幻想・怪奇小説『魔術師の帝国《1 ゾシーク篇》』クラーク・アシュトン・スミス(著)感想  淫靡なる死と退廃に満ちた作品集!!

 

 

 

叔父の山羊を世話するジースラは、山間の怪しげな洞穴に誘われる。そこで遙かまで広がる平原と建築物を発見し、果樹から甘美なる実をもぎ食したのだが、、、

 

 

 

著者はクラーク・アシュトン・スミス
その発表された作品は全て短篇だという。
本邦で新刊本で手に入る作品集は現在、
『魔術師の帝国《1 ゾシーク篇》』(本書)
『魔術師の帝国《2 ハイパーボリア篇》』の2冊である。

 

本書『魔術師の帝国《1 ゾシーク篇》』は

ダーク・ファンタジーである。

 

遙か未来の地球、太陽は衰え、科学技術は失われ、魔術が勃興した世界、最後の大陸「ゾシーク」にて紡がれる物語である。

そこに漂うのは

死と、退廃の臭い。

 

ただ、破滅と臨終が待つ物語である。

しかし、この老い衰えた世界において、

死は終わりでは無い。
むしろ、新たな始まりであったりするのだ。

 

このダークな世界観、
好きな人は嵌って抜け出せない、
邪悪な宝石の様な魅力を持つ作品集である。

 

 

以下ネタバレあり


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本書には詳細な解説、そして著者の作品リストが巻末に記されている。
これだけでも十分に充実した一冊である。

過去の作品集にて重複するものも、このリストで確認出来る。

ただ、作品リストがあれども、肝心の作品の翻訳が限られた数しか無いのだが、、、

 

  • ダーク・ファンタジーの傑作

本書『魔術師の帝国《1 ゾシーク篇》』は、数多ある著者クラーク・アシュトン・スミスの作品の中でも、「ゾシーク」を舞台とした作品集である。

遙か未来の、退廃した地球、その最後の大陸「ゾシーク」の話である。

しかし、本書にて「ゾシーク」シリーズを全て網羅している訳では無い。
その点は少し残念ではある。

だが、この死と退廃に満ちた「ゾシーク」。
ダーク・ファンタジーとして負の魅力に満ちている。

ネクロマンサーが跳梁し、死者が跋扈する世界では、死ですら終わりでは無い
むしろ、全き終わりを迎えられれば、それが救いであると言えるのだ。

死が安寧をもたらさない世界において、自身の完全なる滅却を願う。
恐ろしく、退廃したこの世界にて、破滅を願う淫靡なる魅力。

この世界観にどうしても惹かれる。
嵌る人には、この死者の国がきらびやかに見えるだろう。

 

  • 作品紹介

本書『魔術師の帝国《1 ゾシーク篇》』は巻頭詩と全8篇の短篇からなる。
収録作品を簡単に解説してみたい。

ゾシーク
退廃した大地、ゾシークを謳う詩。

ジースラ
行くも地獄、戻るも地獄。
一度踏み越え罠に嵌ったのなら、絶望の道しか残っていない。
常に、人は自分が持っていないものを求めるものだ。
約束された破滅の物語である。

死霊術師の島
勝利を求め英雄的冒険をする者全てが報われる訳では無い
代替わりを狙い、謀反を果たしても思い通りにならないのはままある事である。
しかし、死を超越した世界で、愛する者の側で、思考もせずルーチンワークをこなすのはある意味究極の幸せかもしれない。

魔術師の帝国
死を超越する冒涜と、それに報いを与える死者達
悪逆な社長に反旗を翻る社員達みたいなノリで、爽快感すら漂う破滅の物語である。

ウルアの魔術
袖にされた逆恨みで、相手を破滅させる奴は確かにいる。
そいつを、逆に破滅させてやるという、これまた爽快な物語である。

暗黒の偶像
作品集の中で最も長い。
端から見たら、復讐という行為ほど無益なものはない。
邪悪な存在(のハズ)のササイドンが、理を以て復讐を諫めている点が面白い。
復讐心を以て自らを克己し、その行為自体は昇華するこれが出来ないから人生はままならないのだ。

忘却の墳墓
他人から警告を受けていても、いざ自分の事となると忘却してしまう
あるある話であるが、それで死んでしまっては笑えない。

最後の文字
これは破滅だ、罠だ、陰謀だと分かっていても、逃れられない不条理感。
最後の最後に悔やんでも、時すでに遅しである。

アドンファの園
不意の意識に駆られて犯した行為。
隠すべく行いでも、喉元過ぎれば覗いて見たくなる
その愚かさに対する報いは、勿論破滅である。

 

 

クラーク・アシュトン・スミスは長篇が無いという。

少し長めの「暗黒の偶像」ですら、もっと短めに削れそうな雰囲気だ。

これは、著者自身に「自分には長篇が向いていない」という意識があったからだそうだが、
むしろ、短めの「ワン・アイデア」にて物語を紡ぐ事が好きだったのかも知れない。

本書『魔術師の帝国《1 ゾシーク篇》』には、破滅の様子がバリエーション豊かに描かれる。

不条理なものもあり、因果応報的なものもあり、むしろ破滅が救いの様なものもある。

しかし、いずれの物語も、淫靡なる魅力に溢れた名作であると言えるのだ。

 

 

 


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さて次回は、『魔術師の帝国《2 ハイパーボリア篇》』について語りたい。こちらは、氷河に覆われんとする大地が舞台の話である。