エス・エフ小説『ファイアマン』ジョー・ヒル(著)感想  危機的状況にて、迫害されるはマイノリティ!!

 

 

 

竜様発燃性白癬菌、通称<竜鱗病(ドラゴンスケール)>。この病気に罹ると、発火し、死に至る。瞬く間に全世界に拡がった<竜鱗病>に、学校保健師のハーパーは感染してしまう。そして時を同じくして、彼女は妊娠する、、、

 

 

 

 

著者はジョー・ヒル
デビューし、キャリアを重ねた後に、
父親がスティーヴン・キングだと発覚する。
言われて見れば、父譲りな点があるが、
その諸作品には確かな面白さがある。

翻訳されている作品に、
短篇集は、
『20世紀の幽霊達』
『ハートシェイプト・ボックス』
長篇は、
『ホーンズ 角』
『NOS4A2 ーノスフェラトゥー』がある。

 

 

ホラーの帝王として有名なスティーヴン・キング。

しかし、
その息子という事を隠してデビューし、
その実力を認められてから、秘密を明かしたジョー・ヒル。

その著作は親の七光り抜きで面白いのです。

 

その彼の、
現在の所、最長となる長篇が本作『ファイアマン』です。

 

『ファイアマン』という題名にて、
何を思い浮かべますか?

本来は「消防士」という意味の英単語。

しかし、
英語が分からない日本人としては、

単に字面のイメージから、
ストリートファイターのダルシム的な感じで、
「炎の男」と捉えてしまいがちです。

そして、

その「炎の男」というイメージ、
あながち間違いでは無いのです。

 

 

<竜鱗病>に罹った者は、
最後には発火して、死を迎える。

しかし、
人体発火現象を自らの意思で起こすジョン・ルックウッドという人物がいた、、、

 

さて、

そう言うと、

本作はまるでサイキック・アクションなのか?

はたまた、
サバイバル・アドベンチャーっぽいのか?

そう思われるかも知れません。

病気を逆手にとって、
人体発火現象を起こす人物が出てくる、

しかし、
本作の展開はあくまでもサスペンス。

人間の心理的な葛藤がメインに描かれています。

 

 

<竜鱗病>という病に世界中が犯され、

従来の倫理観が通用しない世界へと変わって行く。

そんな世の中で、起こり得る事態とは何か?

 

本書は、文庫の上下巻で1300ページ超、

そして、
疾病により世界の秩序が崩壊した後のディストピアを描いています。

しかし、
その舞台の多くは、
<竜鱗病>に罹った人間が集まったコミュニティの極限られた場所が舞台となっています。

世界観の設定は大きいながらも、
描く事柄はあくまでもミニマムに、人間性の描写に尽きる。

 

苦しみながらも、
この閉塞感を、主人公のハーパーと共に生き抜くべし!!

そんな思いを抱く、
『ファイアマン』はそんな作品です。

 

 

  • 『ファイアマン』のポイント

崩壊した世界で暴かれる人間性

迫害されるマイノリティ

正義の恐ろしさ

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 


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  • マイノリティへの憎悪

上下巻にて1300ページを超える長篇、
『ファイアマン』。

これだけ長いと、
さぞ、色々な冒険が起きるだろうと思われるでしょう。

 

崩壊した世界にて、
蔓延する疾病。

人体発火現象にて死に行く人類。

しかし、それを発火現象を操る男がいる、、、

本作は、サイキック・アクションなのか?

否!

本作はあくまでも卑近な内容、

つまり、
人間性に焦点を当てて描いています。

そのテーマは、
マイノリティの迫害

 

本作は、大きく分けて3幕構成となっています。

そして、
三人称の語りではありますが、
物語は、主人公のハーパーの目線に固定、
ほぼ、彼女の目の前で起こっている事のみ描写されます。

 

第1幕は、
ハーパーと夫の確執。

第2幕は本書の殆どを占める、
キャンプ・ウィンダムでの、竜鱗病患者避難民の話。

第3幕は、
新天地を求めるハーパー一行の話。

となっています。

 

第1幕では、
竜鱗病に罹ったハーパーを、
夫のジェイコブが、自らの倫理観を押し付ける形で処断を強います

病人は、そして、自分の付属物である妻は、
自分の言う事を聞いて当たり前、
という発想です。

 

第2幕では、
崩壊した社会の原因として、
生き残った人間から目の敵にされている<竜鱗病>の患者、

迫害を受けて、
避難した先のキャンプ・ウィンダムだが、

そのコミュニティでも、
仲間内の権力者側の「ルール」に従わない人間は矯正、排除されます。

 

