映画『バーバラと心の巨人』感想  クソダサ可愛い少女の挑む、ジャイアントキリングとは!?

ちょっと野暮ったい格好で、学校では変人として浮いている少女、バーバラ。しかし、彼女はめげない。何故なら彼女には使命があるから。それは、町に訪れる「巨人」を打ち倒し、殺す事である、、、

 

 

 

 

監督はアンダース・ウォルター
デンマーク生まれ。
短篇映画作品の監督を経て、
本作が初の長篇監督作。

 

原作はグラフィックノベル、
いわゆる、アメリカの漫画の『I KILL GIANTS』(ジョー・ケリー作、ケン・ニイムラ画)。

 

出演は、
バーバラ:マディソン・ウルフ
ソフィア:シドニー・ウェイド
モル先生:ゾーイ・ソルダナ
カレン:イモージェン・プーツ 他。

 

 

『バーバラと心の巨人』。
一体、どんな映画なのでしょう?

邦題からは分からないかもしれませんが、
原題は『I KILL GIANTS』。
直訳したら、

「巨人を殺す」。

ジャンルは、ファンタジーです。

 

読売グループに配慮して、名前を変えたのでしょうかね?

 

さて、
本作の主人公バーバラは、

アラレちゃんみたいなクソダサ巨大眼鏡に、
薄汚れたうさ耳を着け、
ヨレヨレで泥で汚れた上着に、
謎のハート型のポシェットを持ち、
何故か膝プロテクターを着用している、、、

学校では浮いた存在で、
いじめっ子に目を付けられており、

家でも、
家事を切り盛りする姉には反発し、
ゲームオタクの兄には変人と言われる始末。

しかし、バーバラはめげません。

秘密基地で計画を練り、
森を徘徊し、
罠を設置し、
木や電信柱によじ登って、パトロールを怠らない。

そう、
彼女は巨人の襲来から町を守る為に、日々、自主的にに活動しているのです。

 

端から見たらイタい少女、
なのに、何故彼女は孤独に戦っているのか?

 

そんな彼女の奇行を気に懸ける、
転校生のソフィアと、
新任スクールカウンセラーのモル先生が、
バーバラと関わる事で、物語が動いて行きます。

巨人とは一体何なのか?
何故、バーバラが戦う必要があるのか?

 

派手なアクションや魔法が飛び交う作品ではありませんが、

こういう作品こそが、

本来の、正統派ファンタジーと言える作品です。

 

陰キャとして、馬鹿にされた事がある人にも、
孤独に何かに取り組んでいる人にも、
様々な人に共感出来る作品、

『バーバラと心の巨人』、
オススメの一作です。

 

 

  • 『バーバラと心の巨人』のポイント

巨人とは、一体何なのか?

何故、バーバラは孤独に戦っているのか?

少女の超えるべき試練

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 


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  • 邦題ェ、、、

本作の原題は『I KILL GIANTS』。

原作のコミックも同じ題名で、
直訳すると「私は巨人を殺す」。

ぱっと見の印象が悪いので、
邦題をオリジナルで付けたのは理解出来ます。

しかし、それが
『バーバラと心の巨人』って、、、

これ、題名でネタバレじゃねぇか!!

 

本作はファンタジー作品。

しかし、
『ロード・オブ・ザ・リング』や
『ハリー・ポッター』の様な、

ゴリゴリの「ハイ・ファンタジー」と言われるタイプではありません。

なので、
剣戟や魔法が飛び交うアクション大作では無いです。

 

本作は、

現実の世界で生きる登場人物が、
その現世(うつしよ)の辛さを忘れる為に、
空想の世界に救済を求めている作品

いわゆる、
イマジネーションと対話するタイプのファンタジーです。

例としては、映画の
『パンズ・ラビリンス』(2006)
『テラビシアにかける橋』(2007)
怪物はささやく』(2016)

小説では
『思い出のマーニー』ジョージ・G・ロビンソン(著)
等があります。

 

観ていると、
雰囲気で、ハイ・ファンタジーでは無いなと、
確かに薄々は気付きます。

しかし、
観ている間に、
「本当に巨人がいるのかも!?」
と、疑いながら観るのと、

題名でネタバレしてしまって、
「どうせ、空想の産物でしょ」
と、割り切って観るのとでは、
初見のイメージが大幅に違います

その観賞の楽しみを奪う邦題は、
とても残念なものだと、私は思います。

 

