映画『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』感想  孤高にして、清冽、苛烈なプライド!!女王の威厳とはこの事か!?


 

夫のフランス国王フランソワ2世が死去し、メアリーは生国のスコットランドへと帰国した。しかし、スコットランドは宗教改革が進み、彼女の親しむカトリックより、人々はプロテスタントへと改宗していた。しかし、自分こそスコットランド、そして、イングランドの正統な王位継承者と主張するメアリーの言動は、エリザベスのみならず、両国を巻き込んで多くの火種を生む事になる、、、

 

 

 

 

監督はジョージー・ルーク
舞台演出家、
ロンドンの有名劇場、ドンマーウエアハウスの芸術監督を経て、
本作が彼女の初の長篇映画監督デビューとなる。

 

原作はジョン・ガイの、
『Queen of Scots: The True Life of Mary Stuart』。

 

出演は
メアリー・スチュアート:シアーシャ・ローナン
ヘンリー・スチュアート:ジャック・ロウデン
マリ伯:ジェームズ・マッカードル
メイトランド:イアン・ハート
リッチオ:イスマエル・クルス・コルドバ
ボスウェル卿:マーティン・コムストン

エリザベス1世:マーゴット・ロビー
ウィリアム・セシル:ガイ・ピアーズ 他

 

 

同時代にて鎬を削ったライバル女王として、
多くの作品で語られる二人の女王、
エリザベス1世とメアリー・スチュアート。

この二人の関係は、
ウィリアム・セシルの改竄した記録により、
不当にメアリーの名誉が貶められている、
そう、ジョン・ガイはその著書、
『Queen of Scots: The True Life of Mary Stuart』で語り、
詳細な資料にて、
新たなるメアリー像を提供しているそうです。

 

それを原作とする本作は、
メアリー・スチュアートの半生を、
彼女の目線で描き出した作品と言えます。

邦題では、「ふたりの女王」と冠されていますが、
本作、

あくまでも、
メアリー・スチュアート目線の物語。

 

メアリーとエリザベス1世の、
バチバチの関わり合い、
みたいなものを期待したら、
それはスカされる事となります。

フランスからスコットランドへと帰国し、
そして、
スコットランドを追われるまでのメアリーの半生を描いている本作。

その関わりの中で、
あくまでも、印象的な登場人物の一人として、
エリザベス1世が登場する程度です。

 

…とは言え、
本作を観た後で、
メアリーとエリザベスの実在の肖像画を見てみると、

シアーシャ・ローナンとマーゴット・ロビーの二人が、
各女王にソックリに見えるあたり、
この二人のキャスティングには、拘りがあったのだな、と思わせます。

 

その上で、
メアリー・スチュアートをどの様に描くのか?

いやぁ、イキリが凄いです。

正に、

プライドの塊に、
メッキ加工して圧縮した様な強硬さ。

 

卒業間近の中学生でも、
これ程イキる事はありません。

しかし、
この浮世離れした思考こそ、

女王の女王たる所以なのかもしれません。

 

スコットランドのメアリー・スチュアートは、
どの様な人生を送ったのか?

史実を交えつつ、
映画的な演出も加えた本作、

エリザベス1世目線で描かれる事が多い時代ですが、
メアリー目線での作品も又、多い、

本作は、
そのバリエーションの一つとして、
また、違った面白さを提供してくれます。

 

 

  • 『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』のポイント

女王、メアリーのプライド

王権を巡る闘争と権謀術数

衣装で観る、メアリーとエリザベス

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 


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  • エベレストより高い、メアリーのプライド

本作『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』は、
メアリー・スチュアート目線の物語。

このメアリー・スチュアート、
もの凄く、プライドが高いです。

本作では、
特に政策や、政治の面は強調されず、

主に、
自身の王権を守り、
血統主義を掲げるメアリーの様子が描かれています。

 

プライドが高く、
自身の権利のみを主張するメアリー。

スコットランドに帰って来ると、
自身の信奉するカトリックは追われ、
既に長老派のプロテスタントが主流となっていました。

彼女は早速、
プロテスタントのジョン・ノックスを議会から追放します。

また、
政略結婚では、
エリザベス1世が推すロバート・ダドリーを退け、
多くの反対を受けながらも、
自身と、将来生まれる(予定の)息子の王権を強化する、
スチュアート家のダーンリー卿と結婚します。

映画の創作ですが、
メアリーがエリザベスと面会した時は、
自分を保護する様に頼む場で、
まさかの「私が上、お前は下だ」と、
相手に言い放ったりします。

まるで、
『ジョジョの奇妙な冒険』の第五部で、
ポルナレフがディアボロに言い放ったかの如きセリフ。

これから殺し合いをやるならともかく、
庇護を求めに行った相手に、
このセリフ。

そこに、シビれる、憧れる~
…とは、ならない程の性格の強硬さを発揮します。

 

