幻想・怪奇小説『などらきの首』澤村伊智(著)感想  キャラが動く短篇怪奇小説!!

 

 

 

梅本が所有するオフィスビル。他の階は問題ないのに、5階のみ入居者の入れ替わりが激しい。そして、退所して行く時に「子供の痛い痛いという泣き声がして、自分まで痛くなる」と皆が口を揃えているのだ、、、

 

 

 

著者は澤村伊智
著作に
ぼぎわんが、来る
ずうのめ人形
『ししりばの家』
『恐怖小説キリカ』等がある。

 

 

『ぼぎわんが、来る』で
第22回日本ホラー小説大賞を受賞した著者。

続く『ずうのめ人形』や『ししりばの家』でも、
『ぼぎわんが、来る』のキャラクターが登場しています。

そして、本書『などらきの首』は、

『ぼぎわんが、来る』から始まる「比嘉姉妹」シリーズの短篇集です。

 

 

本作は6篇からなる短篇集。

個人的に思うに、
短篇の面白さは、オチにある
と、思っています。

これは、
若かりし頃、星新一の短篇を読んで刷り込まれた事ですが、

短篇と相性が良いのは、SFのみならず、
ホラーもマッチしています。

 

そう、
本著は、

オチのある短篇作品です。

 

「成程、そうきたか」

と、読んで楽しい(?)作品集となっています。

勿論、人によっては
「オチに納得いかねぇ」
と言う方もいるでしょうが、

それも込みで楽しめるのが、
短篇の面白い所。

 

こういうストレートな短篇集というのは、
日本では、意外とあまり見られません。

短篇の面白さを持ち、

尚且つ、

シリーズものとして、
キャラクターの魅力に深みを持たせる作品集、

 

それが、
本書『などらきの首』と言えるでしょう。

 

 

 

  • 『などらきの首』のポイント

オチ重視のホラー短篇集

キャラクターの魅力を追求する作品

恐さのバリエーション

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 


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  • 収録作品解説

先ず、収録作品について簡単に解説してみようと思います。

全6篇の短篇集です。

 

ゴカイノカイ
弱い者が弱い者を虐げるのが世の習い。
しかし、
弱い者同士が互いに共感し、お互いを想い合うという事もまた存在する。

まぁ、大体は要領の良い者に喰いモノにされるのがオチですが、
敢えてそういうところには持って行かなかった感じです。

と、いうか、
真琴がいつの間にか、
お人好しの不思議ちゃんみたいになっていますが、
そんなキャラでしたっけ?

 

学校は死の匂い
ノスタルジック・ホラーっぽい雰囲気が題名から見られますが、
オチの不気味さがその分際立ちます。

少女探偵が、見事に事件を解決した、
と言えば聞こえは良いです。
確かに美晴は、霊の無念を晴らす為に尽力していました。

しかし、
誰かを助ける為に、善意で行った事であろうとも、
その結果、他の誰かを不幸にする事がある

そして、
どんな綺麗事を言っても、
その実、心の底に別の意味があったりします。

美晴も、
姉への対抗心の為に事件を利用した側面があるという事実は否めないのです。

別の意図を持つ者が、
別の意図を隠した者を裁く。
美晴の後の運命を考えると、
こういう危険性に首を突っ込む人間性だったからこそ、
ある意味、因果応報だと言えるのかもしれません。

 

居酒屋脳髄談義
よくあるオチですが、
むしろオチを予想させる展開になっている事が面白い所であり、
そこに至る会話劇の変態性を楽しむ作品と言えます。

また、
『ドグラ・マグラ』や
『魍魎の匣』など、
奇談好きの作品に言及されている部分が、
マニアの心をくすぐります。

 

悲鳴
ホラー好きの為の、自己言及的なメタ作品

同好の士が集まって、
自分達の趣味について語るのは、
人生で一番の楽しみとも言えます。

しかし、
それに興味の無い者が、その趣味を端から見た場合、
その興味も理解も出来ない世界に夢中になっている様子は、
幼児的にも、変態的にも映ります。

作品の、
難解で不条理なオチに目を奪われがちですが、

やはり、本作での一番のヤマは、
ラストで千草が口にする、
「馬鹿じゃないの…」であり、

まるで『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 AIR/まごころを、君に』のアスカの台詞
「気持ち悪い」に通ずるものがあります。

 

ファインダーの向こうに
オチがちょっと良い話になるのも、
ある意味ホラーのお約束。

不思議な出来事も、
解釈の仕方によって、
前半のホラーが、
後半には良い話へと、如何様にも変わってしまう
この印象の変化が面白いです。

キャラ的には、この作品を読むと、
『ぼぎわんが、来る』で絆を深めたと言うよりは、
むしろ野崎は最初から真琴に惹かれていたかの様な印象になります。

 

