映画『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』感想  突然に重責を担う者の苦悩と奮闘!! 

ワカンダ国の王、「ブラックパンサー」ことティ・チャラは病で帰らぬ人となった。哀しみにくれつつも、母親のラモンダが代わりに王座に就いた。
一方国際社会は、強力な王が居なくなった隙に、ワカンダのみで採掘出来る鉱物「ヴィブラニウム」の奪取を目指した。
アメリカ、CIAの資源採掘船は、世界で唯一の「ヴィブラニウム発見装置」を搭載し、海底にてその鉱床を発見するのだが、、、

 

 

 

 

 

 

監督は、ライアン・クーグラー
監督作に、
『フルートベール駅で』(2013)
『クリード チャンプを継ぐ男』(2015)
ブラックパンサー』(2018)がある。
他に、製作総指揮なども手掛ける。

 

出演は、
シュリ:レティーシャ・ライト
ラモンダ:アンジェラ・バセット
オコエ:ダナイ・グリラ
ナキア:ルピタ・ニョンゴ
エムバク:ウィンストン・デューク

リリ・ウィリアムズ:ドミニク・ソーン
エヴェレット・ロス:マーティン・フリーマン

ネイモア/ククルカン:テノッチ・ウエルタ・メヒア 他

 

 

 

前作『ブラックパンサー』にて主演のティ・チャラを演じた
チャドウィック・ボーズマンは、
2020年8月、大腸癌で亡くなってしまいました。

シリーズのキャストが亡くなった場合、
普通なら、
別の新しい人物を、キャストとして迎え入れます。

例えば、
同じ「マーベル・シネマティック・ユニバース」でも、
最古参のキャストの一人、
『インクレディブル・ハルク』(2008)や、
『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016)
『ブラック・ウィドー』(2021)などで
サディアス・”サンダーボルト”・ロス役を演じたウィリアム・ハートが亡くなり、
代わりに、
ハリソン・フォードが、その役に就くそうです。

 

 

しかし、
「マーベル・シネマティック・ユニバース」の中でも、
メインキャラの一人として活躍した「ブラックパンサー」である、
ティ・チャラには、
代役を立てないという事が、
チャドウィック・ボーズマンの死後、発表されました。

そして、
製作予定である続篇も、
ティ・チャラが死亡したという状態になると伝えられたのです。

 

 

主役が突然居なくなってしまった続篇がどうなるのか?

しかも、
ストーリー展開上の必然で退場したのでは無く、
演じていた役者が亡くなり、
役も退場するという状況が、

今後、世界観にどの様な影響を与えるのか?

本作においては、
ストーリーよりもむしろ、
どの様なテーマを描くのか?
そこが、事前に気になり、個人的に注視しようと思っていました。

 

 

そんな本作『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』。

「ワカンダ・フォーエバー」は、
アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018)にて、
ティ・チャラが叫んだ言葉で、
どういう訳か、ネットとかで流行った台詞がサブタイトルに冠されています。

 

本作、まず言えのは

愛する人を失う、
その事に対する哀しみと怒りが描かれているという事です。

 

 

ティ・チャラという息子を、
もしくは、兄を喪った家族、

しかし、
王族という立場にあるが故に、

国を率いねばならず、
感情に明け暮れ、喪に服すよりも、
責務を果たす事を余儀なくされます。

 

もともと、
「マーベル・シネマティック・ユニバース」は、
ちょこっとユーモラスな描写も多く、

何となく、
『週刊少年ジャンプ』みたいな、
意味不明な所でギャグを挟むノリなんかもあります。

しかし本作は、

作品全体が重厚路線というか、
重苦しい感じの雰囲気に包まれています。

やはり、
意図的に「ティ・チャラが死んだ」という影響を、
作品全体に漂わせている事が解ります。

 

そして、
ティ・チャラ亡き後、
主観人物として描かれるのが、

彼の妹のシュリです。

 

シュリは元々、
『ブラックパンサー』などの「マーベル・シネマティック・ユニバース」作品においては、

お転婆ポジションというか、
割と、自由なお気楽さを発揮してくれて、

ストーリー上で、コメディリリーフとして存在し、
息抜き的な、清涼剤として扱われていました。

(それでも『アベンジャーズ/エンドゲーム』の最終決戦にも参加してましたが)

 

そんな陽キャだった彼女が、

兄の死に際し、
自分の信じる科学の技術力が及ばなかったという事実に直面し、
激しく動揺します。

そして、
妹のシュリも、母のラモンダも、

意図せぬ責任を背負わされる

 

 

その戸惑いが描かれています。

 

