エス・エフ小説『トランスヒューマンガンマ線バースト童話集』三方行成(著)感想  これぞSF!?手軽でジャンクな面白さ!!

 

 

 

テクノロジーが進んだ未来、トランスヒューマンと呼ばれる種族は肉体から解き放たれ、自己を拡張現実で強化し、或いは仮想現実の中で好きに生きていました。そんな時代、「具体」と呼ばれる実体のみで生きているシンデレラという少女が居りました、、、

 

 

 

 

著者は三方行成
小説投稿サイト「カクヨム」に投稿された作品をまとめた本作にて、
第6回ハヤカワSFコンテストにて優秀賞を受賞してデビューした。

 

 

第6回ハヤカワSFコンテストでは、
大賞が現われず。

優秀作として本作が選ばれました。

近年は、
SFコンテストの作品は文庫で刊行が多いですが、
本作は単行本。

「カクヨム」での投稿という実績が認められた形でしょうか、

同じ「カクヨム」出身の「横浜駅SF」の高評価などから、

売れる、という判断が出版社側からなされたのだと思います。

 

 

さて、
肝心の、
『トランスヒューマンガンマ線バースト童話集』。

本作は、
童話由来の短篇SF小説6篇を収録しており、

有名な童話を元ネタとして、
SF的なガジェット、用語を駆使し、
ポップでジャンキーな感じで作りなおした作品です。

 

 

SFって、ちょっと小難しいイメージがあるかもしれません。

しかし、
本作は、
実際、良く分からない単語も多いですが、

基本、元ネタの童話があるので、

内容の方は解り易い感じになっております。

 

元ネタは、
「シンデレラ」
「竹取物語」
「白雪姫」
「アリとキリギリス」 etc…

 

内容をあらかじめ理解している分、
ストーリーも割と普通に理解する事が出来、

SF特有の屁理屈がこねくり回されている感も少なく、
抵抗なくスラスラと読めます。

 

投稿サイトでの実績があるという事は、
広く読まれたという事。

その点で、
読み手を選ばない面白さがある事が、ある程度保証されている作品集と言えます。

 

SFって元々は、
こういう気軽に楽しめるジャンルだったよな、

 

そういう事を思い出させてくれる作品集、

それが、『トランスヒューマンガンマ線バースト童話集』なのです。

 

 

  • 『トランスヒューマンガンマ線バースト童話集』のポイント

「童話」という元ネタがある事の分かり易さ

気軽に読める文章の読み易さ

分かり易さにブレンドした、大量のSF用語

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 


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  • 収録作品解説

先ず、収録作品の簡単な解説をしてみます。

短篇6篇からなっております。

 

地球灰かぶり姫
大事な劈頭を飾るのは、
「シンデレラ」。

軽妙な会話と、
SF的な技術が進化した世界、
それが「シンデレラ」のストーリーラインと相俟って、
尚且つ、ハッピーエンドなので、楽しく読める作品です。

 

竹取戦記
元ネタは「竹取物語」。

技術が進行したトランスヒューマンより、
更に進化したポストヒューマン、
それ以上の存在と目される、
カグヤの物語。

手軽に読めるSFモノとして楽しめます。

 

スノーホワイト/ホワイトアウト
元ネタは「白雪姫」。

ゲームで無双して日々のストレスを発散する、
引きこもり体質の陰キャ系人間のなれの果てを描いた作品。

オチの無情な切れ味も含めて、
収録作品の中でも一番面白く感じます。

 

<サルベージャ>VS攻殻機動隊
これは元ネタが分かりません。
「さるかに合戦」ではないようですが、、、
不勉強で申し訳ないです。

攻殻機動隊は、
漫画原作、アニメにもなった作品。

「サルベージャ(salvager?)」とは、
難破船などの、海の底に沈んだ船から、
お宝を「サルベージ(救出)」する人、だと思います。

ちなみに、「salvage」という言葉には、
「ゴミくずを拾う」という意味もあります。

甲殻類が主人公の奇妙な物語ですが、
オチがB級ホラー的で笑える作品です。

 

モンティ・ホールころりん
「モンティ・ホール問題」と「おむすびころりん」を結びつけた作品。
「モンティ・パイソン」とは関係ありません、多分。

肝心の元ネタを知らないという致命的な知識不足がありましたが、
実際、元ネタを調べてみると、

「モンティ・ホール問題」よりの作品なのだな、
と分りました。

そういう思考実験があったと知れたのが収穫です。

 

アリとキリギリス
元ネタは「アリとキリギリス」。

キリギリスの描写が、
現代を生きる無計画な人間を存分に表現しているのが面白いです。

自分に才能があると信じ、
しかし、結果は出ず、
プライドのみ高く、世間に迎合出来ない人間の末路を描いています。

しかし、
だれか一人でも理解者がいれば、
それは「記憶」として、生き続ける事が出来る、

そういう、
創作者が等しく抱く、願いが込められているような作品だと思います。

 

