1978年のハロウィンの夜、大量殺人を行ったマイケル・マイヤーズ。「ブギーマン」と言われ怖れられた彼は、精神病院に40年も収監されていた。一方、「ブギーマン」と対峙し、生き残ったローリーも、変人として娘に嫌われ、孫とも疎遠になっていた、、、
監督はデヴィッド・ゴードン・グリーン。
監督作に
『セルフィッシュ・サマー』(2013)
『ボストン ストロング ~ダメな僕だから英雄になれた~』(2017)等がある。
出演は、
ローリー:ジェイミー・リー・カーティス
カレン:ジュディ・グリア
アリソン:アンディ・マティチャック
マイケル・マイヤーズ/ブギーマン:ニック・キャッスル&ジェームス・ジュード・コートニー 他
ここ3年位で、
今や、日本にもすっかり馴染んだ感のあるハロウィン。
とは言え、
コスプレして、陽キャが騒ぐ口実を作って
「ウェイ!!」
しているだけのイベントの様な気がします。
現状のままでは、
害悪でしかないですねぇ…
そんな本邦で、
一般に、ハロウィンが認知された切っ掛けとなったのは、
1992年に、
アメリカのルイジアナ州で、
日本人留学生が射殺された事件でしょう。
日本人留学生が、
ハロウィンパーティーの会場と間違って、
全く関係無い家に訪問し、
そこの住民に撃ち殺されたという事件です。
その時、
住民が発した警告の言葉「Freeze」(動くな)を理解しなかったとか、
日本人だから、銃の怖さを理解せずに近付いたとか、
異文化ならではの問題点が色々と浮かび上がった事件でした。
そう、本来なら、
ハッピー・ハロウィーン♡
なんて、言ってる場合じゃないぞ!!
そういう現実(!?)を突き付ける、
それが、本作『ハロウィン』なのです!!
1978年のハロウィンの殺人事件の取材をする、
記者のアーロンとデーナ。
二人は、
殺人鬼、マイケル・マイヤーズが、
精神病院の病棟を移るというニュースを聞き、
再び事件を堀り直そうと思い、取材を敢行したのだ。
しかし、
マイケル・マイヤーズは、事件後40年、
一言も喋っておらず、
「ブギーマン」のマスクを見せても、全くの無反応だった。
二人は次に、
事件の生き残りのローリーを訪ねる。
人里離れた場所で、
金網に囲まれ、厳重なロックを施した家に住むローリー。
彼女は、
娘には奇人扱いされ、孫娘とも疎遠で、
孤独に暮らしていた。
ローリーにも、
特に話す事は無いと、早々に追い払われる二人。
しかし、彼女はこうも言っていた、
「ブギーマンの存在を信じていない?信じるべきよ」と。
遂に、マイケル・マイヤーズを移送する日が来る。
しかし、
マイケルを移送するバスが事故を起こし、
彼は失踪。
そして、
町はハロウィン当日を迎える、、、
皆さん、知ってましたか?
実は、「ハロウィン」シリーズの映画は沢山あって、
本作で、11作目。
「ファイナルファンタジー」レベルの長寿シリーズなのです。
しかし本作は、
過去シリーズと同じ系譜という位置付けでは無く、
初代『ハロウィン』(1978)の直接の続篇
というスタンスになっています。
まぁ、ぶっちゃけ、
他の続篇シリーズとは、
全く関係無い作品、と言えるのです。
では、
本作は、オリジナルを観ていないと楽しめないのか?
そんな事はありません。
勿論、
オリジナルを観ていた方が、
より面白いでしょうが、
私の様に、
オリジナルを観ていない人でも、
作中、ちゃんと、それなりに説明がされるので、
全く問題無く、本作を楽しむ事が出来ます。
そんな本作、
メインヒロインは、
御年、60歳の
ジェイミー・リー・カーティス!
そこの君!
年齢を見て、ブラウザバックしてはいけない!
