映画『HELLO WORLD ハロー・ワールド』感想  現実を見ろ!!俺達には仮想現実しか無いんだ!!

2027年の京都に住む高校生、堅書直実(かたがきなおみ)。ハッキリ言えない、奥手の性格の彼は、読書を愛する少年だった。
ある日神社にて、突然、不審な男が現われ、直実は追いかけられる。
なんとその男は10年後の自分だと言い、堅書直実が居るこの現実は、仮想空間なのだと説明する。
その上で、10年後の自分は直実に、クラスメイトの一行瑠璃(いちぎょうるり)と恋人になるのだと言う、、、

 

 

 

 

監督は伊藤智彦
TVシリーズのアニメーションで数々の作品の監督を経験し、
『劇場版 ソード・アート・オンライン -オーディナル・スケール-』(2017)にて長篇映画監督デビュー。
本作が、2作目。

 

脚本は、野﨑まど
SF小説家。

 

声の出演は、
堅書直実:北村匠海
カタガキナオミ:松坂桃李
一行瑠璃:浜辺美波 他

 

 

Google マップというWEBサイトがあります。

最早、地図という機能に留まらず、
家に居ながらにして、
旅行が出来る雰囲気を味わう事が出来ます。

スマホさえあれば、
既に、
方向音痴という概念すら無くなってしまいそうです。

 

さて、本作『HELLO WORLD ハロー・ワールド』には、
このGoogle マップを進化、発展させた様なガジェットが登場します。

京都という都市を丸ごと、
地形、歴史、人の流れ、記憶、
その他、諸々の要素を、
無限に記憶領域のある、量子記憶装置「アルタラ(ALLTALE)」に収め、
過去を完全再現しているのです。

 

 

なんと、堅書直実は、
その「アルタラ」の記憶領域、
つまり、
仮想空間の存在というのです。

現実の世界にいる、
10年後の未来の自分、カタガキナオミは言います、

「せめて仮想現実の中で、過去を塗り替えて、一行瑠璃の笑顔を見たい」というのです。

堅書直実は、一行瑠璃と交際する事になるのですが、
直後、事故で植物人間状態となってしまいます。

その「過去」を変えろと、
カタガキナオミは堅書直実に言いますが、、、

 

 

そんな本作、

いわゆるバディ・ムービー的な感じのある、
青春ボーイ・ミーツ・ガールSFです。

 

自分の相棒が自分で、
ちょっと、物静かな、個性的な美少女と仲良くなる。

まるで、
陰キャの妄想そのものの設定ですが、

ある意味、
王道的な展開です。

 

さて、
自分を含め、世界全体が仮想現実と言われたら、
どうしますか?

まぁ、ぶっちゃけ、そんなもんか…と思うだけですよね。

それを知った所で、
自分が、世界そのものを変える事は出来ないのですから。

 

しかし、
物語としては、
このSF的な設定を、
遺憾なく発揮したものとなっております。

月並みですが、

後半の「意外な展開」に驚く事になるでしょう。

 

安心して欲しいのは、
この「意外な展開」に無理が無い事です。

ちゃんと、ストーリーの必然性にて、
物語が展開します。

脚本を担当したのは、
SF小説家の、野﨑まど。

SFとして、何が面白いのか?
どんな展開が、興味を惹くのか?
オチは、何処に持って行くべきか?

そこの所、ちゃんと考えてあります。

 

そして、本作のポイントは、

ヒロインが可愛い!

 

キャラクターデザインは、
TVアニメ『けいおん!』等で活躍した堀口悠紀子

氏が曰わく、
「ヒロインは、絶対可愛くないといけない」との事。

ヒロインに限らず、
キャラクターに愛着が生まれないと、
中々、映画作品(特にアニメーション)は、鑑賞が難しいもの。

その点でも、
ちゃんと、観客が不快にならない様に、気配りがなされています。

 

まぁ、ぶっちゃけ、何が言いたいのかと言いますと、

今年公開して、
そのオチの意外性に、
映画を観たドラクエファン、ゲームファンを、
もれなくキレさせた『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』とは、

