映画『ヴェノム』感想  ダーク・ヒーロー登場!!こいつは甘く無い!!


 

ジャーナリストのエディ・ブロックは、契約している会社に言われ、ライフ財団の取材に赴く。会社からは釘を刺されていたが、エディはライフ財団の疑惑、人体実験についての質問を鋭く切り込む。すると翌日、自分のみならず恋人のアンまで会社を首になってしまい、、、

 

 

 

監督はルーベン・フライシャー
ミュージックビデオの監督を経て、映画を撮る。
監督作に
『ゾンビランド』(2009)
『ピザボーイ 史上最凶のご注文』(2011)
『L.A. ギャングストーリー』(2013)がある。

 

出演は
エディ・ブラック/ヴェノム:トム・ハーディー
アン・ウェイング:ミシェル・ウィリアムズ
カールトン・ドレイク:リズ・アーメッド 他

 

 

ヴェノム。

アメコミのキャラで、
元々は『スパイダーマン』の敵役の一人だったそうです。

しかし、
暴力的でありながら、複雑なキャラクターである為に、絶大な人気を博しスピンオフ化、
コミックでも主役を演じていました。

そのヴェノムの単体映画が本作、
その名もズバリ『ヴェノム』です。

 

さて、
「ヴェノム」はマーベル社のコミックのキャラクターです。

ですが、
「アベンジャーズ」とも、
「X-MEN」とも関係ありません。

それどころか

「スパイダーマン」とも独立した、
完全新作の世界観の物語です。

 

実は以前、
『スパイダーマン3』(2007)にて、
敵役の一人として出演しています。

その世界観とも独立した、
完全にピンの主役扱いなのです。

 

勿論、映画の主役であるので、
最も活躍するのですが、

何しろ本作は「PG12」、
小学生は観られない作品です。

そう、
元々は悪役(ヴィラン)だったヴェノムは、
アンチヒーローというか、

ダークヒーローとして活躍します。

 

 

ダークヒーローと言えば、
例えば同じアメコミ原作の『バットマン』なんかも、そう言えます。

バットマンはビジランテ(自警団)として、
法を無視した活躍で悪を独自に裁いていますよね。

しかし、
ヴェノムのダークヒーローっぷりはバットマンの比ではありません。

縦横無尽に暴れ回る!

 

法や倫理のボーダーラインを、
あっけなく飛び越えてしまいます。

とにかく、
スカッと大暴れする『ヴェノム』の活躍を楽しめる作品、

堅苦しい事は言わずに、
単純にたのしみましょう。

 

 

因みに、
最近のアメコミ映画のお約束で、

エンドクレジットの時に、
本作もオマケ映像が流れます。

しかし、本篇に関わる(?)のは、
直ぐに観られる方のみです。

一応、長く、ゆっくりしたエンドクレジットの最後まで観ると、
さらにアニメのオマケ映像がありますが、
それは観なくてもいいかもしれません。

 

 

  • 『ヴェノム』のポイント

法も倫理も関係無い!!大暴れ!!

ヴェノムのキモち悪い見た目

ダークヒーローの誕生

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 


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  • スパイダーマンのヴェノム

本作の主役は『ヴェノム』。

ヴェノムは元々、
スパイダーマンの敵役でした。

スパイダーマンが宇宙で活躍した時に身につけた黒いスーツ。

なんとそれは、宇宙生物「シンビオート」だった!

シンビオートに寄生されたスパイダーマンだったが、
辛くもそれを引き剥がす事に成功。

しかし、
シンビオートは、生き残り、地球人のエディ・ブラックと融合し、
「ヴェノム」としてスパイダーマンと戦うのです、、、

 

  • ダークヒーロー、ヴェノムの誕生

そういう前身がヴェノムにはありますが、
しかし、
本作はヴェノムがピンで活躍する完全新作

スパイダーマンとは全く関係無い世界線での話となります。

 

その証拠に、
映画のヴェノムの胸には、蜘蛛の紋章がありません。

コミックのヴェノムには、
スパイダーマンのスーツだった時の名残で、
胸に蜘蛛の紋章があるのですね。

謂わば、
ヴェノムのトレードマークとも言える模様ですが、
それを思い切って取り去ったのは、

「スパイダーマンとは全く関係無い」
という事を表現しているのです。

 

…しかし、ヴェノムの見た目、キモいですねぇ、、、

黒いタールの様な質感の、筋肉質ボディ、
何も表情を映さない、つり上がったゼリーの様な白い目、
蛇の様に裂ける口からは、ヒルの様な舌がだらりと垂れ下がり、
まるでサメの様な鋸歯状の歯がズラリと立ち並ぶ、、、