そんな、心理的な動揺の中で、

新たな登場人物、
新たな勢力が登場し、

「マーベル・シネマティック・ユニバース」お馴染みの、
ド派手なアクションシーンが展開されるので、

元々、その点が目的の方も安心です。

 

まとめますと、

アクション映画として軸足を置きつつ、

しかし、
愛する人を喪った哀しみと怒り、

その心の機微をテーマとして描いた作品、
それが『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』。

本作で30本目となる
「マーベル・シネマティック・ユニバース」。

長く続ければ、
こういうテイストの作品も出て来る、
このバリエーションの豊かさに、唸らされます。

 

 

  • 『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』のポイント

突如愛する人を喪う、その哀しみと怒り

意図せず重責を担うという事

「外敵」は、自らの心の動揺の中から生まれる

 

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 

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  • 感情の機微を描くアクション映画

本作『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』は、
一言で言うと、感情の機微を描いた作品です。

その感情とは、
愛する人を喪った哀しみと、やる場の無い怒りを覚えること。

そして、
突如、思いも掛けぬ重責を担う事になる戸惑いを描いています。

 

『シビルウォー/キャプテン・アメリカ』(2016)の初登場以来、
前作『ブラックパンサー』(2018)を始め、
「マーベル・シネマティック・ユニバース」の数々の作品で「ブラックパンサー」を演じた
チャドウィック・ボーズマン。

その彼が、現実世界において亡くなってしまい、
それに伴い、
作品世界においても、
彼の演じたティ・チャラも退場する事になりました。

 

元々、
どういう作品を続篇で作るのか、決めていたのかは解りませんが、
明らかに、本作は、
「ティ・チャラの死」という状況下で、

愛する者を喪った近親者の苦悩を描く事をテーマに据えようと、
そういう路線に変更したと考えられます。

 

  • 愛する者を喪う哀しみと怒り

主人公の死により、
本作において主観人物として描かれるのは、

ティ・チャラの妹のシュリと、
母のラモンダです。

 

アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018)にて
宇宙生命の半分が消滅した時、
ティ・チャラとシュリも消えてしまいました。

それを経験している為か、
ラモンダは、わりかし気丈に振る舞っています。

喪に服しつつも、
硬軟取り混ぜた外交をこなし、

そして、
唯一残された肉親である娘のシュリに、

愛する人との別れ、
その哀しみとの区切りの為に、
葬儀で着た服を燃やすという事を提案するのです。

 

しかし、
シュリの方は、それに反発します。
まるで、反抗期の中学生の様に。

彼女は、
科学者として、ワカンダのラボに務めていました。

国を継ぐ兄(ティ・チャラ)と違い、
彼女は割と、自由気ままに、明るくヤンチャな陽性な性格に育っていました。

それが今や、
国を継ぐ後継者となってしまった。

 

しかも、兄は、
ギリギリまで病気を家族にも告白していなかった。

シュリは苦悩します。

もしかして、自分の技術で救えたのではないか?
そして、
兄が告白を遅らせたのは、自分が信用されていないからではないのか?

そういう苦悩と後悔、情けなさが入り交じった感情に翻弄され、
1年経っても、未だに整理が付かずに悩んでいます。

 

葬儀で着た服を燃やそうとラマンダに言われたシュリは言い放ちます。

「そんな事(儀式)して何になる」
「私が燃やしたいのは寧ろ、この理不尽な世界の方だ」と。

 

兄を喪った事で、

シュリは感情面で苦悩します。

そしてそれは、
気ままな第二子から、
彼女が今や、国を継ぐ後継者になったという事であり、
思いも掛けぬ重責を背負わされている状況でもあります。

 

  • 内面の苦悩を外敵として描いた作品

例えば日本の天皇制の様に、
一子相伝の皇族や、
他国に見られる王族などは、
長子か、それ以外かで、
大分、人生の扱いが変わってきます。

しかし、庶民であっても、

例えば、家業で店や会社を経営していて、
社長の親や兄弟が亡くなってしまったり、

上司が転職や異動になって、
ポストが空いたりした時、

急に、何の準備も出来ていない状況で、
思いも掛けぬ重責を担わされるのは、
意外と、よくある事です。

 

兄を喪った事で、
シュリは感情面で苦悩しますが、
それは、哀しみだけではなく、

自身の状況の変化に対する、
反発という事でもあります。

シュリは言います、
「世界を燃やしたい」と。

そして、その台詞を言い放った時に、
自分の国ワカンダと同等の戦闘力を持つ、
海底王国のタロカンの王、ネイモアが物語に登場します。

 