何しろ、
現代は高齢化社会。
主演のローリーを演じたジェイミー・リー・カーティスの
アンチエイジングぶりに、
そこはかとなく漂うセクシーさに驚愕する事間違い無しです。
本作は、
オリジナルの続篇を銘打つだけあって、
キャストも同様なら、
オリジナルの監督であるジョン・カーペンターを
製作総指揮として迎えています。
(因みに、ジェイミー・リー・カーティス自身も、製作総指揮として名を連ねています)
つまり、
ポッと出の思い付き企画では無い、
とう事です。
ホラー映画ファンなら「これが観たかった」という、
あるあるネタ満載、
気持ち良い所に、
手が行き届いています。
観る前のイメージを全く崩さず、
それでいて、
ホラーの面白さを損なわない、
これぞ、
スラッシャームービーのお手本。
『ハロウィン』は、真っ当な(!?)ホラー映画なのです。
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『ハロウィン』のポイント
絶叫クイーンの復讐
ホラー映画のお約束
被害者と加害者
以下、内容に触れた感想となっております
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ホラーの文法
本作、『ハロウィン』は、
1978年のオリジナル版の続篇と銘打っています。
そのオリジナル版でも、
ヒロインのローリーを演じたのはジェイミー・リー・カーティス。
彼女の映画デビュー作であり、
その演技から、
「絶叫クイーン」と呼ばれたとか。
(因みに、実母のジャネット・リーも『サイコ』(1960)の演技にて「絶叫クイーン」と呼ばれているそうです)
また、オリジナル版は、
「SEXをする男女を殺すスラッシャー(殺人鬼)」という、
キャラクターもののホラー映画の文法を作った作品だそうです。
それに関連してか、
本作は「ホラーのお約束」を多く観る事が出来ます。
車を離れ、戻ったら、まず、後部座席を確認せよ。
ホラー映画で便所は鬼門。
入る時は個室の隣を確認、用は手早く済ませるべし。
SEXは厳禁、死亡フラグだ。
意見が対立した相手には、
味方に見えても、背中を向けるな。
戸締まりをしても、
ドアの近くに立つべからず。 etc…
1980年代~90年代初頭、
かつて、ホラー映画、
特に、スプラッタホラー(血飛沫)、スラッシャーホラー(殺人鬼)が流行った時期がありました。
その頃に確立されたパターン、
というか、
ホラーの文法を、
本作は忠実になぞっているのですね。
しかし、
唯一にして、絶対的に、
その頃のホラー文法とは、一線を画す部分があります。
それが、
「ヒロインの処女性」です。
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バトルヒロイン
いわくありげな山小屋やキャンプ場、人里離れた廃屋に集まった、
男女の若者グループ。
パーティーで浮かれ騒ぐも、殺人鬼が登場。
SEXをする者がら殺され、
生き残るのは、少年と処女の女性。
泣き叫び、悲鳴を上げつつも、
処女が反撃の一撃で、殺人鬼を殺して一件落着。
簡単にまとめると、
そういう物語の流れが、
当時のホラー映画のパターンとして存在しました。
どうして、そんな流れが好まれたのかと言うと、
それは、
「ホラー映画」の主な観客の好みに寄せたから、
つまり、
スクールカーストの下位に位置する、
陰キャが観て楽しめる内容にしたからなのです。
パーティーで浮かれ騒ぎ、
普段から、SEX三昧、ドラッグ三昧の陽キャ連中は、死ね!
自分(=その姿は、映画の中では幼い少年に仮託されている)は生き残り、
困難を打破してくれるのは、清廉潔白な処女。
かつてのホラー映画とは、
正に、陰キャ童貞の妄想の具現化だったと言えるでしょう。
こういう物語形式はしかし、
陽キャに対する鬱憤を晴らすという側面がありつつも、
同時に、
男性目線の、
女性性の抑圧という一面もまた、
持ち合わせています。
女性は、
処女で、可憐で、恐怖で泣き叫ぶ存在であるべき、
これが理想だと、
ある種の型に嵌めているのです。
そこで本作です。
本作『ハロウィン』は、
古(いにしえ)のホラー映画のパターンを踏襲しつつも、
活躍するヒロインは、
その型を破った、
現代版にアップデートされた女性像として描かれているのです。
本作のローリーは、
これまた、映画のヒロインのパターンの一つに属しますが、
いわゆる「バトルヒロイン」の系譜に連なる存在です。
バトルヒロインと一言で言っても、
アクション寄りの
『バイオハザード』(2002)のアリス(ミラ・ジョヴォヴィッチ)や
『アンダーワールド』(2003)のセリーン(ケイト・ベッキンセール)、
『アトミック・ブロンド』(2017)のロレーン(シャーリーズ・セロン)等では無く、
絶体絶命の困難に直面するサバイバーである、
『エイリアン』(1979)のエレン・リプリー(シガニー・ウィーバー)、
『ターミネーター2』(1991)のサラ・コナー(リンダ・ハミルトン)、
『プロメテウス』(2012)のエリザベス・ショウ(ノオミ・ラパス)
系統からの派生と言える存在です。
ローリーは、
前回の『ハロウィン』(1978)のサバイバー。
前回のトラウマから、
マイケル・マイヤーズが再び自分を襲うという強迫観念に縛られており、
これを迎え討つ準備に余念がありません。
物語の当初、
画面にローリーが出て来た時、
「あれ?何処かで観た事あるな」と私は思いました。
勿論、
ジェイミー・リー・カーティスは、過去の作品で観ていたので顔は知っていましたが、
どうしても名前が出てこない。
「リンダ・ハミルトンっぽいなぁ」と思いつつも、
別人だとは顔を見れば分かります。
しかし、
何故、リンダ・ハミルトンを思い出したのかは、
後のシーンで分かりました。
ローリーは、
まるで『ターミネーター2』のサラ・コナーの様に、
来る困難を待ち受けて、
銃火器を揃え、
肉体を鍛え上げていたのです。
身よ、この二の腕の筋肉を!
