映画『search/サーチ』感想  最早、プライベートなど無い!?SNS社会の恐怖!!


 

妻のパムを亡くし、娘のマーゴットと二人暮らしのジョン。生ゴミを捨てっぱなしで友人の家に行ったマーゴットを Face Time で叱るジョン。徹夜で勉強会をすると言っていたマーゴットだが、その深夜、熟睡しているジョンの元に彼女から連絡が入っていた。翌朝、ジョンは折り返し連絡するのだが、、、

 

 

 

監督はアニーシュ・チャガンティ
インド系アメリカ人。
GoogleのCM製作を経て、
本作が長編映画初監督作。

 

出演は、
ジョン・チョー:デビッド・キム
マーゴット:ミシェル・ラー
ピーター:ジョセフ・リー
ヴィック捜査官:デブラ・メッシング 他

 

 

本作『search/サーチ』には、
先ず、映画の内容以前に、特徴的な点があります。

先ず、

アメリカ映画でありながら、
メインキャラがアジア人。

 

これが中々珍しい。

そして、

映像が、
全てパソコンやスマホなどの画面、
主にSNS系の表示画面で構成されています。

 

キャスティング、
そして、
アイデアの部分において、
チャレンジした作品と言えます。

 

そう、
そして、このチャレンジが成功したと言えるのは、

内容も面白いからです。

 

翌朝、
娘にテキストメッセージを送るが反応は無し。

次第に不安を募らせるジョンは、
弟のピーターに相談、
マーゴットの知り合いに連絡を取れと言われます。

娘の友人の連絡先を何一つ知らないジョンは、
亡くなった妻のパソコンにログイン。

そこから、
マーゴットの中学校時代の友人アイザックのアドレスを見つけ、
連絡します。

アイザックの母親と連絡が取れたジョン。

彼女が言うには、マーゴットを誘って、
皆で山へキャンプに行ったとの事。

電波が入らないのだろうと言われ、
ひとまず落ち着いたジョンですが、

折り返し連絡して来たアイザックが言うには、
マーゴットはキャンプに来なかったと言います。

ジョンはここに来て遂に警察に連絡をとります、、、

 

 

失踪した娘の痕跡を探す父、ジョン。

娘は何故、何処に消えた?
というミステリー部分、

そして、
SNSやパソコンを駆使し、
その足取りが徐々に解明されて行く、
サスペンス部分。

 

このハラハラドキドキの連続が、

延々と続いて行く作品と言えるのです。

 

実際、
「こうしたら面白いかもね」という誰でも思いつくアイデアを、
ちゃんと作品として面白いものに仕上げた、

この事が凄い作品なのです。

 

普段見慣れたSNSの画面が、
途端にサスペンスの場面に変わる。

この感覚、摩訶不思議!!
だけど、良いじゃない!

『search/サーチ』、これは必見の映画ですぞ。

 

 

  • 『search/サーチ』のポイント

PCやSNSの画面のコラージュで形成されたビジュアル

謎とサスペンスの連続

SNSは何でも知っている、、、

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 


スポンサーリンク

 

  • アイデア勝負でサスペンスフルな展開

本作『search/サーチ』は、
PCやスマホの画面、
SNSのログ画面、
ニュース映像、YouTube の動画、などなど、
様々なコンピューターの画面をコラージュして作られた作品です。

 

同様の手法を採った作品に、
『アンフレンデッド』(2015)という先行作品があるので、
このアイデアが新しいという訳ではありません。

とは言え、
『アンフレンデッド』がホラー映画だったのに対し、
本作はミステリーとサスペンスの映画。

このジャンルの違いが、
そのまま作風の大きな違いとなっています。

 

『アンフレンデッド』は、
その真新しいアイデアをホラー表現の一部として使い、
「恐怖の見せ方」を追求した作品と言えるものでした。

一方本作は、
現実に即した「娘の失踪」という謎があり、
その事件に対処する父親の奮闘の様子が、
そのまま観客の思考とリンクする事になります。

謂わば、
展開は娘の失踪の謎に迫るサスペンスであり、
謎解きベースのミステリーでもあるのです。

 