よくぞ、ここまでデザインした、
と言う位、キモ過ぎる見た目です。

特に凄いのが、
ボディに這い回る白い線。

おそらくは、
筋肉質の体に浮き上がる血管を、
白い畝で表現したのでしょうが、

それがまるで、
ナマコが吐き出す白い内臓の「キュビエ器官」の様なキモさを思い出させます。

 

  • アメリカン寄生獣、ヴェノム

さて、このヴェノム、
元は悪役だっただけあって、

本作での活躍では際どい部分が多数あります。

なんといっても、PG12、
12歳未満は、単独で観る事が出来ません。

まぁ、直接の場面は映しませんが、
人間を頭から丸かじりします。

 

この様子を見て、
何となく思い出したものがありました。

それは、日本の漫画、『寄生獣』です。

『寄生獣』という漫画を簡単に説明すると、

人間の頭を乗っ取り、
人間に擬態し、
人間を捕食する謎の寄生生物。

そのパラサイト(寄生生物)に主人公の新一は右手を乗っ取られますが、
お互いの生存の為に、
新一と、パラサイトのミギーが協力して敵と戦うという物語です。

パラサイトのミギーは、
映画『ターミネーター2』のT-1000型のモデルとなったと言われています。

自在に形を変え、
剣になったり、斧になったり、
びよ~んと伸びたりするのです。

そして、
新一とミギーは共に修羅場を乗り越える事で、
種を越えた不思議な友情を育みます。

 

身体能力の上昇、
戦闘時の自在な変形、
宿主と寄生生物とのシュールな会話と、奇妙な友情、
そして、人間を捕食するという事。

『寄生獣』と『ヴェノム』には、共通点が多く見られます。

 

  • 負け犬のシンパシー

とは言え、物語は全く別の物。

『寄生獣』においては、
新一は自分の人間性とアイデンティティに悩みますが、

『ヴェノム』ではそんな様子はありません。

自分の体が人間を捕食しているのに、
エディもアンも、
「喰っちまった」
位の反応しか表しません。

まぁ、捕食シーンをカットしているので、
悩むシーンそのものすらカットしてしまったのでしょう。

 

そういう意味合いもありますが、

元々、エディという人間は、
倫理観が薄いというか、
その壁を乗り越える事に躊躇が無い人間です。

何しろ、
恋人のアンの仕事のメールを勝手に読んで、
それを取材での脅しのネタにする位なのです。

目的の為には、手段を選ばない、
例えそれが、恥ずべき事であっても

エディは元々、そういう性分なのです。

 

だから、人間を捕食しても、
「悪人なら、いいか」で済ませたり、

バイクで爆走して町を混乱に陥れても、
むしろ、
そのスーパーパワーを楽しむように、笑顔を浮かべていたのです。

 

ですが、
この暴力衝動というか、
破壊願望こそが、ヴェノムの魅力

誰だって、心の底には、
「今、ここで大暴れしたい!」という、
暗い欲望を抱いている、それを具現化してくれているからこそ、
ヴェノムは支持されているのだと思います。

そういう暗い欲望を発し、
それに便乗するシンビオート、

この二人の人格が作り上げた存在こそ、ヴェノムなのです。

「We are Venom」と発言するのは、その為ですね。

 

倫理的に踏み込む事すら厭わない、エディ。

とは言え、
彼は根っからの悪人という訳ではありません。

社会正義の為に、
大会社の暗部を暴露せんとするその積極的な姿勢は、
単に功名心のみで動ける事ではありません。

そこには確かに、正義の心もあります。

まぁ、その結果潰され、
負け犬に転落してしまう訳ですが。

しかし、自分が窮状に陥っても、
立場が弱い、
ホームレスや、外国人の店員達に愛想良く接する様子には、
人の良さが垣間見られます。

一方、
その中国人店員がギャングに脅され、ショバ代をむしり取られる場面に遭遇した時は、

棚の陰に隠れてやり過ごす、
およそヒーロー的な行為とはかけ離れた臆病な様子も見られます。

また、
自宅の隣人が爆音で音楽をかけて、
それに腹を立てつつも、
注意出来ずに泣き寝入りする小心な消極さもあります。

 

エディはこういった、
正義感や悪心、
積極性や消極性、
大胆さや消極性が混在したキャラクターなのです。

この、
一人の人間に強さと弱さが同居する、スーパーヒーローらしからぬ小市民的な様子は、観る人に親近感を与え、

また、
この普通の男が望外の力を手に入れ、
それを奮う快感から手を切れないという様子には、
共感せざるを得ないものがあります。

この事も、エディ=ヴェノムが支持される要因の一つとなっています。

 

