エス・エフ小説『巨神降臨』シルヴァン・ヌーヴェル(著)感想  親子喧嘩、一歩間違えば核戦争!!


 

人類の危機を救ってから9年。遂にテーミスは地球に帰って来た。ロシアの軍隊に確保されたエヴァ、ヴィンセント、ローズ達は驚愕の事実を知らされる。何と、アメリカが破壊された巨神を修復し、ラペトゥスと名付け、その軍事力で世界に対して恐怖政治を敷いていると言うのだ、、、

 

 

 

 

著者はシルヴァン・ヌーヴェル。
本作の第一部にてデビュー。
巨神計画
巨神覚醒
『巨神降臨』と続き、本作が完結篇となる。

 

 

 

持ち込みを何回も行って、
やっとデビュー出来たという『巨神計画』。

これが、面白かった。

本篇の全部が、

会話、
手紙、
インタビュー、
通信、
記録映像(での音声)、
ニュース etc…

で成り立っており、
さながら主観的第三者目線と言いますか、

主観的な目線、証言、表現でありながら、
一旦他の媒体に移し(インタビュー、手紙、等)、
それを編集する事で、小説として表現している、

 

それが「巨神」シリーズの特徴です。

 

勿論、
本書『巨神降臨』も、その特徴を踏襲した作品。

会話文が基本となる為、
テンポ良く
また、
感情が迸り、テンションも高い作品となっております。

 

こういう方式、
向き不向きがあるでしょうが、
勿論、
3部作の最終部まで読んだ私にとっては、
大変楽しめました。

 

さて、
第一部では、
サスペンス的に巨大ロボットをどうするのか?
という流れ、

第二部では、
危機的状況のクライマックス連続、

そして本作、第三部は、

ディストピアSF

 

的な物語となっております。

 

第二部『巨神覚醒』にて、
人類滅亡の危機を救ったEDC(地球防衛隊)。

本作ではどんな危機が勃発するのか?

と思いきや、
ストーリー的には、
長いエンディング的な印象を持ちました。

 

そう、
世界を救ったとしても、
人生は、その後も続いて行く

その様子を描いたのが本作の特徴と言えるでしょう。

しかも、
救ったハズの世界が、
昔より悪くなっていたら、、、

 

3部作ともなると、
スケールがインフレして行くのが普通です。

勿論、そういった作品も良いですが、

本作は、ちょっと方向性が違っており、

「巨神~」シリーズとして、
表現の文体を統一しつつ、

SFとしてのジャンル、面白さがそれぞれ違っているのです。

 

 

長いエンディングとは言いましたが、
それは、
第二部から続いて本作を捉えた時の話。

本作独自の要素も、勿論あり、

それは、

ヴィンセントとエヴァの親子関係という部分。

この二人の親子喧嘩がストーリーラインの重要な部分を担っています。

 

 

巨大ロボットものとして、
ディストピアSFとして、
そして、親子喧嘩として、

色々な楽しみ方があるのが本作。

三部作の最終刊であり、
色々なバリエーションを見せてくれたシリーズのエンディングとして、

『巨神降臨』は、
期待に応える面白さ。

個人的に、
絶対オススメのシリーズです。

 

 

  • 『巨神降臨』のポイント

主観的第三者目線

ディストピアSF

親子喧嘩

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 

 


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  • 前作『巨神覚醒』のあらすじ

前作から9年。

突如、イギリスに、テーミスと似た巨大ロボットが現われた。

EDCがテーミスの派遣、運用を模索する中、
イギリスは軍を展開し、巨大ロボットを攻撃するも、
反撃に遭い、一瞬で都市毎消滅、
13万人以上の犠牲者を出してしまう。

