江戸末期。武州多摩にて「バラガキ」と言われた暴れん坊、土方歳三。同郷の近藤勇、沖田総司らと共に地元では名を馳せた存在だった。
武士への憧れを持つ彼らは、松平容保の浪士募集に応じ、京の市中警護へと向かうが、、、
監督は原田眞人。
近年の監督作に、
『日本のいちばん長い日』(2015)
『関ヶ原』(2017)
『検察側の罪人』(2018) 他
原作は、司馬遼太郎の『燃えよ剣』。
出演は、
土方歳三:岡田准一
近藤勇:鈴木亮平
沖田総司:山田涼介
お雪:柴咲コウ
芹沢鴨:伊藤英明
松平容保:尾上右近 他
遥か昔の、幾星霜。
私がまだ10代だった頃。
講義の合間に読んでいた、司馬遼太郎の『燃えよ剣』。
それを見つけた友人が、
「講義の間、暇だから読みたい」と言って、
彼に貸した、その上巻。
講義の休み時間にする事が無くなって、
その代わりと言ってはなんですけれど、
新しく知り合いになった人と喋るようになり、
その人達が、友人となり、
しかし、
その後、『燃えよ剣(上巻)』は帰ってくる事はありませんでした。
どうやら、本を貸した友人は、
『燃えよ剣』を無くしてしまった様で、、、
それも、現在は思い出のエピソードの一つとなりましたが、
さて、
彼は本当に、本を無くしたのか?
もしかして、
本ばっかり読んでいた私をみかねて、それを取り上げてくれたのかも?
今となっては、
顔も、名前も忘れてしまった彼に、
その真意を、尋ねようも無く、、、
センチメンタルな思い出のある作品、
それが、私にとっての『燃えよ剣』です。
そんな『燃えよ剣』、
人によっては「一番好きな小説」を揚げる方も多い印象。
言わずもがなの名作ですが、
先に述べた通り、
私は途中までしか読まずに、
その後、何十年も時を経てしまいました。
なので、
原作未読者の感想という事で、
ご容赦下さい。
さて、本作『燃えよ剣』です。
主演が、岡田准一。
アクションの出来る、時代劇俳優として、
最早、鉄板の配役。
彼以外に、
土方歳三は居ないでしょう。
そして、近藤勇を演じるのは、
鈴木亮平。
ガタイの言い漢(オトコ)を演じさせたら、
現在、随一の俳優。
この二人に、
ジャニーズ出身で、
俳優としても売り出し中、評価も高い、
Hey! Say! JUMPのメンバーの一人、山田涼介が沖田総司。
う~ん、見れば見るほど、
この3人の配役、
完璧じゃね?
そう思わせた時点で、
映画は半ば、成功と言えるのではないでしょうか。
そして、映画の内容と言えば、
土方歳三、
名場面ダイジェスト集
となっております。
新撰組と言えば、
誰もが思い浮かべる、有名エピソードの数々を、
如才なく盛り込んでおります。
でも、この、
観客の期待に応えて、
期待通りの面白さを提供するという事は、
存外に難しい事
なのです。
映画の時代劇枠は、
毎年、
何らかの作品が公開されますが、
今年は、
本作がその重責を担っている形。
そういった意味でも、
本作は、
老若男女、誰が観ても楽しめるという、
完成度の高い作品となっております。
豪華出演陣の演技に惚れるもよし、
キチンと作られた時代劇を楽しむもよし、
新撰組映画として、
名場面に期待するのもよし、
如才ない作り、
それが『燃えよ剣』と言えるでしょう。
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『燃えよ剣』のポイント
土方歳三、近藤勇、沖田総司などの配役の良さ
土方歳三ダイジェスト
老若男女の期待に応える無難な作品
以下、内容に触れた感想となっております
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キャラが立った配役
本作、『燃えよ剣』は、
メインの土方歳三、近藤勇、沖田総司のキャラが立っており、
尚且つ、演じている俳優も役にピッタリである。
しかし、
メインの3人のみならず、
他の配役も中々良いです。
先ずは、芹沢鴨を演じた伊藤英明。
その豪放磊落で知られるエピソードは、
嘘か真か?