第3幕では、
新天地を求めて彷徨うハーパー達は、罠に嵌められます。

「自分達は悪者じゃない、すべき事をしているんだ」

という発想にて、

竜鱗病患者は排除(殺害)するが、
その行為を行う者に罪悪感を抱かせないシステムを作っている者達の餌食となります。

これはいわば、
自己満足の極み。

マイノリティが、
そのオナニーの対象にされます

 

本書では、
マイノリティの立場を取るハーパーを、
いずれの状況においても、
多数派の人間が攻撃する展開を取ります。

しかも、興味深い事に、

ハーパー(マイノリティ)を迫害する立場の人間達は、
いずれも「自分は正義」と固く信じている点です。

 

人は、
正義という大義や錦の御旗を振りかざし、
それを他人に強制した瞬間に、
相手をマイノリティと規定し、排除対象として攻撃する事になります。

本書で描かれているのは、

正義という行為は、

その立場によって、
捉え方が如何様にも変化するという事実を示しているのです。

 

その時、
攻撃されるのは、
自分以外の少数派、

相手にマウントを取り、悪者であるという印象を付与する事で、
自分が「正義」であるかの様な印象を世間(他人)に示そうという行為

それが、「正義がマイノリティを迫害する」理由なのです。

 

立場の違いを許容するのでは無く、

排除に向かった場合、

人間はどれだけ醜い行為を行うのか?

それを、
3幕構成で、これでもかと見せつけてきます。

しかし、一方、

その人間性の恐ろしさという絶望の中で、

決して楽観的な希望を捨てず、
生き抜く事をひたすら目指す事の大事さ

サバイバル能力に溢れるハーパーの活躍にて、
それを描いてもいると言えます。

 

  • 気になる!!これがジョー・ヒルの演出!!

さて、本書を書いたのはジョー・ヒル。

スティーヴン・キングの息子です。

息子なだけあって、
父親の影響をモロに受けている場面があります。

例えば、上巻のp.386の部分。

スティーヴン・キングがよく使う、
「不安を煽る、先の展開の予告」を入れてきています。

本作では、
その演出をやや過剰とも言える程多用し、

先を読み進めるリーダビリティの原動力としています。

 

また、

本作は他作品に言及している部分が多数あり、

その、
共通認識として持っている他作品の印象を、作中の例として使う
という演出が上手いです。

つまり、
本作の様な、
SF、ホラー、サスペンスなど、
こういったジャンルが好きな人が反応する作品のチョイスが絶妙なのです。

 

基礎知識としての『メリー・ポピンズ』とか、

何度も言及される「ハリー・ポッター」ネタとか、

第3幕が、
映画化もされた、コーマック・マッカーシーの『ロード』っぽいなと思っていたら、
そのものズバリ作中でもその作品に言及していたり(下巻 p.560)、

ネタを、
読者が理解出来る部分が多いのが、
良心的というか、絶妙と言えます。

 

また、
気になるのは生き残りの人物。

本作で、主要人物以外で、
マイクルの死が描写されていません

これは恐らく、
今後、何らかの形で、
別の作品にて再登場があると見ていいと思います。

生き残りを別作品で再登場させるのは、
父親のスティーヴン・キングの十八番

息子も、著作が多くなった後、
総集篇的な作品を書いた時に、
マイクルとかも出てくると、私は今から思っています。

まぁそれが、
何年後になるかは分かりませんが、、、

 

そして、
本作の第2幕は、

スティーヴン・キングの『ミスト』を思い浮かべます。

何だか、
ちょっと、『ミスト』を発展させた様な雰囲気があると、思いませんか?

崩壊した世界とか、
宗教ババアとか。

 

ツッコミ処は尽きませんが、

そういう所も本書の面白い所と言えますね。

 

 

 

疾病により崩壊した世界の中で、

描かれるのはアドベンチャーというより、

あくまでも人間の所業。

本作『ファイアマン』では即ち、
マイノリティの迫害をメインに扱っています。

どんな状況でも、
人が集まれば、そこに意見の対立と、
差別が生まれる。

そこで、
自分が少数派になった時、

大人しく屈して従うのか?

上巻のp.659にこう描かれています。

「一度――たった一度でも――屈すれば、次はずっと楽になってしまうことが予見できていたのである。」(上巻 p.659 より抜粋)

そう、だから人間は、
少数派となっても、意地を張ってしまうのです。

 

しかし、
多数派への抵抗というより、

むしろ、
自分の行動は希望を根拠とした未来へ向かうものである。

子供を出産する事を、
第一の目的をして、それを追い続けたハーパーの様に。

そういう想いを持ち続ける事が、
絶望を乗り越える方策では無いのか、

迫害されるマイノリティが押し潰されない、
支えとなるのではないか?

『ファイアマン』は絶望の中に、
希望を諦めない事の尊さを描いた作品なのです。

 

 

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コチラは下巻

 

 

 


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