『ツイン・ピークス シークレット・ヒストリー』マーク・フロスト(著)感想  偽史ツイン・ピークス伝!!

 

 

 

ゴードン・コールから依頼が来た。とある事件の現場から回収された資料を精査し、その記載内容の裏取りをして欲しいというのだ。その資料とは、かつてゴードンの部下であったデイル・クーパーが担当した「ツイン・ピークス」での事件と関わりあると思われる、、、

 

 

 

著者はマーク・フロスト
デヴィッド・リンチとともに『ツイン・ピークス』の制作総指揮をつとめた。
TVシリーズでは多くの脚本を手がけている。

 

本書『ツイン・ピークス シークレット・ヒストリー』を一見してまず思う事は凝った作りになっている事だ。

表紙、デザイン、構成と本を読むという行為自体が楽しくなってくる。

 

凝っているのは見た目だけではない。
その内容は

メタ的な構成になっている。

 

偽史や陰謀も存分に含まれており、こういうタイプが好きな人にはたまらないだろう。

しかし、である。
内容の事を言うと、

半分ほどは『ツイン・ピークス』とは全然関係ない話になっている。

むしろ『X-ファイル』の本か?と思ってしまう。

 

題名を見て

「ツインピークスにおけるローラ事件の前、最中、その後の裏話」を期待するだろうが、それにはほとんど触れられていない。

 

その点でハッキリ言うと期待外れである。
読む前に『ツイン・ピークス』の徹底資料的な物ではないとあらかじめ留意しておいた方がいいだろう。

その事を前提にして頭を切り替えて読もう。
そして

この本には罠が仕込まれている。

 

その罠と謎を読者はかいくぐって、解かねばならないのだ。

 

 

以下ネタバレあり


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  • 前提としての構成の説明

この本は構成が凝っている。
見た目もそうだし、内容面もだ。

その前提を説明すると、まず
1:一時資料がある。
2:それを「管理者」が集め、自分の資料と共に「文書」としてまとめる。
3:「文書」に目を通したFBI捜査官が注釈を入れる。
4:ゴードン・コールがその「注釈入り文書」の裏取りを我々(読者)に依頼する。

というメタ的な構成になっている。

つまり、少なくとも一次資料(事実)から少なくとも2つはフィルターがかかっているのだ。

 

  • ?これ『ツイン・ピークス』?

そして、その内容である。

読んでいて私は思った。
アレ?これ『X-ファイル』か?
いきなり延々と陰謀とUFO話が始まってしまう。

つまりあれか?
「文書」をまとめたのが「ディープスロート」で
資料に目を通したFBI捜査官は「フォックス・モルダー」なのか?

読み物としての陰謀ストーリーはそれなりに面白かったが、それを『ツイン・ピークス』の名前でする必要があったのかは疑問だ

それとも新シリーズではこの路線なのだろうか?

 

  • 嘘か誠か?

そして、肝心の『ツイン・ピークス』パートである。

これに、どうやらTV版との齟齬が多数混じっている

私が気付いただけでも、
「ノーマの家族構成」
「エドとネイディーンの結婚時期」
「オードリーが銀行で抗議行動を起こした理由」
がある。

そして、一時資料に日付が付いているのだが、その日付がまた怪しい。
私が個人的に付けたメモと、ことごとく異なっている。

銀行の爆発:3月28日(p.223)
私のメモ:3月26日

爆発で家族を亡くしたキャサリン・マーテルがベンジャミン・ホーンに土地を売った日付:3月23日(p.227)
私のメモ:3月23日は第26章の時点。キャサリンがまだ攻勢の場面である。
(すでに「文書」の内部で日付に矛盾点が見える)

Dr.ローレンス・ジャコビーがベンジャミン・ホーンを往診したカルテ:3月22日(p.232)
私のメモ:3月22日は第25章。既にベンは復活している。また、カルテに「2週間往診を行う」と書かれているが、その日は3月8日(第13章)。ベンはピンピンしており、Dr.ジャコビーはまだ療養中である。

Dr.ローレンス・ジャコビーがハワイ・カウアイ島、プリンスヴィルでローラ事件総括する。:3月19日。(p.324)
私のメモ:3月19日は第22章。ベン復活のためにDr.ジャコビーはグレートノーザンホテルで寸劇をしている。
(再び「文書」内で日付に矛盾点)

ガーランド少佐が消えていた期間:3日間(p.355)
私のメモ:第19章でのベティの発言、第20章でのガーランド少佐の発言共に2日間。

一読しただけでも、これだけTVシリーズと違う点がある。
その一方、
p.357のダグラス・ミルフォードの書き置き。
p.359のガーランド少佐のメモ。
共にTV版にて触れていない部分であるが、これらはタイミング的に日付は正しい様に思う。

どうやら、ワザと虚実織り交ぜた情報になっている様だ。

 

  • 推論:どの時点で違っているのか?

では、どの時点で偽情報が紛れ込んでいるのか?
考えられる点を列挙してみたい。

1:私のメモがそもそも間違い。
2:著者のマーク・フロストが日付に無頓着で、適当に書いた。
3:「管理者」が集めた一時資料が間違い。
4:「管理者」がわざと偽情報を混ぜた。
5:「文書」を発見した者が偽情報を混ぜた。
6:「文書」を最初に閲覧したFBI捜査官が偽情報を混ぜた。
7:ゴードン・コールが偽情報を混ぜた。

この内のどれかであろう。
まず、1と2番は除外したい。
もちろん私の間違いはあるだろうが、全てが間違いではないハズだ。
そして、著者も「意図して偽情報の混じった本」を書いたハズである。

3:「管理者」が集めた一時資料が間違い。

この可能性は低いように思う。

4:「管理者」がわざと偽情報を混ぜた。

これはあり得る。
何者かが閲覧する事を見越し、大量の資料の中に偽情報を混ぜて、カモフラージュを行ったか?

その場合重要なのはUFOエピソードとラストのクーパーとの接触という事になる。

5:「文書」を発見した者が偽情報を混ぜた。

これもあり得る。
この「文書」が関わるという事件、または「文書」自体を見られては不都合に思う人間なり団体なりがあるのかもしれない。

6:「文書」を最初に閲覧したFBI捜査官が偽情報を混ぜた。

「5番」に関係して、その人物がFBI捜査官で、捜査を混乱させる為に細工したのかもしれない。

7:ゴードン・コールが偽情報を混ぜた。

これもあり得る。
ゴードン・コール(=デヴィッド・リンチ)が以前のTVシリーズの内容を覚えているのかどうか、我々(読者・視聴者)をテストしているのかもしれない。

 

誰が、何故、偽情報を混ぜたのかは正直まだ正しく掴めないでいる。
そもそも、この本の内部で完結した話なのか?
それとも、新シリーズに向けた布石なのかも今はまだ分からない。

しかし、こうして色々考えて、頭を悩ますのも『ツイン・ピークス』的楽しさではあるのだ。

これを読んだあなたの解釈は何か、意見があれば聞かせて欲しい。

 

続けて発売された、別作品

 

 

 

 

 

 


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さて、次回は発掘されたのは「文書」ではなく「ミイラ」!?映画『ザ・マミー/呪われた砂漠の王女』について語りたい。