他

 

 

本作『Diner ダイナー』は、原作付きの作品。

私は、
平山夢明の原作『ダイナー』を読んでいます。

なので、原作ファンの言葉として、
本作を評価する形になる事を御了承下さい。

 

さて、先ずは、
トレーラーを観て貰いましょうか。

 

 

 

ハイ、
本作は、もう、
良くも、悪くも、予告篇通り、

この予告篇に全てが詰まっています

つまり、
この予告篇を観て、

「面白そう」と思えば楽しめるし、
「別に…」と思う人は、本篇も楽しめないという訳です。

 

まぁ、流石に、それだけでは、
ふわっとしているので、
もう少し、詳しく解説してみましょうか。

 

 

本作、
基本的には「ダイナー(食堂)」の中で展開する物語。

殆ど、舞台劇の様な印象を受けます。

しかし、
この限られた空間に、
監督が、自身の持てる力、美学を全てを注ぎ込んだというのが、本作。

極彩色の世界にて
奇妙でイカれた登場人物が大暴れ、

 

それが、本作『Diner ダイナー』と言えます。

 

店内には、
何故か桜の木が咲いていて、
しかし、
舞い散るのは薔薇の花びら!?

そこで、
個性的且つイカれた殺し屋が、
突発的に喧嘩をおっ始める!!

 

写真家としても活躍する、
蜷川実花監督の美意識が、
余す所無く発揮されています。

 

その美意識は色彩感覚に留まらず、

料理の描写、
衣装、
タイポグラフィ(文字)、
タトゥー、 etc…

正に本作、

蜷川実花の美意識の詰まった、
極彩色の宝石箱や~

 

彦摩呂なら、そう言うね!

 

とにかく、
監督の持つ美意識が投影された、

宝石箱であり、
オモチャ箱の様な作品、

それが、本作『Diner ダイナー』と言えます。

 

そして、

この世界観を成立させる、
豪華出演陣もまた、
本作の美味しい持ち味の一つ。

 

殆ど、
全ての出演者が、濃い!

端役に至るまで、
おざなりにはしない徹底ぶり。

キャラクターを観ているだけでも面白さが成立してしまう。

 

この漫画チックな世界観を、
破綻無く仕上げているのがまた、
凄い所です。

 

 

しか~し!

何と、本作は、
平山夢明の原作を使っていながら、

プロデューサー陣は、
「PG12にもしたくない」と言ったそうです。

なので、
平山夢明の諸作品の持つ要素、

苛酷過ぎる状況の中で、最早、自分自身が、自分を笑うしかない

という、

「残酷なブラックユーモア」という主要因が、
本作からは、スッポリと抜け落ちてしまっているのです。

 

 

本作は、
全年齢対象となっているので、
殺しの描写も、残酷なものになる事を避け、

時には、
どこか、コミカルな風に
また、
美しく着飾ったりして、

「死」を、苦痛から切り離して演出しています。

 

確かに、原作は、
作者・平山夢明の作品の中でも、
最もエンタメ度が高く、読み易い作品だと言えます。

しかし、
それを映画化した本作には、

「陵辱がないでしょ」と、
クライベイビー・サクラなら、そう嘆きます。

これは、
「とろけそうな程、甘い」と、
柳龍光なら、そう言ってしまうような演出であり、

つまり、
原作の熱心なファンからすると、本作は、
「上等な料理にハチミツをぶちまける」かの様だと、
範馬勇次郎なら思ってしまいそうです。

 

なので、
あくまでも、
原作の持つ「エンタメ」の部分を引き継ぎ

そこを、
監督、蜷川実花が、独自の美意識で料理してみせた作品だと、

映画版は割り切って観るべきでしょう。

 

まぁ、
原作ファンと言うのは、
こういう事を言っちゃうから、

一つの、厳しい意見として、受け止めて下さい。

 

 

本作、
映画だけを考えると、
エンタメとして楽しめる、

しかし、

平山夢明要素を期待すると、
「やっぱり、映像化は無理だったかぁ」と、
諦めざるを得ない、
そんな作品だと言えます。

 

勿論、
映画としては、存分に楽しめるのが、本作の良い所。

原作を知らない人が楽しめるのは勿論、

原作のファンも、
「へぇ、こういう解釈で映像化したのか」と、
そういう演出面を楽しめる、

『Diner ダイナー』は、そんな作品なのです。

 

まぁ、確実に言える事は、
本作を観た後は、
ハンバーガーが食べたくなるよね!

 

 

  • 『Diner ダイナー』のポイント

極彩色の美意識が炸裂する、宝石箱の様な世界観

イカれ過ぎて、濃すぎる、キャラクター陣

オオバカナコのイニシエーション

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 


スポンサーリンク

 

  • ポップでキュートでキャッチー

本作『Diner ダイナー』は、
正に、
監督、蜷川実花の美意識が詰まった作品。

舞台も、殆ど「ダイナー」内に収まっており、

この、
ある種のソリッドシチュエーションとも言える状況が、

極彩色の宝石箱とも言えるような作品世界を生み出しています

 

色彩感覚の美しさ、

そして、
キラキラ輝く料理の数々は、
それ自身が、
まるで宝石のような美しさ。

それでいて、
ちゃんと美味しそうなのが、
また、嬉しいというか、
観ているだけで、腹が減る作品です。

 

また、衣装の拘りにも注目。

ボンベロの、
料理に向かない、
カカトを踏みそうな、あの長い白衣は、
侍の袴をイメージしているとの事。

なる程、納得。

対して、オオバカナコの衣装は、

コレはもう、
コスプレ風俗にしか見えません。

フェミニンな玉城ティナに、
これまた、どう見ても料理には向かない、
エロい白雪姫みたいな衣装を着せたのは英断と言えるでしょう。

 

玉城ティナのエロい白雪姫衣装繋がりですが、

壁に掛かった、歴代ウェイトレスの遺影が、
店内の状況に、様々なリアクションを見せるのは、
本作の面白い演出。

よく見ると、
全員可愛い上に、

衣装が全部、
同じデザインの色違いで統一されているのがミソ。

つまり、
全部、オーダーメイドで作っているという拘りぶり。

 

そういった、
細かい所にまで、
美意識を敷き詰めているのが、
本作の素晴らしさと言えるのです。

 

  • 自分を必要とする、自分を信じろ!

