うだつの上がらない訳者志望の大野和人はフリーター。緊張したり、ストレスを感じると気絶してしまう持病の所為で、今日も、オーディションに落ちてしまった。ある日のバイト中、5年ぶりに弟・宏樹と偶然出会う。なんと、弟も役者になっており、彼の所属する「スペシャルアクターズ」は、演じる事を生業とした何でも屋みたいな事をしていた、、、
監督は上田慎一郎。
監督作に、
『カメラを止めるな!』(2017)
『イソップの思うツボ』(2019:共同監督)等がある。
出演は、
大野和人:大澤数人
大野宏樹:河野宏紀 他
2018年の邦画にて、
最も話題をさらった映画『カメラを止めるな!』。
その監督、上田慎一郎が、
次に何を作るのか?
そこに、注目が集まるのは、無理の無い事です。
それで、
作ったのは、『イソップの思うツボ』。
これは、3人の共同監督という形でしたが、
まぁ、
ハッキリ言うと、あんまり、面白く無かった。
オチが、気に入らなかったんですよね。
ならば、
『カメラを止めるな!』後の、
長篇映画第二作目となる、本作はどうなるのか?
数字的にも、評価的にも、
もう、失敗は出来ないのではないのか?
一発屋って、言われちゃうぞ!?
そして作った本作『スペシャルアクターズ』。
これは、どんな作品になったのでしょうか?
方向性としては、
『カメラを止めるな!』と同じモノ。
無名の役者を使い、
家族的な、親密な仲間内の空間を作り、
多重構造を持ったストーリーを展開する。
空気感としては、
良い意味でも、悪い意味でも、
全く予備知識も無く、
思いもかけず見つけた深夜映画の様な面白さがあります。
『イソップの思うツボ』は、共同監督だったので、
まだ言い訳は出来ますが、
本作では、
どんな言い訳も出来ません。
前回のヒットは、
まぐれ当りだったのか、否か?
いわば、審判が下される作品と言えますが、
その勝負の作品に、
『カメラを止めるな!』と同じ手法を持ち込んでいるんですね。
つまり、
上田慎一郎監督は、この路線で行く、
その宣言であるとも、本作からは受け取れます。
なので、
「カメラ~」が好きな人は、
本作も楽しめると思います。
逆に、
本作のネタは「カメラ~」と共通する部分があるので、
そういう意味では、
既に、サプライズ的な面白さは無いとも言えるのです。
しかし、
そういうサプライズが無くとも、
本作は充分、楽しめます。
気絶の持病がある役者が、
演技で詐欺カルト集団に対抗する
この設定だけで、既に面白いですし、
この物語を演じる出演者達が皆、
わちゃわちゃしていて、
「我々が、作品を作っているんだ」
そういう熱量が、
画面から伝わってきます。
いわば、
有名じゃ無い、
何かを成し遂げていない、
道半ばの人間だから表現出来る、
「やってやる」という気迫、
というモノが、
本作には詰まっているのです。
これはいわば、
永遠の未完成
とも言うべきもの。
そして、
こういう映画撮影方法こそ、
上田慎一郎監督が目指すものなのかもしれません。
ともあれ、
本作を観れば、
「自分も、何かやってやる!」
そういうエネルギーを貰える映画、
『スペシャルアクターズ』は、
そういう作品なのだと言えるのです。
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『スペシャルアクターズ』のポイント
無名の役者だからこそ出来る、無垢な熱量
仲間内の、わちゃわちゃした連帯感
「演じる」という物語の多重構造
以下、内容に触れた感想となっております
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無名の役者だからこその、共感
『カメラを止めるな!』(2017)が大ヒットした、昨年。
同作品を監督した、上田慎一郎は、
本作、『スペシャルアクターズ』でも同じように、
無名の役者をキャスティングして、映画を作りました。
ヒット作の後なので、
やりようによっては、有名な役者をキャスティングする事も可能だったハズです。
例えば、
主役:窪田正孝
弟:菅田将暉
社長(ボス):ムロツヨシ
社長の娘:松岡茉優
シナリオ担当:大森南朋
占い師:柴田理恵
旅館の女将:夏帆
女将の妹:森七菜
教祖:さかなクン
教祖父:渡邉美樹 etc…
とかにすれば、
確実に、客入りは10倍になるでしょう。
しかし、
それでは作品のテーマが蔑ろになってしまうのです。
上田慎一郎監督は、
ワークショップ(全員参加型)のオーディションの後、
「マジカル・スパイ」という作品を作る予定だったそうですが、
それを断念。
選んだキャストの意見を聞きつつ、
クランクイン(撮影開始日)の日のギリギリ直前まで、
シナリオを考えていたのだそうです。
そうして作ったのが、
本作『スペシャルアクターズ』。
出来上がった作品の主人公、大野和人は、
演じる大澤数人、自身の当て書きであり、
プレッシャーを感じる監督自身の現し身でもあります。
それだけではありません。
本作の役名は、ほとんどすべて、
出演者自身の本名(芸名)をもじった形で付けられています。
大野和人:大澤数人
大野宏樹:河野宏紀
富士松卓也(社長):富士たくや
富士松鮎(娘):北浦愛
田上陽介(シナリオ):上田燿介
清水八枝子(眼鏡):清瀬やえこ
大和田多磨瑠(教祖):淡梨(たんり)
大和田克樹(教祖父):三月達也
津川里奈(旅館めぶき女将):津山理奈
津川祐未(旅館めぶき妹):小川未祐
もうこれは、
役のキャラクター自体が、
すべての役者の当て書きとして描かれているのです。
…こういう手法を採った場合、
有名役者だとどうでしょうか?
