映画『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』感想  ジャーナリズムと商業主義との狭間!!侮られたリーダーの決断とは!?

 

 

 

1966年、ベトナム戦争の従軍記者として戦場を見てきたダニエル・エルズバーグは、増兵にも関わらず戦況は変わらずと報告する。しかし、国防長官のロバート・マクナマラは「事態は進展している」と記者会見で報告。それを聞いたダニエルは、ある決心をする、、、

 

 

 

 

監督はスティーヴン・スピルバーグ
映画監督ナンバーワンは誰だ?と聞かれたら、彼の名を挙げる人も多いでしょう。
代表作に
『激突!』(1971)
『ジョーズ』(1975)
『レイダース/失われたアーク』(1981)
『ジュラシック・パーク』(1993)
『シンドラーのリスト』(1993)
『プライベート・ライアン』(1998)
『ミュンヘン』(2005)
『レディ・プレイヤー1』(2018)等、多数。

 

主演、キャサリン・グラハム役にメリル・ストリープ
主な出演作に
『クレイマー、クレイマー』(1979)
『プラダを着た悪魔』(2006)
『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』(2011)等がある。

ベン・ブラッドリー役にトム・ハンクス
他、出演にサラ・ポールソン、ボブ・オデンカーク、トレイシー・レッツ、ブラッドリー・ウィットフォード、他。

 

 

当代随一の映画監督、スティーヴン・スピルバーグ。

彼がナンバーワンの映画監督である理由は、質と量を両立するその作品の面白さです。

 

そしてスティーヴン・スピルバーグの作品には、大きく分けてエンタメ寄りとドラマ寄りがあります。

本作『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』は
『シンドラーのリスト』や
『ミュンヘン』、『ブリッジ・オブ・スパイ』等の

実話ベースのドラマ映画の系統です。

 

1971年、新聞社のニューヨーク・タイムズがスクープを発表する。
アメリカ政府は1965年の時点で既に、ベトナム戦争に勝てないと認識していたというのだ。
これに当時の大統領ニクソンは激怒。
情報ソースが機密保護法に違反するとし、タイムズ紙を訴えた。

一方、ワシントン・ポストもベトナム関連のスクープを狙って動き、タイムズ紙以上の資料を揃える事に成功するのだが、、、

 

第二次世界大戦後の世界史の流れの象徴的な出来事の一つ、ベトナム戦争。

冷戦下のアメリカの歴史の話だと言うと、まるで対岸の火事の様に聞こえますが、

そういう歴史を扱いつつ、本作はもう一つのテーマとして、

ジャーナリズムの在り方を描いています。

 

報道機関の存在理由とは?
権力とどの様に付き合うのか?

そして、

権力者に脅された時、
報道は機能するのか?

 

背景の歴史を知らなくとも、このドラマ部分の人間心理だけでも十分楽しめる作品となっています。

責任のある立場のリーダーが、
最も困難な時に何を選択するのか?

 

今現在、日本に生きる我々にも、
決して他人事では無い事柄を描いた作品、
それが『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』なのです。

 

 

  • 『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』のポイント

報道の自由を守るのは、報道だ

リーダーの決断と選択

ベトナム戦争、ニクソン、ウォーターゲート事件

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 


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  • ベトナム戦争とアメリカ

本作『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』は1971年のアメリカを描いています。

その背景として、アメリカとベトナム戦争の歴史の関わりを知っていると面白いと思いますので、その辺りを簡単に書き出したいと思います。

青字が映画『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』で描写された部分です。

 

1945:
第二次世界大戦終結、ベトナム民主共和国成立。

1949:
ベトナムを植民地にしていたフランスの後ろ盾で、南部に傀儡政権のベトナム共和国(南ベトナム)を樹立。

1953:
米大統領にアイゼンハワー就任。
ディエンビエンフーの戦い。

1954:
ジュネーブ協定により、ベトナム、南北分断される。
アメリカの介入が始まる。

1960:
南ベトナム解放民族戦線、結成される。

1961:
米大統領にジョン・F・ケネディ就任。
南ベトナム解放民族戦線にクラスター爆弾、ナパーム弾、枯葉剤を使用。

1963:
ケネディ暗殺。副大統領のリンドン・ベインズ・ジョンソンが大統領に就任。

1964:
トンキン湾事件。

1965:
北ベトナムへ大規模な空爆「北爆」が行われる。
アメリカの本格的な軍事介入が始まる。

1966:
ベトナム視察を終えた国防長官マクナマラの記者会見
「情勢は満足のいく進展を遂げている」

1967:
マクナマラ辞任。

1968:
マーティン・ルーサー・キング・ジュニア暗殺。

1969:
米大統領にニクソンが就任。

1971:
ニューヨーク・タイムズ紙、ペンタゴン・ペーパーズを暴露

1972:
ワシントン・ポスト紙、ウォーターゲート事件をすっぱ抜く。

1973:
ベトナム和平協定、アメリカ撤退

1975:
南ベトナムの首都、サイゴン陥落、ベトナム戦争終結。
ニクソン辞任。

 

 

南ベトナムに介入していたアメリカとしては、ジュネーブ協定で南北分断されるのはおいしく無かったのですね。

一方、そんな傀儡政権とアメリカの介入からの解放を謳った南ベトナム民族解放戦線が活動を開始、
アメリカは「ベトナムの共産化が、他のアジア諸国の共産化に繋がる」というドミノ理論を防ぐべく、本格的に軍事介入を開始します。

それが「北爆」ですね。

しかし、ソ連等の社会主義国の支援を受けたベトナムが、ゲリラ戦法でアメリカを苦しめ続け、国際世論の批判の高まりもあり、
遂にアメリカを退けるに至るわけです。

 