因みに、余談ですが、
『ジョジョの奇妙な冒険』の第一部に出て来た、
「タルカスとブラフォード」は、
メアリー・スチュアートの騎士であり、
彼女と同日に処刑されたという設定でした。

 

閑話休題。

 

監督は、ジョン・ガイの原作を読み、

メアリーはウィリアム・セシルが仕掛けた印象操作(フェイクニュース)の被害者であり、

「彼女は、指導者たるにはあまりにも感情的で、有能たるには女でありすぎる人物として語られてきた」
(パンフレットのp.23、監督のインタビューより抜粋)

と言っています。

しかし、
本作は、その印象を払拭するより、
むしろ斜め上の部分で、メアリーの強硬さを描いている様に感じます。

 

歴史の解釈として、

リッチオの暗殺、
ダーンリーの暗殺、
ボスウェル卿との結婚を、

どう描くのかは、
それぞれの作品の裁量の範囲に任されています。

本作ではそれを、
イングランドのウィリアム・セシルや、
スコットランドのメイトランド、異母兄のマリ伯が仕掛けた陰謀として描いており、

メアリーは、それに関与していないものとして描かれています。

その意味では、
彼女は不当に虐げられてきた被害者ですが、

その様な状況に至ったのは、
スコットランド内の議会の有力者を懐柔するという、
政治手腕や概念そのものが、
メアリーに存在していなかった面も、
本作は同時に描いています

彼女は、常に、
自身の権利を主張するのみで、
その為に、他者の利益を廃する事に、遠慮がありませんでした。

まるで、
幹部候補として入社した新入社員が、
古参のベテランをコケにするかの如きその態度。

これでは、
人心を掌握する事は出来ません。

個人的に引いたのは、
エリザベス1世が天然痘に罹ったというニュースにはしゃぎ回っていた場面。

天然痘で彼女が死んだら、
イングランドの継承権を持つ自分に、チャンスが巡り、
また、
生き残っても、容姿に影響が及ぶので、
結婚、出産が無理筋になる、

そう、理解してのはしゃぎっぷりである。

人の不幸で心から喜ぶ事が出来る、
流石に、こういう人物に共感する事は個人的には難しいです。

なので、
メアリーが、数々の陰謀にて危機に陥るのも、
「無理からぬ事」と、どうしても思っちゃう部分もあります。

 

メアリーは、王権を守る為に、

人に愛される事より、

人々の欲から、
王権を必至に守る事を選んだ存在として、
本作では描かれています。

そのテーマ性は面白いですが、

そこに至る過程として、
各エピソードの描写が、
メアリーへの共感を妨げるものとして描かれています。

 

メアリーは、
「スコットランドという国家の為に全てを捧げた」と言います。

これは従来、エリザベス1世の
「ヴァージン・クイーン」と称される人物像との重ね合わせであり、

「女王の苦しみは、同じ女王しか解らない」というセリフでも、
エリザベス1世とメアリーは、
対称として、本作では描こうとしています。

しかし、
二人が面会するという、
史実では無い、映画独自の場面において、

二人は、
天然痘の影響で容姿が衰え、厚化粧で現われるエリザベス1世と、
若く、自信とプライドと美貌を、未だその身にに宿すメアリーという、
残酷な対比として描き出します。

その場面で、
実際に手に持つ権力で優位に立つエリザベス1世に、
メアリーは、
生来の権利としての自分の優位性を主張し、
心理的な優位を主張します。

顔が良ければ、
生まれが良ければ、
何を言っても良いのか?

それまで、
書簡で、それなりに友好的なやり取りを交わしていても、

直接面会した場面で、
本音というか、
相手が最も傷付く事を、平然と言い当て、言い放つ。

エリザベス1世は、
そのメアリーのプライドの高さ、苛烈さを、
「彼女の美点」と賞しながら、
同時に、
「その美点が、メアリーを現在の窮地に追いやった」
とも言っています。

そして、エリザベス1世は、
自身のカツラをかなぐり捨てます。

最高権力者のエリザベス1世を前にして、
自分より下と言い放つ、

そんなメアリーの前なら、
エリザベス1世は、虚飾をはぎ取る事が出来たのです。

そして、
自分の権力を脅かす、
最も恐ろしい相手から、共感を拒絶された

結果、
エリザベス1世にとって、
メアリー・スチュアートはいつでも殺せる相手となった

だから、
もう怖いものは無い、嫉妬する事も無いと、
エリザベス1世はメアリーに、
哀しみつつも、告げるのです。

 

この場面こそ、
本作のクライマックスと言えます。

政治との関わり、
その中での自分の立ち位置の苦悩、
自身の容姿の衰え、
未婚であるという個人の問題が、国家レベルの問題とも直結する理不尽さ、

それに悩むエリザベス1世とは対象的に、
メアリーの姿は、あくまでもシンプルに、誇り高いものです。

共感や、同情、
それさえも廃した、
孤高のプライドの高さ

メアリー・スチュアートを本作では、
そういう人物として描いているのです。

女王という立場を人間的に悩むエリザベス1世と対比させる事で、
メアリーの孤高さを際立たせているのです。

一種異様な人物像ですが、
そういうキャラクターを大胆に作り上げた事に、
本作の面白さがあります。

 