娘の知り合いを知らないので、
亡き妻のPCにログインし、過去の娘の知り合いに連絡を取るという発想。

マーゴットのPCから、
娘のフェイスブックやGメール、
ツイッターやインスタグラムにログインしようと、
パスワードの設定を次々と変えて行く様子。

チャットの履歴を読む事で、
ある事無い事妄想し、
疑心暗鬼になって暴走してしまう様子。

 

この時、観客は、
画面上に現われるPC画面等の様々な情報を見て、

父のジョンと同じように、
「事件の手掛かりを掴むには、どうしたら良いのか?」
と、考える事になります。

画面上のヒントを見て、
ジョンと共に、思考を巡らせるのです。

 

『アンフレンデッド』は、
観ている間は没入感がありますが、

あくまで、「人の不幸」という前提がありました。

一方本作『search/サーチ』は、
まるでジョンと一緒に事件の謎を解いている様な感覚があり、
より没入感が強い作品となっています。

この工夫が、
本作が面白いキモの部分だと思われます。

 

画面上に、
観ている人が「ん?」と思って気付くレベルの些細な手掛かり、

ジョンが気付く一瞬前くらいのタイミングで観客が気付ける様に画面上にヒントが置いてあります。

この「謎解きの成功体験」が得られるレベルをキープし、

それが、上映中に、何度も続くように適度に配置されているのです

まるで、上質なミステリ小説を読んでいるかの様なハラハラドキドキを味わえます。

この、適度なレベルの謎解きの連続が、良い感じなのです。

 

なんだか、
うま~く、作った人の手のひらの上で転がされている感覚は否めませんが、

これだけの完成度を観せられたら、
面白さに唸らざるを得ません。

 

  • ジャンル映画としての『search/サーチ』

本作『search/サーチ』は、
ミステリ・サスペンス映画です。

その撮影形式は、

本作の描写が主に「ジョンが見ているPC画面のみで形成」という形式を採っている為、

さながら「疑似的なモキュメンタリー」と言える作品になっています。

 

元々「モキュメンタリー」という言葉が、
「疑似的なドキュメンタリー」という意味があります。

本作では、
「ジョンが娘の失踪事件の謎を解こうと奮闘する」様子の「疑似的なドキュメンタリー」を

PC、スマホ、SNSの画面などのコラージュで、
ダイジェスト的にまとめている

つまり、
「疑似的なドキュメンタリー」=「モキュメンタリー」を、
さらに疑似的に再現した構成と言えます。

 

また、
本作は「POV」作品だとも言えます。

「POV」とは、
「point of view」の事、

映画のジャンルとして簡単に説明すると、
カメラマンが撮影している主観視点が画面となっている作品です。

本作には、確かにカメラはありません。

しかし、
本作に映し出される画面のその殆どが、
「ジョンが見ている画面」になっているのです。

 

その象徴的な点があります。

喧嘩をしたジョンは、
アゴに怪我を負います。

Face Time の画像では、右側に傷が。

しかし、
ビデオ映像の画面を見ると、
実際に怪我を負っているのは左のアゴだと分かります。

Face Time はその仕様として、
自分の画面は左右反転で映る様です。

つまり、
画面を見ているのはジョンであり、

全てがジョン目線で作られており、
それがまた没入感を作り上げる要因となっているのです。

 

「モキュメンタリー」や「POV」の作品には、

『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』や
『REC/レック』
クロニクル
トロール・ハンター
『ハード・コア』など、

ホラーやSF作品が多いですが、

本作の様な
ミステリーやサスペンスの様な作品が、
一番没入感があるというのが、以外な発見でした。

 

  • 親と子

本作の面白さは、
そのリアルな人物造型にも支えられています。

父、ジョンは、
妻の死後、
娘のマーゴットとちょっとギクシャクした関係となっています。

そして、
世の中の大半の父親と同じで、
ジョンも娘の交友関係に詳しくありません。

それどころか、
娘はぼっち飯を食っていた!!

