エス・エフ小説『われらはレギオン3 太陽系最終大戦』デニス・E・テイラー(著)感想 これにてひとまず、決着の巻!!

 

 

 

アザーズの侵攻に備え、地球に防衛圏を築こうとする、ボブ達。しかし、未だ地球には1400万人の避難民が移民の順番を待っていた。人類圏を襲うと宣言したアザーズに対処したいのだが、しかし、日々の雑務にそれぞれのボブは追われている、、、

 

 

 

著者はデニス・E・テイラー
本書のシリーズ『われらはレギオン』にて、デビューした。

 

 

死後、AMI(人工機械知能)となって、
宇宙に飛び出したボブ。

彼は自らの複製を作り、
遥か宇宙を探索するが、様々な紆余曲折が待ち構えていた、、、

 

謂わば、

SF界のエージェント・スミスとも言える、
人工機械知能のボブが活躍する、

 

本シリーズも、

われらはレギオン1 AI探査機集合体
われらはレギオン2 アザーズとの遭遇
『われらはレギオン3 太陽系最終大戦』と続き、

本巻にてひとまず完結となります。

 

さて、
前巻の『われらはレギオン2』にて、手痛い敗北を味わい、
本巻では、
そのリベンジと対処に向けて、
物語が一気呵成に進む、、、

かと、思いきや、

やっぱり本巻も、

様々な事態が各地で同時多発的に出来し、
それに各地のボブが対処するという群像劇が繰り広げられます。

 

基本にSFがあり、
本作も、

アドベンチャー、異種族間交流、恋愛、政争、宿敵とのバトル、
そして、星間戦争と要素がてんこ盛り。

 

面白いSFが読みたい?

ならば、本作を読むべし!!

きっと、
何処かの要素にヒットする!!

数打ちゃ当たる、

正に、量で攻めたSFと言える本作、

 

とは言え、
各エピソードがそれぞれちゃんと面白いから、
本作は凄いんです。

 

しかし、
登場人物が増えに増えて、

しかも、
それが、主にボブ(同一人物)のコピー。

ぶっちゃけ、
誰が誰だが、分からなくなりますが、

 

しかし、ご安心を。

ちゃんと、

巻末に主な人物の簡単な説明が付されている親切設計です。

 

ここまでサービズ精神旺盛なら、
読むしか無い!?

読み易く、
楽しい、
そして、とうとう決着の時!?

それが、
『われらはレギオン3 太陽系最終大戦』なのです。

 

 

  • 『われらはレギオン3 太陽系最終大戦』のポイント

様々な要素が同時進行する面白さ

近い将来に大事があっても、日々の雑務に追われる世知辛さ

同一人物でも、別人たり得る

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 


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  • 前巻のあらすじ

エリダヌス座、デルタ星系にて異星人とファースト・コンタクトを果たしたボブは、
ますます彼等の生活、
特にアルキメデスに入れ込む。

地球圏では、
ライカーを初め、ホーマー、チャールズ達が、
地球の生き残りを、移民させる為に奮闘を開始するが、
優先権や食料問題、
さらにはVEHEMENTのテロ行為に悩まされる。

人類の入植の候補地、
ヴァルカンとロミュラスに常駐するボブの一人、ハワードは、
生物学者のブリジットに惹かれ、恋をする。

エリダヌス座、イプシロン星系を拠点とするビルは、
星間即時通信システムである、
「亜空間伝送汎用送受信機」(SCUT)を開発し、
多くのボブを繋ぐネットワークを作り出す。

また、惑星のテラフォームの実験、
アンドロイドの開発に着手する。

ボブ達に敵対するブラジル帝国の軍人レプリカント、
メデイロスに復讐を果たすボブ達。

しかし、さらに恐ろしい敵と遭遇する。

文明が滅ぼされ、
金属が収奪された痕跡を見つけたマリオにより、
敵勢異星人、アザーズの存在が発覚する。

そして、
アザーズは新たに、
文明があるパブ人の星を収奪する為に侵攻する。

それを食い止めようとボブ達は奮闘するが、
あえなく敗北を喫してしまう、、、

 

  • 日々の雑務に追われる生活

人間、
近い将来に大きなイベントが起こると、
分かってはいても、

日々の雑務に追われる事で、
中々、その準備が出来ない

そういう事って、ありますよね。

本作、
『われらはレギオン3 太陽系最終大戦』も、
そんな自転車操業みたいなギリギリの綱渡りで事態に対処していきます。

 

前巻で、アザーズの脅威が明るみになるにも関わらず、
わりとみんな呑気というか、
大らかというか、
余裕があります。

結局、
目の前にある仕事を先ず対処する事に懸命で、

来たるべきカタストロフィに対する準備が十全に出来ていないのです。

物事に対して、
準備万端整えて、
完璧に対処する、

そういう事が出来れば、それが理想ですが、

現実では、
アドリブを活かして、
場当たり的な対処にて事態に臨む事が多いです。

星を渡っても、
人工機械知能になっても、

やってる事は今と然程変わらない事に、
そこはかとない世知辛さを感じます。

 

  • 同一人物でも、別人

前巻にて手痛い敗北をアザーズに喫し、
しかも地球をターゲットにすると名言された人類。

『われらはレギオン3 太陽系最終大戦』では対アザーズをメインに、
集中して話が進められる、

…と、思いきや、然に非ず。

元々は同じ人物だったハズですが、
コピーのコピーを繰り返し、
その本質は同じでも、
みんな微妙にキャラクターが違います。

 