  • 衣装の鮮やかさ

本作の衣装担当者は、アレクサンドラ・バーン

『エリザベス』(1998)
『エリザベス:ゴールデンエイジ』(2007)
でも、衣装を担当しています。

他、
『マイティ・ソー』(2011)
『アベンジャーズ』(2012)
ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(2014)
ドクター・ストレンジ』(2016)などの、
「マーベル・シネマティック・ユニバース」でも、
その才能を発揮しています。

又、
ヘア&メイクのジェニー・シャーコアも、
『エリザベス』『エリザベス:ゴールデンエイジ』で、
ヘア&メイクを担当しています。

ある意味、
この時代に手慣れたスタッフにて、
当時の服装を再現しています。

 

とは言え、
本作の衣装は、
現代的なアレンジが加えられています。

服装に、大胆にデニム生地を採用し、
動きやすさを追求したとの事。

 

また、
二人の女王の衣装の対比も、
本作では面白い所。

メアリー・スチュアートは、
青を基調とし、清冽で、
スッキリとしたシンプルさが、
シアーシャ・ローナン自信の美しさを際立たせています。

一方のエリザベス1世は、
ベージュっぽい、感じで、淡い色合いの衣装が多いです。

これが後年、
天然痘から快復した後は、

段々装飾が大きくなり、

髪の毛や、襟のヒダ、服のモコモコ感など、
まるで、エリマキトカゲの様に、
相手を見た目で威圧

化粧も、
天然痘の影響による痘痕を隠す為のものとは言え、
まるで『IT ”それ”が見えたら終わり』に出て来る殺人ピエロの如き不気味さを湛えています。

衣装も、
黄土色というか、金ベースであり、

エリザベス1世は、
よりケバく、
見た目で、自信の権力を主張する方向へとシフトしています。

 

時代劇風でありながら、
現代風のシュッとしたラインの格好良さも取り入れた本作のファッション面も、
注視すると面白いものがあるのです。

 

  • ちょっと解説

歴史と、小ネタの解説を少し、してみます。

 

ダーンリー卿が、
本物のメアリーを当てるシーンがありました。

そして実際、
メアリーの4人の侍女は、

なんと全員、メアリーと似た容姿で、名前までメアリーだったとの事。

暗殺を免れる為の、影武者でもあったのですね。

 

エリザベス1世の前のイングランドの女王は、
異母姉のメアリー1世。

彼女は後のスペイン国王フェリペ2世と結婚し、
プロテスタントを弾圧、
また、エリザベスをも、自分の暗殺に関わったとして、
幽閉しています。

つまり、
メアリー1世とエリザベスの関係は、

エリザベス1世とメアリー・スチュアートとの関係に似ているんですね。

また、
エリザベス1世にとって、
その後、スペインのフェリペ2世は仇敵と言っていい存在

彼女が戴冠直後、
フェリペ2世はエリザベス1世に求婚しますが、
彼女はこれを拒否。

エリザベス1世は、
結婚による他国の干渉を嫌い、
生涯独身を通したと言われています。

イングランドにて幽閉状態にあったメアリー・スチュアートは、
同じカトリックであるフェリペ2世へ書簡を送っていたそうで、
その中で、自分の王権の正統さを主張していたそうです。

そして、
エリザベス1世がメアリーを処刑した事に抗議する形で、
フェリペ2世は無敵艦隊をイングランドに派遣し、
「アルマダの海戦」(1588)が勃発する事になるのです。

 

1603年、3月24日、エリザベス1世の死去。

その後、
メアリー・スチュアートの息子であり、
スコットランド国王、ジェームズ6世が、
ジェームズ1世として、イングランドの国王の座に就きます。

このジェームズ1世の血統が、
今日まで続くイギリス王家の血統となっています。

 

スコットランドは、1707年に、
アン女王治世のイングランドに統合されて、
その国家としての歴史に幕が下ります。

因みに、
そのアン女王を描いた
女王陛下のお気に入り』(2018)という作品も公開日が近い、関連作品であると言えます。

本作に興味があれば、
観てみると面白いと思います。

 

 

 

数々の権力闘争、権謀術数に晒されながらも、
孤高のプライドを貫き通したメアリー・スチュアート。

欲のみならず、
愛も、共感も、人間性をも遠ざける様な彼女の姿は、

清冽であり、苛烈、

この浮世離れした存在こそ女王なのだと、
その半生で表現しきった存在、

それが本作『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』の
メアリー・スチュアート像である、
私はそう、感じました。

 

 

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