映画『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』感想  多世界に亘る冒険は、ホラー風味!!

怪物に追われる少女を助け、結局は裏切り、その後、死ぬという夢を見たドクター・ストレンジことスティーヴン。その日は、かつての恋人クリスティーンの結婚式の日だった。
披露宴にて歓談の途中、市中にて騒ぎが発生する。現場に急行したストレンジが見たのは、怪物に襲われている「夢で見た」少女であった、、、

 

 

 

 

監督は、サム・ライミ
ホラー映画畑で名を上げたB級映画監督のイメージだったが、
マーベル系列のアメコミ映画
『スパイダーマン』(2002)
『スパイダーマン2』(2004)
『スパイダーマン3』(2007)にて一般にも知れ渡る。
他の監督作品に、
『死霊のはらわた』(1981)
『ダークマン』(1990)
『キャプテン・スーパーマーケット』(1993)
『クイック&デッド』(1995)
『シンプル・プラン』(1998)
『ギフト』(2000)
『スペル』(2009)
『オズ はじまりの戦い』(2013)等がある。

 

出演は、
スティーヴン・ストレンジ/ドクター・ストレンジ:ベネディクト・カンバーバッチ
アメリカ・チャベス:ソーチー・ゴメス
ワンダ・マキシモフ/スカーレット・ウィッチ:エリザベス・オルセン
ウォン:ベネディクト・ウォン
クリスティーン・パーマー:レイチェル・マクアダムス
マスター・モルド:キウェテル・イジョホー 他

 

 

本作『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』は、

ドクター・ストレンジ』(2016)の続篇であり、
「マーベル・シネマティック・ユニバース」の中では
傑作だった『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(2022)からバトンを繋がれた、
28作目の作品となります。

 

さて、
前作の『ドクター・ストレンジ』ですが、
個人的には、
「マーベル・シネマティック・ユニバース」の中でも、
好きになれない作品の筆頭でした。

主人公のストレンジの性格とか、
映画『インセプション』(2010)を模倣した演出とか、
中国よりの内容とか、
麻薬でハイになった様な描写を「悟り」として描いたりとか、

マイナス要素のオンパレードで、
映画の完成度は高くとも、
私個人の趣味とは相容れない作品だったのです。

 

しかし、映画は、
監督次第でその内容が変わるもの。

 

『ドクター・ストレンジ』で監督だったスコット・デリクソンが降板し、
本作では、
サム・ライミが監督となりました。

 

サム・ライミと言えば、
現在のアメコミ映画全盛の礎を作った
『スパイダーマン』(2002)を監督した
その張本人。

しかし、
その元々は、
『死霊のはらわた』などの、
B級のホラー映画を監督していた趣味の良いお方。

ホラー映画好きの私としては、
嫌が応にも、期待が高まります。

 

更に、
「マーベル・シネマティック・ユニバース」シリーズの直前の作品、
『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』が傑作で、

その流れを受け継いで、
「マルチバース(多世界解釈)」展開が描かれるというSF趣味や、

煽り気味の予告篇がバンバン流れ、
作品の期待値が上昇。

そして、
『ドクター・ストレンジ』で描かれた、
嫌な男の典型みたいな性格のストレンジも、

他の「マーベル・シネマティック・ユニバース」作品に出演する間に、
「あ、この性格も、様々な個性のアンサンブルの中では、アリかも」と考えるに至り、

寧ろ、
個性的で興味深いと思える様になりました。

 

そういう意味で、
期待と不安が相半ばする本作、
ドキドキで観に行ったのですが、
その内容はどうだったのかと言いますと、

凄ぇ面白い!!
(けれど、傑作一歩手前)

 

という個人的な印象でした。

 

マーベル系に限らず、
科学とテクノロジーを駆使して戦うヒーローは多いですが、

本作のドクター・ストレンジは、
「魔法」を使うタイプ。

ド派手で際限の無いアクションシーンが繰り広げられます。

 

又、ビジュアル面も、中々のもの。

色々な世界を巡る冒険が描かれる本作。

前作では『インセプション』的な、
世界で折り紙をしている様な描写が凄かったですが、

今回は、そういうイメージを、敢えて封印。

本作は、
冒険の舞台を目まぐるしく変化させ、
想像力豊かな、色々な世界を描き出しています。

 

そして、
本作の最たるモノは、

サプライズ連続の、
意外性のあるストーリーです。

 

 

本作で描かれるのは、
「マルチバース」。

様々な世界を亘るという事で、
その設定を活かした、
大胆な構成、ストーリー展開がなされます。

 

