マリア達6人の恒星間移民船ドルミーレ号乗組員は、クローン再生ポッドの中で目覚めた。そして、彼女達が目にしたのは、殺された自分達の死体だった。誰が、何の為に?しかも、再生されたクローン達は、20年分の航宙の記憶がすっぽりと抜け落ちていた、、、
著者はムア・ラファティ。
他の著書に
『魔物の為のニューヨーク案内』
他、映画『ハン・ソロ』のスピンオフノベライズなどを手掛けている。
クローン再生された自分達が先ず、目にしたのは、
殺された自分達の死体だった、、、
この魅力的な出だしが全てを語っている本著、
簡単に言うならば、
SFミステリ
と言えます。
より具体的に言うならば、
密室殺人とクローンのアイデンティティ
をテーマに描いた作品と言えるでしょう。
マリア達は自分達の死体を発見する。
しかも、
クローン再生された時は、
普段なら記憶の再生もされるハズだが、
今回はそれが無い。
何と、
20数年分の記憶が無く、
船に搭載されているAI「イアン」のメモリすら消去されていた。
「誰が、一体何故こんな事を?」
不安に襲われながらも、
先ず、船の保安に務める乗組員一同。
しかし、
死体は5人分。
何と、
20年分加齢した状態で、
船長・カトリーナのクローンの前世が生きていたのだが、
その彼女は昏睡状態。
カトリーナはクローン法に基づき、
古い個体は即刻破棄すべきと主張するが、
船医のジョアンナはそれに反対する、、、
船の保安を与る6人の乗組員は、
全員前科持ち。
無事に船を目的地まで航行させて、
初めて無罪放免となる訳です。
そして、
世界観と設定のキーとなるのは、
全員がクローンだという事。
それぞれの過去に何が起こったのか?
犯人の動機は?目的は?
そして、この状況でミッションを完遂出来るのか?
いかにも、魅力的な設定と世界観、
それを活かし、クローンという題材でもってストーリーが展開されれて行きます。
こういう突拍子も無い設定でも、
あり得る未来の物語だと納得させる力技。
これぞ、SFの魅力であり、
ミステリ風味のストーリーが充分に活きているのも魅力な作品、
サックリと読めて、面白い、
それが、『六つの航跡』なのです。
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『六つの航跡』のポイント
クローンという設定
誰が、何故凶行に及んだ?
乗組員の過去に、何があったのか?
以下、内容に触れた感想となっております
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クローンに魂はあるのか?
先日、中国の博士がクローン人間を製作し、
批判を浴びていました。
しかし、
極近い将来、
人間がクローン技術を推進し、
しかも、
遺伝子マップに手を加え、
自分の思い通りの人間を作り出そうとするだろう事は、
想像に難く無いです。
ただ今は、法整備もされておらず、
最初の人間になって、
批判を浴びたくない、
そういう心理が働いて、牽制し合っている状態と言えるでしょう。
現在、
かろうじて倫理的らしきもので食い止められているクローン技術も、
必ず、近い将来、歯止めが効かず暴走します。
本作『六つの航跡』は、
そのクローン技術が暴走した先の世界の物語。
自分の死後、
20代のクローンにマッピングした記憶をダウンロードし、
再び生き返るという技術が当たり前になった時代。
しかし、クローン法が成立され、
クローンの制作時に、何らかのデザインを施す事が違法になった世界の話です。
本作では、
SFで有名な「ロボット3原則」ならぬ、
「クローンの作製と管理に関する国際法附則」なる7項目が冒頭に附されています。
重要項目として、
クローンについて、先ず語った本作。
ここから分かる通り、
本作のテーマを担うのは、
クローンという存在のアイデンティティ、意義といったものです。
このクローン法に、
面白い項目があります。
それが第6項。
簡単に書くと、
「クローンが死んだら、葬式せずに即、処理すべし」
と書かれているのです。
現代日本の様な無神論者が多い社会では、
「自意識があるのなら、それは人間であり、死を悼むのは当然では無いのか?」
と、この条文の冷酷さに疑問に感じてしまうかもしれません。
しかし、
逆に宗教的な観点から見ると
「オリジナルから派生したクローンという存在に、魂はあるのか?」
という命題を抱えてしまうのです。
本著は他にも、
「同じオリジナルから派生したクローンが共存した場合は、後から製作された方に生存権がある」
「クローンは必ず不妊治療をせねばならず、如何なる身体改造を行ってはいけない」
など、
色々と面白い設定が盛り込まれています。
いずれも、
社会にクローン技術が浸透した場合に、議論が紛糾するであろう事に触れており、
今後、実際の社会がどの方向に向かうのか、
そういう事を読者が考える契機となるのです。
そういったクローンのあれこれを絡めつつ、
本著のストーリーはミステリ的に物語が進んでいきます。
全員がクローン、
全員が前科持ち、
宇宙船という密室殺人…
SFという世界観にて、
そのSFの設定を活かしたミステリ作品が本著なのです。
当然、読者は、
「誰が何の為に凶行を行ったのか?」
それを予想しながら読む訳ですが、
私の予想は外れました。
*以下、本著のオチに触れる形で内容について語っております
本著のミステリ部分のオチは、
論理的に考えれば、
至極真っ当な帰結に辿り着いています。
しかし、
私は、SF的な突拍子も無いオチを予想していました。
私は絶対、
ジョアンナが犯人だと思っていました。
犯人というより、黒幕ですね。
つまり、
本船に乗っているジョアンナは、
「ジョアンナのクローンに、サリー・ミニョンのマインドマップを移植した存在」
だろうと予想していました。
サリー・ミニョンは醜い争いが見たかった。
しかし、
20年以上経っても仲良くしている乗組員達に業を煮やし、
ポールを操って凶行を起こさせた。
その後、
皆をクローン再生させ、
疑心暗鬼の中で混乱が起きるのを、
医師という最前線の立場で鑑賞したかった。
そういう動機だと思っていたのです。
まぁ、完全に予想は外れました。
数あるミスリードの一つに嵌った感じです。
予想が、
当たるも八卦、当たらぬも八卦。
自分の予想に一喜一憂するのも、
ミステリの面白い所です。
でも、
ジョアンナの過去エピソードのみ、
他のキャラと比べると弱くないですか?
(だから、過去エピソードの最初に配置したのでしょう)
マリアなんて、
過去エピソードが積み重なる程、
超人度が増して行ってますよ。
その超人的な能力を持つマリアも、
権力者の理不尽な暴力に何度も屈っせざるを得ない所に、
社会の世知辛さを感じます。
SF設定を活かしたミステリ作品である『六つの航跡』。
乗組員各人の過去エピソードが、
クローン技術の抱える問題点を浮き彫りにしているという、
ストーリー的にも、
テーマ的にも面白い手法を採っており、
文章の読み易さも併せて、
高いリーダビリティを持つ作品です。
サッと読めて、
色々考えさせられて、
面白い。
正に、SFを読む面白さに満ちた作品と言えるでしょう。
*書籍の2018年紹介作品の一覧をコチラのページにてまとめています。
コチラは下巻です
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