映画『ブレット・トレイン』感想  愛すべきバカ映画!!

現在カウンセリングを受けている殺し屋レディバグ。久しぶりの仕事の復帰は、新幹線にてブリーフケースを奪取するというものだった。
しかし、運の悪さを自称する彼に、案の定不運がまとわりつく。どうやら新幹線内には別の仕事人も乗り合わせており、期せずしてトラブルが起こるのだった、、、

 

 

 

 

 

 

監督はデヴィッド・リーチ
元々は、スタントマンで、ブラッド・ピットのスタントダブルも行っている。
監督作に、
『ジョン・ウィック』(2014:ノンクレジット、チャド・スタエルスキと共同)
アトミック・ブロンド』(2017)
デッドプール2』(2018)
ワイルド・スピード/スーパーコンボ』(2019)がある。

 

原作は、伊坂幸太郎の『マリアビートル』。

 

出演は、
レディバグ(天道虫):ブラッド・ピット
タンジェリン(蜜柑):アーロン・テイラー=ジョンソン
レモン(檸檬):ブライアン・タイリー・ヘンリー
プリンス:ジョーイ・キング
キムラ:アンドリュー・小路
長老(エルダー):真田広之
???:マイケル・シャノン 他

 

 

ベストセラー作家、伊坂幸太郎の『マリアビートル』が原作、
日本が舞台のハリウッド映画、
主演、ブラッド・ピットという事で、公開前から話題になっていた『ブレッド・トレイン』。

普段、映画を観に行かない友人も、
「コレ、見たい」と言っていました。

そんな彼は、普段、本を読まない人なのですが、
伊坂幸太郎は一時期ハマっていたと言っていたので、
その意味で、波及力があったのかもしれません。

 

聞くところによると、

伊坂幸太郎の小説には、
殺し屋とかが、多数出て来るとの事。

私は読んだ事無いのですが、
どうやら、
リアリティ寄りというより、
ファンタジー系統のようですね?

 

さて、
私が予告篇を観た感じだと、
「あ、これクソ映画だ」といった印象でした。

作ったオシャレ感、
ハリウッド映画特有の、間違った日本観、
どうせ予告篇だけの、『ステイン・アライブ』という選曲。

そして、
過去に観た、伊坂幸太郎原作の映画化作品、
『グラスホッパー』(2015)が、
個人的に全く楽しめなかった件。

 

どうせ自分は楽しめないだろうな、
と思っていました。

でも、まぁ、
ブラッド・ピットが出てるし、
日本舞台だし、
ある種の義務感で、観てみるか、

という事で、鑑賞してきました。

 

で、どうだったかと言うと、

まぁ、鑑賞前から思っていた通り、
設定が現実離れしたバカ映画でした。

しかし、
面白さ想定外、
愛すべきバカ映画なのです。

 

 

本作の舞台は日本。

しかし、ロケとかは、恐らく、全くやっていません。
スタジオ、セット&CGを駆使した、
架空の日本が舞台と言えます。

なので、
外人監督が日本を舞台にした映画としては、

『沈黙 ーサイレンスー』(2016)とか、
MINAMATA-ミナマタ-』(2021)などの、
リアル路線では無く、

本作は、
『キル・ビル Vol.1』(2003)とか、
『ウルヴァリン:SAMURAI』(2013)みたいな、
ファンタジーとしての、架空の日本が舞台と言える作品。

そのノリで、

殺し屋ばっかりの登場人物という
突拍子も無い設定でも、

ハリウッドが作った、
イマジナリー日本という舞台において、
何故か、妙にマッチしているのです。

 

そして本作、

とにかく、
登場するキャラが濃い!!

 

新幹線内に乗り合わせる「濃い」ヤツらが、軒並み殺し屋。

で、
「殺し屋」とかいう設定自体が、意味不明なのですが、

その「殺し屋」の過去エピソードというか、
新幹線に乗り合わせるまでの短い経緯が、
フラッシュバックとして、簡単に挿入されます。

この、
漫画の『ジョジョの奇妙な冒険』で、
敵スタンド使いの紹介をするときに使われるエピソード形式は、

本作において、非常にマッチしております。

 

で、まぁ、
殺し屋同士が密閉空間で遭遇するという事で、
スタンド使いのように、
まるで使い捨てカイロの様に、
敗北した方が、
再起不能(リタイア)と言わんばかりに、アッサリ退場して行きます。

このキャラのアッサリ感が、
意外性とスピード感を醸し出しています。

そう、
本作は、

勢い、ノリで突っ切るアクション映画。

 

先ずは、
考えるな、
条件反射で動け!

