漫画『増補DX完全版 劇画プロレス地獄変』原田久仁信(著)感想  煌びやかな舞台の果ての哀しき人間賛歌!!

 

 

 

時は2001年。ジャイアント馬場亡き後の全日本プロレス。社長の三沢光晴と経営権を持つG・馬場夫人、元子との間で対立発生、全日は選手の大量離脱を招く。そこに、新日本プロレスの永島勝司が接触して来て、、、

 

 

 

作者は原田久仁信
その絵の人物模写が独特な味を持っている。
他の作品に
『プロレススーパースター列伝』(原作:梶原一騎)
『男の星座』(原作:梶原一騎)
『KIMURA』(原作:増田俊也)等がある。

*本書は作者の過去の単行本
『夢十夜』
『プロレス地獄変』
と被った収録作があるので、ご購入の際はそれを確認した方が良いだろう。

 

かつて、プロレス劇画で一世を風靡した原田久仁信の実録系プロレス漫画『増補DX完全版 劇画プロレス地獄変』。

アクション描写もあるにはあるが、本書のメインは

プロレスという特異空間に嵌った人間達のドラマである。

 

煌びやかなマットで、ど派手なアクションを魅せるプロレスラー。
しかし、

行状が派手な分、落ちぶれる転落具合もまたど派手である。

 

詐欺、相互不信、疑心暗鬼、、、
巨額なカネが動けば、そこに日常とは違った異世界が現出する。

そこでもがく、人間の哀しいドラマが余すこと無く描写される。

 

プロレスの知識があれば楽しめる。
しかし、

プロレスの知識皆無でも、
そのドラマ部分の面白さで十分に楽しめる。

 

表の派手な部分だけでは無い。
プロレスの裏舞台のドラマを描いた『増補DX完全版 劇画プロレス地獄変』。

独特な絵に気後れせずに読めば、ハマる事間違い無しの極太の一冊である。

 

 

以下ネタバレあり


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  • コストパフォーマンス高過ぎの値段設定

本作『増補DX完全版 劇画プロレス地獄変』はp.493、それでいて値段は800円(税別)。
驚きの値段設定である。

それもそのはず。
本作はマイナーチェンジ三冊目である。

作者の過去の単行本、『夢十夜』。
その内容を一部含む『プロレス地獄変』。
その『プロレス地獄変』に、書き下ろしのWJ外伝「リキプロ哀歌」を加えたのが本作『増補DX完全版 劇画プロレス地獄変』である。

それでも、良心的なお値段。
過去作を持ってるなら必要ないが、そうで無いならお買い得である。

 

  • プロレス人間哀歌

本作『増補DX完全版 劇画プロレス地獄変』はプロレスの漫画である。
とは言え、アクションメインでは無く、プロレスという特異な異空間を舞台にした人間ドラマがメインである。

何処まで事実か本当か?その真偽は定かでは無い。
しかし、そこに蠢く人間模様は真実である。

巨額なカネが動くプロレス興行。
景気が良ければ儲けも大きいが、ハズれると途端に莫大な借金を背負う。

見える表の煌びやかな部分だけでは推し量れない、
その裏には様々な人間模様が描かれる。

大きな波(ブーム)を作っても、それが自分の器より大きかったら飲み込まれ、為す術なく流される
結果、多くを失い表舞台から去って行くのだ。

そんな自らの栄光の過去を懐かしむ者、再起を図る者、へこたれず次へと移りゆく者。
そして、人が羨むような舞台に立っていても、その内実は満たされず、「人生こんなハズじゃなかった」と苦い後悔の念を覚える者。

これら、本作で描かれる人間模様は、人が誰でも思い悩む事であり、それはどんな立場の人間でも代わらないのだと教えてくれる。

だからこそ、本作は面白い。
全くプロレスを知らなくとも、その人生は自分と何ら代わることがないからだ。

何かをやろうとして、それが叶わず志半ばで頓挫する
思えば、殆どの人間がそうなのではなかろうか?
皆、人生に満たされない何かを感じているのではないだろうか?

それが、本作で描かれる人間模様である。

 

  • コンビニ飯はまだまだである

本作では、落ちぶれた人間の食事シーンに、「コンビニ飯を食べる日々」という描写がある。

しかし、本当の貧乏人は「コンビニ飯」なんて高くて食べられない
一食400~500円などもっての他である。

せいぜいがスーパーの閉店前安売り半額セールが関の山である。

私などは、一食300グラムのパスタ(90円)と、納豆3パック(60円)で飢えを凌ぐ日々である。

哀しいかな、これでも腹だけはふくれるのだ。

 

 

人生の最盛期は夏の夜の夢の如し。
それが終われば、秋が来て、途端に苛酷な冬が訪れる。

それに備えている人間ばかりではない。
ある者は冬の寒さに耐えきれず破滅し、
ある者は越冬出来ず、他の場所へ移ってゆく。

堪え忍び、再起の時を待てる人間だけに、春は訪れる。

そんな人間の一生のドラマの、夏~冬を描く本作『増補DX完全版 劇画プロレス地獄変』は、たまらない魅力のある作品である。

 


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さて次回は、これまた超人!?男の筋肉がパンツ一丁で踊り狂う傑作、映画『300〈スリーハンドレッド〉』について語りたい。