映画『NOPE/ノープ』感想  見世物の逆襲と、見る側、見せる側の関係!!?

ロサンゼルス郊外、ハリウッドなどのTV出演用の馬を調教しているヘイウッド牧場。そこの主人であるオーティスが死んだ。死因は、落下してきたコインによる脳挫傷。しかし、誰が、どうやって!?
半年後、牧場を継いだ息子のOJ。ある夜、牧場を脱走した馬を追って、空に謎の飛行体を目撃する。妹のエメラルドにその話をすると、是非、カメラに収めようと提案される、、、

 

 

 

 

 

 

 

 

監督は、ジョーダン・ピール
コメディアン出身。
監督作に
ゲット・アウト』(2017)
アス』(2019)がある。

 

出演は、
OJ・ヘイウッド:ダニエル・カルーヤ
エメラルド・ヘイウッド:キキ・パーマー
エンジェル・トーレス:ブランドン・ペレア
アントレス・ホルスト:マイケル・ウィンコット
リッキー・”ジュープ”・パク:スティーヴン・ユアン
キース・デヴィッド:オーティス・ヘイウッド・シニア 他

 

 

 

元々はコメディアンだった、ジョーダン・ピール。

しかし、長年の夢であった監督業にチャレンジした彼は、
「笑い」と「恐怖」は紙一重と言いますか、

オリジナル脚本であるホラー映画
『ゲット・アウト』を撮影、

アカデミー賞にて脚本賞を獲得し、
一躍、評価を得ました。

 

続く『アス』も、
ホラー風味のスリラー映画。

また、
TVシリーズの「トワイライトゾーン」や、
ホラー映画のリビルト作品『キャンディマン』(2021)
などをプロデュースし、

ホラー界隈にて、
その実績を重ねております。

 

ジョーダン・ピール作品の特徴としては、

元々がコメディアンという事で、

情動と感情といったノリで作っておらず、
緻密な計算の元、頭を使って作品を作っているという印象。

 

で、
本作『NOPE/ノープ』はどんな作品かと言いますと、

確かに、
緻密な計算の元に作り上げた作品というのは、
過去作と共通しているのですが、

しかし、

過去作と比べると、

より、エンタメに寄った、
画面映えする、ド派手な迫力のある作品

 

となっております。

 

監督はそれを、
スペクタクル」と表現しています。

 

 

本作は、
コロナの影響下にて、作られた作品。

ハリウッド自体が、一時閉店を強いられている状況にて、

「再び、観客を劇場まで呼べるスペクタクルを作ろう」
というコンセプトで製作されているのです。

それ故に、

過去の監督作2つは、
ぶっちゃけ説教臭い作風でしたが、

本作は、
割と、感覚とノリで、
画面の「凄さ」を楽しめる作品であるとも言えます。

 

 

しかし、
ジャンルとしては、
本作は、やっぱりホラー映画。

近しい作品として、

M・ナイト・シャマラン監督の諸作品、
特に、『サイン』(2002)を彷彿とさせます。

他にも、
TVシリーズの「X-ファイル」とか、
「トワイライトゾーン」とか、
「世にも奇妙な物語」とか、
諸星大二郎の漫画とか、
星新一の短篇SF小説とかが好きな人なら、

本作は、楽しめるものと思われます。

 

逆に言うと、
物語に絶対的なリアリティを求める人は、
本作は向かないかなぁ~。

 

本作は、
撮影に「IMAXカメラ」を使っています。

それ故、
舞台である牧場、そして「空」などの雄大な風景を、
クリアに描き出しています。

 

意味不明にドデカい事が起こる!

