恐竜が出るという辺境へと足を運んだ探検隊。そこで見つけたのは、ダチョウ以下の鳥の足跡だった。そんなネタが許されるハズも無く、縮尺を誤魔化しながら、大袈裟に恐竜の足跡だと演出するクルーだったが、、、
著者は草上仁。
1981年、ハヤカワSFコンテスト佳作入賞。
短篇の発表が多いが、単行本未収録の作品も多いらしい。
著作は多数あれど、
新刊で購入出来る作品がほとんど無い。
代表作に、
『くらげの日』
『ホーンテッド・ファミリー』等がある。
映画の『君の名は。』(2016)が流行った要因って何でしょうね?
色々あるでしょうが、
その一つとして、
「口噛み酒」があると思います。
三葉ちゃんが、
一回噛んだお米をでろ~んと出して酒とする。
不思議な感覚がありますよねぇ…
それはともかく、
本書は、
口噛みならぬ、
草上仁の『5分間SF』。
作品は多数あり、
近年も発表していながら、
現在、
その著書が、手に入らず。
本書は、
久しぶりの新刊となります。
そんな本作の内容は、
これぞ、清く正しい王道SF短篇集。
題名に「5分間」という時間が入っている通り、
気軽に、短時間で、サクッと読めるのが、
本書の良い所。
収録作は、
短篇、ショートショートのSFが、16篇。
まぁ、「5分間」というのは言い過ぎで、
中には、読むのに10分以上かかる作品もありますが、
「短時間で読める作品」という意味合いを込めた題名だと解釈すべきですね。
それでいて、
内容が疎かという訳では無く、
SFらしい、
ワンアイディアを活かした作品
に仕上がっています。
SFのショートショート、短篇の名手として、
星新一の名が挙げられると思いますが、
本書は、
正に、その系統の作品集。
誰が、何時読んでも、
その面白さに唸らされます。
こういうストレートなSF作品は、
最近、逆に珍しい印象。
温故知新というか、
こういう作品こそ、
SFの王道であり、
誰しも、最初に好きになった頃の、
SFの空気感のある作品集です。
『5分間SF』、
誰が、何時、何処で読んでも面白い作品集です。
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『5分間SF』のポイント
サクッと読めて、パッと面白い
ワンアイディアで挑む、王道SF
温故知新、むしろ、懐かしいが、新しい読み味
以下、内容に触れた感想となっております
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収録作品解説
では、収録作品を簡単に解説してみたいと思います。
本書は全16篇。
短篇というか、ショートショートとの境が曖昧ですが、
その辺りは、フィーリングで(!?)。
大恐竜
本書の劈頭を飾る、ショートショート。
馬鹿馬鹿しくも、スケールの大きいネタが楽しい、
SF的なハッタリの面白さが堪能出来ます。
扉
扉の外は、真空か、否か?
一つ一つ、可能性を潰す事で、読者も一緒に、状況を推理して行く作品。
結局、えーい、ままよと丁半博打というオチが良い。
マダム・フィグスの宇宙お料理教室
料理人は、ある意味全能!?
しかし、
食べる方と食べられる方が転倒する鮮やかなラストの展開に、
宮沢賢治の『注文の多い料理店』を思い浮かびます。
最後の一夜
本書唯一の書き下ろし。
同じ出来事であっても、
人によって捉え方が違い、
事実とは、千差万別、十人十色なのです。
一人はメロドラマと思っていても、
それは実は、
ホラー的なミステリであるのかも、しれないのです。
カンゾウの木
どんな皮肉なオチなのかと、
構えて読むと、
文字通りの意味で使えない、
まさかの肝硬変というオチ。
脱力過ぎて、面白い、
こんなネタ、SF以外では許されませんヨ!!
断続殺人事件
タイムトラベルと、その解釈において、
法整備をしていなければ、罪に問えないという、
まるで、長篇でも使えそうなネタを、短篇に押し込んでいます。
量子論的には、
「殺人」を犯した時点で、
その時空(世界線)での罪が確定しているので。
犯人の言い訳は通じないと、個人的には思います。
半身の魚
先人の警告を無視した者が、
皮肉な結末を迎えるという、
まるで、お伽話の様な意味合いがあります。
ひとつの小さな要素
考えてみたら、
人生というものは、その殆どが、自分の死という悲劇で終わります。
結局、無理なのなら、
今という選択肢に、全力を尽くさねばならないのでしょう。
トビンメの木陰
菅原道真公に由来して、太宰府では「飛び梅」が有名です。
しかし、本作は、
まるで、自ら意思を持つかの様な、
植物の生息圏拡大の、壮大な冒険を描いて居ます。
なんと言うか、
寄生虫を宿す、
昆虫の運命を彷彿とさせる展開がある意味面白い所。
結婚裁判所
常識が引っ繰り返るというのが、
鮮やかなオチの短篇の面白さ。
本作は、その価値観の転倒部分が面白く、
オチの部分は、ちょっと弱く感じられます。
二つ折りの恋文が
奇妙な同居人の会話からして、
先ず、面白いです。
コン、コンと音を立てる、ウザさがある、
最初の描写が、実は伏線だったという、オチが面白いです。
ワーク・シェアリング
役所に行くと、
こんな感じで、作業を分担して、流れ作業化していますよね。
これが、更にウザくなったらこうなるという、
現実を過度に戯画化した未来予想図というのが、
SFの、そして、ショートショートの定番の面白さです。
ナイフィ
本気になっても、人を殺せないのが子供。
人を殺そうとしても、倫理観が働いて、それを疎外するのが大人。
しかし、
無垢な子供の残酷さと、
大人の高圧的な態度が合わさった時、
悲劇が起きます。
予告殺人
SFであるからこその、
ミステリ的なオチが気持ち良い作品。
生煙草
ネタとしては「トビンメの木陰」と似ています。
植物(?)が生息圏を拡げる為に、
適者生存といいますか、
人間を利用しているという発想が面白いですね。
ユビキタス
ユビキタス(ubiputous)の意味は、「偏在」。
あらゆるものにコンピュータが内蔵され、ネットワークが発達した社会とは、どんな有様なのか?
SFが提示するのは、近未来の警告であり、
それは、現代を敷衍しているからこそ、説得力があります。
本作は、どの作品も、
平易な言葉で書かれており読み易く、
それでいて、
SF的なワンアイディアを使い、
切れ味するどいオチで締めます。
これこそ、
SF短篇の王道であり、
だからこそ、
誰が読んでも面白い、
『5分間SF』は、そんな作品集に仕上がっていると言えるのです。
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