更には本作、

監督の趣味が反映されているのか、

演出が、どことなくホラー風味なのです。

 

 

不思議で、派手で、意外性があって、
ホラー風味、

正に、非の打ち所のない作品と言えるのです。

 

…こう言ってしまうと、

本作は傑作でしか有り得ない様な印象を受けますよね。

確かにそうです。

しかし、本作には決定的な欠陥があって、
と言うより、
作品自体の完成度は高いのですが、

予告篇で、
ほぼ、オチまでネタバレしているのです。

 

 

予告篇で映像を観て、
想像出来る内容そのままだったのが、
残念というか、

もうちょっと、
考えて作って欲しかったなぁという印象。

なので、
もし、これから観る人が居るのなら、
予告篇も観ずに行って欲しいですね。

 

どんなに面白い作品でも、
メタバレされてしまったなら、
その魅力が半減。

やっぱり、
初見のイメージって大事だよな、
と改めて思わされた作品、

それが『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』です。

 

 

 

 

  • 『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』のポイント

ド派手過ぎるアクションとビジュアル

サプライズの連続のストーリー展開

自らメスを握るという事

 

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

ネタバレ内容なのでご注意を。

 

 

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  • ネタバレ、駄目、絶対!!

本作『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』は、
本来ならば、
年間ベストとも言える様な内容、完成度の作品です。

しかし、
鑑賞前に、数々のネタバレを喰らい、
本来の正しい評価が、私には出来ませんでした。

もしも、
ネタバレをされずに観たなら、
本作は、どれ程楽しめたのか?

それこそ、
マルチバースの何処かに居る、
別の世界の私に尋ねたい位ですね。

 

先ず、予告篇が駄目ですね。

ストレンジが、様々な世界の自分と出会う、
という意外性のある展開は、
出来れば、伏せておいて欲しかった。

その過程というか、
究極的に、
ゾンビ化するという、
ラストバトルのオチを、予告篇でバラすという万死に値する愚行

作った人間のセンスを疑います。

 

『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』の場合は、
事前情報にて、
過去作のヴィラン(敵役)が集結するという事をバラしていました。

その情報を知った時、
「え~、この情報、知らない方がもっと楽しめたのに」と思いましたが、

本篇は、
更にその上を行くサプライズが仕込まれていました。

 

いや、
ヴィランが集結するという時点で、
サプライズの内容は予想出来ますよ。

しかし、
「予想する」という事と、
「事前に知っている」という事では、
雲泥の差があります

 

それと関連して言うと、

本作が心から楽しめなかった要因の、その2として、

アメコミ映画系を取り扱った「YouTube」番組で、
ネタバレ考察をするのは勝手ですが、

それをサムネイルで晒すのは鬼畜の所業であります。

あの後ろ姿は、
プロフェッサーXだ!とか、

マーベルのアニメシリーズ『ホワット・イフ…?』で描かれた、
超人血清を打たれたペギー・カーター/キャプテン・カーターが出るとか、

考察するのは勝手だがなぁ、
手前ェがドヤ顔でサムネで晒す自己満足のネタバレの為に、
こちとらの映画鑑賞の楽しみが殺がれているんじゃ、間抜けが!!

 

本作の中でも、
そのサプライズ要素が最も高かった、
「イルミナティ」の面々が、
バラされていたのは、
もう、本当に、今思っても、悔しさ爆発ですね。

 

YouTubeの「あなたへのおすすめ」機能、どうにかなりませんかね。

まぁ、
私が、本作が楽しみ過ぎて、
予告篇を何回も再生したのが間違いだったのかもしれません。

いや、
間違いじゃねぇや。

ゴジラvsコング』(2021)でも、
YouTubeのサムネでネタバレされてたわ!!

 

  • 自分でメスを握る

文句を言うのはこの位にしておいて、
本作『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』のテーマについて語っていきます。

本作のテーマは、
ストレンジのかつての恋人、
クリスティーン・パーマーが、彼に付き合いきれない理由として言った台詞、
あなたは、いつも自分でメスを握る人物だ」という指摘です。

 

(元)外科医なんだから、当たり前でしょ?
とか言うのは野暮で、
これは勿論、比喩表現。

訳すると
あなたは全部、自分でやらないと気が済まない人
(だから、一緒に居られない)

という意味なんですね。

 

これは、
目から鱗というか、
的を射た、
ストレンジの本質を表したセリフなんですね。

 