 

一言で言うと、
そんな映画である『NOPE/ノープ』。

奇妙な話が好きなら、
本作は楽しめるでしょう。

個人的には、
ジョーダン・ピール作品で、一番好きですね。

 

 

 

  • 『NOPE/ノープ』のポイント

ノリで楽しめる、SF風味のホラー作品

雄大な風景と、壮大なスペクタクル

見る、見せる、見られるの関係性

 

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 

 

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  • 作品の傾向

本作『NOPE/ノープ』は、
一言で言えば「UFO映画」です。

「Unidentified  Flying Object」略して、「UFO」は
日本語では「未確認飛行物体」と言われるもの。

作中では、
最近、その呼称が、アメリカ政府により
「Unidentified Aerial Phenomena 」略して「UAP」と変えられたそうです。
日本語では「未確認空中現象」です。

 

で、
今では、古くさいけれど、
逆に、ちょっと新しく感じる、
「UFO」題材を、

ジョーダン・ピールらしい、

計算された、
テーマに添った内容、ストーリー展開で語った作品と言えます。

いわば、
ジョーダン・ピール版『未知との遭遇』(1977)でしょうか。

 

この、
「超常現象」を題材とし、
それに、真っ向から対峙するという作品傾向は、

やっぱり、
M・ナイト・シャマラン監督の作風と共通点があり、

本作はとりわけ、
『サイン』(2002)
そして『レディ・イン・ザ・ウォーター』(2006)を彷彿とさせます。

 

他にも、
本作の「UFO」、
作中にて「Gジャン」と名付けられた存在は、

TVアニメシリーズ「新世紀エヴァンゲリオン」を参考にしているそうで、

確かに、
その「鳴き声」とか、
形態変化の様子とか、
威嚇しているときの、ヒレのヒラヒラの様子とか、

言われて見ると
「エヴァ」に出て来る「使徒」の様な雰囲気があります。

 

他にも、

ジョーダン・ピール自身がプロデュースした、
TVシリーズの「トワイライトゾーン」とか、

「X-ファイル」とか、
「世にも奇妙な物語」とか、
諸星大二郎の漫画、『ぼくとフリオと校庭で』などの諸作品とか、
星新一の短篇SF小説とか、

その辺に共通する傾向と言いますか、

超常現象を、
茶化さずに、真面目に取り組み、テーマにした作品群と共通点が見られます。

 

で、本作は「UFO」テーマの作品なのですが、

結局、
SFなのか?
それともホラー?

答えから言いますと、本作はホラー映画と言えます。

その理由は、

未確認飛行物体について、
何処から来て、
どういう存在で、どういう生態で、
何が目的なのか、

そういう、
「謎の解明の詳細」に重点が置かれているのがSF作品

 

一方、
ホラー作品ならば、

そういう設定部分を枝葉末節として脇に置いて、

むしろ、
対象と対峙した時の情動、
「喜怒哀楽」(主に恐怖)の描写を重視しています。

別に、謎は、解明しなくてもいいのです。
恐怖の対象を乗り越えさえすれば。
(時には屈服しますが)

 

そう言った意味で、
本作はホラー映画。

なので、
今までのジョーダン・ピール作品同様、
本作もホラー映画と言えます。

とは言え、
撮影の規模、クオリティ、スケールなどが豪華になっており、

その壮大なスペクタクルの面白さが、
過去作と比べて、
本作が観やすく、
何も考えなくとも、楽しめるものとなったと言えます。

 

  • 見世物の叛逆

過去作と比べても非常に観やすい『NOPE/ノープ』ですが、

とは言え、
キチンと、頭で、考えて作っているジョーダン・ピール作品。

本作にも、
ちゃんと、テーマというものがあります。

それは、
「見る、見せる、見られる」という三者の関係です。

 

さて、話は変わりますが、

皆さんは、
猿回しの太郎と、反省サルの次郎を知っていますか?

25年ほど前にブレイクした芸で、
調教したニホンザルに、人間を模した行動をさせるというものです。

私も初見時は、興味深く拝見したのですが、

これをよく見ると、
ニホンザルの「次郎」が、時々、怒りをにじませて反抗している様子が散見されます。

するとすかさず、
猿回しの太郎が、
それを上回る激怒の雰囲気を発し、
有無を言わさず、次郎を黙らせるのですが、

個人的な感想ですが、
私はこの関係性が恐ろしく、残酷に思えて、
どうにも、この芸を楽しめないのです。

 

閑話休題、

本作は、その冒頭に、
旧約聖書「ナホム書3章6節」よりの引用

「私は汚らわしいものをあなたに投げかけ、あなたを辱め、あなたを見世物にする」

という言葉が引用されます。

私がこの言葉を見て、
直感的に思い浮かんだのは、
クソを投げつける動物園のチンパンジー」です。

そして、
本作の冒頭は、
何か、惨劇が起きた様子がちょこっと映されて、始まります。

 

