映画『HUMAN LOST 人間失格』感想  これは本当に、太宰治の原作なんだろうか?

昭和111年。日本は、医療革命により、無病長寿を実現していた。
しかし、その生活区域は、特別な治療に与る特権階級の住まう「インサイド」と、大気汚染が拡がっている「アウトサイド」居住者とに分かれていた。
その「アウトサイド」側に住まう青年・大庭葉藏(おおばようぞう)は、暴走族の友人・竹一と共に「インサイド」への突貫を試みるが、、、

 


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監督は、木﨑文智
監督作に、
『アフロサムライ:リザレクション』(2009)
『BAYONETTA BLOODYFATE』(2013)がある。

 

声の出演は、
大庭葉藏:宮野真守
柊美子:花澤香菜
堀木正雄:櫻井孝宏

竹一:福山潤
マダム:沢城みゆき
恒子:千菅春香

厚木:小山力也
澁田:松田健一郎

合格者:清川元夢 他

 

 

漫画家の伊藤潤二が、
太宰治の『人間失格』を漫画化した作品の1巻が出版されたのは、
2017年11月。

また、
『DEATH NOTE』の作画を担当した、漫画家の小畑健が表紙を書いた時も、
『人間失格』は注目されました。

こうして、
度々注目される『人間失格』ですが、

柳の下のどじょうを狙ったのか、
「お!?今の時代もイケる!?」と思った者が何人かいたようです。

 

一つは、蜷川実花監督の『人間失格 太宰治と3人の女たち』です。

この作品、
完成披露舞台挨拶で、
キスシーンに照れる主演の小栗旬を、
沢尻エリカが「意外とウブなのね」と茶化していましたが、

まぁ、
普段から薬物でキメセク乱交している様な輩なら、
映画のキスシーンなんて屁でもないのでしょう。

違法薬物の使用の疑いで逮捕された沢尻エリカは、
10年以上前から、薬物を使用していたと言い、

それを考えると、
彼女を薬物中毒者としてキャスティングした
『ヘルタースケルター』(2012)という映画は、
罪深いというか、闇が深すぎる映画だと、
今なら言えますね。

出演した人間も、
撮影した人間も、
等しく人間失格の様相を呈しています。

 

そして、
『人間失格』がイケる、
と判断した作品がもう一つ。

それが本作、
『HUMAN LOST 人間失格』です。

 

さて、
恥ずかしながら、ワタクシ、
太宰治の『人間失格』を読んだ事がありません。

なので、
『人間失格』を原案としたという本作が、

どの位、原作を反映しているのか、
それが判断出来ないのは、
忸怩たる思いがあります。

なので、
本作から、
太宰治の『人間失格』が何たるか、を類推するしかありません。

 

さて、本作は
ジャンルとしてはSFアクション。

ほほう、
流石、太宰治。
1948年当時に、
既に、こんなアイディアをぶち込んでいたとは。

そして、端的に言うなれば、本作、

変身ヒーロー物です。

 

いやぁ、流石、
日本文学史に名を残す巨匠の作品、
仮面ライダーやウルトラマンより先に、
変身ヒーロー物の定型を確立させていたのですね。

 

そして、
主体性の無い主人公が、
ウジウジブツブツ言いながら、
その場その時の他人の主張に巻き込まれ
自身は暴れ回るという展開を見せます。

いやぁ、成程、
『新世紀エヴァンゲリオン』の碇シンジ系統の主人公は、
『人間失格』から始まったのだと、
本作で新たに知る事が出来ました。

 

そして、何より、
行き過ぎた先進医療が、人間性を崩壊させる」、
という本作の設定。

伊藤計劃の、
死後、映画化もされた小説『ハーモニー』を彷彿とさせるこの設定は、

既に、
『人間失格』で描かれていたものだったのですね。

 

SF的な世界観で、
ウジウジ系主人公が、
変身して、厭世主義者と戦う。

これが、『人間失格』であろうと、
私は、『HUMAN LOST 人間失格』から推測します。

信じて良いのかな?

 

さて、
本作、自体を観た時、

割と、SF設定がてんこ盛りで、

まぁ、
SF好きな私としては、
その設定がどんどこ出て来るだけでもワクワクしますが、

劇中では、
特に説明もせず
又、
展開が早く
設定の量も多いので、

頭の中で、
ストーリーを追いながら、
世界観を理解する為には、

観客自身に、
一定のSFリテラシーが求められている作品です。

 

人類の健康を守る、
健康保障機関「S.H.E.L.L」。

健康を保障するナノマシンのネットワークから外れる事で異形化する、
ヒューマンロスト現象」。

「S.H.E.L.L」が収集、統計された全国民のバイタルデータよりグラフ化される「文明曲線」は、
人類文明がヒューマンロストの末に崩壊するのか、
それとも、
人類が、医療革命に完全対応し、進化するのか、
その、拮抗する二つの可能性を表しています。

 

作中では、詳細が語られない事を、
あれこれ妄想するのが、
SFの楽しみの一つですが、

本作はその一方、

駆け足過ぎて、
SFとしては、設定ガバガバな部分も見られます。

 

ヒューマンロストして異形化した人間は、
その見た目が、
ガラル地方のポケモン「タチフサグマ」みたいな風貌になりますが、

それが、変身後、
明らかに質量、体積、共に増えているのは、
どういう理屈なのでしょうか?

また、
医療革命が実現したという社会なのに、
他人から臓器移植するという展開自体が無理矢理ですし、

その臓器移植も、
個人をバラバラにするより、
クローンで増やす方が効率的だろ?
敢えて、
ストーリー上の悪趣味さを狙っただろ?
と思わせる部分も、多々あります

 

本作は、
そういう二律背反を含んでいます。

鑑賞に、
SFリテラシーを求めながら
一方、
SFとして重要な、細かい設定の疑問点に対するツッコミは、勘弁してくれと、言っています。

 

ポリゴン・ピクチュアズ制作による、
独特の質感の、3DCGアニメのクオリティの高さ。

そこに、
映画オリジナルの企画のアニメで、
SF設定をてんこ盛りにするというチャレンジ。

確かに、良い部分の沢山ありますが、

それを活かす、
テーマ、ストーリー展開を、
本作は蔑ろにしてしまった感があります。

 

面白い事は面白いけれど、

細かい疑問が積み重なれば、
それが違和感となり、スッキリしない

そこに、
微妙に、残念な感じを覚えます。

 

まぁ、ぶっちゃけ、
太宰治の『人間失格』とは、何の関係も無いけれど、

その厨二的な響きで、
厨二病の方々を釣ろうとしているのだろうと、
容易に推測出来ます。

 

良い所もあれば、
残念な所もある本作、

結局は、
映画のみならず、
作品というものは、
自らの表現したいモノを、
情熱を持って実現した時初めて、
万人に支持される可能性が生まれるのです。

創作は、
企画在りきの、
雇われ仕事では、
その本質は失われる。

そんな事も考えちゃう、
『HUMAN LOST 人間失格』です。

 

 

  • 『HUMAN LOST 人間失格』のポイント

変身ヒーローアクション

凝ったSF設定を、自分なりに解釈し、世界観を類推する面白さ

で、結局、太宰治は関係してるの?

 

 

いつもならば、
以下に、内容に触れた感想を綴りますが、
もう、本作については、語る事は語っちゃった感じです

 

 

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コチラが、本作の原案(?)となった、太宰治の『人間失格』です



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