作品コンセプトが似ていますが、
内容は全然違うものなので、
安心して下さい、という事です。

 

いや、むしろ、

『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』でキレた人に対する、
ある意味において、アンサー映画となっております。

 

物語を観る事で傷付いたハートは、
物語で癒やすしかない、

きちんと考えて、
意味のある形で作られた作品『HELLO WORLD ハロー・ワールド』は、

SFとして、
ボーイ・ミーツ・ガールものとして、
面白い作品となっております。

 

 

  • 『HELLO WORLD ハロー・ワールド』のポイント

SFボーイ・ミーツ・ガール

自分と自分で、バディ・ムービー!?

仮想現実と物語

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 


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  • SF元ネタ探し映画

本作『HELLO WORLD ハロー・ワールド』の脚本は、
SF小説家の野﨑まど。

本職の小説家が脚本を書いているとあって、
その本作は、
多分に、過去のSF作品の影響が、多く見られます。

 

先ず、最初に、
「ここは、仮想現実だ」とカタガキナオミが言う設定。

これはもう、
『マトリックス』(1999)の影響が濃厚です。

カタガキナオミにとっては、
一行瑠璃が植物状態の現実より、
若い時代の仮想現実の方が、より、理想的とも言える状況なのです。

現実より遥かに理想的な仮想現実」という設定は、
『マトリックス』のヒットがあり、

その後の作品に多大な影響を与えて来たという歴史があってこそ、
今の観客にも、素直に受け入れられているものなのではないでしょうか。

まぁ、いつの世も、
現実より、妄想世界の方が魅力的だ、と言えば、身も蓋もないですが。

 

過去の自分と未来の自分がバディを組みつつ、
最終的には目的が分かれ、敵対するというのは、

『LOOPER/ルーパー』(2012)を彷彿とさせます。

ジョセフ・ゴードン・レヴィット(過去)と、
ブルース・ウィリス(未来)が同一人物という無理設定を強引に押し通しているのが、面白い作品でした。

 

堅書直実の世界が、
実は、「仮想現実の中の『仮想現実』だった」という設定は、

「夢の中の夢」という多重構造を描いた作品、
『インセプション』(2010)を思い出します。

また、
町が折り畳まれるビジュアルイメージも、
この『インセプション』由来のものだと思われます。

 

この『インセプション』の影響を、
多大に受けた映画作品に、
ドクター・ストレンジ』(2016)があります。

本作は、
『インセプション』の影響を受けた、
『ドクター・ストレンジ』の影響を受けています。

入れ子構造となっている本作が、
入れ子構造的に、作品の影響を受けているのが面白いですね。

『ドクター・ストレンジ』の影響を受けているシーンは、
堅書直実の世界が崩壊するとき、
直実が、一人、論理物理干渉野に行く、その途中のシーン

ドラッグでハイになっている時に見る「ビジョン」は、
まるで、宇宙と自分の精神が繋がっている様に思える、

その様子を、等しく描いています。

まぁ、
マンディ 地獄のロード・ウォリアー』(2018)でも、
同じ意味合いで描かれたシーンがありますが、
本作の制作者は、それを意識してはいないと思います。

 

印象的なラストシーンのビジュアルは、
個人的に『アイアン・スカイ』(2012)を彷彿とさせますが、
まぁ、特に接点は無いでしょう。

 

本作は、
その影響が明らかな、
過去のSF作品が明確なので、
そういうオマージュを探すのも、楽しい作品と言えるのではないでしょうか。

 

  • 仮想現実と物語

現実を直視しろ。おれ達にはもう仮想現実しかないんだ

上記の言葉は、
『アイ・アム・ア・ヒーロー』が大ヒットした漫画家、

花沢健吾の第一長篇作、『ルサンチマン』に登場するキャラクターの台詞です。

 

私は、本作を観るにつけ、
この漫画『ルサンチマン』を思い出しました。

簡単に説明すると、
陰キャキモオタの主人公が、
VRの仮想現実で美少女と出会って、リアルでも恋愛したくなる、
という作品です。

本作のカタガキナオミは、
現実が嫌で、
仮想現実で理想を実現し、
それを、現実にアップロードしようとします

 

