映画『遊星からの物体X』感想  SFサバイバル・ホラーの極致!!

 

 

 

1982年、冬の南極大陸。アメリカ観測隊第4基地に一匹のシベリアンハスキーが駆け込んで来た。その犬を追って、ヘリに載った何処かの国の隊員が銃をぶっ放して駆け込んで来る。思わず返り討ちにしたアメリカ隊だが、これが悪夢の始まりだった、、

 

 

 

監督はジョン・カーペンター
カルト的な人気を誇る、数々のSFホラーを手掛けた。
主な監督作品に、
『ハロウィン』(1978)
『ザ・フォッグ』(1980)
『ニューヨーク1997』(1981)
『クリスティーン』(1983)
『パラダイム』(1987)
『ゼイリブ』(1988)
『マウス・オブ・マッドネス』(1994)
『エスケープ・フロム・L.A.』(1996)他

 

原作は、
ジョン・W・キャンベル・ジュニアの『影が行く』。

 

主演の
R・J・マクレディ役にカート・ラッセル
『ザ・シンガー』(1979)
『ニューヨーク1997』(1981)
『ゴースト・ハンターズ』(1986)など、
ジョン・カーペンター監督作の多くに出演している。

他の主な出演作に
『バックドラフト』(1991)
『スターゲイト』(1994)
『エグゼクティブ・デシジョン』(1996)
『ブレーキダウン』(1997)
『ソルジャー』(1998)
『デス・プルーフ in グラインドハウス』(2007)
『ヘイトフル・エイト』(2015)
ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』(2017)など。

 

 

 

『SF人喰いアメーバの恐怖』(1958)
『エイリアン』(1979)
『プレデター』(1987)
『アビス』(1989)
最近では『ライフ』(2017)など、

SFサバイバル・ホラーというジャンルは、
古くから作られてきました。

 

その、

SFサバイバル・ホラーにて、
最もカルト的な人気を誇る作品、

 

それが本作『遊星からの物体X』です。

 

限定された極限状況の中、
人知を超えた異性物との遭遇、戦いにおいて、
仲間が次々と失われてゆく、、、

 

SFサバイバル・ホラーを定義する場合において、
『エイリアン』と共に、
その作品名だけで、例証たり得る作品、

それが本作なのです。

 

 

犬を追って来た隊員は、
ノルウェーの調査隊だと判明。

マクレディは、
ヘリにてノルウェーの観測基地の様子を見に行きます。

ノルウェー観測基地は破壊され、煙がくすぶっており、
生存者は皆無でした。

残っていた書類、ビデオより、
ノルウェー隊は、太古の氷山より、何らかの物体を掘り当てたと判明。

そして、マクレディは、
およそ人間とは思えぬ異形の物体を発見し、
それを基地まで持ち帰るのですが、、、

 

 

本作にて特に目を引くのは、
その「The Thing」こと、異形の生物。

あまりのおぞましさに、
ビビって声を失います。

 

私がこの映画を初めて観たのは小学生の時。

見ましたね、
その夜、悪夢を!!

とにかく、
ビジュアルインパクトは絶大です。

CGなど無い彼の時代。

しかし、

今現在の技術と比べても、なんら遜色ないどころか、
CG以上の生命感溢れる、
「生もの」の迫力が味わえます。

 

そして、
冬の南極という極限状況の中で、

一人一人隊員が失われて行く恐怖。

気象も悪化し、
嵐が到来せんとする基地において、

凍てつくのは、
体か、
それとも、精神か!?

 

ハラハラし通しの傑作、
『遊星からの物体X』、
これが、SFサバイバル・ホラーだ!!

 

 

  • 『遊星からの物体X』のポイント

極限状況におけるサバイバル

異形の生物「The Thing」のおぞましさ

誰が味方か分からない、疑心暗鬼の恐怖

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 

 


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  • 恐怖の造型「The Thing」

本作『遊星からの物体X』は、
SFサバイバル・ホラーの極致にあたる作品と言えます。

 

映画というものは、
起承転結の構成が大事、
それと同等かそれ以上に、
作品に明確な「テーマ」が設定されているのかどうか
それも大事です。

愛について、
暴力の横暴について、
政治批判 etc…

映画の作品のテーマには色々あります。

本作にも、明確なテーマがあります。

しかし、
本作のテーマは、
作品のストーリーや内容的なテーマというより、

作品のジャンルを明確に押し出し、
それをテーマに据えていると言えます。

それは、
観た人間を怖がらせる
というものです。

 

それを際立たせるのは、
北極という極限状況の下でのサバイバル。

そして何より、
「The Thing」という、宇宙からやって来た(?)異形の存在です。

 

人体を浸食し、相手と同化する事で、その人間の「imitation(偽物)」となる存在である、
「The Thing」。

この特殊造型がもの凄いのです。

CGなどまだ無い時代。

しかし、
先ずは小手調べとばかりに、
シベリアンハスキーの変態により、
観る者の度肝を抜きます。

 

まるで、
『寄生獣』か?『犬神』か?