勿論、当のアメリカもマーティン・ルーサー・キング・ジュニア等による反戦運動が起こっており、
世論としては「何故戦争を続けなければならないのか?」という疑問が徐々に高まっていったのが1960年代後半。

そして、すっぱ抜かれた「ペンタゴン・ペーパーズ」。

お前、無理って知ってたって、どういう事だよ!」と、
読んだ人間が怒り心頭になった事間違い無いでしょうね。

 

興味が湧いたら、この辺りの歴史を調べてみるのも面白いと思います。

 

  • キャサリン・グラハムの決断

本作『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』の主役、キャサリン・グラハム。

主婦だった彼女は、夫の自殺により社主になった存在です。

齢、45、主婦から社主へジョブチェンジ。

周りのワシントン・ポスト経営陣は、彼女を表面的には支持しつつも、心の中では馬鹿にしきっています

それは、彼女が素人であり、女性であるからです。

 

実際、キャサリンはセレブなパリピ。
デカイお屋敷で良い服を着て、夜はお友達と会食三昧。

しかし、そんなリアルセレベストな彼女の息子でさえ、戦争に行っていたというのが社会状況なのです。

 

*以下、ストーリーに触れた解説となっています。

 

 

キャサリンは株式公開にあたって銀行にプレゼンする時でも、原稿かみかみ、取締役会長に代わりに言ってもらう始末、
他の取締役は、彼女が隣の部屋にいるのに、聞こえよがしに大声で「アイツは社主の器じゃない」と嫌味を言いいます。

そんな折、ニューヨーク・タイムズがすっぱ抜いた大ニュース、「ペンタゴン・ペーパーズ」。

続いて、ワシントン・ポストも比肩する情報ソースを得ます。

しかし、タイムズと共通した情報ソースであると思われる以上、
もし裁判でタイムズが有罪になると、自分達もなし崩し的に有罪となってしまう。

裁判の判決が出るまで掲載を見合わせるか?
ジャーナリズムの精神に則り、出来た記事を掲載するか?

 

経営陣は勿論反対します。

時も時、株式公開しようとするバッドタイミング。

もし、逮捕者でも出たら株価が下落、どころか、ワシントン・ポストの存続事態が危ぶまれます

(というか、十中八九潰れます)

一方の編集主幹ベン・ブラッドリー以下、ライター一同は臨むところ。

新聞を実際に作っている兵士なので、自らの記事に対するプライド、
情報ソースに記事にすると宣言した以上発生する職業倫理というものもあります。

キャサリンはどうするのか?
記事掲載か?不掲載か?

 

彼女が選ぶのは、記事掲載

ジャーナリズムの根幹とは、権力を見張るもの

それが、政権への忖度により、記事掲載を見合わせる事態に陥ったら、
その状況こそ、既にジャーナリズムが死んでいる

記事掲載したら、会社が潰れるかもしれない。
しかし、記事掲載しなければ、新聞社である意義すらない。

それならば、記事掲載するしか無い、とキャサリンは決断するのです。

 

面白いのは、こういう職業倫理だけによってキャサリンが決断したのでは無いと、ちゃんと描いて点です。

新聞社でありながら、時の大統領や国防長官と個人的な付き合いがあったキャサリンやベン。

そういう権力者とズブズブの関係は、果たして正しいジャーナリズムなのか?

この事をキャサリン(とベン)は作中で悩みます。

つまり、過去、彼等の社会に対する追求は、
相手を忖度したぬるいものだったのでは無いか?

その自問自答があるからこそ、今度こそ、自らの決断は苛烈に行う必要があったのです。

いわば、過去への贖罪ですね。

また、キャサリンは息子を戦争に取られています。

その母親目線、家族を奪われる一般人目線から見ると、戦争を不当に継続する政権を許す事が出来なかったのでしょう。

そして、何より彼女は軽んじられていた。

難しい決断を下すはずが無いと皆に思われていたのです。

そういう相手を見返してやる、という気が全く無かったと言うのは嘘になるでしょう。

素人だから、女性だから、「俺の言う事を聞け!」と迫って来る相手に、
自らの意思と言葉を示したキャサリン。

資質はどうあれ、
決断を下すという行為が出来るかどうかが、リーダーの条件です。

彼女は、自分がリーダーであると宣言した、その勇気ある様子が感動的なのです。

 

  • 驚異の若作り

キャサリン・グラハムを演じたメリル・ストリープ。

1949年生まれ、御年、68歳。

トム・ハンクスのフサフサ頭も衝撃ですが、
シワを可能な限り除去したメリル・ストリープの若さも驚異的です。

それでも、ホワホワ系女子がラストに貫禄ある決断をしてみせるという難しい役を演じるには、
それなりの人選が必要だった、
そして、メリル・ストリープはそれを見事にやってのけたと言えましょう。

…とは言え、トム・ハンクスもメリル・ストリープも、植毛してると思うんですがね、
どうでしょうかね?

作中の二人の友人関係というか、
ビジネスパートナーぶり、
互いに言う事は言いつつ尊敬し合う関係
こういう関係は羨ましい限りですね。

 

 

政権へ忖度する事無く、ジャーナリズムの魂を守ったキャサリンのワシントン・ポスト。

ベン・ブラッドリーに鍛えられたワシントン・ポストは、一年後「ウォーターゲート事件」をスクープし、ニクソン辞任の切っ掛けを作ります

アメリカの歴史を変えるスクープをものにしたのも、
この時、キャサリンが決断した魂を継承すればこそであったのです。

ジャーナリズムと政治の関わりを問い、
権力者の独断に従うのみでは、世の中は良くならないという事を訴える作品『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』。

今の日本に、正にジャストフィットする映画と言えるではないでしょうか。

 

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