本作のストーリー上の主人公は、
勿論、
玉城ティナの演じるオオバカナコです。

今更ツッコむまでも無く、
「大馬鹿な娘」とも言えるのは、

彼女が、主体性を持たず、
それ故、
自信が無い存在であるという事を示唆しています。

 

本作は、
そのオオバカナコが、
自身の有用性を発見し、
自信を持つまでを描く、
それがテーマとされている作品と言えます。

いわば本作、
オオバカナコが新しい自分に生まれ変わる、
そのイニシエーション(通過儀礼)を扱っているとも言えるのです。

 

オオバカナコは、ある日、

絵はがきのメキシコの街並みを見て、
「ここに行きたい」と一念発起、

即金が欲しくて危ないバイトに手を出し、
ギャングにつかまり、
「ダイナー」送りとなってしまいます。

その冒頭、
そして、ラストシーンにて共通するのは、

メキシコ版の、お盆というか、ハロウィンとも言える、
「死者の日」のお祭りです。

 

死者の日とは、
先祖の霊を迎える為、
メキシコ全土で行われる、極彩色の盛大なお祭り。
(11月1日~2日)

ガイコツが並び、
マリーゴールドの花びらが舞い、
ど派手な祭壇が家々を飾ります。

あくまでも、
明るく、楽しく、先祖の霊を歌と踊りで迎えているのです。

その辺りの様子は、
ピクサーのアニメ映画『リメンバー・ミー』にて、
よく描かれています。

 

つまり、本作の本篇、
「ダイナー」内で描かれる、
「殺し屋どものオオバカ騒ぎ」というのは、つまり、

一度、
社会的には死んだオオバカナコの追悼であり、

それを、
「死者の日」の如くに、
ド派手に見送る事により、

オオバカナコが新しい自分を発見するという、
イニシエーションとなっているのですね。

 

物語の主人公は、
一端死ぬ事で、新しい自分に「生まれ変わり」ます。

黄泉比良坂を下った、イザナギ然り、
地獄巡りをした、『神曲』のダンテ然り、
津波の後に、町ごと新しく生まれ変わった『崖の上のポニョ』の宗介然り。

本作においては、
オオバカナコが出られない、
閉鎖空間である「ダイナー」は子宮のイメージ。

オオバカナコは、「ダイナー」に連れて来られて、
ボンベロの説明を聞いた後、
膝を抱えて、裸で丸まってシャワーを浴びていましたよね。

それは、胎児をイメージしているシーンです。

 

また、
扉が開いており、
出て、逃げられるのに、
そうはしなかったオオバカナコ、

「怖いの?」と尋ねられたシーンがありましたが、
それは、
夢野久作の『ドグラマグラ』の冒頭、

「胎児よ 胎児よ 何故躍る 母親の心がわかって おそろしいのか」
(『ドグラマグラ』冒頭、巻頭歌の引用)

を思い浮かべます。

これはつまり、
母親との思い出(=現世)の記憶を持つオオバカナコが、

生まれ出づる事(=現世で生活する)自体を、拒否しているという事を意味します。

 

しかし、
そんなオオバカナコも、

ボンベロと共に死線を乗り越え、
彼の技を継承する、

つまり、
ボンベロをインストールする事で、
自分に自信を持つ事が出来、

新しい自分として生まれ変わります。

クライマックスにおいて、
食料庫の排気口から這い出るオオバカナコは、

出産において、
産道を自らの意思で通る赤子であるとも言えるのです。

 

本作には、
原作が持つ、理不尽な死や、
ブラックユーモアは抜け落ちていますが、

しかし、
そこから、新しく生まれ変わる、
再生の物語という主題は、
キチンと継承されています。

原作の持つテーマを、
原作とは少し違う形で、
映像的に表現しているのが、
本作の独特な面白さであるのです。

 

 

 

原作ファンとしては、
もっと、
「死」の描写を残酷に描く事が出来たなら、
本作は、傑作になったと思います。

 

しかし、
商業作品としては、
全年齢に観て貰う様に、工夫する事も必要だったのでしょう。

そういう制約の上で、

原作のテーマを継承しつつ、

それでいて、
原作とは、また、違った世界観、

監督自らの美意識を結集させ、
ポップでキュートでキャッチーな、
極彩色の宝石箱の様な作品に仕上げたのは、

大したものです。

原作とは、少し違う。

でも、コレは、コレでありだな。

エンタテインメントとして、
極振りしている面白さ、

美術、キャラクター、

それらを存分に楽しめる作品、
それが『Diner ダイナー』なのです。

 

 

現在公開中の新作映画作品をコチラのページで紹介しています。
クリックでページに飛びます

 

コチラは平山夢明の原作。氏の著作の中では、最も読み易く、面白い作品と言えます。オススメ!


スポンサーリンク