映画『ベン・イズ・バック』感想  全てが崩壊してゆくのか!?薬物依存症患者と家族の関わり!!

クリスマス・イヴの朝。薬物依存症の治療で施設に居るハズのベンが不意に帰って来た。母・ホリーは喜びつつも、家中の薬や宝石を隠し、妹・アイヴィーは義父に連絡を入れる。ベンはサプライズのつもりで帰って来たのだが、喜んでいるのは、幼いキッズの妹・弟のみ。義父・ニールに、未だ施設を出るのは早いと言われ、それなら、もう帰るとベンは言うのだが、、、

 

 

 

 

監督はピーター・ヘッジズ
映画化された自身の小説『ギルバート・グレイプ』(1993)の脚本を手掛ける。
監督作に、
『エイプリルの七面鳥』(2003)
『ティモシーの小さな奇跡』(2012)がある。

本作のベン役のルーカス・ヘッジズは実の息子

 

出演は、
ホリー・バーンズ:ジュリア・ロバーツ
ベン・バーンズ:ルーカス・ヘッジズ
ニール・バーンズ:コートニー・B・ヴァンス
アイヴィー・バーンズ:キャスリン・ニュートン

ベス:レイチェル・ベイ・ジョーンズ
スペンサー:デイヴィッド・ザルディヴァ 他

 

 

 

先日公開された映画作品に、

ある少年の告白』(2018)という作品があります。

本作のベン役を演じたルーカス・ヘッジズが出演している作品で、
その映画では、母親はニコール・キッドマンでした。

 

本作のジュリア・ロバーツと言い、
ニコール・キッドマンと言い、

往年のスター女優を母として持つルーカス・ヘッジズ、

彼はいわば、
アメリカの息子とでも言っていい存在なのかもしれません。

 

とは言え本作の内容は、
先日公開された作品で例えるとするならば、
ビューティフル・ボーイ』(2018)と言える作品。

つまり、

薬物依存症患者と、
その家族との関わりを描いた作品です。

 

 

クリスマス・イヴの朝に帰って来たベン。

帰ると言い出すが、
条件付きで、一日だけ、家に留まる事を家族は許します。

それは、
まず、薬物チェックを行い、
常にホリーの見える所にいなければならないというものでした。

不安に駆られながらも、
ベンを信じたい家族の面々。

しかし、
本人にその気が無くとも、
トラブルの方から、ベンを見つけて寄って来る、、、

 

 

日本では、
ドラッグが厳しく規制されているので、

本作の様な、
依存症患者と家族の苦悩は、
イマイチ、理解し辛い所があるかもしれません。

しかし、例えば、

あなたの近くにも、
アル中や、ギャンブル狂なんか、いないでしょうか?

アル中やギャンブル狂が居ると、
本人のみならず、

その周りの、
家族や友人達も地獄へ道連れ状態となります。

薬物依存症も、
正にそう。

本人は勿論、
最も関わる家族も、
様々な状況に、苦しむ事になります。

 

 

つまり、
薬物依存症の患者を、施設に送るという事は
生活から薬物の誘惑を遮断するという点もありますが、

家族の生活から薬物依存症患者を隔離して、
家族の心の安寧を図るという側面もあるのです。

 

しかし、
その家族のストレスの原因たる、ベン(薬物依存症患者)が帰って来た。

そこで、何も起こらないハズも無く、、、

 

確かに、
本作は、薬物依存症を描いた作品です。

その側面でドラマが進んで行くのは確かですが、
結局、

家族の中のトラブルメーカーと、
どう付き合えば良いのか?

 

それに悩む、
皆の様子を描いた作品であるとも言えるのです。

あなたの家族は、
仲良しこよしですか?

それなら、良い。

しかし実際は、
世の中にある家族の殆どは、
本作の家族の様に、

人間関係に悩む事が、
多いのではないでしょうか?

 

他人なら、
捨てられる関係、

しかし、
それが家族ならどうなる?
どうする?