後の名作漫画の元ネタとなる、
頭がバクっと割れて、
触手がギュンギュンうねり回る!描写。

アニマトロニクス(ロボットに皮膚を被せて動きを制御する特殊技術)を駆使して作られたシーンですが、

CGなど、
及びもつかぬ迫力!

一体どうやって撮影したのか?
その方法を想像するだけでワクワクします。

 

いちいち、「The Thing」のシーンはどれも驚かされますが、
最も凄いのは、ノリス隊員に心臓マッサージをするシーン。

ノリスの胸がバクッと割れ、ギザギザの口が現われ、
コッパー医師の腕を噛みちぎる!

さらに、内蔵が飛び出し、「The Thing」が雄叫びを上げる。

マクレディはすかさず、火炎放射で焼き払いますが、

胴体に残ったノリスの頭が呻きながらちぎれ落ち、

その生首から蜘蛛の様な足が生えて、
這いずり回る!

こっそり逃げだそうとした「それ」を、
隊員が見つけ、
唖然呆然と「一体何の冗談だ?」と言ってしまうのは、

恐怖が裏返って、最早ギャグの様なシーンです。

 

一体どんな発想で、
こんなシーンを作れたのか?

正に、
映画史に残る名シーンと言えるのではないでしょうか。

 

  • 疑心暗鬼の恐怖

『遊星からの物体X』は、
そういうビジュアルのインパクトが絶大ですが、

それと同じくらい、
精神的な恐怖もまた、描かれています。

それは、
SFサバイバル・ホラーでは鉄板の描写ですが、
「疑心暗鬼」の恐怖です。

 

「The Thing」は、
知らぬ間に人間に成りかわっています。

つまり、
誰が人間で、誰が「偽物」なのか、
外見だけでは区別が付かないのです。

それによる、
隊員同士の相互不信が、
ただでさえ危機的な状況を、さらに煽る事となります。

これがまた、
(傍で見ている分には)格別に面白いのです。

 

これまた、印象に残るシーンがあります。

ビジュアルのインパクトで驚かせた後、
精神的な恐怖を描かんと設置された場面。

マクレディが隊員を脅し、
一人一人縄で縛り、
血液検査にて隊員に紛れた「The Thing」をあぶり出そうとするシーンです。

 

シャーレに採取した隊員の血液を、
一つずつ熱するマクレディ。

「お前はシロだ」「お前は人間だ」
と宣言する度に、
意味があるのかと、罵声が飛びます。

しかし、
パーマー隊員の血液を熱した瞬間、
突如その血液が膨張爆発!

縛られたパーマーは変身を開始しますが、
たまらないのは、同じくイスに縛られた他の隊員達。

正に、阿鼻叫喚の地獄絵図が展開されます。

しかし、
当のマクレディの火炎放射器が中々発火せず、
その間に、ウィンドウズ隊員が犠牲になります。

やっとこさ、火炎放射にて「The Thing」を焼いて、外に追い払いますが、
直ぐさま「戻って来い、マクレディ」と、死に物狂いの悲鳴が轟きます。

死んだウィンドウズが、
「The Thing」として黄泉がえって来るところ、
これも焼き払います。

一心地ついた隊員達。

尚も試験を続けるマクレディに、
隊員は、無実だと証明される度、
罵声と怒声が張り上げるのです。

 

「The Thing」の恐怖描写もさる事ながら、

このシーンでは、
人間同士が罵しり合い、阿鼻叫喚の地獄絵図が展開されるのが、

正に、
極限状況下において、
正しい判断、行動を採れない人間の愚かしさが存分に出ていて、

これまた名シーンと言うに相応しいものだと思います。

 

  • 結局、どうなったのか?