現実の「逃避先」であるハズの、「仮想現実」を、
現実に逆輸入する事で、
自らの理想(欲望)を具現化しようとする。

こういう物語構造が共通しているのですね。

 

しかし、この逆輸入構造、
実は、普段意識していないだけで、

全ての映画、漫画、小説、等の物語において、
成り立っているのです。

例えば、

『燃えよドラゴン』(1973)の観客が、
劇場を出るときには怪鳥音を発していたり、

『フォレスト・ガンプ』(1994)の観客が、
いきなり、「自分の名前はフォレスト・ガンプだ」とか言い出したり、

『ワイルド・スピード』(2001)の観客が、
無意味に、車をふかしたり、

『アウトレイジ』(2010)の観客が、
人にぶつかると「バカヤロウ」と罵声を浴びせたり、

 

…なんか、例えが悪いものばかりでしたが、

接した作品に影響を受けて、
現実の行動が(良きにつけ悪しきにつけ)規定されるという事は、
往々にあり、

それこそが、
物語の力の一つと言えます。

 

現実的とは思えない、
勇敢な英雄的行為でも、

その道徳、倫理をお手本にする事で、
実生活を、より豊かにする指針となるのです。

本作は、
そういう、「現実」を「物語」の関係を、

「現実」と「仮想現実」という関係で描いており、

「仮想現実(=物語)」は逃げという訳では無く、
そこでの行動、指針が、
現実での自分を規定するという事を、

そのオチで明確に示しています。

 

これは、
意識してか、偶然か、
今夏、公開された『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』(2019)への、
強烈なカウンターとなっております。

『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』は、
そのオチで、
「ゲームなど現実逃避、とっとと、大人になれ」と語り、

物語そのものを否定する作品でした。

 

確かに、
ゲームや物語を、暇つぶしとして消費するだけのものなら、
それは、現実逃避と言えるでしょう。

しかし、現実逃避だとしても、
その場所(ゲーム内、仮想空間)での行動、思考は、
そのまま、自己を規定するものたり得ます。

 

現実逃避として、物語を否定する段階で止まっている
『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』。

対して、
そこからもう一歩先、
その逃避としての行動が、
後に、自分の現実となるという事を描いたのが、
本作『HELLO WORLD ハロー・ワールド』。

 

物語が現実を救うという形は、
ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)でも描かれましたが、

物語を否定する作品と、
肯定する作品が、

近い時期に対象的に描かれている事に、面白さを感じる所です。

 

  • 謎の人物、勘解由小路三鈴

本作の登場人物に、
直実や瑠璃と同じ、図書委員に所属し、
アイドル的な人気を博す女子生徒に、勘解由小路三鈴(かでのこうじ・みすず)というキャラクターがいます。

この三鈴は、
直実と瑠璃の関係を、
物陰から見守ったり、

わざとらしく瑠璃に絡んだり、

直実と瑠璃が一緒に居る所に、
「二人って、付き合ってるの?」と言ったり、

なんか、
不自然に、既成事実を積み上げていっている感があります。

 

しかし、
物語的には、この伏線は全く語られず、
単なるミスリードのモブキャラ扱いで終わります。

 

しかし、実は、
三鈴が主人公の小説があり、
どうやら、裏設定みたいなものが存在しそうです。

それが、コチラの作品

 


まぁ、こういう、
映画で語られない伏線を、
別のジャンルで解説するメディアミックス、

という手法は、
商売としてはアリなのでしょうが、
ちょっと、釈然としないものもあります。

機会があれば、読んでみたいですね。

(因みに、脚本家とは別の人が書いた小説の様です)

 

 

 

過去の様々なSF作品の設定を落とし込み、
それを、ボーイ・ミーツ・ガールとして描いた、
『HELLO WORLD ハロー・ワールド』。

現実と、仮想現実との関係性を、
物語の力として描いている所に、

面白さのある作品だと言えます。

 

 

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脚本家による、本作の小説作品がコチラ


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