映画『シン・仮面ライダー』感想  下手のCG使わぬに似たり

爆走するトラック2台に追走されるタンデムのバイク。爆発に巻き込まれ、崖下に投げ出され、「S.H.O.C.K.E.R」の構成員、クモオーグに捕獲されたのは、緑川ルリ子。そんな彼女を助けたのは、共に「S.H.O.C.K.E.R」を足抜けしたバッタオーグこと本郷猛だった、、、

 

 

 

 

 

 

監督は庵野秀明。
TVアニメシリーズの『新世紀エヴァンゲリオン』で有名。
実写の映画作品の監督作に、
『ラブ&ポップ』(1998)
『式日』(2000)
『キューティーハニー』(2004)
シン・ゴジラ』(2016)がある。

原作は石ノ森章太郎の漫画『仮面ライダー』、
それを元にしたTVシリーズの『仮面ライダー』(1971~73)

 

出演は、
本郷猛/仮面ライダー:池松壮亮
緑川ルリ子:浜辺美波
一文字隼人/仮面ライダー2号:柄本佑
緑川イチロー:森山未來

クモオーグ(声):大森南朋
コウモリオーグ:手塚とおる
サソリオーグ:長澤まさみ
ハチオーグ:西野七瀬
カマキリ・カメレオンオーグ:本郷奏多
ケイ(声):松坂桃李

緑川弘:塚本晋也

情報機関の男:斎藤工
政府機関の男:竹野内豊 他

 

 

皆様、如何お過ごしでしょうか。

私は、
ニンテンドースイッチのゲーム、
「ポケットモンスター」シリーズの最新作、
「バイオレット」に夢中で、
ブログの更新が滞っておりました。

そして、更には、
「ChatGPT」の登場にて、

果たして、
何時間も考えて、
自分の意見を世間に披露する事に、意味があるのか?

そのことに、
自問自答する日々を送っておりました。

 

とは言え、
畢竟、

他の他人のためというより、
自分の日記代わりに行っていたブログという側面もあり、

まぁ、
悩んでも仕方無いな、という結論に至りました。

 

閑話休題。

そんな事はおいておいて、

『シン・仮面ライダー』です。

 

庵野秀明監督と言えば、
『ラブ&ポップ』~『キューティーハニー』にて
「やっぱ、アニメの監督に実写は無理かぁ」という評価を受け、

しかし、
突如、監督として復帰した『シン・ゴジラ』にて世間の度肝を抜き、

その後、
シン・ウルトラマン』(2022)のプロデュースと、
『シン・仮面ライダー』の監督をするに至りました。

 

『シン・ゴジラ』が大好きで、
また、
「ウルトラマン」の事を全く知らなかった私でも、
『シン・ウルトラマン』は楽しめたので、

今回の『シン・仮面ライダー』も、

「仮面ライダー」に何の思い入れもありませんが、

それでも、
期待を膨らませて、観に行った訳ですよ。

世界最速、
出演者舞台挨拶ライブビューイング放映回の分を!

で、登壇した出演の役者さん達が、
これでもかと煽るわけですよ。

興奮冷めやらぬとか、
目撃者になる、とか。

そんで、
私なんか、もう、年寄りなので、
最近は21時には眠っているのですが、
(ライブビューイングの回は18時~)

そこまで、煽られたら、
半分眠っていた脳みそが、活性化されてしまう訳ですよ、
期待感がハンパなくなって!!

 

さぁ、実際の映画はどうだったのか!?

忌憚ない意見を言いますと、

ぶっちゃけ、期待外れでした。

 

…思い返せば、
出演者の皆さんも、
「気分がアガる」とか「興奮冷めやらぬ」とは言いつつも、
「面白い」とは言わなかった様な…

また、
主演の池松壮亮の受け答えがフニャフニャしてしましたし、
絶賛の声のソースが「ツイッター」だったり、

怪しい部分が多数ありました。

 

具体的に、何処がどう残念だったのかはネタバレになるので、
後で述べるとして、

面白さのレベルで言うならば、

『シン・ゴジラ』や
『シン・ウルトラマン』と並ぶべくもなく、

本作を観て思いだした映画作品は、

『キューティーハニー』(2004)
『キャシャーン』(2004)

そして、
『デビルマン』(2004)です。

 

まるで、
2004年に逆戻りしたかの様な印象。

 

いや、

やろうとしている事を実現したなら、
それは面白かったかもしれません。

しかし、
予算の関係か?
果たして、クリエイティブの問題か?
監督のディレクションが悪かったのか?