この、
「The Thing」の特殊造型
隊員同士の疑心暗鬼

この二本柱で進むSFサバイバル・ホラーが、
『遊星からの物体X』なのです。

 

特に、ラストへ向かうクライマックスは、
この二つの要素がブレンドした展開になっており、
見応えのあるものとなっております。

 

しかして、
「The Thing」のビジュアルにビビるのは勿論、
疑心暗鬼という点においても、
観客は、作中の人物と同じ気持ちを味わうことになります。

 

本作は、
誰が「偽物」なのか、
そのヒントが全く無い。

普通、
観客は第三者目線を与えられ、
何となくヒントを得る事で、
心の準備をしておける事も、多いです。

ですが、それが本作には無い。
容赦がないのです。

 

先ず、生物学者のブレア隊員です。

彼は、錯乱して、
基地のヘリや、通信機を破壊し、果ては犬まで殺してしまいます。

これは観客目線では、
「外の世界に「The Thing」を出したら、それが人類滅亡に繋がる為、それを防ぐ為に過激な行動に出た」行動なのだと、
見えるのです。

しかし、
実際はブレアは「偽物」でした。

この、観客が持つ第三者目線というメタ要素を逆に利用し、
観客自身に疑心暗鬼を植え付ける展開は、
計算され尽くした構成と言えます。

 

この上で、
ラストシーンのセリフが、
重くのしかかって来ます。

最後には、
マクレディとチャイルズのみが残りますが、
結局チャイルズが人間か、偽物か、それは分からないのです。

それどころか、
マクレディ自身、果たして人間なのでしょうか?

「後は待つだけだ」という最後のセリフは、

「The Thing」があぶり出て来るのを待つのか、

それとも、

春にやって来るという、
救援隊を待つのか?

救援隊を待つという意味は、
冬を乗り越え、春まで生き残ってやるという決意なのか?

それとも、
「The Thing」である自分が救援隊によって人間界に紛れ込む事を待つ、という意味なのか?

幾通りにも、意味を受け止める事が出来ます。

 

思い返せば、
隊員の一人、生物学者の助手のフュークスの脱落は、
前後の関係からしたら、あまりに不自然で唐突です。

マクレディは、
「フュークスは、或いは、(自分が乗っ取られたと悟って)自殺したのかも」と
言っていましたが、

展開的に整合性が高いのは、
「人間から偽物へと転化する時、下着(服)を破るという「The Thing」。マクレディも既に偽物であり、それに気付いたフュークスを殺した」
というものです。

大体、
マクレディは下着をずっといじっていましたが、
誰とも分からぬ他人の下着を、いつまでも触っていられるでしょうか?

自分の下着だと無意識下で分かっていたから、
普通に触れたのではないでしょうか?

 

とは言え、
マクレディは、主人公として、
率先して行動し、「The Thing」を排除していたじゃないか、

という反論が出て来る事かと思います。

しかしこれも、
感染した「The Thing」には、
元となる人物の個性と、その感染の進行度によって、
個体差が存在すると考えれば、説明がつきます。

実際、ノリス隊員の場合、
彼自身には、
自分が「The Thing」であるという認識は無かっただろうと思われます。

その上で、
マクレディの「偽物」は、

自分の生存を第一に考え、
その生存本能のみで、
他の個体を倒したのかもしれません。

自分の正体を明かそうとするフュークスも、
自分を殺そうとしている「The Thing」も、

自分にとっては等しく害となる存在なので、倒した、
それだけなのかもしれないのです。

 

まぁ、色々言っても実際は、
血液テストで、人間と証明されているんですがね!!

それでも、
もしかして、人の血液と入れ替えたのかも?
とか、
手の部分だけ、人間の血液を残していたのかも?
とか、
勝手に疑って深読みしてしまいます。

 

結局、何が言いたいのかというと、
主人公ですら信じられない、

この疑心暗鬼が観客にまで及んでいる
それが本作の面白さだと思うのです。

 

 

 

 

CGより、遥かに凄い、
特殊造型のおぞましさ。

そして、そのすさまじいビジュアルインパクトに引けを取らない、

疑心暗鬼という心理面での人間描写。

この二本柱にて、
SFサバイバル・ホラーの面白さ、恐ろしさを存分に描いた作品、

『遊星からの物体X』は、
ホラー・エンタテインメントの最も素晴らしい作品として、
今後も、長く評価されうる映画と言えるでしょう。

 

 

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