エス・エフ小説『火星無期懲役』S・J・モーデン(著)感想  火星の基地で、一人ずつ消える!?そして、誰もいなくなった!?


 

息子に麻薬を売っていた売人を撃ち殺した事で、終身刑を言い渡され、受刑しているフランク。娑婆では建築関係の仕事をしていた彼に、特別な取り引きが提案される。それは、終身刑は変わらずとも、ムショを離れ、火星にて仕事に就けるという話だった、、、

 

 

 

 

著者はS・J・モーデン
サイモン・モーデン名義で
『The Samuil Petrovich Trilogy』にてフィリップ・K・ディック賞を受賞している。
どちらにしろ、本著が、本邦初訳作品。

 

 

 

書物にとって題名とは、
人間における「顔」程、重要なものです。

内容以前に、

先ず、書物を手に取るかどうか、
それがかかっていると言えるでしょう。

 

その点、
本著の題名は凄い。

『火星無期懲役』!?
この題名のインパクトだけで、既に面白い!!

 

 

死ぬまで刑務所に居るか、

それとも、
同じ終身刑でも、
火星にて仕事に従事する生き方を選ぶか?

そう問われた、
男女7人の終身刑を受けた受刑者達。

そう問われたら、
あなたなら、どうする?

狭い刑務所で腐っているより、
なにがしかの「生き甲斐」みたいな物が、欲しくないですか?

 

かくして、

NASAからの依頼で、
火星ミッションに挑む民間企業「ゼノシステムズ・オペレーションズ(XO)」社、

そのXO社と契約し、
火星にやって来るNASAの宇宙飛行士に先駆け、

前線基地の建設を請け負う事になった受刑者達。

突貫で訓練を終え、
かくして始まる、
男女7人火星物語。
(+XO社の嫌味なお目付役一人)

しかし、

事故か?
事件か?
一人ずつ仲間が死んでゆく…

 

本著は、
アンディ・ウィアー(著)の『火星の人』を意識したそうですが、

読んだかんじだと、
何となく、
火星を舞台にした、
アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』
みたいな印象です。

(あくまでも、個人の感想です)

 

とは言え、
謎解きミステリというより、

状況に苦心惨憺する、
サスペンス的な読み味の作品となっております。

 

ほぼ、一つしかない道を示され、

その先で始まる決死のサバイバル…

題名のインパクトに負けない、
展開の面白さで読ませる作品、
それが『火星無期懲役』なのです。

 

 

  • 『火星無期懲役』のポイント

インパクト大の題名

一人ずつ死んで行くという展開

所詮、我らは消耗品

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 


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  • 邦題と原題

本著『火星無期懲役』という、
インパクト大の題名は、
実は邦題。

原題は『ONE WAY』。
意味は「片道切符」。

オイオイオイ、
題名でネタバレじゃねぇか!!

 

…という、不満の声を予想したのか、
日本オリジナルの邦題を付けているのです。

しかし、
これが、なかなかセンスがあります。

「火星」と「無期懲役」を足すだけで
これだけインパクトのある、魅力的なイメージが生まれるとは、、、

言わず語らず、
「脱出不可能な状況」と、
「死ぬまで出られない」という状況が、
題名一つで表されています

 

  • 雇われ人の悲哀

本作、嘘か真か?
解説によると、
作者S・J・モーデンは、
アンディ・ウィアーが著し、
『オデッセイ』として映画化された、『火星の人』の様な作品を作ってくれと依頼されて、
ペンネームを変えて、本著に取り組んだそうです。

とは言え、
孤独に困難なミッションに挑み、
自力で苦境をユーモア混じりに乗り越える『火星の人』と比べると、

本作は、
舞台こそ火星ですが、
その内容は趣を異にしています。

困難なミッションにチームで挑み、
しかし、徐々に人が死んで行く為、
一人一人の仕事の割り当てが増え、
残った人間がギスギス、疑心暗鬼に陥り、
余計な悲劇が生まれる。

 

希望と努力と勇気を謳った『火星の人』に比べると、

本著の印象はどうでしょうか?

まるで、
ブラック企業に勤める社畜の様な悲哀を感じないでしょうか?

経費削減の一番簡単な方法として、
現場の人員が削減され、

サービス残業、休日出勤といった「ただ働き」を自主的に行うという、
上に「忖度」する事が強要され、

結果、
現場の士気と体力の低下を招き、
回避不能の破局を招く様子が描かれます。

 

本作で描かれる、
フランク達が陥った職場環境は、

正に、
現代の日本でも見られる、
負のスパイラルに陥った末端の悲哀を表しています。

フランク達現場作業員は社畜、
ブラックは、本社に言いなりの店長とか、支店長、
そんなイメージです。

 

客観的に、
長期的に見れば、
「人員削減」は愚の骨頂ですが、

短期的には、
簡単に経費が削減される為、

未だ、多くの企業の末端の現場にて、
カツカツの状態での仕事が強要されるのが現実です。

 

本著では、
勿論、エンタテインメントとして、
一人ずつ消えて行くのが、ミステリ的に描かれています。

しかし、
これを職場に置き換えて読むと、

用済みになった人員から、
様々な方法で、リストラを勧告されているようにも読み取れます。

 

末端は、
忙しく働かされている間は、
まるで、自分がその世界(=会社)を救っているかのように錯覚してしまいがちです。

しかし、
本著でも描かれている通り、
実際は使い捨ての、替わりが効くものなのです。

この世の中は、
真面目に働く現場作業員の誠実さに付け込んだ、
偉そうに命令するだけの無能な「上」の支配によって成り立っている。

その事を、留意すべきと、
本著は訴えます。

 

本著はさらに、
フランク達は、
見せかけの「二重の希望」に縋らされているのです。

先ずは、
火星での基地建設という「やり甲斐のある」ミッション。

そして、
ミッションが終われば、「地球に帰還出来る」という秘密。

しかし実際は、
完成し終わったら用済みだといわんばかりに、
消耗品として、フランク達は使い捨てにされます。

人は、
どんなに怪しくても、
目の前の見せかけの希望を「信じたい」と思って、
都合の悪い事実から目を逸らしてしまう

フランク達の行動には、
そういう悲哀が見て取れます。

どんなに美味しく見えても、
雇い主の言い分を、そのまま受け入れるのは、危険なのですね。

 

作者は、なかなかフルタイムの作家には成れず、
長く、他の仕事で糊口を凌いできたそうです。

そして、
本著は出版社のオファーにより、著した作品。

作者自身の体験、
そして、
出版社に「書かされた」という現実、
これらの無念が、恨みあふれる本著の様な作品を生んでしまったのかもしれません。

 

更に、
本著執筆中、
まだ、売ってもいないのに、
続篇を作るよう依頼されたそうです。

クリエイティブなハズの作家ですら、
出版社の言いなりとは、、、

とは言え、
本著は、普通にデスゲームのサバイバル物として、
面白い作品です。

数々の無理難題を受けて、
それが逆に、
作者のルサンチマンに火を付けたのかもしれませんね。

 

個人的には、
続篇にも期待したいです。

続篇の題名は『NO WAY』。

片道どころか、
道が無くなっているのです!

 

願わくは、
本著が売れて、
続篇も翻訳されんことを。

 

 

 


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