作中の副パートとして、
その惨劇の顛末が、徐々に明らかにされます。

それは、過去の出来事であり、

チンパンジーをTV番組に出演させ、
ゴーディを名付けられた彼を、パロディにして笑いを取る人気番組の撮影中、

キレた(?)サルに、番組出演者が虐殺されるという事件です。

で、
ヘイウッド牧場の近くで見世物小屋を営むジュープは、
番組に子役で出演しており、その事件の生き残りという過去があると明かされます。

 

脇役のジュープですが、
その副パートでは、中心人物として扱われており、

実は、本作のテーマの理解を助ける、
重要な役目を担わされています。

彼は、
OJやエメラルドに先立ち、
「UFO」に着目しており、

これを、
自分の見世物小屋の新たなるショーとして利用しようとします。

「UFO」の出現時間や、
動物(馬)を襲う様子から、
パターンを見極めた(と思い込んだ)ジュープは、

「UFO遭遇ショー」を企画し、
実行しますが、

その初回にて、
速攻でパターンが崩れ、
「UFO遭遇ショー」は、一瞬で、
「UFOによる観客虐殺ショー」に早変わりしてしまいます。

 

動物園のチンパンジーが、
観客に、自らがひり出したクソを投げつけるのは、
自分が「見世物にされている」という事を自覚し、
それを屈辱と感じるストレスとプライドと知能を持つという証左です。

それは、本作の
チンパンジーのゴーディのしかり、
「UFO」のGジャンもしかりです。

本作で描かれるのは、
見世物にされるモノの悲哀と叛逆

そこから派生して、
「見る、見せる、見られる」それぞれのモノの三者の関係性を描き出した作品と言えるのです。

 

さて、
冒頭の旧約聖書の引用ですが、

私が、「クソ投げチンパンジー」を思い浮かべたのは、偶然でしょうか?

いいえ、
絶対に違います。
100%、ジョーダン・ピール監督の計算です。

最適な言葉を、
最適に配置して、
観客の思考を誘導する。

ジョーダン・ピール監督らしい職人芸と言えるでしょう。

 

  • 見る、見せる、見られる

『NOPE/ノープ』のテーマである、
「見る、見せる、見られる」の関係。

本作においては、

見る:エンジェル、見世物小屋の観客、本作を観る観客
見せる:OJ、エメラルド、ホルスト、TNZの記者、ジョーダン・ピール監督
見られる:最初の映画に出演した黒人騎手、ゴーディ、Gジャン、本作それ自体

などが、主にそれに当たります。

 

エンジェルは、
途中から、「見る」側から、「見せる」側にシフトし、
両者にまたがった活躍をします。

監視カメラを勝手に覗き見している立場から、
カメラ撮影をするという主体になりつつも、

第三者目線で、
最前線の観客という立ち位置も捨てていません。

 

本作では、「最初の映画」は、
「黒人騎手が馬を駆る」映像であると紹介されています。

この事実だけが残り、
「黒人騎手」自身の出自は忘れ去られている、と。

つまり、
「見世物」とは、
「役割」だけが期待され、
見世物の主体性は、消し去られてしまうという悲哀の象徴です。

それは、
「見られる存在」(見世物)は、
ただ、消費されるだけで、
その対象自体の詳細は興味を持たれず、
蔑(ないがし)ろにされるという現代の作品コンテンツについての有り様を描いていると共に、

しかし、
作品をただ、無意味に消費するだけでは、
その主張の悪影響をも、
「見る側」(観客)は無自覚に被る事になります。

本作ではそれが、
見世物の叛逆として描いているのです。

 

で、本作で面白いのは、
「見せる側」の立場を描いている事です。

 

先ず、ジュープ。

彼は、過去にゴーディのTVに出演しており、

その共演者の、かつての金髪少女、
(現在は、ゴーディ事件の影響で、顔面破損、車椅子)を、
自分の初恋の相手と、作中で言っていました。

で、今の嫁さんが、
金髪美人という所に、闇の深さを感じます。

それは、それとして、

彼は「UFO遭遇ショー」の初回の前に、
緊張と興奮の入り交じった様子で、
「私が主役だ」と呟いていました。

 