などらきの首
よく短篇でまとめたなぁ、
という、構成の見事な面白い作品
起承転結の
導入部、
問題篇、
解決篇、
オチ、
という展開が見事です。

一見、怪異に見えるものでも、
それを冷静に見れば、
それはホラーでは無く、ミステリであるかも知れない、
つまり、
理性的に判断すれば、解決出来る問題であるかもしれないのです。

からの、

ホラー的なオチ。

スイカのジャック・オ・ランタンで、
何となくオチが予想出来ますが、

それを見事にまとめ、
まるで三津田信三の「刀城言耶」シリーズみたいな、
ホラー・ミステリに仕上げているのが面白いです。

そして、本作にて野崎は、
まるで「妖怪ハンター」の稗田礼二郎の様な活躍をしつつ、
「X-ファイル」のスカリー捜査官みたいに、懐疑主義者でありながら「怪異によく遭遇するタイプ」、
の様なキャラ付けになっています。

 

  • ホラーのタイプ

ホラーと一言で言っても、
それも、色々と細分化されます。

ゴシック・ホラー
サイコホラー、
スプラッタ・ホラー
ミステリ・ホラー、etc…

本書収録作も、
一言でホラーと言えども、
そのバリエーションは多彩。

「ゴカイノカイ」は怪談、
「学校は死の匂い」は幽霊話、
「居酒屋脳髄談義」は夢オチ、
「悲鳴」はメタネタ、
「ファインダーの向こうに」はノスタルジック・ホラー、
「などらきの首」はミステリ・ホラー。

それぞれ、
ラストで「落す」事を意識した話(=オチのある話)となっていますが、

そのホラーとしての読み味が少しずつ違います。

これは、勿論、
作者自身が意識して差別化したと思われ、

まだ作家としてキャリアが浅い作者が、
どれだけホラー作家としてやって行けるのか?

それを実験している様子をひとまとめで読めるというのは、
大変興味深いものです。

 

  • キャラ物としての本作

作品自体の面白さ、
それに加えて、
バリエーションの面白もあります。

そして本書には、
「比嘉姉妹」シリーズものとして、
キャラクターを色々と使える、

これも実験している印象があります。

それぞれ、
怪異に遭遇する(巻き込まれる)役の「野崎」、
怪異と対峙する役の「真琴」、
ジョーカーとして「琴子」が配置されています。

真琴で解決が無理な事件は、
『聖闘士星矢』のフェニックス一輝みたいな感じで琴子が出て来るのかもしれません。

『ぼぎわんが、来る』の様に、
今後もそういう感じで進んでいくのかもしれませんし、

一方で、そういう読者の予想をクライマックスで裏切った、
『ずうのめ人形』みたいな作品もあり、

それを二作目に書いたのは絶妙だと、今なら言えます。

 

いずれにしても、
キャラクターを描く事で、今後このシリーズでどれだけの事が出来るのか?

その事を探りつつ、
世界観と愛着を拡げる作品集とも、
本作は言えるでしょう。

 

  • ちょっと言わせて、本書の表紙

私が本屋で本書を探した時、
中々見つけられませんでした。

何せ、前二作(『ぼぎわんが、来る』『ずうのめ人形』)の印象があったもので、

まさか、
こんな味もそっけも無い、
文字だけの表紙なんて、思いもしませんでした

 

前二作の文庫版の表紙は、
往年の角川ホラー文庫を彷彿とさせる、

ちょっと意味が分からない感じの独特の雰囲気が出ていて好きでした。

それが、
今回は文字だけって、、、

一緒に並べても、
統一感がないでしょ!

映画の公開に併せ、
表紙でイメージを固定するより、
文字のみで先入観を排除したのかもしれません。

しかし、
電子書籍を推進しない現在の状況で、
紙の本を買わせたいと思うのなら、

そういう、
「本を買う人間の心理」
みたいな物を考えて欲しいと思いました。

 

 

多彩なホラーのバリエーションを描きつつ、
それぞれにオチを用意し、短篇としての面白さを描いた作品集である、『などらきの首』。

キャラクターを描く事がマイナスにならず、
物語を有効に書く役回りも担っています。

今後も、
「比嘉姉妹」のシリーズが続くのか?

それとも、
新しいホラーの境地を目指すのか?

『ぼぎわんが、来る』の映画化で、
今後ますます注目される、それだけは、間違い無いでしょうし、
その期待に添う作品が、今後も読めればと思います。

 

 

『ぼぎわんが、来る』はコチラのページ

『ずうのめ人形』はコチラのページにてそれぞれ語っております。

 

 

書籍の2018年紹介作品の一覧をコチラのページにてまとめています

 


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