そのロボットといよいよ対峙するテーミス、
何とか、撃破し、一息つくも、

何と今度は、
世界の主要都市に12体のロボットが出現する。

ロボットは致死性のガスを放出、
格都市で次々と死者が続出、
ガスを吸った人間の死亡率は99.95%であった。

一方その頃、
テーミスはヴィンセントと共に行方不明となり、
カーラは人体実験により作られた、自身とヴィンセントの娘であるエヴァの救出に向かう。

ヴィンセントはテーミスの瞬間長距離移動にて再び姿を現し、
カーラ、エヴァと再会するも、
ガスにてカーラを喪う。

時を同じくして、
ローズの目の前でインタビュアーも死亡。

この災厄で、
世界中の犠牲者は一億を超える。

ローズはインタビュアーの遺志を継ぎ、
異星人の子孫と思われるバーンズに助言を求める。

ガスの生き残りの遺伝子の調査、
そしてバーンズの助言から推測し、

巨大ロボットの狙いは、
異星人由来の遺伝子を持つ人類の排除だったと判明。

これを止めるには、
異星人由来の文化、文明に拠らない、地球独自のものにより、
巨大ロボットを撃破しなければならないと、
ローズは決意する。

ローズは、一か八か、
ニューヨークのロボットに、「緑のねばねば」を試す。

テーミスに乗ったヴィンセントとエヴァのサポートもあり、
ローズはロボットを撃破する事に成功。

その祝賀会にて、テーミス内で祝っていた、
ヴィンセント、エヴァ、ローズ、ユージーンを乗せたまま、
テーミスは瞬時に宇宙へと消えてしまう、、、

 

  • 編集された物語の面白さ

さて、
本作『巨神降臨』(原題:ONLY HUMAN)は、
『巨神計画』(原題:SLEEPING GIANTS)
『巨神覚醒』(原題:WAKING GODS)
から続く「巨神~」シリーズの完結篇。

前作にて、
巨大ロボットが多数現われ、

前作のラストから考えて、
もしかして、
宇宙を舞台にロボット大戦でも始まるか?
と、
週刊少年ジャンプ的なインフレ思考をしていましたが、

本作は、
そういうインフレの波には乗らず、
方向性を変えた盛り上がりを読ませてくれます。

 

本シリーズの特徴としては、
地の文が無く、

インタビュー、
手紙、
会話、
記録、などの、
主観的な目線を、

客観的に記録したものを繋げ、編集したものにて、
ストーリーが進んで行きます。

 

そういう独自の特徴のあるシリーズですが、

本作は、更なる特徴があります。

第一部、第二部では、
基本的に時系列順に物語が進んで行きます。

しかし、
本作、第三部では、

巨大ロボット、
そして、人類の先祖とDNAを混淆を行った異星人の母星である、
エッサット・エックトから、エヴァ達が出奔するストーリーライン、

そして、
覇権を目指すアメリカ擁する巨大ロボット「ラペトゥス」と、
ロシアが鹵獲する事になる、地球に帰還した「テーミス」との最終決戦のストーリーラインが、

並行し、
二つのストーリーラインが同時にクライマックスを迎える構成となっております。

 

面白いのは、
メインのストーリー、テーマとして、
ヴィンセントとエヴァの親子喧嘩が据えられているのですが、

「エッサット・エックト出奔」のストーリーラインでは、
二人が、不和に至る物語となっておりますが、

「最終決戦」のストーリーラインにおいては、
二人が、和解するまでの物語となっている点です。

 

縛られたく無い、
レールに敷かれたく無いという真っ直ぐさがありながら、
故に、置かれている状況、立場が見えていない、子供側の主張であるエヴァ。

子供の安全のみを第一に考え、
その他の状況を顧みず、
倫理的、道徳的に悖る行動を採る、親側の主張であるヴィンセント。

どちらの主張も共感出来るし、
改善点もある、

しかし、立場故に、相容れない、
それが親子喧嘩というものであり、

明確な解決法というものが無い為、
古今東西、
どんな親子も悩みに悩んでいる話と言えます。

 