 

楽しいハズのクリスマスが、
リアルな緊迫感のある、危機に直面する。

『ベン・イズ・バック』は、
実感出来るトラブルであるが故に、
リアルな苦悩が伝わる作品なのです。

 


 

  • 『ベン・イズ・バック』のポイント

薬物依存症患者と、その家族の関わり

母と息子

君子危うきに近寄らず

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 


スポンサーリンク

 

  • 地獄へ道連れ

映画『ボヘミアン・ラプソディ』にて再評価されたクイーン。

そのクイーンの曲に、
『地獄へ道連れ』(Another One Bites the Dust)という曲があります。

クイーン最大のヒット曲と言われる楽曲。

邦題は、良い感じにアレンジしていますが、
敢えて、原題を日本語に直訳すると、

「また一人、埃を噛む」とでも言いましょうか。

つまり、
「また一人、苦汁をなめる」
→「関わる者皆が、苦い想いをする」
→「地獄へ道連れ」
という感じの、曲の意味を汲んだ流れなんですよね。

 

薬物依存症患者と、家族の関係というのは、
正にコレ。

『地獄へ道連れ』(Another One Bites the Dust)なのです

 

  • オピオイドの恐怖

本作『ベン・イズ・バック』にて、
ベンが、薬物依存になる切っ掛けは、

怪我により、
医師が処方した、過剰なオピオイドがその原因だと描写されます。

ショッピングモールにて、
ボケ気味の元医師に、
「キサマの所為で息子がヤク中になった、テメェは地獄へ堕ちろ!!」

と、ホリーが恨み節を披露する場面がありますね。

 

本作のパンフレットの p.15 、松本俊彦氏のコラムが、
薬物依存症について、
非情に示唆に富むものでした。

 

オピオイドとは、
日本では、厳格に流通・処方が管理されていますが、

アメリカでは、
普通に医師により処方されるとの事。

ロキソニンやカロナールといった、
他の鎮痛剤と作用する場所が違うそうで、

強烈な痛みの鎮痛に役立ち、
又、
精神的にも陶酔感や多幸感が得られるそうです。

つまり、
病気や怪我の痛みで落ち込んでいたとしても、

その痛み諸共、
心理的な悩みまでも、一時的に無くしてしまうというのです。

その為、
快復が長引くと、
もっと、もっとと処方が増え、
薬物依存症に陥ってしまうのです。

アメリカでは近年、
オピオイドの依存症が問題視され、
「オピオイド危機」(Opioid Crisis)という非常事態が宣言される程だそうです。

 

こういう例を聞くと、
やっぱり、アメリカって、
過剰な自由が混沌を招いているなぁと、
つくづく思いますね。

 

  • 薬物依存症患者と、家族の関わり

本作のベンは、
サプライズで家に帰って来ます。

その真意は何か?
本当に、スポンサーの許しを得たのか?
それとも、本当はスポンサーに制止されたが、構わず施設を抜けたのか?

彼自身は母に
「本当はスポンサーに止められた」
とは言うものの、
それは、母を失望させる為に、
無理矢理吐いた嘘とも受け取れます。

結局、作中では真実は明らかにはされません。

 

一方家族は、
皆、困惑しつつ、それぞれの反応を示します。

 

妹のアイヴィーは、
最初は、不信感も露わにベンと接しますが、

徐々に態度は軟化、
なんのかんの言って、兄の事を心配しているというツンデレ具合を見せます。

 

義父のニールは、
男親として、
そして、血の繋がらない他人として、
どうしても、損な役回りになってしまいます。

後味が悪くても、
厳しい事を、ハッキリと、
誰かが言わなければならない、

その、家族の良心を体現する存在です。

最も、
ベンにとっては、
耳の痛い事ばかり言う、
目障りな人物として認識される訳ですが。

 

そして、
母のホリー

当然の様にベンを擁護しますが、
その反面、
ベンを自分の管理下に置いて、徹底的に監視します。

「母の愛は強し」と言えば聞こえは良いですが、

それを客観的に観ると、
他人に対しては、もの凄く態度が悪いです。

 

ベンの所為で、
薬物のオーバードーズで死んだ娘の母、ベスに、
躊躇いなく「お悔やみ」を言いに行ったり、

夜間薬局の店員に、
「薬売れよ、この役立たずが!」と罵声を浴びせたり、

息子がヤク中になる切っ掛けを作った元・医師には、
「地獄へ堕ちろ」と言ったり、

息子の友人であり、自分も赤ん坊の頃から知っているスペンサーから、ベンの情報を引き出す為、
禁断症状を見せる彼に、薬物を渡したり、etc…

 

息子のために、
何ものをも投げ出して、
無償の愛を発揮する母、

…みたいな美談になりがちですが
冷静に観ると、

社会的な常識を逸脱し、
その行動は、反社会的とも言える領域にも足を踏み入れている暴走状態だと言えます。

 

アイヴィーも、ニールも、ホリーも、
その性向は、普通なのでしょう。

しかし、
家族の中のトラブルメーカーたるベンとの関わりにおいて

常道を逸脱してしまうキャラクター性、
つまり、嫌な自分というキャラクターを、
好むと好まざるにも関わらず、
獲得してしまうのです。

 