私は、
最初の『ドクター・ストレンジ』では、
その高慢な態度が好きではなかったのですが、

他の「マーベル・シネマティック・ユニバース」に出演するストレンジを観ていると、

何だか、彼の性格が、
魅力的に思えて来たんですよね。

 

高慢で、傲慢で、鼻持ちならなくて、
自信過剰で、思った事をズバズバ言って、

そして、いつも正しくて、
間違った事を言ったり、したり、していないからこそ、
付け入る隙が無くて、何だか、ムカツク。

他人に阿(おもね)る事も無く、
孤高で独立不羈、
自己責任の塊で、
困難に直面しても、
努力と機転と意思の力で、信念を貫く。

故に、彼の様子を他人が見ると、
同じレベルを求められているかの様な、
劣等感を抱いてしまうのですね。

 

そんな彼のアイデンティティを、
一言で言い表しているのが、凄い台詞です。

 

  • ストレンジとワンダ

「自分でメスを握らないと気が済まない」という事は、
裏を返すと
「自分で何でも出来る」という事でもあります

そういう観点からすると、

本作の主人公であるストレンジと、

本作のメインヴィランとして、
アベンジャーズから「闇堕ち」したワンダは、

表裏一体であり、
お互いの運命を補完し合う存在として描かれています。

 

「魔法」と「インフィニティストーン由来の超能力」を使うという、
似た能力もさる事ながら、

共に、
手に入れられない人物を求める、
喪失感を抱えて生きています。

 

ワンダは、
自らが生んだ(魔法で創造した)双子の男子を実際に手に入れる為、

無限の可能性を秘めた多世界にて、

「彼女の夢が叶っている世界の自分」に成り代わりたいと願っています。

ワンダは、
「人を傷付けるつもりは無い」と言いつつも、
その為には手段を選ばず、

結果、行く先々で大虐殺を繰り広げます。

彼女には、
メスを握る力がある、
故に、自分の思い通りに世界を改変して行くのですね。

 

一方ストレンジは、
そのワンダに誘惑されます。

「あなたも、(かつての恋人)クリスティーン・パーマーと一緒に居られる世界に行きたいんじゃない?」と。

しかし、
本作で実際に描かれるのは、
愛を求めるか、捨てるかの葛藤では無く、

多世界に存在する「他の自分」の人生の顛末の目撃なのです。

 

ストレンジも、
ワンダと同類で、
「自分でメスを握って」力を揮うタイプの人物。

目的の為には、手段を選ばず、

多助を求める少女の力を奪おうとしたり、
禁断の力を手にしたり、
世界を崩壊させたりするのです。

ワンダとの違いは、
彼女が自分の私利私欲の為に力を使うのに対し、

ストレンジは、
外科医の頃から、
患者の為、弱者の為、世界の為、
他人の為に、力を揮っている、

その一点に尽きます。

 

しかしながら、
ストレンジの独立不羈な性格の本質は、
どの世界でも変わらない為、

目的の為に手段を選ばない、
自分が今打てる最善手に、直線距離で向かって行くという姿勢は、

故に、
スタンドプレーになりやすく、
他人はそれを、
自分勝手で扱い辛いヤツと感じてしまいます。

 

他人を信用しないストレンジは、
他人に信用されず、

目的の為に選ばぬ手段は暴走し、

護ると誓った少女の命を奪おうとし、
世界を守る為に接触した「マルチバース」にて、「インカージョン」を誘発させ、
自らの住む世界さえ、崩壊させてしまい、

つまる所、
本末転倒なカタストロフな結末が、
多世界の、それぞれのストレンジの身には降りかかっています

 

本作の主人公ストレンジも、
魂が汚されるという「ダークモールド」を、ためらいなく手にするという、

目的遂行の為に、
手段の選択に躊躇がありませんが、

しかし、
彼は、少し、学んでいます。

夢の中で、
「マルチバース」の自分を操るという「ドリームウォーク」の最中、
無防備な自分の体を守ってくれとクリスティーンに頼んだり、

また、
クライマックスで、
アメリカ・チャベス自身に、彼女の力を任せたのも、

「自分でメスを握る」=「自分自身で、全て何とかする」事の限界を、
散々、見て来たからなのでしょう。

 

