映画『ホテル・ムンバイ』感想  テロに対抗するは、普通の人間の忍耐と勇気!!

インド・ムンバイの五つ星ホテル「タージマハル・ホテル」。
2008年、11月28日。
インドのCST駅をテロリストが襲撃した。ユダヤ人施設、レオポルドカフェと、次々とテロの標的となった。
その、レオポルドカフェから逃れてきた人々を、タージマハル・ホテルは匿うが、その中に、テロ襲撃犯も潜んでいた、、、

 

 

 

 

監督はアンソニー・マラス
オーストラリア出身。
本作が、長篇監督デビュー作。

 

出演は、
アルジュン:デヴ・パテル
デヴィッド:アーミー・ハマー
ザーラ:ナザニン・ボニアディ
サリー:ティルダ・コブハム=ハーヴェイ
ワシリー:ジェイソン・アイザックス
オベロイ料理長:アヌパム・カー 他

 

 

 

多様な人種、文化、宗教、言語が入り乱れる街、
インドのムンバイ。

2008年、11月28日に、
その街がテロに襲撃されたのは、事実。

そう、本作は、
実話をベースにした作品です。

 

4人の、銃で武装したテロリストが占拠した、
このタージマハル・ホテルには、

多数の宿泊客、従業員、
その数、500人以上もの人質が囚われていたのです。

 

ロビーを銃撃し、
ホテルを制圧したテロリストは、
ルームサービスの振りをして、各部屋を襲撃してゆく…

500人もの人質が囚われているこの状況において、

地元警察は為す術無く、

なんと、1300キロも離れた、
デリーの特殊部隊に出動を要請する…

 

この絶望的な状況において、

人間が見せる、
忍耐という勇気を描く、

 

それが本作『ホテル・ムンバイ』です。

 

これがハリウッド映画なら、

宿泊客の中に、偶々、ブルース・ウィリスがいたり、
料理人の中に、偶々、スティーヴン・セガールがいたりして、
愚痴を吐きながらテロリストを撃破して行く、

そういう話になるのでしょう。

しかし、
現実は甘く無い。

都合良く、英雄などいません。

 

ならば、どうやってテロリストと対峙するのか?

本作で描かれるのは、

ごく、一般的人間の持つ、
「忍耐」と「勇気」です。

 

蛮勇だけが、英雄では無い

窮地においては、ただ、生き延びるだけでも、
その人は、英雄だと言えるのです。

 

様々な人種が集まるホテルにて、
最悪の時間を過ごす事になる宿泊客の忍耐、

そして、
その宿泊客を守ろうとする従業員達の勇気、

甘い所の無い、

まるで、
リアルなライブ感のある作品、

 

それが、
本作『ホテル・ムンバイ』と言えます。

 

 

  • 『ホテル・ムンバイ』のポイント

英雄などいない、リアルなライブ感のある「テロの恐怖」

忍耐と勇気

異文化との相互理解

 

 

以下、内容に触れた感想となっております


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  • 事実は、映画より奇なり

本作『ホテル・ムンバイ』は、
テロに見舞われたホテルの苦闘を描いた作品です。

とは言え、
ハリウッドのエンタテインメント映画によくある、

テロリストを撃破する様なタイプではありません。

本当にあった、実話がベースの作品故に、
人質は、
隠れ、逃げ惑う事になります。

 

そんな本作、
たった4人のテロリストが、
宿泊客、従業員を虐殺しますが、

映画を観た感じだと、
少なくとも、半数以上は殺された様に見えますが、

実際は、
3日間もホテルを占拠されがら、
500人の内、
殺された被害者は32人に留まったそうです。

しかも、
被害者の半数以上が、従業員だったとの事。

 

これは、
必死に従業員が、宿泊客を守った結果なのでしょう。

実際、
実話としてのエピソードとして、

宿泊客を出口に誘導したり、
何度も、ホテルに戻って、宿泊客を助けた従業員も居たそうです。

また、
偶々居合わせた、南アフリカの警備会社の社員達が、
150人をホテル外に避難させたとか。

 