本作は、薬物依存の話ですが、
これは何も、それのみに限定された話ではありません。

アル中やギャンブル狂が家族に居たり、

いや、
ごく普通の家族であっても、

たった一人の異分子の存在で、
家族仲がガタガタに崩壊してしまう事は、
よく有る事なのです。

哀しいけれど。

 

これは、
家族の中の話。

しかし、
薬物依存症患者というものは、
家庭外からも問題を持ち込んでしますのです。

本作では、それを分かり易く、

ベンの昔の悪い仲間が、
再び彼に目を付け、

飼い犬の「ポンス」を拉致してしまうという蛮行で実現されてしまいます。

 

依存症を誘発する薬物というものは、
脳に直接作用し、

脳そのものを、薬物を欲する形に変えてしまうとう恐ろしさがあります。

だからこそ、
強い自制が必要となります。

本人にも、
家族にも。

 

薬物依存症になる原因は様々ですが、
先ずは、
そうなった環境から脱し、
誘惑や悪意から、隔離する必要があるのです。

そりゃ、
本人達は「自分達は大丈夫」と信じたいでしょう、
本作の、バーンズ一家の様に。

しかし、
外部からの要因、

本作では、
薬を使った思い出の場所だったり、
薬を一緒に使った友人との不意の邂逅だったり、
薬物関係で自分に恨みを持つ人物と罵られたり、

自分達が意図しない形で、
様々な地雷が、
そこかしこに存在しているのです。

 

本人達には悪意は無いし、
薬物を克服し、
正しい道を行こうと決心し、

家族の事を想い、その時のベストの行動を選んでいる、

それなのに、
事態は、より深刻な状況を招いてしまうのが、
本作の皮肉な現実なのです。

 

クリスマスの日に、
面会の予定があったというベン。

「面会」より、
サプライズで泊まりに行った方が、みんな喜ぶだろう

そんな思い付きで行動したベンを、
家族は許してはいけなかった、あくまで施設に追い返すべきだった。

本作でのバーンズ一家の過失は、
その程度のモノであり、
いささか、厳しい指摘ではあります。

しかし、
その僅かな甘えの選択が、
最終的に、不可逆的な悲劇を招く一歩手前まで行った事を考えると、

薬物依存を肉体的・精神的・社会的に克服する事が如何に難しいのか、
本作は、その事を訴えているのです。

 

  • 出演者補足

本作でベンを演じたルーカス・ヘッジズは、
監督のピーター・ヘッジズの実の息子

先ず、主演のホリー役をジュリア・ロバーツに決めたそうですが、

そのジュリア・ロバーツの推薦で、
ベン役を息子に決めたそうです。

 

マンチェスター・バイ・ザ・シー』(2016)の演技が絶賛されたルーカス・ヘッジズ

思えば、
『マンチェスター・バイ・ザ・シー』も、
ある意味「息子」役でした。

ルーカス・ヘッジズって、
「息子役」を演じる事が多い印象です。

 

そのルーカス・ヘッジズと、
過去、
『レディ・バード』(2017)
スリー・ビルボード』(2017)にて共演したのは、

妹アイヴィー役を演じたキャスリン・ニュートン

3度目の共演ですが、
『スリー・ビルボード』ではも姉弟役で家族という設定でした。

 

『ベン・イズ・バック』は、息子の為に常軌を逸する母親を描いていますが、

『スリー・ビルボード』も、
娘の無念を晴らす為に、
常軌を逸してゆく母親の様子を描いた作品。

奇妙な繋がりを感じますね。

 

どうでも良いですが、

キャスリン・ニュートンって、凄く可愛いですよね。

ポケモンで例えると、
コラッタ的な可愛さがあります。

この例え、伝わるでしょうか?

そんなコラッタ・キャスリン・ニュートンは、
名探偵ピカチュウ』(2019)にも出演しています。

意外と、演技の幅が広いですね。

 

 

 

本人が「大丈夫」と言っても、
その言葉を信じてはいけない。

薬物依存を克服を証明するのは、

その行動を以てして、示さねばならないのです。

「君子危うきに近寄らず」

正しくあろうとしても、
ほんの僅かな隙を見せただけで、
悲劇は訪れる。

その厳しい現実を教えてくれるのが、
本作『ベン・イズ・バック』なのです。

 

ラスト、
ベンは帰って来ました。

しかし、
薬物依存との戦いは、

まだ、続くのでしょうね。

 

 

現在公開中の新作映画作品をコチラのページで紹介しています。
クリックでページに飛びます

 


スポンサーリンク