実際の仕事とかでも、
そうですよね。

一人で何でも出来るエース級の社員は貴重ですが、
実は、
彼の活躍で、他の社員がサボっているだけだったりするんですよね。

結局、
エースが一人休んでも、
他の有象無象の社員がちょっとずつ肩代わりして、
仕事は、意外と、それなりに回ったりしています。

無駄に責任感が強くて、
他の人が出来ない位に完璧に立ち回り続けると、
遅かれ速かれ、
必ず、潰れてしまうのが、エース社員の運命であり、

最後には、
緩い社員が生き残るっていうのが、ありがちです。

 

力と能力と、勘違いした責任感がある為に、
「自分でメスを握らないと気が済まない」人間の最期は悲劇であり、

本作でも、
ワンダの目的は、頓挫してしまいます。

他人を許容し、信用する事が、
結局は、
自分も、相手も、世界も救う事になる

本作では、
その事をテーマに描いた作品と言えるのではないでしょうか。

 

作中、ストレンジはクリスティーンに言います。

「君を愛し続けられなかったのは、
関係を続けるのが面倒なのでは無く、
怖かったからだ」と。

人を信用する事は、

「自分で何でもした方が早い」と思っているタイプの人間にとっては、
ある種の苦痛であり、それが恐怖でもあるのです。

しかし、
クリスティーンは言います。
「(今後は)その恐怖と向き合わないと」と。

これはつまり、
人を信用し、任せる事を覚えてね」と言っているのです。

 

だからラストシーンで、
ウォンに「礼」を示したのですね。
彼を信用している、と示す為に。

 

止まっていた時計を新調し、
新たなる気持ちで一歩を踏み出したストレンジ、

第三の目も開き、
どうやら魂も汚されているご様子ですが、

それでも、
彼がめげていないのは、
恐怖と向き合う覚悟が出来ているからなのでしょう。

 

  • サプライズとホラー演出

期待の新キャラ、
ストレンジの新たなるバディ(?)
アメリカ・チャベスは可愛かったですね。

恐らく、
キャプテン・アメリカが退場したので、
新たなる「アメリカ」キャラを投入したのだと思われます。

名前に「アメリカ」って入っているのって、どうなんだろう?

日本で言うと、
名字が「山口」とか「福島」とか、
そういう感覚なのでしょうか。

何にせよ、
アメリカ人って、アメリカ大好きだよなぁ、と思いました。

 

そして、いつの間にか、
デビルサマナー(悪魔召喚士)みたいな能力を持っていたストレンジ。

ミノタウロスみたいな登場人物が居たり、

設定が追加されているのに戸惑います。

 

ネタバレされても、
やっぱりサプライズは凄かった。

「X-MEN」シリーズの「プロフェッサーX」の登場、
彼が、これまで同様パトリック・スチュアートが演じていたのが嬉しかったです。

でもねぇ、
世界最強のテレパスと言われたプロフェッサーXが、
ホームグラウンドであるハズの精神世界で殺害されたのは悲しかったなぁ。

また、
キャプテン・カーターの登場や、

キャプテン・マーベルが、
ブリー・ラーソン演じるキャロル・ダンバースでは無く、
キャロルの同僚、親友として『キャプテン・マーベル』(2019)に登場していた
ラシャーナ・リンチ演じるマリア・ランボーだったり、

そして、
マインド・ストーンのスカーレット・ウィッチと
スペース・ストーンのキャプテン・マーベル、
共に、タイマンではサノスを上回った二人の直接対決、
どちらが強いかという疑問に軍配が下されたのも、興味深いです。


加えて、
本作のホラー演出も面白い所。

助けを求めた相手が黒幕だったり、
そのワンダが、
「あれ?名前教えてもらったかしら」と、
古典的なボケで自白するのも、白々しくて空恐ろしかったですね。

また、
そのワンダから逃走中、
閉めたハズの防火扉の内側に入り込んでいたり、

「ドリームウォーク」で意識を憑依された時、
カメラというか、観客の方を見つめるという、
メタ演出をしたり、

もう一箇所、カメラを見る演出があって、
それはクレジット後のギャグシーンで、
正に、恐怖と笑いは紙一重と表現しています。

クライマックスで、
ゾンビストレンジを登場させたのも、流石です。

流石、B級ホラー映画出身の、
面目躍如と言った所です。

 

 

 

凄くて、派手で、
サプライズ満載で、意外性のあるストーリー展開と、
ホラー風味の演出。

傑作でしか有り得ないのに、

ネタバレの為に、
興奮が半減していたのが、
悔やまれる所。

「マルチバース」の他の私は、存分に楽しめたのかな?

そんな事をつらつら思った、
『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』です。

 

 

 

 

 

 

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