白人至上主義者に暴力の捌け口にされ、肉体的な傷と共に、精神に重大な傷を負ったケンは対人恐怖症となってしまった。唯一、妹のみと交流出来たのだが、その妹が海外に出張する事になり、代わりの介添えロボット「レオノーラ」をレンタルするが、、、
著者は平井和正。
多くのSF作品や漫画原作を手掛けた。
代表作に
「ウルフガイ」シリーズ
「幻魔大戦」シリーズ
『死霊狩り』等がある。
編者は日下三蔵。
第一世代のSF作家の代表作を集めた傑作選のシリーズ。
そのラインナップは
『日本SF傑作選1 筒井康隆』
『日本SF傑作選2 小松左京』
『日本SF傑作選3 眉村卓』
『日本SF傑作選4 平井和正』(本書)
『日本SF傑作選5 光瀬龍』
『日本SF傑作選6 半村良』
と、順次発売される予定。
本書『日本SF傑作選4 平井和正』は
短篇9篇、
中篇2篇、
長篇1篇(連作短篇)からなるラインナップ。
これらの作品は共通して、
怒り、恨み、不満などの
世の中に対するルサンチマンに溢れています。
こう書くと、何だか暗い印象を与えるかもしれません。
ですが本作は、そういった
鬱屈を吹き飛ばす暴力の発露があります。
これが発散になり、ある種の爽快感すらあります。
日々幸せに生きている、陽キャのパリピは消えてくれ!!
俺の恨みの念を喰らうがいい!!
こういった、社会に不満を溜めた人間ほど共感出来て楽しめるという、罪深い作品集です。
だが、言わざるを得ません。
これがバツグンに面白いと。
ゴチャゴチャ言うだけがSFじゃない。
内容の面白さで勝負した作品。
それが、『日本SF傑作選4 平井和正』です。
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『日本SF傑作選4 平井和正』のポイント
ルサンチマンに溢れた作品集
鬱憤を吹き飛ばす暴力
短篇、中篇、長篇という多彩なラインナップ
以下、内容に触れた感想となっております
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収録作品解説
先ずは、収録作品の解説を簡単にやってみます。
短篇9篇、中篇2篇、長篇(連作短篇)1篇となっています。
とは言え、短篇と中篇の境目は何?と言われてもちょっと困りますが、
30ページ程までが短篇。
100ページ近いと中篇という意識で分けています。
初出は殆どが1960年代。
「星新一の内的宇宙」「転生」が1980年、
「デスハンター エピローグ」が1985年となっています。
レオノーラ
暴力に尊厳を殺された人間が加害者に転ずるまでの絶望を描いています。
自らの行為に、唾棄すべきものがあったのだと悟った時の絶望感よ。
死を撒く女
ほとんどギャグだが、女が撒き散らす死のレパートリーが面白い。
もっとそこの所を突き詰めたら、ホラー作品になったのだと思います。
虎は目覚める
羊の群れの中で生まれた虎は、その嗜虐性が刺激され怪物となった。
ロケット・マンも地球の住民も虎も、
いずれも軽蔑し合い、分かり合えないまま絶望に向かうラストが悲惨ながら必然なのか。
背後の虎
一念、岩をも通すと言いますが、
一度起こった恨みの念は、他人の迷惑顧みず撒き散らされるのです。
次元モンタージュ
多世界に無限に地滑りして行ったらどうなる?