まぁ、確かに、
マーケティング的な観点としては、

『I KILL GIANTS』とするより、
『バーバラと心の巨人』の方が、
サブカルスイーツを釣るには良いのかもしれません。

ハイ・ファンタジーを好む層を、
題名にてあらかじめ排除する効果も確かにあります。

しかし、それとネタバレとは話が別なんですよねぇ、、、

重ね重ね、残念ですね。

 

  • 通過儀礼としての、ジャイアントキリング

そんな本作、『バーバラと心の巨人』は、
本来、二つのミステリの流れがあります。

先ず、一つは、
「巨人は本当にいるのか?」という点。

これは、邦題のネタバレで、
味わえないのが悔やまれます。

もう一つは、
巨人とは一体何なのか?」という謎であり、

それに通ずる形で、
何故、バーバラが巨人と戦っているのか?
という謎も浮き上がって来ます。

本作では、
その謎のサスペンスと、
十代の少女の心の機微を丁寧に描いた作品であるのです。

 

 

 

*以下、結末に触れたネタバレ内容を含みます

 

 

巨人のエサを仕掛け、
罠を設置し、
森をパトロールし、
対巨人のネタ帳を書き、
ポシェットには「コヴレスキー」という武器を忍ばせ、
日々、巨人を迎え入れる準備をしているバーバラ。

彼女は何故そうする必要があったのか?

それは勿論、
母の病気に立ち向かう心の準備が出来ていなかったからなのです。

 

森を徘徊して時間を潰し、
こっそり帰宅してからは、地下室に引きこもっている。

何故なら、
自宅療養している母に会いたくないから、

母に会わなくて済む理由を、自分で考えつかねばならなかったのです。

それが、
バーバラに「巨人を殺す」という仕事を創出させたのです。

 

巨人用のエサ作りとリサーチをするから、
パトロールに忙しいから、

だから、家には帰れない。

まるで、
仕事が忙しい事を理由に、子育てを放棄する昭和の父親みたいな思考ですね。

辛い現実を忘れる為、又は、それと直面のを避ける為、
「仕事」を言い訳にしているのです。

 

更に、バーバラには、巨人を殺す事にもう一つ意味があります。

それは、一種のおまじない。

「私が巨人を殺せたら、母も病気を乗り越えられる」
こう願掛けしているので、
余計に仕事に熱が入るのですね。

これは、
「登校途中に白線を踏み外さなかったら、今日はラッキー」とか、
「試合の前は、必ず右足から靴下を履く」とかと、
同じ発想から、それがエスカレートしたものと言えます。

 

この、
「仕事しているから、母に会えない」
「願掛けをしているから、巨人を斃さなければならない」

二つの理由が混淆し、
ある種の自縄自縛となる状態に、
自分で自分を追い込んでいるのですね。

これはつまり、
「仕事で成功するまで、実家には帰らない」と宣言して、
両親の世話をしない子供と同じなのです。

 

巨人は確かに存在しない、空想の産物です。

しかし、
バーバラの義務感は本物、
だからこそ、タチが悪いとも言えます。

逃避という手段が、いつしか目的となり、
現実から目を逸らした場所が安住の地となっているのです。

 

また、複雑なのは「巨人」の設定です。

巨人は
「バーバラの空想の産物」である事は勿論ですが、
それは「母の病気のメタファー」であり、
さらに、「母そのもの」という側面も持っています。

巨人を斃す事が、母の病気の快癒に繋がる、
そう思い、対巨人に血道を上げる事が、

いつしか、
母を忌避し、禁忌扱いする事となり、
それが、
母自身を最強の巨人(タイタン)と同一視するまでになっているのです。

二階に近寄らなかったのも、
夜、自分を呼ぶ声が、巨人の影に見えたのも、
そういう心境があったからでしょう。

 

クライマックスでは、
嵐の中でバーバラはタイタンと戦います。

バーバラはタイタンに、
「母を連れては行かせない」と宣言しますが、

逆に、タイタンはバーバラにこう言います。

「連れに来たのはお前の母では無く、お前(バーバラ)だ」と。

これはどういう意味でしょうか?