パブリックイメージと、
パーソナルイメージのギャップ、
また、
固定観念としてのイメージが定まっているからこそ、
それを、
そのまま表現する事に、予定調和が生まれてしまう、
そういう弊害があります。
本作が目指すのは、
親密な仲間意識の中から生まれる、
予定調和を越えた、
限界突破的な化学反応であると言えます。
つまり、
目指す表現に、
常に、「コレ」といったゴールは無く、
飽くまでも、
未完成のまま、成長、変化し続ける演技を披露しているのです。
知らない役者だからこそ、
観ている方は、
これから、何が起こるのか、予測しづらい、
だから、面白いのですね。
例えば、主役がキムタクだと、必ず事件は解決します。
オッサン役をリリー・フランキーや渡辺哲やでんでんが演じていたら、
何か、腹に一物あるなと、思ってしまいます。
しかし、無名の役者なら、事件が解決するとは限らないし、
何が起こるのか予測不能、
バッドエンドもあり得る、そういう緊張感が生まれるのですよね。
真っさらなイメージで鑑賞出来るから、
ハラハラ出来る、
そこに、共感が生まれる、
だから、本作は面白いのですね。
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物語の多重構造
本作のテーマは、
実は、最初の大野和人のオーディションの場面で語られています。
オーディションの監督(?)役の人が、こんな様な事を言います。
「物語は、嘘なんだよ、でも、それで、感動させてくれよ」と。
確かに、
物語というものは「作り物」ではあります。
しかし、
その作り物で、
人を感動させたり、勇気づけたりする事が出来る、
『スペシャルアクターズ』は、
そういった、物語の素晴らしさを、
多重構造にて描いた作品なのです。
その多重構造とは、
演じる役者
→映画内の人物
→映画内の人物が演じるシナリオ
→その一連のシナリオ自体、和人の為の物語だった
→と、いう『スペシャルアクターズ』を観る、観客
といったもの。
(さらに和人は、作品内作品の『レスキューマン』の影響を受けています)
『カメラを止めるな!』でも、
意識して多重構造を作っていましたが、
本作は、
それが前作同様、
作品のテーマと合致しており、
見事な作りになっています。
本作は、
確かに、ヒット作『カメラを止めるな!』と同じ作りとなっております。
そういう意味では、
二番煎じであり、
その一方、
監督の映画撮影の、得意な方向性を確立させているという意味で、
堅実な作りとも言えます。
そうなったら、評価としては、
観客の好みのレベルになってしまいます。
近年、邦画はバリエーションが豊かで、
アクションもあれば、ドラマもあり、
サスペンスや、ヴァイオレンス、
10代女子向けや、アニメなど、
様々な作品が繚乱しています。
しかし、
こういう、無名の役者中心で、
シナリオ、アイディア重視という作品は、意外に多くありません。
そういう意味でも、
上田慎一郎という監督は、貴重な存在。
日本映画の裾野を拡げるという意味でも、
今後も頑張って欲しいものです。
だからこそ、
物語の力を謳うこの作品は、
貴重であり、
そして、観る人を勇気づける、
それが『スペシャルアクターズ』と言えるのではないでしょうか。
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