というワンアイデアもの。
虎は暗闇より
この世の地獄は欲の押し付け合いだという痛烈な皮肉。
ラストの「見当がついた」の一言が秀逸。
エスパーお蘭
中篇。
「サイボーグ・ブルース」の原型とも言える作品。
アンドロイド、念爆者、警察、半グレ、超能力者と様々な思惑が入り乱れ、ストーリーが疾走して行く。
思惑の奔流の前では、個人(蘭)の想いなど木っ端程度にも顧みられない悲哀が感じられます。
悪徳学園
ウルフガイ「狼の紋章」の原型と言える作品。
関係無いね、と超然としている人間ほど、
ちょっかいをかけられて生きにくい事になったりします。
星新一の内的宇宙
楽屋落ち。
作品発表当時から、「星新一は別格」という認識があった証左なのでしょう。
転生
中篇。
ボーイ・ミーツ・ガール的なロードムービー風SF逃亡劇。
「フランケンシュタイン」的な黄泉がえりのイメージと、
『ヒドゥン』的な異星人の相棒という展開でワクワクが止まらないが、
それでも、いつもの如く悲劇が訪れる、、、と思わせておいてのラスト。
空しいラストが多い平井和正作品だからこその爽やかさがあります。
サイボーグ・ブルース
連作短篇形式の長篇。
ハードボイルド・SFアクション。
改造され、既に人間とは言えない存在となったアーネスト・ライトが自身のアイデンティティとして縋るのが、
怒り、恨み、という負の感情。
人が実力を出すのはどんな時でしょうか?
愛する人を守る為?
金銭欲や、名誉欲?
色々ありますが、他人や世間への恨みで自己を規定している人間にとっては、
敵対者(実在の有無は問わず)に対する怨念でもって力を発揮するのです。
象徴的な描写があります。
「憎悪は失われた臓器の存在をよみがえらせる。脳髄はすべての器官の感覚を忠実に記憶しているのだ。怒りは、自己のすべてをとりもどさせる。この瞬間、私は冷たい無機質の機械ではなくなる。再び、血と肉を回復し完全な人間となる。そうだ。このゆえに、私は熾烈な怒りと憎しみの感情を愛していたのだ」(p.513より抜粋)
ライトはこれ故、自己を追い込み、「自分が存在している」との感覚を追求します。
また、その構成も見事。
途中で挿入される、自意識の存在しない殺し屋リベラのエピソード。
これは、自意識が拡散し、他人と共有(他人に良い様に使われる)存在となってしまったライトの今後の姿そのものです。
つまり作中において、既にライトの行く末(破滅)は明示されており、
言うなればリベラとライトの関係が空しさと怨念のループ構造となっているのです。
デスハンター エピローグ
長篇のダイジェスト版といった印象ですが、
どうやら「デスハンター」や「死霊狩り」のエピローグにあたる作品の様です。
しかし、これ単品でも平井和正の空虚感溢れる作風が存分に堪能出来ます。
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ルサンチマンによる自己規定
後書きの部分に、
「平井和正の作品は自己燃焼する情念のドラマであり、長篇の場合はそれのみならず対立する他者の存在がある」(p.762)
という様な事が書かれています。
作者自身が成程という位なので、的を射ている指摘なのでしょう。
個人的な解釈で、これをさらに補強しますと、
「対立する他者」により、「自身のルサンチマン」が如何に強大かという事を際立たせているのです。
言うなれば、他者という比較対象が強大で、権威的で、残虐であればあるほど、
それに抗する形で自己(主人公)のルサンチマンも燃え上がり、それが自己規定になっているのです。
この恨みの感情というのは、
ままならぬ世間に対し、若い頃には誰もが持っているガッツ溢れる向上心とも言えます。
しかし、人間、
世の中に何度も踏みつけられ、頭を抑えつけられ続けるにつれ、
その反骨心もいつしか摩耗し、諦めが胸の内に澱の如くに積もるにつれ薄まって行きます。
こうなれば既に、緩慢な死を迎えていると言える状態なのです。
しかし、本作を読むと、自己の内にもまだ「虎」が眠っていると知れます。
破滅を恐れて、ロボットのまま生きるか?
破滅を免れ得ないとしても、「虎」を起こして自己を主張するか?
本書『日本SF傑作選4 平井和正』を読むと、その選択を改めて突き付けられる思いがします。
*平井和正氏の代表的長篇について感想を書いています。
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さて次回は、『SFが読みたい! 2018年版』について語ります。現在のSFの流行を突き付けられるのか?