実際に出来上がった作品は、

「あぁ(察し)」というものでした。

 

この感想は、
私が「仮面ライダー」に思い入れが無い老人だからかもしれません。

実際に、
PG12(12歳以下は保護者の同伴が必要)作品でありますが、
劇場にて父親と一緒に観に来ていたキッズは、
「面白かった~」と言っていました。

いや、私も、
グッズを買う気満々で、お金を用意していましたし、
これは、面白かった(よな?)と、
思い込もうとしました、劇場まで観に行ったし。

けれども、

人に感想を聞かれたとしたら、

正直に答えるべきなのだと、
思う訳ですよ。

 

それでも、

冒頭3分は「おおっ!?」と唸って、

最初の10分は面白かった訳ですよ。

 

で、
この路線で行くかと思いきや、
失速したというか。

 

いやぁ、
中々、
実績のあるヒットメーカーであっても、

全ての作品が傑作であるハズも無く。

その事実を、
まざまざと教えてくれる作品、

『シン・仮面ライダー』を鑑賞して、
私は、そう思いました。

 

 

  • 『シン・仮面ライダー』のポイント

竜頭蛇尾の面白さ

下手のCG使わぬに似たり

あまりにも予算が足りぬ

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 

 

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  • 竜頭蛇尾となってしまった面白さ

映画というものは、
「起承転結」の構成がしっかりしていないと、
まとまりの無い作品になってしまいます。

その上で、
作品の方向付けとして、
冒頭にインパクトのある「つかみ」のシーンがあれば、最高です。

 

本作『シン・仮面ライダー』は、
その冒頭のシーンのつかみが印象的、
成功した部類の作品です。

しかし、
なんと本作、
その「つかみ」のシーンが作中で最も面白いハイライトシーンで、

その後、
どんどん面白さのレベルが下がって行くという地獄絵図

こんな作品を観たのは初めてで、
「そんな事もあるのか」と驚愕しきりです。

 

冒頭のシーン。

2台トラックに追いかけられるバイク(本郷猛と緑川ルリ子)、
そして、
トラックが爆発炎上し、バイクも崖下に放り投げられる。

緑川ルリ子は捕獲されますが、
そこにバッタオーグが登場し、
「S.H.O.C.K.E.R」の構成員(戦闘員)を、
素手で撲殺してゆく…

「仮面ライダー」というより、
まるで『サイコ・ゴアマン』(2021)のような残虐ぶり

で、色々あって、
クモオーグと戦って勝利するのですが、

ここまでの流れが、
本作における面白い部分。

 

血飛沫が飛び、
顔面をパンチで砕き潰す。

こんなヒーロー居る!?

行き過ぎたゴア表現から、
どう物語を展開するのか?

期待と不安が入り交じった感情を持てました。

クモオーグとの対戦も、
スーツアクターメインの肉弾戦中心。
この、昔ながら感が良かった

しかし、
個人的に楽しめたのは、ここまで。

 

後半というか、
映画の残りの大半が微妙だった事が、

本作の鑑賞後イメージを、
著しく損なっていると思われます。

 

  • 下手のCG使わぬに似たり

「下手の考え休むに似たり」という言葉があります。

その意味は、

「良い考えが浮かばないのに長い時間をかけるのは、休んでいる事と同じだ」
そこから転じて
バカは考えるだけ時間の無駄だ

という様な意味合いがあります。

 

『シン・仮面ライダー』も、正にそう。

言うなれば
「下手のCG使わぬに似たり」で、

アクションシーンにクオリティの低いCGを使ってしまうと、
クソ白々しくて冷める
それなら、使わない方が良かったのでは

という印象を受けたのです。

 

本作の「ガッカリ感」が始まったのは、
コウモリオーグ篇から。

護衛が安っぽいCGだったのは、
まだご愛敬だが、

コウモリオーグが空を飛んだ辺りから、
雲行きが怪しくなりました。

「!?」
なんだ、このTVドラマ以下のレベルのCGは!?

 

作品の冒頭は、

敢えて「レトロ風味」を残した画作りだと理解していましたが、

コウモリオーグのレベルの低いCG、
具体的に言うと、
背景と、CGの雑な合成具合による、
違和感の拭え無さは、

敢えてというより、
明確に、技術と予算不足を突き付けてきました。

…これなら、
CGを使わずに、
アクターをワイヤーで吊して、
翼は手動でバタバタやる形の方が、
絶対に良かった。

観た人間は、
十中八九そう思った事でしょう。

 

それだけでは無く、
肝心要の「アクション見せ方」も、
CGを使った事で、陳腐になってしまっていました。

 

ハチオーグとの対戦、
そして、
一文字隼人との空中戦において、
高速戦闘を表現したかったのでしょうが、

その描写が、
なんと、コマ送りという暴挙。

 

漫画でバトル描写を描くとき、

相手のパンチを描いて、
殴られる側のダメージ描写からの、
ダウン。

みたいな流れがあるとしたら、
敢えて、
殴られる側の様子だけを連続でコマに描写する事で、
殴る側が連続攻撃を仕掛けている事を、読者に想像で補完させるという、
省略のテクニックが使われる事があります。

