「冬、来る」。誓約の兄弟「冥夜の守人」の規則を破り、逃亡した黒衣の男を処刑したエダート・スターク。その帰り道、自らの御旗である「大狼」の死骸と、その子狼を発見する、、、
著者はジョージ・R・R・マーティン。
本書『七王国の玉座(原題:A GAME OF THRONES)』は「氷と炎の歌(原題:A SONG OF ICE AND FIRE)」シリーズの第一作。
現在「氷と炎の歌」シリーズは
『七王国の玉座』
『王狼たちの戦旗』
『剣嵐の大地』
『乱鴉の饗宴』
『竜との舞踏』がリリースされている。
また、「氷と炎の歌」シリーズは『ゲーム・オブ・スローンズ』という題名でTVドラマ化もされている。
本書に該当するのは、第一章『七王国戦記』の部分である。
他著作に
『タフの方舟』
『洋梨型の男』等がある。
本書『七王国の玉座』は傑作である。
数あるファンタジー小説の中でも、「氷と炎の歌」シリーズの一作目である本書をベストと言う人も多いだろう。
イギリス中世、薔薇戦争を下敷きにとったと言われる本シリーズ。
その初っ端の『七王国の玉座』は
愛と名誉、
嘘と裏切り、
欲望と権謀術数と戦争に充ちた名作なのである。
そして、
本作は群像劇。
各キャラクター毎の視点で物語が進んで行く。
この形式が特徴の一つで、
この人物の視点ではにっくき敵役でも、
実際にその人物の視点になると云われの無い濡れ衣だったりするのが面白いのだ。
文庫本上下1300ページでありながら、
構成、ストーリー展開がハラハラドキドキの連続で全くダレる事が無い。
全体のストーリーは終了していないが、本書だけでも十分に面白い。
興味が少しでもあれば、本書『七王国の玉座』だけでも是非読むことをオススメする。
…もっとも、一度読んでしまえば続きに手を出さざるを得なくなりますが、、、
以下ネタバレあり
スポンサーリンク
-
視点群像劇
『七王国の玉座』に限らず、「氷と炎の歌」シリーズに共通する特徴は、話の視点が多数ある事だ。
章毎に別れた話を、その視点の人物を主人公として内面描写も交えつつ三人称で描かれている。
『七王国の玉座』で言うと
エダート
キャトリン
サンサ
アリア
ブラン
ジョン
ティリオン
デナーリス
この8人の視点で物語が進んで行く。
8人中、スターク家が5人+1人。
ラニスター家が一人(ティリオン)。
ターガリエン家が一人(デナーリス)。
必然的にスターク家よりの物語になるが、それぞれ活躍する場所が違い、そして性格も異なる為、飽きずに物語の波が次々と訪れる。
また、スターク家側から見るとティリオンは敵役であるが、ティリオン自身の視点では彼なりに一生懸命生きており、むしろ『七王国の玉座』の中ではまともな部類の人間なので読者は彼に好感と感情移入する部分もある。
この複雑さがいい。
読者は安易に感情移入出来ない。
絶対的な正義は居らず、一人の視点から見ると悪人でも、いざその人物の視点になれば正当性や必然性があったりする。
この「氷と炎の歌」シリーズにおいては、皆が皆主人公であるのだ。
そしてそれは実生活でも同じ。
皆がそれぞれ人生を送っている。
そして、それぞれが完全無欠では無い。
この「氷と炎の歌」シリーズは、その「人間的誤謬」を周りが容認せず、次々とトラブルが雪だるま式に巻き起こって行く話なのだ。
-
「正義の行使が正しい行いではない」苦悩と矛盾
『七王国の玉座』において最も高潔な存在はエダート・スタークである。
しかし、彼が重んじる名誉と慈悲心によって、ラニスター側に反撃の機会を与え、結果家臣は全滅、そして自身の死によって戦争が避けられなくなる。
道義的に最も正しい行動を採ったのに、政治情勢は戦争状態に陥るという大矛盾。
この苦悩こそが『七王国の玉座』の面白い精髄である。
しかもである。
大人達が如何に手綱を握り計算して事態をコントロールしようとしても、
ジョフリーとかいうガキの気紛れで全ての絵図を台無しにしてしまった。
この予測不能の悲劇のカタルシスがこの作品を決定付けたと言ってもいい。
高貴な精神による努力も、最悪の事態に対する知力も、そのほとんどが突発的な悪意の前に屈してしまう。
だがそれでも、抗う事を止めずにもがき生き続ける彼等の姿こそが、この「氷と炎の歌」の一番の見所である。
今の所、驚異に対し人の努力がことごとく破壊されている。
しかし、全てが上手くいく訳では無いのは人生でも同じ。
本書『七王国の玉座』の登場人物達の様に、一筋縄ではいかない生命力を見せつけて人生の荒波を生きて行こうではないか。
ほぼ忠実なドラマ化作品、こちらも傑作
ゲーム・オブ・スローンズ 第一章:七王国戦記 全話セット(全10話収録)[Blu-ray]
スポンサーリンク
さて次回は、英雄たちではない、平凡な人間に訪れる一大事件の瞬間を描いた中短篇集、小説『アンチクリストの誕生』について語りたい。