これは面白い視点で、
例えば、スティーヴン・スピルバーグ監督の『未知との遭遇』では、
UFOとか、
ファーストコンタクトが物語の主体にありますが、

本作においては、
「見世物」の対象を撮影しようとする
「見せる側」に重点を置かれた物語になっているという点です。

 

本作で描かれる「見せる側」の存在は多数おり、

しかも、
その殆どの、失敗の様子が描かれているのが、
興味深く、面白い所。

対象(見られる側)を十分理解していると勘違いしたジュープは、
逆に、見世物に喰われます。

対象を知りもせず、調べもせずに、
そのショッキングさ、真新しさに食い付いたTMZの記者は、
あっさりと、Gジャンに喰われます。

Gジャンの撮影に成功したベテランカメラマンのホルストは、
「光がある」という言葉と共に対象に近付きすぎ、
やっぱり、喰われます。

 

作る側であっても、
作品を勘違いしたり、考え無しで作っていたとしたら、
しっぺ返しを受ける。

又、
作品で名声を受けたとしても、
調子に乗り過ぎたら、
その報いを受ける事になる。

 

しかし、OJは違います。

元々OJは、ちょっとコミュ障的な部分があり、

映画の撮影に馬の「ラッキー」を連れて行った時も、
キョドって、
誰とも目を合わせずに、泳いでいました。

それは、彼曰く、
「動物は、目を合わせると、興奮する」という体験と知識故の、
彼なりの処世術なのかもしれません。

まぁ実際、
人間でも、動物よりの中学生とかは、
「手メェ、今、何ガン飛ばしてンだよ!?」とか言って、
目があったら絡まれたりしますからね。

 

しかし、そんなOJのキョドり具合が奏功して、
「Gジャン」に対しては、一命を取り留める事に成功します。

「Gジャン」を「未知との遭遇」では無く、
「野生動物」の一種であると捉える事で、
対象の神秘性を剥ぎ取り、
「手短なモノ」へと堕とす事で、対処出来る存在と認識します。

そして、いざ対象に対峙する時は、
しっかりと、目を合わせているという、その対比が、
「やる時はヤル」というOJの格好良さを際立たせます。

 

また、本作では、
OJとエメラルドが互いに、
「見ているぞ」というサインを交わす場面があったり、

相手を見つめる時に、
「カメラと目を合わせる」という演出があったり、

「見る、見られる」という事を意識しながら、
「見せる」側の立場に立っているのが、
OJであるのです。

 

作品作りというものは、
OJの様に、対象をよく観察し、
万全の対策を以て、命懸けで挑むものだ。

どうやって未知の対象を撮影するのか?
その困難さを描く事はつまり、
誰も挑戦しなかった、新しい物語の地平を開拓、創造する事とも共通する事であり、

本作では、そういう、
物語を作り、提供する側の覚悟とリスクを同時に描いていると、
言えるのではないでしょうか。

 

こういう物語に対する、物語愛みたいな視線は、

M・ナイト・シャマラン監督の『レディ・イン・ザ・ウォーター』を思い出します。

なので、
M・ナイト・シャマラン風味に言うと、
『サイン』の設定で作った、
『レディ・イン・ザ・ウォーター』と言えませんか?
言えませんね!?

『レディ・イン・ザ・ウォーター』は批評家受けはしませんでしたが、

本作は、
エンタテインメントとしての「派手さ」があるので、
個人的には面白かったのですが、
どうでしょうか。

 

 

 

「UFO」を題材とし、
その未知との遭遇を通じて、

「見る、見せる、見られる」側の、
三者三様の関係性を描き出した『NOPE/ノープ』。

いつも通りに考え尽くされたストーリー展開、構成ながらも

画的な派手さとスペクタクルにて、
エンタテインメントとしてもしっかり面白い作品に仕上がっています。

真面目に突拍子も無い事をするってのが、良いよね。

個人的には面白かったのですが、
世間受けは、どうかな~

でも、観客は、結構入っていたので、
本作が、どう評価されるのか?
その行方も気になる作品と言えます。

 

 

 

 

 

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