また、
TVアニメシリーズの『ドラゴンボール』では、
空中戦で、
ソニックブームと「ドーン」という音を連続で轟かせ、
時折、
殴り合っている様子が垣間見えるだけ、

みたいな画作りで、
高速戦闘の様子を描いています。

 

実写に、

漫画やアニメの方法論を落とし込むという手法は面白いです。

但し、
成功していれば、の話ですが。

本作に於いては、
とても成功しているとは言えず、

ただ単に、
雑なCGの滑稽なコマ送りを見せられるという、
ある意味、驚愕の映像が終始繰り広げられます。

 

かつて、
映画『デビルマン』(2004)のラストバトルのシーンが、
「プレステレベル」と揶揄された事がありました。

…本作は、それと同レベルのCGクオリティ

但し、
映画『デビルマン』から、
19年経過しているにも関わらず、です。

 

クライマックス直前、
「孤独相」である仮面ライダーに対し、

「群生相」である、量産型のバッタオーグが襲いかかってきます。

これまでのライダーシリーズでは
「ショッカーライダー」と呼ばれる存在を、

実在する蝗害(大群化)の現象、

バッタの相変異と絡めて、

孤独相よりも色が黒く、
凶暴な性質の群生相(量産型)として描くのは、

まるで、
「エヴァンゲリオン」の
「エヴァシリーズ」(量産型エヴァンゲリオン)を彷彿とさせ、
面白い共通点を見つけ出したなと関心しました。

 

しかし、
肝心のアクションが、
暗いトンネルの中でやっているので、
何をしているのか、皆目見当が付きません。

黒い衣装で暗闇のバトルは御法度だと、
マイケル・キートン版の映画『バットマン』(1989)のクライマックスで学ばなかったのかい?

 

折角の仮面ライダー、1号、2号の共闘シーンが、
全く、盛り上がりません。

皮肉な事に、台詞と掛け合いはカッコ良い

暗くてよく分からないのに、
CGアクションも、イマイチ。

 

バイクでのアクションシーンという、
ある意味、最大の見せ場のハズなのですが、
それを活かせていないのです。

「マッドマックス」シリーズや、
「ワイルドスピード」シリーズでの乗り物バトル。

また、
世間的には全く話題に上がりませんでしたが、
G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』(2021)の
バイクアクションシーンなど、

CGを使わずとも、
迫力のあるシーンは、幾らでも作れるはずです。

 

『風の谷のナウシカ』で、
風の谷のおっさん達が、
トルメキアの将校に、
「お前さん達は火を使いすぎる。まぁ、ワシらもちっとは使うがの」
というシーンがあります。

それと一緒です。

アクション映画においては、CGは、補完で多少使う程度で良いのです。
CGをメインに据えるのは、良くない

 

本作に於いては、

アクションシーンにCGを使い過ぎ。

しかも、
そのCGのクオリティが低い上に、
CGを活かしたアクション描写でもない

厳しい指摘なのですが、
メインであるハズのアクションシーンにおいて、
この、無い無い尽くしを重ねてしまった事が、

本作の残念感を際立たせてしまっているのです。

 

ぶっちゃけ、
冒頭のスーツアクターを使った肉弾戦が、一番面白いアクションシーンでした。

やっぱり、
アクションって、
肉体、運動神経の説得力が重要だと、私は思います。

近年で言うと、
キングダム』(2019)は、
日本映画で、
ビームも空中飛行もありませんが、
アクションシーンは迫力がありましたし、

他にも、
モータルコンバット』(2021)や
ブレット・トレイン』(2022)に出演した真田広之の様な、
圧倒的な「殺陣の格好良さ」を魅せられる人物がいたりします。

アクション映画を描くなら、
それ自体の「質」を追求すべきであり、

見せ方(CG)はあくまでも、道具である、
という事をあらためて感じさせられました。

 

  • 足りぬ予算

本作は、
CG描写も残念ですが、

ストーリーも、
ちょっと、ツッコみたい所があります。

 

個人的には、
ストーリー展開、設定は面白いものがあると感じました。

「S.H.O.C.K.E.R」は、
Sustainable(持続可能な)
Happiness(幸せ)
Organization with(組織)
Computational(機械化された)
Knowledge(知識)
Embedded(埋め込まれた)
Remodeling(改造)

の略。

簡単に訳すと、
持続可能な幸せを追求する、
機械化された知識を改造され、埋め込まれたモノの組織
と言った所でしょうか。

 