そういった所から発展して、
本作も、
英雄的な行為をフューチャーし、
それを描く事も可能だったでしょう。

しかし、
本作はそれをしなかった。

 

本作は、英雄的な行動よりも、
あくまでも、
一般市民が感じる恐怖と、

それに対峙する、
忍耐と勇気を、

最小限度の、普通の人間レベルで描く事に終始しているのですね。

 

銃を持つ相手に、
蛮勇を奮って立ち向かう。

逃げ惑う時、背後から撃たれる。

本作は、決して、
カッコ良い、都合の良い結果には辿り着きません。

 

あくまでも、等身大、
故に、本作で描かれる苦境が、際立つものと思われます。

 

  • 異文化と、相互理解と

この事件を起こしたのは、
イスラム過激派組織の「ラシュカレ・トイバ(LeT)」。

本作では、
異教徒を「人間」と認めず、
殺戮を正当化する様子が描かれていました。

 

そのテロリストが占拠した「タージマハル・パレス・ホテル」。

創業者の、インド有数の財閥である、
ジャムシェトジー・タタは、
かつて、ホテルの宿泊を拒否された経験があり、

その経験から、
どんな人種でも分け隔て無く宿泊出来る高級ホテルを作ろうとして建てたのが、
タージマハル・パレス・ホテルなのです。

 

この事件は、

異文化の許容を認めないテロリストが、
異文化とのコミュニケーションの場を襲撃するという形であるのです。

しかし、
本作のメッセージは、
そういう他者への不寛容には屈しないという精神を描いています。

 

その象徴的なエピソードがあります。

中盤、
チェンバーズという守りの堅い部屋に籠城している場面、

白人の老女が、
ホテル従業員一人、アルジュンの見た目が不安をもよおすと、
クレームを訴えるのです。

 

アルジュンは、シーク教徒。

ターバンと髭を備えていますが、
そもそも、イスラム教徒ではありません。

ただの、
「何となくの連想」で、
無知が原因となり、
言い掛かり的に、不満を言っているのですね。

上司はアルジュンに、
見えない所に控えてくれと言いますが、

アルジュンは、逆に、
真摯に、白人女性に訴えます。

「ターバンは、勇気と隣人愛の象徴、私の誇りです」
「それでも、ホテルの中では、お客様に従うので、不安ならターバンを外します」と。

その訴えに納得した女性は、アルジュンに理解を示します。

ただ、恐怖から、不安からの発言だったと謝るのです。

 

異文化同士の相互理解

本作で描かれるのは、
その必要性と尊さです。

 

確かに、自分と違う相手とコミュニケーションを取るのは、
忍耐と、寛容性、時には勇気も必要です。

しかし、
テロリストの如くに、
相手との理解を拒絶し、

自分以外の人間は撃ち殺し、排除するという姿勢では
最終的には何も残らないし、為し得ません。

 

アルジュンは、
宿泊客を医者に診せようと、安全な籠城先から出て、
また、
誇りと言ったターバンを使って、宿泊客の傷を塞いだりします。

自分の発言を、
行動で以て証明する
この事自体が、勇気と言えるのです。

 

一方、テロリストの行動、その主張はどうでしょう。

確かに、事件で犠牲者は出て、
多数の施設が破壊されました。

しかし、
タージマハル・パレス・ホテルは、
テロに屈しないという意思を示す為、

襲撃事件の3週間後に、
早くも、レストランのみでも開業、

そして、2年かけて修復をし、
2010年8月に、営業再開を果たしています。

テロリストの主張は、
逆に、
多くの忍耐や勇気を際立たせるものとなったのです。

 

暴力に、暴力で対抗するだけが、
事態の収拾では無い。

自らの意思を示す事が、
相手の悪意を挫く事にもなる。

国、文化、社会、経済状況が違っても、
人は協力し合える、
そして、それが力になる、

本作『ホテル・ムンバイ』は、
その事を示した作品だと言えるのです。

 

 

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