というノリ。

まさに、『燃えよドラゴン』(1973)の「ブルース・リー」イズム。
「Don’t think Feeel!!」ってヤツです。

なので、
細かい事は考えずに、
とりあえず、楽しめばそれで良いのです。

難しい事は考えずに、
「は?ありえんだろ!?」という、
ツッコみが楽しい映画。

ま、正直、
クライマックスシーンの真田広之の殺陣の格好良さだけでも、
十分満足なレベルです。

 

ファンタジー日本を楽しむ作品、
それが『ブレット・トレイン』と言えるでしょう。

 

 

  • 『ブレット・トレイン』のポイント

濃いキャラのハチャメチャぶりが楽しい

ファンタジー日本の奇天烈ぶり

禍福は糾(あざな)える縄のごとし

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 

 

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  • 敢えてのファンタジー日本

本作『ブレット・トレイン』は、日本が舞台。

とは言え、
日本的な風景とかは出てこないで、
日本的な「文化」が舞台の背景となっているという印象。

で、
その「日本的な文化」なのですが、

これが、
ハリウッド特有の、
ファンタジー日本なのです。

 

日本刀を所持したヤクザ、
ニンジャ、
ポップでカラフルな世界観 etc…

何か、外人が思う、
想像上の日本というか、
「アニメや漫画で描かれるニッポン」的なものを、
そのまま実写にした感じがあります。

 

しかし、これは、
原作者の伊坂幸太郎もパンフレットで言っていたのですが、
作っている方も、本当のニッポンを知っていて、
敢えて、ファンタジーの日本を表現しているんですよね。

ほら、
日本人が、
アメリカ人の事を、
ハンバーガーとピザとコカ・コーラが主食で、
さびれたダイナーでパイを食ってる警官が44マグナムを装備しており、
トランプみたいな人がテンプレ、

と、思っているのと同じ事ではないでしょうか。

 

ちょっとズレている、
誤った共通認識を、
敢えて「ホンモノ」として具現化する、

その面白さを追求している、
のかも、しれません。

世界観を、ある程度自由に作れる、
という面白さもありますしね。

 

さて、これは個人的にいつも、
日本を舞台にしたハリウッド系映画を観て思うことですが、

あの、
独特の日本語フォントは、何なのでしょうかね!?

絶対、あの文字フォントが使われるというか。

やっぱり、
海外での日本語フォントは、アレがテンプレなんでしょうか。

 

  • ホワイトウォッシュについて思う事

日本を舞台にしているハリウッド映画という事で、

それを考慮してなのか、ジョーイ・キングの演じたプリンスが、
凄い、ポップですね。

「ピンク服着たロリ巨乳」って、
アニメみたいな人が、本当に居るんですね。

 

まぁ、それはそれとして、
プリンスの役柄(少女)は、
原作においては少年だったようで(小説の名前も「王子」)、
映画化における改変点の一つとして上げられます。

 

その一方で本作は、
日本を舞台にしたのに、
日本人(アジア人)を主役にしていない、
これは、「ホワイトウォッシュ」だという批判を受けているそうです。

 

「ホワイトウォッシュ」とは、
元々、別の人種の人間を、
映画化に際し白人キャストに割り当てる事。

特に、ハリウッド映画において、
昨今、指摘されております。

 

最近のハリウッド映画は、
そういう「キャストの人種の国際化、平均化」に厳しいところがあり、

例えば、
本作でもそうですが、

大作映画なんかは特に、
白人、黒人、メキシカン、アジア人が、
必ず、主要キャストに組み込まれております。

 

とは言え、
黒人と言っても、
アメリカ系とヨーロッパ系、アフリカ系で違いますし、

アジア系と言っても、
英語圏生まれ、在住の実質アメリカ人と、
中国人、韓国人、日本人、インド人などを、
ゴッチャにして、

「とりあえず、形だけ整えてみました」感が
アリアリと伝わってきてアリーヴェデルチです。

 

舞台がアメリカならば、
主人公が白人でも問題無いが、

舞台を日本にするなら、
それは、人種に対する冒瀆である。

「人種を意識しない」という事が、
無知の差別を生む」という事です。

 

確かにそうですが、
本作においては、
ファンタジー日本なので、
白人が日本で英語を喋っていても、
まぁ、別に、問題ないかな、と思います。

ボスキャラのホワイトデスも、
ロシアンマフィアと言いながら、
モロ、アメリカ人ですしね。

とりあえず、
マイケル・シャノンがデカいから、
ロシア人っぽいでしょ、という発想です。

そういうメチャクチャな緩さを許容するのも、
バカ映画を観る上で必要な寛容さだと思われます。

 

  • 禍福は糾える縄の如し

本作『ブレット・トレイン』の主人公レディバグは、
とにかく不運な殺し屋と、
自称しています。

その自己分析通りと言いますか、
新幹線内にて、
次々と殺し屋に襲われる始末。

一方、
新幹線内で暗躍する「プリンス」は、
運を味方に付けて、やりたい放題しております。

しかし、
結果的には、
レディバグは生き残り、
プリンスは死にます。

 

ピンチはチャンスと言いますが、

レディバグの場合、
突発的に強襲される不運に、
アドリブで対処する能力が異常に高いんですよね。

だから、結局は生き残っており、
結果的には、幸運なんじゃない?