つまり、事の起こりは
「悪の秘密結社」では無いのです。

「幸せ」から、
線を一本引いたら「辛い」になるという、
本作のテーマ通り、

個人の幸せの追求は、
その行き着く所の究極は、
エゴのぶつかり合いになってしまう

という結果が、
衝突を引き起こしてしまっているだけなのです。

このテーマの設定は面白く、

「S.H.O.C.K.E.R」の洗脳を脱して足抜けしたハズの本郷猛が、
緑川ルリ子の、
ある種の洗脳にかかっているという主体性の無さ。

そこから、
他人の為の自己犠牲に幸福と目的意識を獲得する=それこそが、ヒーローというまでの流れなど。

本作には、
面白く、
興味深いテーマが盛り込まれています。

 

で、私が気になったのは、
本郷猛の父親と、
緑川イチローの母親のエピソード。

この二者は共に、
通り魔に殺されてしまっていますが、

作中、明言されませんが、
どうやら、
同じ事件であるとも、受け止められるのです。

つまり、
警官である本郷猛の父親は、一般人を人質にとった通り魔を説得しますが、
通り魔は父を刺し殺してしまいます。

その時、人質も刺してしまったのでは?
その人質こそ、緑川イチローの母親だったのでは?
と、推測されます。

しかし、
それを敢えて明言しないのは良いとして、
もっとハッキリ「関連がある」と匂わせて良かったのでは?とも思います。

また、
「S.H.O.C.K.E.R」を運営するAIの「アイ」。
それの外部観察器官としての、
「ケイ」。

その「ケイ」の前任だった「ジェイ」は、
どうして解任されたのか、その後どうなったのか、作中で明言されません。

おそらく、何らかの設定があるハズですが、
その「ジェイ」を素体として作られたのが、
緑川ルリ子だったら面白いのになぁと、個人的には思うのですが、どうでしょう。

 

本作では、
「S.H.O.C.K.E.R」の構成員である
「~オーグ」は、

共に、何らかの人間関係が示唆されています。

しかし、

「個人のエゴの追求に、群れるのは不要」とばかりに、
コミュ障を発揮し、

端的に言うと、
人間関係とその設定の深掘りを拒絶しています。

個人的には、この辺り、
実は、みんな元々は仲良しで、
家族同然の仲間が、今は骨肉の内ゲバを繰り広げている、

みたいな設定にしたら、
もっと、面白かったのになぁと思うのですが、どうでしょうか?

大体、
サソリオーグの長澤まさみとか、
その描写も展開も、無駄遣いにも程があると思いませんか?

 

 

しかし、勿論、
本作にも良い点があります。

それは浜辺美波演じる緑川ルリ子のキャラクターです。

庵野秀明監督って、
『不思議の海のナディア』のナディアや
『新世紀エヴァンゲリオン』のアスカなど、
ツンデレ的なワガママキャラが好きですが、

本作では、
実写でそんなツンデレキャラを描写した所に、
「三つ子の魂百まで」を思い知らされます。

 

まぁ、それは良いとして、

セーフハウスにモノがない、
殺風景な感じだったのは、

予算が無かったからですよね?

海とか、
山とか、
何も無いところで、
少人数が佇む描写は、
画として格好良かったですが、

その描写も、

お金のかからないロケ地という観点ですよね?

本作を観て思ったのは、

シーンの空間の広さに比する人口密度の薄さです。

もっと、
「S.H.O.C.K.E.R」のザコ構成員を、
ワラワラと出して(やられても)よかったのではないかな、と個人的には思います。

 

小道具や、
ロケ地、
エキストラすらも節約するというのは、

本作が如何に、
予算が無かったのかという事を物語っています。

 

話のシリアスさ、
大風呂敷に比べて、

何となく、
舞台がチープに感じてしまうのは、

残念な所です。

 

 

ラストシーンで、

政府機関の男の名前が「立花」
(TVシリーズのおやっさん)

情報機関の男の名前が「滝」
(TVシリーズのFBI)

という事が明かされ、
TVシリーズからのファンが
「おっ!?」と思う場面です。

又、
政府機関の男を演じた竹野内豊は、
『シン・ゴジラ』
『シン・ウルトラマン』でも同じような雰囲気の役を演じており、

世界線が違う物語ではありますが、

もしかして、
その時々で偽名を使っている同一人物かもしれないと思わせるような演出も、
面白いです。

 

しかし、
全体として、
アクション関連のCGのチープさと、

面白いテーマ、設定を生かし切れなかったストーリー展開とで、

何とも、
期待に応える事が出来なかった、
残念な作品という印象を受けてしまう作品、
『シン・仮面ライダー』。

本当に、

映画製作というものは、
絶妙なバランスの上で、
傑作にも駄作にもなる。

それこそ、
幸せと辛さは紙一重なのだと感じさせる作品と言えるのではないでしょうか。

 

 

 

 

 

 

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