対アザーズに取り組む者、
地球人を逃がす為に奮闘する者が居る一方、

自分の興味のある事をずっと取り組んでいる者、
全くアザーズとは関わらず革命行為に専念する者、
人間と恋愛する者、と、
戦争に関わらないボブも沢山います。

元々同一人物のボブですが、
しかし、
彼達も一枚岩ではありません。

メインのクライマックスに、
対アザーズ戦争があるのは確かですが、

基本、
皆が各自、目の前の事態に自己裁量で対応しているのです。

この、同一人物(の別のバリエーション)で、
雑多なエピソードが同時進行するという、
本シリーズ特有の奇妙な面白さは、本巻でも健在。

同じ人間でも、
環境によって人生は大きく変わる
それを並列して読ませてくれるのが、
本シリーズの最大の面白さであり、
SF的な楽しさなのだと思います。

 

  • 人と人が解り合うという事

本作にて、
特に印象に残る主観視点の「ボブ」は、

ボブ、ビル、ライカー(ウィル)、ハワードです。

しかし、
対アザーズに乗り出すのは、
ビルとライカー。

ボブはデルタ人のアルキメデスに夢中ですし、
ハワードはブリジットとイチャイチャするのに現を抜かしています。

それ以外でも、
同一人物のハズなのに、
ビルとクロードは対アザーズの方針にて交渉が決裂するという始末。

人間、多数集まると、必ず意見の相違が見られるという事を描いています。

 

本作には、こういうセリフがあります。

「家族か。良きにつけ、悪しきにつけ、そして最低最悪につけ、相手をせざるをえないんだよな」(p.313 より抜粋)

人間、
同一人物や家族であっても、
意見の相違により険悪な雰囲気に陥り、
取り返しのつかない事態にまで陥る事もあります。

本作は、
近しい人間の間でも、
環境によって相違が見られるという事を描写した作品です。

最終決戦にもボブ達は全員集合する事は無く、
また、決戦後は、
ほとんどのボブ達は、宇宙に散って行きます。

また、
人類は滅亡寸前であっても、
決して仲良く協力するという事はありません。

そして、ボブ達は、
人間を「エフェメラル」と呼び、
寿命の無い自分と比べて、限りある生を送る人間との関わりに、
虚無感を感じています。

元は同じ人間でしたが、
今は隔絶を感じ、
深く関わった人間が死ぬ事の虚しさと哀しさを考えるならば、
今後は人と交わるのは極力避けようと考える様になっていきます。

 

その一方、
本作では、
全く別の存在とも、意思の疎通を行う様子も描かれています。

ボブは異星人のアルキメデスと友誼を結び、

ハワードは、
機械知能の自分と、人間のブリジットの間にて恋愛関係を結びます。

別の文化、生命形態であっても、
交流は可能なのだと言う事も描いているのです。

 

印象的な場面に、p.377 のシーンがあります。

ジャックがパブ人にアザーズを撃滅した事を告げ、
自分が立ち去る時、

五歳児並の知能で、
何を考えているのかちんぷんかんぷんと言われたパブ人の一人であるハズジアルが、

ジャックに向かって、
彼の敬礼を真似して返すシーンです。

お互い文化が違い、相互理解が出来ない立場でも、
相手の事を尊重し、受け入れる事は出来る

そういう事をも同時に描いているのです。

(しかし、アザーズとの最終戦争に直接関わらなかったボブ達が、それぞれ異文化交流を受け入れている事が興味深いです)

 

人間、育った環境の違いが、
そのまま文化の違いとなる。

しかし、
文化が違う相手とも、交流する事は可能なのだ。

一見、二律背反するこの二つの事を、作品の中で同時に語っている、
『われらはレギオン3 太陽系最終大戦』にはそういう面白さがあります。

 

  • 「ボブ」というキャラクター

さて、最後にボブというキャラクターについて、
少々語りたいと思います。

 

ボブは、
ハッキリ言って特別な個性がある訳では無く、
主役として惹かれる強烈なインパクトはありません

しかし、独特のユーモアがあり、楽天的で、
悪い奴では無りません。

特別に好かれる事はありませんが、
人に嫌われる事がほとんど無い。

つまり、こういう、フラットな中立的なキャラクターであるからこそ、

多くのバリエーションを産み出しても暑苦しく無く、

楽しく読める作品だったのだと言えると思います。

 

 

 

多数の同一人物の群像劇という面白アイデアを、

SF的な宇宙アドベンチャーとして仕立て上げた作品、

「われらはレギオン」シリーズ。

エピソードの区切り方、繋がりが面白く、
読み易さも相俟って、
先へ、先へとグイグイ読ませてくれた作品です。

 

一応、切りの良い所で終わりはしましたが、

まだ積み残しのエピソードがあります。

(消えたベンダーの話、とか)

それは、
同一世界観の物語として、現在執筆中との事。

次回作も楽しみ、
期待して待ちたいです。

 

兎に角面白かった作品、
「われらはレギオン」シリーズ、

そのラストを飾る
『われらはレギオン3 太陽系最終大戦』は、
期待通りの面白さでした。

 

 

*『われらはレギオン1 AI探査機集合体
われらはレギオン2 アザーズとの遭遇』の感想は、
それぞれのページに書かれています。

 

 

*書籍の2018年紹介作品の一覧をコチラのページにてまとめています

 


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