大学を辞め、バイトで稼いだお金で、ゲーム用の運転ハンドルを購入したヤン。彼が夢中になっているゲームの名は「グランツーリスモ」。
何時かレーサーに成る!!というヤンの妄言に、父は「現実を見ろ」と苦言を呈す。
しかし、そんなある日、レースゲームの勝者がスポーツカーの実機に乗れるという「GTアカデミー」が開催される、、、
監督は、ニール・ブロムカンプ。
南アフリカ出身。
監督作に、
『第9地区』(2009)
『エリジウム』(2013)
『チャッピー』(2015)
『デモニック』(2021) がある。
出演は、
ヤン・マーデンボロー:アーチー・マデクウィ
ジャック・ソルター:デヴィッド・ハーパー
ダニー・ムーア:オーランド・ブルーム
山内一典:平岳大
スティーヴ/ヤンの父:ジャイモン・フンスー
レスリー/ヤンの母:ジェリ・ハリウェル・ホーナー 他
『俺はまだ本気出してないだけ』という漫画がありました。
まぁ、
内容を説明しなくても、
何となく、
題名で察してくれるのではないでしょうか。
何となく、夢らしきものはあるけれども、
特に、努力も修行もせずに、
ノンベンダラリと過ごしている。
「今、結果は出ていないけれど」
「それは、今、勝負していないだけで」と、
永遠の保留を続けるモラトリアム気質。
永遠の夢追い人(夢老い人)。
大学を辞め、
ゲーム三昧で、
そのうち、レーサーに、俺はなる!!
そんな事、ニートの息子が言い出したら、
そりゃぁ、お父さんは激おこですよ!!
しかし、
夢を諦めなかったバカヤロウがここに!!
諦めきれなかった夢を追い、
そして、
それを実現させる為に、
試練と困難に立ち向かう。
王道の、青春ストーリーです。
また、
今ではすっかり定着した感がある、
ライトノベルのジャンルの一つ、
異世界転生モノ。
レースゲームのトッププレーヤーが、
本物のスポーツカーを操る。
しかも、実話ベース!?
そういう本作は、ある意味、
異世界転生と言って、過言では無いのです。
突拍子の無い設定ほど、
面白い。
それが、実話ベースというのなら、
尚更ではありませんか!?
さて、
なんか、オタクが主人公という事で、
何となく、偏見があるかもしれません。
しかし、
レースシーンの迫力は、中々のもの。
何しろ、
主人公のヤンが運転する車のシーンは、
実際に、
本物のヤン・マーデンボロー自身が運転しているという、
自分を演じている役者のスタントを、
自分がヤルという、
メタ的な構造も面白いです。
まぁ、
監督のニール・ブロムカンプは、
元々、SF映画を撮ってきた人物なので、
CGシーンも多数あるでしょうが、
あくまでも、実機に拘った所も多いとか。
その迫力は、如実に表われています。
ゲームの「グランツーリスモ」が切っ掛けではありますが、
ゲーム映画というより、
王道の青春サクセスストーリーである『グランツーリスモ』。
意外と言えば何ですが、
ちゃんと、面白い作品です。
…まぁ、
ぶっちゃけ、
2022年に公開された『ALIVEHOON アライブフーン』そのままだろ、
と言えば、
そうなのですが、ね。
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『グランツーリスモ』のポイント
三下負け犬の成り上がり物語
ゲーマーからプロレーサーへ、異世界転生ドリカム
父親と師
以下、内容に触れた感想となっております
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え!?監督がニール・ブロムカンプ!?
私は、
観ると決めた映画は、
それ以降、あまり情報を入れずに劇場に行くのですが、
本作、
オープニングでビックリしたのですが、
監督が、ニール・ブロムカンプなんですよ。
ニール・ブロムカンプ監督は
個人的にお気に入りの一人で、
配信オンリーの『デモニック』は未見ですが、
デビュー作の『第9地区』
その後の『エリジウム』『チャッピー』も、
好きな作品です。
でも、今まで、
SFチックな作品ばかり作ってきた監督が、
実話ベースの車の映画を撮る!?
