エス・エフ小説『流れよわが涙、と孔明は言った』三方行成(著)感想  SF!?いやいや、奇想小説集なのです


孔明は馬謖を斬ろうとした、そして涙を流した、、、しかし、馬謖は斬れなかった。硬かったのだ。首切り役人も、孔明も、馬謖自身も、疲労困憊であった、、、

 

 

 

著者は三方行成。
投稿サイトで頭角を表し、
トランスヒューマンガンマ線バースト童話集
にて第6回ハヤカワSFコンテスト優秀賞を受賞。

 

 

 

『トランスヒューマンガンマ線バースト童話集』にて単行本デビューした三方行成。

その三方行成の短篇集が、
本著『流れよわが涙、と孔明は言った』です。

 

とは言え、
本著の収録作は、

商業誌デビュー以前の作品で固めてあります。

 

商業デビュー=作家デビューなのか!?

いやいや、

商業誌でデビューしてなくても、
作品を作っている限り、
その人は作家なのです。

現に、
こうして、過去作が発売される事になっているんですからね。

 

さて、
本書は「ハヤカワJA」というカテゴリに属しています。

なので、
収録作はSFかな?と思いますが、
然に非ず。

本書はいわば、

奇想短篇集。

 

どっちかと言うと、
ファンタジー寄りの作品集となっております。

全5篇(7話)の短篇、

奇妙なホラ話を、
さっくり読める、

それが、本書『流れよわが涙、と孔明は言った』の読み味と言えるでしょう。

 

 

  • 『流れよわが涙、と孔明は言った』のポイント

奇想ホラ話短篇集

気軽にサックリ読める

商業誌デビュー前の作品

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 


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  • 収録作品解説

では、収録作品を簡単に解説してみます。

全5篇(7話)の短篇集となっております。

 

流れよわが涙、と孔明は言った
「泣いて馬謖を斬る」という言葉があります。
中国の故事というか、
三国志から来ている言葉で、
現代では「どんな有能な者でも、ルールや規律違反を見逃してはならない」
という様な意味で使われます。

が、
本作は、言葉の意味とは全く関係無い、
というか、
言葉遊びに終始した作品です。

馬謖が斬れなかったらどうなる?
すっごい、新素材的な、頑丈さを誇ったら?
という、お話。

 

折り紙食堂
ちょっとホラー寄りの、奇想短篇3話。
ちょっと、円城塔っぽい感じ。

第1話 エッシャーのフランベ
宮澤賢治の『注文の多い料理店』を彷彿とさせますが、
そんな事は無い、というだけの作品。

第2話 千羽鶴の焼き鳥
被災地に千羽鶴を贈るのは、是か非か?
むしろ、
千羽鶴が食べられたら、そんな議論、即、解決。
つまり、
千羽鶴が食べられる様な人間に成れば良い!

みたいな、連想の連続が面白い作品。

第3話 箸袋のうどん
なんだか、
昔の故事?を引用して、変な解釈をしています。
それを、面白がれるかどうか、という作品。

走れメデス
本書唯一の書き下ろし作品。

アルキメデスが、馬鹿だったら!?
そんな印象の作品。

 


本書の白眉。

共同体において、
欺瞞を様々な論理で正当化した社会では、
その「欺瞞」を常識と認識する怪物が生まれてしまいます

歴史と教育というものの、重要性を考えさせられる作品。

常識であると思っていた事が、実はそうでは無かったり、
教えられて来た事に、欺瞞があったり、
物事というものは、
自分で確認する事が重要なのです。

…ですが、この世の中、
正しい言動をする者が、常に生き残るとは限らない
その現実に、世知辛さを感じます。

 

竜とダイヤモンド
イェジ・アンンジェイェフスキ(著)の『灰とダイヤモンド』という小説があります。
1945年、
第二次世界大戦末期のポーランドを描いた作品ですが、
本作とは全く関係ありません。

また、
GLAYのアルバムに『灰とダイアモンド』というものがあり、
その昔、友達が好きで、私も死ぬほど聞いたのですが、
それとも関係ありませんね。

閑話休題。

さて、
本作は、楽しい読み味のファンタジー
短い作品ながら、
キャラクターの面白さ、
竜の設定の面白さで読ませる作品です。

作品中、
スティーヴン・キングも愛用する、
「次に何が起こるのか、作中に予告を入れる」演出を多用しているのが笑えます。
昔、TVの「ガチンコ」であった、
「この後、どうなってしまうのか!?」とコマーシャルの前に煽りまくる、あの演出を彷彿とさせますね。

 

 

本書を読んで思うのは、
三方行成の作風のバリエーションです。

「闇」「竜とダイヤモンド」は、
世界観こそ独特ですが、
短篇としては、スタンダードな面白さの作品。

それぞれ、
「ホラー」と「ファンタジー」的な読み味です。

 

一方、
残りの「流れよわが涙、と孔明は」「折り紙食堂」「走れメデス」は、奇想作品。

言葉をひねったホラ話
円城塔の作品の様な印象を受けます。

最近のSFでは、
こういう作風が面白いと思われている向きがあるので、
その流れで、円城塔的な作品を書いていると思われます。

 

…では、
著者の三方行成は、
どういう方向性の作家なのでしょうか?

トランスヒューマンガンマ線バースト童話集』も、
パロディや「遊び」を意識した作風でしたが、

それでも、
物語として、奇妙な世界観の構築は面白いものがありました。

今後、
作者は、
流行の言葉遊びの方向に行くのか?
それとも、
世界観で勝負するのか?
もしくは、
それらを統合して、更に進化して行くのか?

 

色んな意味で、
今後が楽しみな作家でもあります。

 

 

 


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