漫画『拳奴死闘伝セスタス(8巻)』技来静也(著)感想  年に一度のお楽しみ!!俺達のセスタスが今年もやって来た!!

 

 

 

紀元50年。ネロ皇帝の開催した格闘大会、拳闘の部、2回戦第二試合。かつてセスタスとも対戦したポンペイの拳闘士エムデンは、大会本命とも言われる、ギリシアの「四大大会」を制覇したソロンと相対する、、、

 

 

 

 

作者は技来静也
著作に
『ブラス・ナックル』
『拳闘暗黒伝セスタス』がある。

本作『拳奴死闘伝セスタス』は
掲載誌を
「ヤングアニマル」→
「ヤングアニマル嵐」→
「マンガPark」と変更しつつも、連載継続中。

 

 

『拳奴死闘伝セスタス』。

『拳闘暗黒伝セスタス』に続く、
「セスタス」シリーズの第二部です。

「セスタス」を知らない人に、
現在の状況をざっと説明すると、

「拳奴」のセスタスは、
自己実現の為に、ネロ皇帝が主催した
拳闘大会(ボクシング)に出場します。

ギリシア各地から強者が集まり、
現在はトーナメントを行っている最中です。

 

…しかし、
寡作な作家である為か、
コミックの刊行ペースはここ数年、
年に一回、春先に出版していました。

それが、今年は中々刊行されなかった!!

前巻の予告では、
「2018年春頃刊行!!」とされていましたが、

実際の刊行は10月。

最早、秋。

ともあれ、刊行されて一安心です。

 

 

さて、
現在、格闘トーナメント篇とも言える、
『拳奴死闘伝セスタス』ですが、

本巻はサブキャラ同士の戦い。

一方は、
かつて主役のセスタスと死闘を繰り広げた「エムデン」。

一方は、
下馬評にて、大会本命と言われる実力者「ソロン」。

過去のライバル的な強キャラが勝つのか?

最強と言われる、ぽっと出のキャラが勝つのか?

 

読者に馴染みがあり、
クセのあるキャラクターであるエムデンが勝つのかもしれないし、

過去の強キャラを噛ませ犬として粉砕し、
読者にインパクトを与える為にソロンが勝つのかもしれません。

どっちが勝つのか全く予想が付かない。

 

これだから、
格闘マンガにおいて、
トーナメントでのサブキャラ同士の戦いは面白いのです。

 

しかも、
この二人はキャラ付けが正反対。

片や、
奴隷として冷遇され、
女にもモテず、
空気も読めず、
しかし、自分の得意な事は「拳闘」のみと、
戦いのみに打ち込んで来たエムデン。

片や、
拳闘士として成功し、
名声を恣にし、
家族と幸せな家庭を築いているソロン。

 

地元では名を馳せていますが、
未だ何者でもない者と、

成功を掴んで、
栄光と実力を兼ね備えた者。

つまり、
ソロンとエムデンの戦いは、

持つ者と、
持たざる者の戦いでもあるのです。

 

ネクラな陰キャのチビの強面が勝つのか?

人に愛された、イケメンの天才が勝つのか?

 

そういう意味でも目を離せない戦い、
それが、
『拳奴死闘伝セスタス』の8巻で繰り広げられるのです。

 

 

  • 『拳奴死闘伝セスタス(8巻)』のポイント

持つ者と、持たざる者との戦い

体格差、技術差のある相手との戦い

負け犬が勝つ方法とは?

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 


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  • キャラと信条のぶつかり合い

本巻『拳奴死闘伝セスタス』の8巻は、
前半の山場とも言える戦いと言えるのではないでしょうか。

内容的には、
7巻のセスタス対ムタンガも大いに盛り上がりましたが、
如何せん、
主役のセスタスが勝つという事は予め予想が付くため、
その分の「ハラハラ感」が損なわれていました。

一方、
サブキャラ同士のエムデンソロンという構図は、

過去の強キャラV.S.下馬評最強キャラ という、面白いもの。

読者に馴染みのあるエムデンが勝って、
3回戦にてセスタスとリベンジマッチをする展開もあり得ますし、

エムデンを噛ませ犬として、
ソロンという新規キャラに魅力付けをしてセスタスと戦うという事も、
充分考えられるからです。

 

そういう、
「物語の展開」というメタ的な目線で読んでも面白い構図ですが、

それに加えて、
エムデンとソロンという人物造型を真逆に作り、対立を煽っている所に、
この対戦の面白さ、興味深さがあります。

 

ソロンは、
既に拳闘の世界で成功し、
名声と栄光を手にし、
家族と幸せな家庭を築いている人格者。

高身長で、イケメンです。

一方のエムデンは、
チビの強面。

性格も歪んでおり、
空気の読めない感じは、
決して関わり合いになりたく無いタイプの人間です。

 

しかし、です。

エムデンはそれでも魅力的なキャラクターなのです。

一意専心の頑固さは、
ある意味クソ真面目と紙一重。

誰にも理解されずとも、己の道を突き進む様子は
修行僧の様な求道者の印象、
ある種の神々しさすら感じます

そして、
エムデンの歯に衣着せぬ物言いは

社会生活で相手を忖度して本音を言えない私の様なタイプの人間からすると、

心の声を代弁しているかのような爽快感も、
確かにあるのです。

それが現われているのが、
p.63~66 の場面です。

 