と、後から気付く事になります。

 

想像してみて下さい。

野球の打席で、
相手ピッチャーが、
自分が待っている絶好球を投げて来たとします。

でも、
絶好球(幸運)が目の前に転がり込んで来ても、
それを打ち返す実力がないと、
結果は生まれないのです。

我々が、いくら頑張っても、
メジャーリーガーの大谷翔平の球を打ち返せないのと一緒です。

しかし、
元々、大谷翔平の球を打ち返せる実力のある者なら、

自分の待っていなかった球が来ても、
(思いがけないトラブルが発生しても)

イチローの様に、
ヒットに繋げてしまうものなのです。

 

何を言っているのか解らないと思いますが、
何が言いたいのかは解ると思います。

 

つまり、
運も、不運も、
どう受け取り、対処するかで、
それが本人にとって、幸か不幸か変化する
という訳です。

本作を一言で言うなら、
禍福は糾える縄の如し」をテーマにしているのです。

 

 

さて、小ネタですが、
本作において、
毒を使う殺し屋「ホーネット」役を演じたのはザジー・ビーツ。

ザジー・ビーツは、
本作の監督デヴィッド・リーチの過去作、
デッドプール2』(2018)にて、
幸運を味方につけるミュータント、ドミノ役で出演していました。

ちなみに、
『デッドプール2』の主役のデッドプールを演じたライアン・レイノルズは、
本作でカーバー役としてゲスト出演しています。

 

ドミノは作中、
暴走するトレイラーが、高架線から脱線、墜落した時、
幸運にも、空気が詰まったキャラ風船がクッションになり事なきを得ます。

本作においては、
その自己オマージュといいますか、
クライマックスシーンにおいて、

暴走して脱線する新幹線内で、レディバグは、
「ホーネット」が着ていた「モモもん」の着ぐるみがクッションになり、生き残ります。

 

地味に、過去作を観ている人しか気付かないネタだと思われます。

 

  • 使用楽曲について

『ブレット・トレイン』は、
日本が舞台という事で、
日本語歌詞の楽曲も多数、採用されています。

 

予告篇でノリノリで流れていた『ステイン・アライブ』。

大体、こういう映画では、
予告篇で使われた楽曲が、
本篇では使われない事も多いですが、

本作ではちゃんと使われています。

そして、
これを歌うのは、
実は、アヴちゃん(女王蜂)。

 

他にも、
奥田民生の『キル・ミー・プリティー』や、

カルメン・マキのデビュー作『時には母のない子のように』(1969)

アメリカのビルボードチャートで1位も獲得した、
坂本九の『上を向いて歩こう』(1961)

なども印象的ですが、

やはり、
一番テンションが上がったのは、
真田広之のカッコ良い殺陣のシーンで流れていた、

麻倉未稀の『ヒーロー HOLDING OUT FOR A HERO』(1984)です。

 

『ヒーロー HOLDING OUT FOR A HERO』は、
ハーバーと・ロス監督、ケヴィン・ベーコン主演の『フットルース』の挿入歌、
ボニー・タイラーの『HOLDING OUT FOR A HERO』の日本語カバー曲。

山下真司主演のTVドラマ『スクール☆ウォーズ』(1984~85)の主題歌に起用され、
ドラマ共々大ヒットしました。

 

場面に合っていたのかというと、
ちょっと違う様な気もしますが、

しかし、
『スクール☆ウォーズ』を観ていた40代~50代の人間にとっては、
テンションがぶち上がったのではないでしょうか。

思わず私も、
「イソップ!!」とか、
「俺は今から、お前達を殴る!!」とか、
言いそうになりましたもんね(!?)

 

 

 

基本的にバカ映画。

ホワイトウォッシュという批判も、
確かにその通り。

典型的なポップコーンムービーである
『ブレット・トレイン』。

しかし、
こういう意味不明の、
楽しいエンタメ映画を、
何も考えずに楽しむのも、
偶には、良いのではないでしょうか。

個人的には、
ファンタジー日本の世界観、
選曲や、
真田広之の殺陣で、十分楽しめた作品でした。

 

 

 

 

伊坂幸太郎の原作『マリアビートル』は、コチラ

 

 

 

 

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