しかし、
独善的で我が儘放題だったとか、
女性に乱暴したとか、
街中で大砲ぶっ放したとか、
こういった、
暴れ散らかす芹沢鴨を、見事に演じていました。
また、
15代将軍として知られる徳川慶喜を演じた山田裕貴。
最近の創作物では、
困難に直面した、悲劇の主君として、
清濁併せ持った魅力的な人物として描かれる事が多いですが、
本作の徳川慶喜は、
常に目を剥き出して自分勝手な無理難題を放言する、
危機に瀕した、大政奉還のスピーチで噛み噛み、
自らが責任を取らずに、一番最初に逃亡する、
正に、
居て欲しくない上司ナンバーワンの存在感を発揮しております。
ちょっとわざとらしい演技が、
逆に、身の丈以上の権力を持ってしまった人物らしさを上手く表現出来ていた様に思います。
そして、
本作で、ある意味、最も魅力的な人物として描かれていた、
会津藩主、松平容保を演じたのは尾上右近。
無能な上司に翻弄され、
カオスな状態の出向先で、無理ゲーを強いられ、
最終的には責任を取らされ、
それを甘んじて受け入れる。
如何にも、
日本人好みの好漢といいますか、
困難に直面して、
それを愚痴らず、悄然としながらも、
破滅に立ち向かう様子に、
判官贔屓をもよおします。
演じた尾上右近は、
その見た目が、ひょろっとした捉え所の無い印象ですが、
しかし、
思わぬ大役を懸命に務める様が、
役どころにマッチしていたと言えます。
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新撰組の描き方
幕末の京都で、
暴力で幅を利かせた新興勢力、
新撰組。
局長は近藤勇で、
実質、隊を取り締まっていたのは、
綱紀粛正を強いる、土方歳三だと言います。
作中では、
ボスの近藤の弾よけ、
つまり、
批判を一身に受け持つ汚れ役だと、
歳三自身は言っていました。
新撰組の設立は、
そもそもが複雑。
本作で描かれる様子では、
先ず、
松平容保が、徳川慶喜より京都守護職に任命されます。
それは、孝明天皇を護るというか、
尊皇攘夷を謳い、
江戸幕府転覆を目論む公家の雑音をシャットアウトし、
江戸幕府の敵を排除する目的を課せられています。
尊皇攘夷と倒幕派は必ずしも一致ではありませんが、
しかし、
倒幕派を京都守護職のみでは防ぎきれないとした松平容保が、
武士では無い、町民、農民、出身者で形成した「会津藩預かり」という、
「非正規組織」として結成されたのが、
新撰組との事です。
孝明天皇を守るのが役割ながら、
孝明天皇を担ぎ上げる勢力を排除するのが目的。
政治による立場の違いが、
そのイデオロギーと必ずしもマッチしていないという複雑さ。
「勝てば官軍、負ければ賊軍」
とは、正に、この時代だからこそ生まれた言葉です。
では、
何故そんな複雑な状況で、
新撰組は頭角を現したのか?
本作では、
象徴的であり、
私も好きなシーンがあります。
芹沢鴨が、
「士道とは何か?」近藤勇に尋ねるシーン。
この場面で、
遅れて来た土方歳三は、
「武士道に準じる事」的な事を言います。
芹沢鴨はそれを鼻で笑い、
「侍が仕える先は、主君であり、それが無い侍は武士道たり得ない」と喝破してみせます。
しかし、その正論を、
土方歳三は、
「仕える先を新しく選び取る、だから、新撰組」と屁理屈で撥ね除けます。
ここに、
新撰組の新撰組たる所以があります。
元は、農民出の、
侍に憧れるバラガキ。
メンタリティとしては、現代の、
漫画の主人公や、
金メダリストに憧れる小学生と違いません。
信念、イデオロギーの無い、
純粋な憧れ、
この、ふわっとした主張の無さこそが、
若さ故の特権であり、
新撰組の本質であり、
それが可能だったのは、
若さ故、学の無さ故、政治に荷担せず、しかし、利用され、
只、目の前の敵を排除する事で、
己の有能さを証明する必要があった、
だからこそ、
イデオロギーでは無く、
綱紀粛正という隊の規則(ルール)にて、
隊員を縛る事が必要だったのだと思われます。
未熟者集団が故の、
捨て身の強さこそが新撰組であり、
その純粋さが、
後の世の人の心を掴み、
何度も、創作のモチーフになったのではないでしょうか。
本作では、
こういった場面に限らず、
中々、
示唆に富む名場面が多かったのが、面白い所です。
土方歳三の名場面ダイジェストではありますが、
それだけに留まらず、
例えば
お雪という実在しない創作人物も、
ちゃんと、原作通りに採用し、
恋愛模様も入れて、
老若男女に対応した形を取っています。
如才ない、
完成度がきらめく、
『燃えよ剣』はそんな作品ではないでしょうか。
コチラは、司馬遼太郎の原作本
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