その相容れない親子喧嘩を、
巨大ロボットの肉弾戦にて決着を付ける。

この『範馬刃牙』的なガチンコぶりが、
突拍子も無い、
しかし、理想的とも言える決着を見せます。

何だかんだ言っても、
子供は親に構われたい、世界で一番大事に思われたいし、

親は、
そう想っているという証拠を、行動でもって、子供に示さねばならないのですね。

 

親子喧嘩というテーマを、
不和に至る部分、
和解に至る部分、

それをストーリーのクライマックスとして並行して描いた点に、
構成と編集の面白さがある、

それが本作『巨神降臨』の最たる特徴だと思います。

 

  • 二つのディストピア

そういったテーマ、ストーリーが展開するのは、
二つのディストピア世界。

 

エッサット・エックトは、
民主主義の最終形態と言いますか、

行き過ぎたエリート排除により、
ポピュリズムの肥大、衆愚政治の末路としての社会を描いています。

それは、全て「事なかれ主義」と言えるもので、
徹底した不干渉、
責任を負わない社会を描き出しています。

 

一方、地球は、

世界を救ったハズなのに、
その後の世界はディストピアとなってしまっています。

巨大ロボットによる軍事力の威圧、

そして、
宇宙人の遺伝子の過多による、差別。

異星人が、
その遺伝子を多く持つ者を殺そうとした為、

それを恐れた地球人は、
異星人の遺伝子の過多で人間をランク分けし、
より多く持つ者を隔離、排除する社会を築いてしまいます。

それは、
異星人に仕返しが出来ない為、
その怒りと恐怖をぶつける対象を自分達で作り、

より弱い者を設定する事で、
無理矢理その方向へと、恨みを向けているのです。

 

この、
二つの方向性の違うディストピア。

しかし、この二つは、
排他主義という意味で、共通した社会なのです。

エッサット・エックトは、
純潔種以外には投票権が無く、
移民(移星民)は緩やかな区別、しかし、断固たる無視を決めつけられており、

また、地球は、
DNAランクが高い(異星人由来のDNAが多い)人間を、
社会的に、差別、隔離、強制収容しています。

 

いずれも、
自分以外は認めないという、排他主義であり、
それは、
アメリカを始めとする、現代の世界の潮流の似姿でもあります。

皮肉なのは、
どちらの社会も、
多様性を認めないが為に、変化を閉ざし、

故に、
社会、世界自体が、死滅へと向かって行っている点です。

エッサット・エックトは、緩やかに、
地球は、急激に。

 

エッサット・エックトは、
自らが起こした大量虐殺の反省から、

地球は、
宇宙人による大量虐殺と、
その恐怖に脅えた為に、

起こした側も、
起こされた側も、
共に大量虐殺により自閉してしまいますが、

それはある種の自衛ではあっても

生まれた社会は、死へと向かうカウントダウンでしか無く、
将来的な発展の無い世界なのです。

 

自分と違うという事を、
多様性として許容しようとせず、
むしろ、
少しの違いを見つけ、
それを排斥の理由とする。

こういう現実の社会を反映しつつ、
それに警鐘を鳴らすという点において、
本作は正に、
正統なSFという意味合いをも持っているのではないでしょうか。

 

 

 

特徴的な文体を共通させ、
SF的なテーマを変えつつ、続いた「巨神」シリーズ、
その完結篇『巨神降臨』。

三部作いずれも楽しませてくれました。

 

テンポの良い文体、
意外な展開の連続、
面白いストーリー、
ハッタリの効いたSF要素の楽しさ、

『巨神降臨』とそのシリーズは、
そういう面白さに満ちており、

正に、
奔放な想像力を喚起する、
読書の楽しみが存分に味わえるのです。

 

 

 

 

第一部『巨神計画』について語ったのページはコチラ

第二部『巨神覚醒』について語ったページはコチラをクリックすれば読めます

 

コチラは下巻です


 


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