だからこそ、
シンビオートのヴェノムも、エディを気に入ったのです。

いわゆる、負け犬のシンパシーですね。

そして、エディにシンパシーを感じたという事は、
ヴェノムもまた、
シンビオートの世界では小市民なのでしょう。

しかし、
エディと融合した地球上では、誰よりも強く無双出来る。

この優越感に酔い痴れたい、独占したいからこそ、
同族の地球侵略を阻止したのですね。

こういう打算的な心の弱さがエディと通じ合っているし、

また、
マッチョな見た目とは相反した心理的なヘタレっぷりもまた、
ヴェノムというキャラクターの魅力なのです。

 

  • 「悪人」をしばくヴェノム

こういう相反する要素が同居しているキャラクター、

この複雑さがヴェノムの魅力です。

そして、
この普通の男が、力を手に入れ、
悪人をボコボコにする、

この様子に爽快感があるのです。

 

さて、この感覚、
映画のとあるジャンルに通ずるものがあります。

それは、
1980年代~90年代に流行った
キャラクター的なスラッシャー映画、

つまり、
あの頃のホラー映画の殺人鬼キャラに似ているのです。

 

キャラクター的なホラー映画、

例えば「ジェイソン」や「フレディ」は、

酒を飲み、ハッパを吹かし、
SEXにふけるパリピな若者達をサクッと虐殺して行きます。

モテない陰キャが陽キャに感じる劣等感、
それを、せめて映画の中でだけでも発散する

殺人鬼キャラはむしろ、
そんなルサンチマンを爆発させ、
陰キャの代わりに陽キャに鉄槌を下してくれるヒーローでもあるのです。

そんな童貞目線の発想だからこそ、
あの手の映画はパリピなヤリチンやヤリマンは必ず殺され、
処女のヒロインが最後まで生き残る(可能性が高い)のですね。

 

そして、時代は下り、現代。

『ヴェノム』にて殺されるのは、
ギャングや金持ちといった、

暴力や権力でマウントを取ってくる鼻持ちならない相手。

つまりヴェノムは、

普段の生活でストレスや劣等感を与えてくる、
嫌でムカつくヤツ達を、
自分達の代わりにぶちのめしてくれる

この暗い欲求を充足してくれる、

だからこそ彼は、
倫理を乗り越え、大暴れしても、
紛れもないダークヒーローと言えるのです。

 

ヴェノムの決めぜりふ的なものに、
「We are Venom」というものがあります。

映画のラスト、
中国人店員を脅すギャングを、ヴェノムは捕食してしまいます。

これは倫理的には許されない行為です。

しかし、その一方で。

最初の時は、
食品の棚に隠れてやり過ごすしかなかった情けない自分でしたが、

きっとエディは、
頭の中ではギャングをぶちのめすというヒーロー的な妄想をしていた事でしょう

こういう弱い自分が抱く妄想を、
ヴェノムなら実現してくれる、

エディの、
ヴェノムの、
そして、小市民的な生活を強いられている観客の妄想をも実現してくれる、

我々のヒーローだからこそ、
「We are Venom」と、彼達は言ってくれるのです。

 

  • 小ネタ

さて、エンドクレジットで出てくるオマケ映像。

収監者が「カーネイジ(carnage)」(大虐殺、大量殺人)と発言します。

このカーネイジは、
原作のアメコミ『スパイダーマン』に出てくるキャラクターで、
ヴェノムから分離したシンビオートと融合した存在です。

続篇を臭わせる、含みのあるオマケ映像ですが、
その、収監者のキャサディを演じていたのはウディ・ハレルソン

 

ウディ・ハレルソンは、
本作のルーベン・フライシャーの初監督作である、
『ゾンビランド』に出演していました。

その縁でオマケ的に登場したのでしょうが、
果たして、続篇が作られるのか?

その時、
ウディ・ハレルソンがキャサディを演じるのか?

その辺も、今から期待して待ちたいです。

 

 

 

一人の人間に同居する、
エディとヴェノム、
強さと弱さ、
善と悪、
積極性と消極性。

こういう相反する要因が同居し、
複雑なキャラクターでありながら、
しかし、
それは、ごく普通の一般的な人間でもあるのです。

 

絶対的な正義では無い、

何処か共感出来る弱さ、もろさ、がある、

そういう共感出来る隙のある存在が大暴れするからこそ、

『ヴェノム』は魅力的なキャラクターであり、作品だと言えるのでは無いでしょうか。

 

 

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映画『ヴェノム』を作るにあたって、監督が参考にしたヴェノムのコミックが、コチラ

 

 


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