参考画像:パンフレット(p.5)より抜粋
60歳とは思えない、
肉体の張り、ツヤ、筋肉、
そして、世間の理解を拒絶するような気迫のこもった眼差し。
これ、
これこそが、バトルヒロインなのです。
観た事ある気がしたのは、
つまり、バトルヒロインの系譜に属していたからなんですね。
思えば、
ジェイミー・リー・カーティスも、
『トゥルーライズ』(1994)という映画にて、
コメディタッチではありましたが、
待つだけでは無い、積極的な女性であるヘレンというキャラクターを演じていました。
『トゥルーライズ』の監督は、
バトルヒロインを描く事に定評のある、ジェームズ・キャメロン。
つまり、
ジェイミー・リー・カーティスのキャリアという側面から見ても、
「絶叫クイーン」としてホラー映画各種に出演し、恐怖する役を演じていた身から、
『トゥルーライズ』で困難に対決する術を学び、
本作にて、遂に、バトルヒロインの本領を発揮しているのです。
本作にも勿論、
テンプレの、泣き叫ぶ女性(記者のデーナや学生のヴィッキー)が登場します。
しかし、
メインヒロインたるローリーは、
齢60(演じているジェイミー・リー・カーティス)にありながら、
いや、
これだけの年齢を重ねたからこそ、
殺人鬼を逆に狩る者、
スラッシャーハンターと成り得た。
かつての自分である「絶叫クイーン」という存在を乗り越え、打破し、
新しい時代の、
抑圧された女性の解放者と言える、
バトルヒロインとして降臨したのです。
-
狩られる者の叛逆
本作で一番盛り上がるのは、
やはり、クライマックスのシーンでしょう。
以下、クライマックスに触れた描写が含まれます。
地下に追い詰められた母カレンと、娘アリソン。
扉も破られ、逃げ場も無く、絶体絶命。
アリソンを背後に隠し、
ライフルを構えつつも、
カレンは叫びます。
「私じゃ駄目!出来ない!助けて、母さん」と。
それを聞き、
地下室への入り口に姿を見せるブギーマン。
それを見たカレンの表情は一変、
「GATCHA!」(I got you の略:捉えた!の意味)とライフルをぶっ放し、
ブギーマンを吹っ飛ばします。
そして、
ダメージを受けたブギーマンの背後に浮かび上がる、
祖母ローリーの顔。
このシーン、
全くの逆なのです。
普通、
闇から、犠牲者の背後に浮かび上がるのは、殺人鬼の方。
しかし本作では完全に、立場は逆転、
殺人鬼が、狩られる立場に堕ちた瞬間なのです。
ブギーマンを地下に落し、
地上へと逃れるカレンとアリソン。
しかし、
ブギーマンはカレンの足を掴み、
引きずり下ろそうとします。
ローリーはカレンを引っ張り、
二人はアリソンに「逃げなさい」と言います。
しかし、
そこでアリソンは包丁を手に取り、
ブギーマンの手に切りつけます。
アリソンは、
本作におけるサブヒロイン。
途中までは、
ホラー映画における「絶叫クイーン」として、
泣き叫び、逃げ惑う役割を演じます。
しかし、
逃げた先で祖母の射撃訓練場に辿り着き、
そして、
祖母と母の奮闘を見るに当たって、
彼女は進化したのです。
恐怖に打ち振るえる存在では無く、
一本の映画の中で、
「絶叫クイーン」からの脱却を果たしたのです。
祖母、母、娘、
三人揃い踏みで、地下室に閉じ込めたブギーマンを眺めます。
「これは牢獄では無い、トラップ(罠)よ」
そう言って、
ローリーは火を付けます。
ブギーマンが、
殺人鬼と、
ハロウィンの夜に訪れる悪霊の混合物であるのなら、
火葬(insineration)すれば良いじゃない!
と、言わんばかりの大炎上。
家諸共、ブギーマンを焼却処分して物語は終わります。
ホラー映画のスラッシャーが強いのは、
無敵の不死性もさることながら、
恐怖を背景にした、
奇襲を繰り返すからと言えます。
しかしローリーは、
物心共に恐怖と対峙する準備が、予め完了していた。
だからこそ、
スラッシャーが立ち入る隙が無く、
逆に狩る事が出来たのですね。
個人的な好みですが、
ホラー映画やサスペンス映画でも、
最後は反撃して終わって欲しいんです。
その意味では、
私にとっては、
本作のラストは最高でしたね、
ええ。
ホラー映画としてのお約束、
基本的な文法を踏襲しつつも、
そのメイン要素である「絶叫クイーン」という、
抑圧された女性性の解放を果たす『ハロウィン』。
スラッシャーに殺られるだけが能じゃない、
今まで狩られ続けた存在が、
逆にスラッシャーを狩る者として、
困難を打破する。
本作『ハロウィン』は、
殺され続けた存在の、
最高の復讐(アベンジ)と言える作品と言えるのです。
*現在公開中の新作映画作品をコチラのページで紹介しています。
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