実は、これこそ、
巨人が単にバーバラの空想のみの産物では無いという証左でもあります。

 

バーバラは、現実を向き合わず、
「巨人退治」に血道を上げています。

しかし、
その当の巨人であるタイタンと戦う事、
それ自体が、
実は、タイタンの思惑通りの事であると言われているのです。

分かり易く言うと、
巨人であるタイタン自身から
「巨人退治に現を抜かしていると、大事なものをうしなってしまうよ」
と、警告を受けているのです。

バーバラは巨人と戦い、打ち倒しますが、
自身も水没してしまいます。

しかし、
そんなバーバラを励ます様に、
巨人は「お前は自分が思っているより強い」と語りかけます。

 

これは、
「かつて母親にそう言われた思い出」であるとも考えられます

バーバラは「コヴレスキー」の事を人に説明したがりません。

これは、大事な思い出だからこそ、他人には触れて欲しくないものだからでしょう。

その深層の母との思い出が、
絶体絶命の窮地にて、意識に浮かび上がったとも考えられはしないでしょうか?

 

また、巨人の励ましは、
バーバラの、「誰かにこう言って欲しい」という願望そのものであり、決意表明でもあります

彼女がこの心理まで至ったのは、
事前に嵐の中を追いかけて来たモル先生の「巨人はいない」という言葉、
そして、
親友ソフィアに、彼女を守ると言った自分の言葉によるものだと思われます。

バーバラは、彼女なりの戦いを、誰かに分かって欲しかった

その彼女の理解者、
二人の立場で少し違いますが、
ソフィアとモル先生の存在が、
バーバラに現実と向き合う勇気を与えたとも言えます。

 

彼女は、海から浮かび上がると、
それまで付けていた「うさ耳」が無くなっていました。

ちょっと気付きませんでしたが、
バーバラのうさ耳は、彼女の心境を反映して、
ピンと立ったり、しおれたりしていたそうです。
(パンフレットのバーバラ役:マディソン・ウルフの言葉より)

その彼女の象徴とも言えるアイテムを脱ぎ捨てる事で、
これまでの自分から新しい自分へと生まれ変わった、

そう、
巨人との一連の戦いは、
バーバラにとっての通過儀礼(イニシエーション)と言え、

本作『バーバラと心の巨人』は、
彼女が現実と向き合う勇気を得るまでの物語なのです。

(あと、いじめっこのテイラーが、巨人退治のノートを破壊したのも、その象徴でもありますが、その要素は、テーマとは少しずれていますので、象徴としての流れに留まっている印象です)

 

  • スタッフ、キャスト紹介

本作のプロデューサーの一人に、クリス・コロンバスがいます。
脚本家として
『グレムリン』(1985)
『グーニーズ』(1985)等に関わり、
監督作としては
『ホーム・アローン』(1990)
『ミセス・ダウト』(1993)
『ハリー・ポッターと賢者の石』(2001)
『ハリー・ポッターと秘密の部屋』(2002)
『ピクセル』(2015)等があります。

ヤング向けの映画を多く手掛けていますね。

 

また、原作のアメコミで作画を手掛けたケン・ニイムラは、
本作にもイラストで参加しています。

恐らく、巨人の画を担当しているのでしょう。

父が日本人で、母がスペイン人だそうです。

 

モル先生役はゾーイ・ソルダナ
『アバター』(2009)
『スター・トレック』(2009)
ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(2014)
とかの影響で、特殊メイクしている姿が普通に見え、
むしろ、素顔の方が違和感があったりします。

でも、
素顔で出ている作品も、
良い映画が多いですよ。
『ファーナス/訣別の朝』(2013)とか、好きですね。

 

そして、主演のバーバラ役のマディソン・ウルフ

十代女子特有のムチムチ感がもの凄いです。

この位ムッチリして、
丸っこい方が女性として魅力的であると私は思いますよ。

主な出演作に
『オン・ザ・ロード』(2013)
『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』(2015)
『死霊館 エンフィールド事件』(2016)等があります。

新進女優の彼女の今後の活躍に期待大です。

そして、
本ブログの公開日の10月16日が、
彼女の誕生日ですよ、おめでとう!!

 

 

 

辛い現実から逃避し、
自分の世界に引きこもる。

この行為には、
老若男女、覚えがある事だと思います。

しかし、
いつかは、現実と向き合い、
それを対決する時が来る。

誰もが経験し、
乗り越えなければならない事を、
丁寧に描いたからこそ、

多くの観客に共感出来る作品であると成ったのです。

イマジネーション系のファンタジー映画に、
また一本名作が加わった、

そんな作品『バーバラと心の巨人』です。

 

 

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*原作のアメコミはコチラ。バーバラの印象が違う!?

 

 


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