この場面は、
握手を差し出すソロンに対し、
それを拒否し、悪態を吐くエムデンという構図。

傍から見ると、
狂犬の様に、理不尽に相手に噛みついたエムデンを、
ソロンが難なくいなした場面に見えます。

確かにそうですが、
エムデンがソロンに噛みついたのは訳があります。

それは、
反逆者であるエムデンには、
相手が「成功者」であるだけで、敵なのです。

エムデン自身は、
ソロンに恨みは無い。

しかし、
彼の居る立場、そこから起因する余裕の行動、

それを、
未だ成功していない自分が受け入れる事は断じて拒否せねばならない、

何故ならそれは、
相手の施しを受ける事であるからです。

拳闘という、
己の力のみを恃んでのし上がろうとするエムデンにとっては、
それは敗北以下の屈辱であるのです。

このメンタリティが、エムデンの魅力。

頑固なまでの一途さに、ある意味、清々しさがあります。

 

確かに、
社会生活という観点からすれば問題児のエムデンですが、

必ずしも悪漢では無いという所がミソなのです。

その証拠に、
対戦相手のソロンに対しては悪態を吐き、
「家族なんぞ連れて来やがって」とまで言ったエムデン。

その、ソロンに対しては、真正面から突っ張っていましたが、
エムデンを睨むソロンの娘の視線からは、
敢えて目線を外しています。(p.68、4コマ目)

子供をダシに使ってソロンを脅しましたが、

子供自身を威嚇してはいないのです。

 

エムデンが憎むのは、
あくまでも、
権力や自分を阻む障害という訳です。

 

  • 格闘技における体格差

かくして、
陰キャV.S.人格者、みたいな構図が成り立ちましたが、
それに加えて、
この対戦には更に、

実力差、体格差のある相手との戦い
という観点からも見る事が出来ます。

 

おおよそ、全てのスポーツにおける共通点。

それは、
デカいやつが、強い
という、絶対真理です。

サッカーのオフェンスなど、
一部例外がありますが、

本作の様な打撃系格闘技においては、
それこそ、揺るぎない事実なのです。

ボクシングなどは、
細かく階級が分かれている事から、
その事実が伺い知れます。

 

かつて、
打撃系格闘技として一世を風靡した「K-1」。

その「K-1」をして、
他の選手を圧倒する巨人のセーム・シュルトが参入した事により、

あまりの強さに競技自体が崩壊し、
格闘技自体の人気が凋落する一つの要因となった事は、
未だ記憶に新しいです。

人々は知ってしまったのです。

「テクニック云々より、結局、デカいやつが正義なんだ」と。

 

このソロンとエムデンも、
一目で体格差のある戦いです。

およそ、頭一つ分。

身長にして、20センチ近くは違う印象です。

 

それに加え、
実力差も歴然としたものがあります。

相手の攻撃に合わせて、

同じ攻撃を後から出して、
自分の攻撃だけを当てるという「エコー」という神技を使う、ソロン。

それに対して、
エムデンは防御をかため、
自分からは攻撃せずに、
ジリジリと間合いを詰め、
カウンターを狙う作戦に出ます。

 

しかし、
地力に違いがあり、

単純なボクシング技術の差で、

防御を固めたエムデンは、
動く的として処理されてしまいます。

 

体格差、そして、
実力差もある相手に対して、
弱い者は勝つ術があるのでしょうか?

あります。
それを狙ったのがエムデンなのです。

 

  • 弱き者の下克上!?

体格差に加え、
実力差もあるとなれば、

普通は
100回戦っても、
1回勝てるかどうかという確率でしょう。

しかし、
その1回を、
最初の対戦に持って来ることが、
現実に可能です。

それが、「奇襲・奇策」です。

 

どんなに強い相手でも、
後ろから後頭部を殴れば、ぶっ倒せる。

それと同じで、

相手が意識しない方法・戦法で意表を突けば、
それが切っ掛けで相手を倒す事が出来る

いわゆる、
人対策を行った、「初見殺し」の作戦です。

これは、
格闘技でも、球技でも、
将棋などの、対戦型のゲームにおいてすら適用可能な、

弱き者が強き者を倒す、
「ジャイアント・キリング」を成す一つの方法論でもあります。

 

エムデンが狙ったカウンターとは、

相手が出す拳自体に、自分の攻撃を合わせるという奇策、
その名も「砕刃」。

エムデンの師匠が「引く」ほどの過剰な修行により、
「鉄拳」とも言える拳の硬さを手に入れたエムデン。

この一見、意味の無い、
自己満足としか言えない修行が、
後の戦いに活きるという展開は、
熱いものがあります。

 

かつて、
同じ格闘技漫画の『なつきクライシス』で、
截拳道(ジークンドー)を使うルドルフ坂田も使った、

「相手の攻撃自体に、攻撃を合わせる」
という、アイデア。

そして、
それを可能にしたのは、
絶対に諦めないという、打たれ強さと、
それを支えた、一念、岩をも通す修行と自信。

これにより、
「相手の意識外から放つ、究極のカウンター」が成功したのです。

 

これで、ほぼ試合は決定したかに見えますが、

しかし、

巻末の予告篇では、
ソロンは拳では無く、掌底にてエムデンを打倒しているシーンが載せられています。

拳が使えないから、
掌底に切り替えたのでしょうが、
それでも、自分が攻撃する度に、腕自体が受けるダメージは大きいものがあります。

 

たった一試合に、全てを懸けて戦うエムデンに対し、

持てる者たるソロンが、
諸刃の剣で戦う事を選んだ様にも見えます。

 

試合自体の決着は、
次巻に持ち越し。

ソロンとエムデンの戦いは、
度を超えた意地の張り合いという、
人間力を試される試合になりそうな雰囲気。

コレは、
今から次巻が待ち遠しい。

しかし、
それはまた1年先という、

何とも悩ましいお預け状態を喰らっているのです。

 

(ただ、表紙がソロンだったので、エムデンが勝つ可能性が濃厚だと思っているのは内緒です)

 

コチラは、セスタスシリーズ第一部『拳闘暗黒伝セスタス』の最終巻

 


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