あの、
パリピがウェーイしている奥に、ひっそりと一人で食事しているマーゴットが映っている写真を見ると、
胸が苦しくなります。

また、他に、

ピアノを勝手に辞めていたり、

ライブ配信で本音を語ったり、

ハッパを吹かしたり(これは日本では違法ですが)、

一つ一つならば、
青春の過ちとして大目に見る黒歴史と言える様な事でも、

「失踪事件」と絡め、
一度に秘密を全部知ってしまうと、
全てが事件と関わる重大事項に見えて、
疑心暗鬼に囚われてしまいます

表面上のみコミュニケーションを取っているだけで、
内容のある会話が無い。

そんな親子の、
ちょっとギクシャクしてしまった関係を、
リアルの描写している、

だからこそ、
作品にもリアリティが生まれているのですね。

 

 

以下、本作のオチに関わる内容になります

 

 

本作では、
そんなジョンとマーゴットの二人が、
絆を取り戻して終わるまでの話ですが、

一方、
そんな二人と対称的な存在として設定されているのが、
ヴィック捜査官とロバートの親子です。

奇しくも、というか、制作者が計算しての事でしょうが、
父・娘のジョン・マーゴットと、
母・息子のヴィック捜査官・ロバートとが、
性別も対比関係になっています。

 

さて、作中にこんな会話がありました。

ヴィック捜査官の息子が嘘のボランティア活動で近所から募金をせしめた時、

どうやって、お隣さんに釈明したのだとジョンは尋ねました。

ヴィック捜査官はお隣さんに、
「その活動は本当だ」と、
お隣に説明したと言います。

 

ジョンは
「あなたが事件の担当で良かった」
と言いますが、

観客はこうツッコんだ事でしょう、

いやいやいや、何言ってんだよ!?

 

実は、この会話のシークエンスこそが、
本作のミステリ部分のキーになっている場面だと、
後で気付きます。

 

その会話で分かる様に、
ヴィック捜査官は息子に過保護気味。

「母の愛」とかなんとかいうホームページがあったり、

募金の話も考慮すると、

ヴィック捜査官は、
息子ロバートの過ちを正すより、
それを隠蔽する事に全力を注いでいる様に思います。

「あなた(ロバート)は悪くない、私が守ってあげる」
という発想ですね。

 

ジョンが、
事件の経過や弟のピーターに突っ込まれる事で、自分の過ちに気付き、

娘のマーゴットの気持ちに歩み寄る姿勢を見せたのとは、
正反対の反応です。

相手を理解しようとする事と、

相手の不都合な部分を隠蔽し、
自分の見たい部分しか見ないのとは雲泥の差があります。

 

親が子に向ける愛の形、

それは、ともすれば親の自己満足でしかない場合があり、

その一方的な押し付けが、
後々に悲劇を引き起こす事もある。

そういう事も、
本作は表現しているのです。

 

あと、どうでもいいことですが、

ヴィック捜査官が逮捕される時のライブ映像が良い所で止まって、
読み込み画面の「グルグル」が出るのは笑いました。

ライブ配信を見ていると、
一番盛り上がる場面で、配信画面が止まるのはよくある事

それを再現しているのですね。

 

  • 小ネタ解説

マーゴットの好きなポケモン、
「ユクシー」について。

ユクシーは、
ポケモンのシンオウ地方に生息する知識ポケモン。

人々に物事を解決する知恵を与えたと言われ、

ユクシーと目を合わせたものは、
記憶を一瞬で奪われると言い伝えられています。

 

参考画像:ユクシー

マーゴットの好きなポケモン、ユクシー

 

マーゴットは
母を喪った事の辛さを忘れたいのですね。

しかし、
母が遺した記録や思い出の数々が、
事件解決に繋がるヒントを生んだ一つでしたし、

結局は、母との思い出を父と共有したかったのが、
マーゴットの本当の願いだったのだと思います。

 

 

 

PCやSNSの画面のみで作られたという斬新なアイデア。

それを活かすのは、
モキュメンタリーのPOVという形式。

そして物語の展開は、
ミステリー、サスペンスであり、

作品のテーマとして、
親子愛を描いています。

 

作品と表現したいこと、
伝えたい事を、

簡潔に、
分かり易くまとめてある、

そういう丁寧な作りが面白さを支えている作品、
『search/サーチ』。

この完成度で、
初監督作、しかも、まだ20代。

末恐ろしい監督が、産まれた、
これは次回作も期待したい、
そう思わせる作品であります。

 

 

現在公開中の新作映画作品をコチラのページで紹介しています。
クリックでページに飛びます

 


スポンサーリンク