 

個人的には、折角タイトルにもなっている事ですし、
「ガンマ線バースト」を、
もっとお約束の様な感じで、
収録作品を繋ぐキーワード的な要素としてフューチャーして欲しかった所ですが、

短篇を独立して楽しむべきか、
それとも、連作として連帯感を持たせるべきか、

その判断は難しい部分だと思います。

しかし、
童話という元ネタは多く、

また、カグヤの正体も分からずじまいなので、

この世界観は、
今後も拡張性があるものとして、

続篇の登場も期待出来ると思っています。

 

 

  • 元ネタのある作品の効用

本作『トランスヒューマンガンマ線バースト童話集』には、
元ネタに童話というものがあります。

これは、短篇においては非情に有効な手法だと思います。

 

漫画に『無駄ヅモ無き改革』という作品があります。

これは、
実在の政治家を元ネタに、
麻雀勝負で雌雄を決するバトル漫画なのですが、

小泉純一郎や麻生太郎、
ジョージ・W・ブッシュやウラジミール・プーチン、
アドルフ・ヒトラー、ウィンストン・チャーチルなど、

説明不要のキャラ付けが、元からなされているので、

そのキャラクター性を戯画として強調する事で、
キャラをストーリー上で育てる事なく、
魅力的に見せる事に成功した作品だと言えます。

 

本作は、
それと同じ様な事をしています。

「童話」、
「シンデレラ」や「竹取物語」という誰でも知っている話を元ネタとする事で、

そのストーリーライン、
キャラクター性を有効活用し、

短篇という作品形態の弱点、
「世界観の理解、没入する事の難しさ」を乗り越えているのです。

特に、
SFの短篇作品の場合は、
ネックとなる問題を、それで解決しているのは、
面白い着眼点です。

 

読者は、
元ネタを知っており、

その有名作品が、
SF的なガジェット、
現代的な台詞回しにて、
どの様に改変してあるのか?

その様子を楽しむ、
それが本作の面白さなのだと思います。

 

その意味で、
「地球灰かぶり姫」
「竹取戦記」
「スノーホワイト/ホワイトアウト」
「アリとキリギリス」
は楽しく読めましたが、

元ネタが分からない、
「<サルベージャ>VS攻殻機動隊」

元ネタが童話由来で無い(キャラクター性が無い)
「モンティ・ホールころりん」は、

本作の趣旨とは少し違った趣となっている印象です。

 

また、童話という元ネタがある事から、
本作は、ある意味二次創作とも言えます。

実際、
その内容も、
二次創作特有の無茶苦茶さといいますか、
過剰な能力描写が多く見られ、

その過剰さが、SF的なガジェットと上手く組み合わされて、
読んでいて楽しいものとなっております。

 

SFと言えば、
その愛好者の中では、
ハードSFといった感じの、
ちょっと小難しい理論をこねくり回した様な作品が、
最近ではもてはやされています。

しかし、
元々SFとは、

理解し得ないもの、
突飛なもの、
想像力、創造力の行く末などを、

SFという単語にて力技で表現し得た作品なのだと理解しています。

そういう、
身も蓋も無い
ポップでキュートでインスタントでジャンキーな、

お手軽に楽しめるジャンルがSFなのだと、
改めて気付かされた次第です。

 

  • 表紙と選評

さて、本作は、
その内容以外にも、

オマケ的ですが、
表紙と選評も面白いです。

 

表紙は、
今流行のアニメ絵ですが、

よく見たら、
収録作のキャラクターが余す所なく描写されています。

本作の持つポップな感じを良く表しているという意味では、
正に最適な表紙だと思います。

 

そして、選評。

個人的な話ですが、
文学賞の選評を読むのって、面白いです。

特に、
普段は人から評される立場の人間が、
選考者となったら、
必要以上に毒舌となる様が、読んでいて興味深いです。

 

かく言う私も、
こういう感想ブログなどを書いている身ですが、

人の作品を批評するなら、

それは我が身の作品を以てのみ可能なのだという思いがあります。

作品の選評を読むと、
そういう思いを新たにし、
また、
その毒舌を乗り越える作品を誕生を願う気持ちも湧き上がるのです。

 

 

 

童話という元ネタを利用する事で、

SFというジャンルを手軽に、気楽に楽しめる作品、
『トランスヒューマンガンマ線バースト童話集』。

深いテーマ性や、
飾りまくった文章、
よく分からない独自理論など無くとも、

インスタントに楽しめるのが、SF。

そういう、
SFというジャンルが持つ、
お手軽な面白さを楽しめる作品集として、
本作は楽しく読む事が出来るのです。

 

 

書籍の2018年紹介作品の一覧をコチラのページにてまとめています

 

 


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