小説『殺生関白の蜘蛛』日野真人(著)感想  秀次を襲う陰謀!?解決せざるやいなや!?

 

 

 

舞兵庫は太閤秀吉に呼ばれ、松永弾正が残したと言われる茶釜「平蜘蛛」を探せと命ぜられる。時を同じくして、関白秀次にも呼ばれ、同じ命を拝する。自分を取り立て、並ぶ者のない権勢を誇る秀吉か、現在の主君である秀次か、どちらを立てるべきか、、、

 

 

 

著者は日野真人
本書『殺生関白の蜘蛛』の原題「アラーネアの罠」にて第7回アガサ・クリスティー賞の優秀賞を受賞。

また、指方恭一郎・名義で2011年に『銭の弾もて秀吉を撃て――海商 島井宗室』にて第3回城山三郎経済小説大賞を受賞している。

 

本書『殺生関白の蜘蛛』はミステリ賞に応募された小説である。
とは言え、

基本は歴史物。

 

絶対的権力者であった秀吉と、
その傀儡と見られ、しかし、関白という最重要地位にいた秀次。

二人の権力者が並び立ち、不穏な空気が漂った末に迎えた、いわゆる

秀次事件、そこへ向かう顛末を描いている。

 

ミステリ物として、

何故、秀吉と秀次は「平蜘蛛」を求めるのか?

 

この謎から始まり、
暗躍する石田三成や納屋助左衛門、そして見え隠れするイエズス会の陰、、、

これらが織りなす権力と時代の流れを歴史ドラマとして描いている。

歴史に詳しい方なら「こういう物語を作ってきたか」と唸るだろう。
また、全く歴史に疎い私の様な人間でも「秀次事件」とは何ぞや?と知る切っ掛けになるし、単純に歴史ドラマとしても楽しめる。

良くまとまった面白い作品だ。

 

 

以下ネタバレあり


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  • 「秀次事件」とは?

まず、本作『殺生関白の蜘蛛』が作られる元となった歴史上の事件、「秀次事件」とは何か簡単に解説してみたい。

秀吉は天正19年(1591)8月5日に嫡子の鶴丸を喪う。
そして、同年12月、秀次に関白の座と聚落第を譲る。

これは、自らの後継者は「秀次」としているかに見える。
とは言え、大阪城は依然秀吉が支配していた。

そして文禄2年(1593)、秀吉に男子の秀頼が生まれる。

文禄4年(1595)。
7月3日、石田三成や4奉行が訪れて、「秀次に謀叛の意あり」という巷間の噂の真偽を糺す。
7月8日、秀次に伏見出頭の命が下が、登城も拝謁も許されない。
7月10日、秀次は高野山青巌寺に出家する。
7月15日、秀次は切腹を命じられ、果てる。
8月2日、秀次の係累、30名程(諸説あり)処刑される。

秀吉が、一時は後継者としたハズの秀次を処刑したのは何故か?

これには諸説あり、
傀儡としての立場をわきまえなかった秀次を処した、
朝鮮出兵に反対したから、
将来の後継者争い、秀頼vs.秀次という禍根の芽を摘んだ、とも言われる。

本書『殺生関白の蜘蛛』では、これらの諸説を上手くまとめ、一つの物語にしている。
「ミステリとして使える!!」と作者は思ったに違いない。

……秀吉が秀次に切腹を命じるまでは分かる。
将来の権力争いを絶ったという見方もあろう。

だが、秀次の血筋全てを抹殺せしめる残虐ぶりには声を失う。
大した徹底ぶりだが、これにより豊臣家の係累も「秀頼」のみとなり、後の豊臣家断絶に繋がっているのだ。

 

  • 『殺生関白の蜘蛛』という題名

本書の題名ともなっている、「殺生関白」。
この言葉の解釈にも諸説ある。

元々は「摂政関白」という言葉と掛けて、
残虐秀次という意味で、「殺生関白」と言っているのだ。

果たして、秀次は巷間に悪く言われる程の暗愚だったのか?

これについては、秀次に悪い噂を流して関白の座を追い落とそうとする秀吉側の陰謀という説もあるそうだ。

真相は分からぬが、どちらにしろインパクトのある言葉なので、何も知らない一般人は言葉のイメージだけで秀次を悪人だと思ったハズだ。
イメージ戦略の恐ろしさは、400年前から使われているのだ。

さて、本書は作品応募時の原題は「アラーネアの罠」という題名であった。

「アラーネア」とはラテン語の「蜘蛛」の事であろう。

しかし、ぶっちゃけぱっと見のインパクトが無い。
「アラーネア」と言われても、ハテ?何の事?と思うだけである。

一方、『殺生関白の蜘蛛』と言われた時のインパクトは強い。

まず「殺生関白」がパワーワードである。
それが「蜘蛛」とどう関係があるのか?
「蜘蛛」も殺してしまうのか?
と、色々想像してしまう題名で、思わず本を手に取ってしまう。

「アラーネアの罠」と『殺生関白の蜘蛛』が並んでいたならどちらを読みたいか?
題名の印象が如何に大事かと教えてくれる。

 

 

本書『殺生関白の蜘蛛』は、「秀次事件」というインパクトのある事件を元に歴史ドラマとして仕立て、ミステリ的解釈を施した物である。

時代劇としての面白さ、
アクション描写もあり、
歴史解釈ものとしてのミステリの魅力もある。

盛り沢山の内容を、面白い物語として上手くまとめたのは素直に唸らせる。

歴史好きも、ミステリ好きも、等しく楽しめる作品だろう。


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さて次回は、上手くまとめるより情念を落とし込んだ作品、小説『かにみそ』について語りたい。