ちょっと意外だったのですが、
オタク気質のゲーマーが、実機に挑戦、
虐げられた者達が、世間に立ち向かう、
スポーツカーという、メカ要素、
こうやって、
映画の構成を分解してみると、
あれ、
結構、
ニール・ブロムカンプ監督の過去作と共通する
エモーションというか、哲学的なものが盛込まれているな、
と、感じました。
また、
ニール・ブロムカンプ監督の
『エリジウム』や『チャッピー』には、
ちょこちょこと、
日本要素が混じっていました。
『エリジウム』には、
メカメカした背景に、何故か唐突に桜が映ったり、
悪役の武器が日本刀や手裏剣だったり、
『チャッピー』には、
南アフリカ出身の歌手「ダイ・アントワード」の
ニンジャ(芸名)とヨーランディが出演していたのですが、
その「ニンジャ」のズボン(ジャージ)に
片仮名で縦に「パッション」と書かれていたり。
それを考慮すると、
日本要素が多く、
ちゃんと日本ロケをしていた本作を思い出すに、
あ、
確かに、ニール・ブロムカンプ監督の好きな要素が多いな、
と思いました。
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父親と師
本作『グランツーリスモ』は、
若者の王道サクセスストーリー。
それは、本筋として、
ちゃんと、面白いのですが、
私が注目してみたいのは、
父親と師の描き方です。
本作、
作品としての主人公は、
ヤン・マーデンボローなのですが、
スタッフロールでは、
役の重要度、
出演シーンの多さ、
役者の格
辺りの掛算で、順番が変わりがちです。
本作においては、
上映後のスタッフロールの順番は、
ジャック・ソルター:デヴィッド・ハーパー
ダニー・ムーア:オーランド・ブルーム
ヤン・マーデンボロー:アーチー・マデクウィ その他
となっております。
これは、役者の格、知名度による並びという事もありますが、
他にも、
ジャック・ソルターが作品において重要なキャラクターであるという事の証左なのではないでしょうか。
オタク野郎(ナード)と馬鹿にされているヤン。
一方、
レースチームの下っ端メカニックと、
ドライバーから虚仮にされているソルター。
動機は違えでも、
世間に対する「今に見ておれ」的な、
叛逆心がフツフツと湧き上がっているのは共通しています。
しかし、一方は、前途ある若者。
一方は、
夢を追いきれず、諦めちまった老兵。
ソルターは、
自分の過去をヤンに投影しつつ、
しかし、それを超えるべく突き進む事を良しとし、
後押しします。
この関係性が、
師と弟子というか、
バディムービー感があります。
一方、
出番は少ないながらも、
ジャイモン・フンスー演じる父親の立場も、
理解出来ます。
大学辞めて、
バイトしたと思ったら、
買ったのは、ゲームの「グランツーリスモ」用のハンドル。
「夢はレーサー」とか言っている人間が、
その為に何か行動する訳では無く、
家かカフェでゲーム三昧。
そりゃあね、
嫌味ったらしく、
「お前鉄道で肉体労働する未来しかねぇぞ」と、
苦言を呈しますよ。
行動に何も説得力が無いンだから。
でも、成功するのには、
実力のみでは無く、
チャンスと、それを掴む集中力と決断力、決定力が必要です。
ヤンは「GTアカデミー」で頭角を表し、
ソルターの指導の甲斐もあり、
クラッシュの肉体的、精神的なダメージも乗り越え、
レーサーとしてのアイデンティティを獲得して行きます。
クライマックス前、
24時間耐久、ル・マンに挑む直前、
父は「お前をそばで支えてやれなかった」
「子供を守る事しか考えていなかった」と告白します。
それに対しヤンは、
「父さんは、ずっと僕の誇りだった」と返します。
親の愛というものは、確かに必要ですが、
人生の成功や、困難の克服に、
それが必要かと言うと、そうではなく、
寧ろ、傷を癒やす時、
自分の、根本的な誇りを見直す時、
そういう時の大黒柱としての存在が、
父であり、家族である様に思います。
事を成す時に必要な「師」と、
精神的な支えである「親」
この違いを描いている点が、
本作のキモの一つであると、私は観ました。
因みに、
小ネタですが、
ヤンの母親役を演じたジェリ・ハリウェル・ホーナーは、
かつて、大人気を博した「スパイス・ガールズ」のメンバーで、
ジンジャー・スパイスの愛称で呼ばれていました。
で、現在の夫は、
元レーサーで、F1チームの「レッドブル・レーシング」の代表の、
クリちゃん・ホーナーです。
現実離れした設定が、
まさかの実話ベース。
ゲーマーがプロのレーサーになるなんて、
『ALIVEHOON アライブフーン』(2022)でも描かれましたが、
本作のモデルのヤンだけでなく、
その他にも、多数いるそうです。
しかし、
「まさか」の設定こそ、面白い。
しかも、
ストーリーは
努力、根性、挫折の末の勝利という、
王道サクセスストーリーが、鉄板の面白さ。
そこに、
未熟な若者が対する
師と父のスタンスを絡めて描いた作品『グランツーリスモ』。
中々、レースシーンも迫力があり、
全方位に刺さる作品と言えるのではないでしょうか。
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