ネイモアは、
タロカンが管理する海底のヴィブラニウムの鉱床が、
アメリカのCIAに発見された事で、

自らの王国が明るみに晒される事を危惧しています。

それならばと、
地上の蛮族に母の故郷を汚された過去があるネイモアは、
自身の王国が侵略されるよりは、
先に、地上に攻め入ろうと考えます。

そこでネイモアは、
ワカンダにある種の同盟を提案します。

 

物語上、タロカンは、
唯一、地球上でワカンダと同等の軍事力を持つ国として描かれています。

しかし、
タロカンの生活を目撃したシュリ(と観客)は気付かされます。

本質的には、
タロカンもワカンダも(観客の実生活も)
日常の営みは、何ら変わる事は無いのだと。

 

ネイモアは、
母ラモンダの命を奪い、
地上に侵攻しようとしてはいますが、

つまりは、
シュリの心の中の「負の感情」の発露、
その現し身であると言えるのです。

 

また、
シュリがハーブを摂取し、
「ブラックパンサー」の力を得た時、

内面世界で出会ったは、
前作『ブラックパンサー』での悪役、
自らの従兄弟のエリック・キルモンガーでした。

キルモンガーは、
黒人を迫害する世界に反発し、
逆に、ワカンダの技術力を以て世界を征服しようと企んだ人物。

復讐心に燃えていた彼が、
「ブラックパンサー」となったシュリの内面世界に現われた。
これはつまり、
シュリ自身が、
理不尽なこの世界に復讐したいと思っている事の証左でもあります。

 

シュリ自身、
国を担う王女として適任か、
そして、
「ブラックパンサー」として、
戦闘面で優秀か。

気ままで陽気な性格であり、
また、
細身のスレンダーな体格である彼女は、
実際、どちらも向いていません。

しかし、やるしかない

 

この状況、
役のシュリだけでは無く、

シュリを演じる役者のレティーシャ・ライトにも言えます。

大作映画で、まさかの主役。

「マーベル・シネマティック・ユニバース」の中で、
脇役の一人だった人物が、
突然、主役の一人として抜擢される。

そんな演じているレティーシャ・ライト自身の困惑も、
役柄とない交ぜとなっていると思えます。

 

 

本作で描かれるのは、
哀しみと怒り、苦悩という負の感情に囚われたとき、
窮極的に、何を選択するのかという物語です。

 

シュリは、タイマンで勝利したネイモアの命を奪わず、
ある種の融和を目指す事で戦闘を収め、
その時に「ワカンダ・フォーエバー」と叫びます。

苛烈な父、
高潔な兄、
寛容な母、

彼女は復讐心に囚われる事なく、
前任者達の性質を等しく受け継ぎ、
国の統治者として、ベストな選択を下すのです。

 

人は、
愛する者を喪った時、
急に、投げ出されたような、
寄る辺の無い不安に晒されます。

しかし、
愛する人達がどの様に生きたのかを思い出す時、

それが、
自分の「今から」を支える筋道になります。

 

負の感情に挫けるか、
それとも、
誰にも頼れなくとも、重責を背負いきる覚悟を決めるか、

本作は、その選択を描いた作品として、

我々の様な一般人にも
理解出来る戦いを描いていると言えるのではないでしょうか。

 

  • ネイモアの発言

さて、
ここからは、ちょっとした小ネタ。

作中、
自らの出時を、
ネイモアはシュリに語りますが、

その時、
「私はミュータントとして生まれた」
という台詞があります。

 

「マーベル・シネマティック・ユニバース」の中では、

ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』(2022)において、

マルチバース世界で、
「プロフェッサーX」こと、チャールズ・エグゼビアが登場していました。

しかし「マーベル・シネマティック・ユニバース」の中で、
ハッキリと「ミュータント」という存在が言明されたのは、
今回が初めてです。

 

これはつまり、
今後、満を持して、
「マーベル・シネマティック・ユニバース」版の「X-MEN」が登場するという事の、
布石であると思われます。

 

嘘か、誠か、
「デッドプール」シリーズの第三作目に、
ヒュー・ジャックマンが「ウルヴァリン」役として復活するとか、

「マーベル・シネマティック・ユニバース」版の新・ウルヴァリン役として、
タロン・エガートンがキャスティングされるとか、
噂がありますが、

ともかく、
「マーベル・シネマティック・ユニバース」にも、
本格的に「X-MEN」が合流しそうです。

その点、注目したいですね。

 

 

 

愛する人と喪った時の哀しみ、怒り、困惑。

そして、
急に担わされる重責の中、

負の感情に囚われながらも、
役割を全うする覚悟を決める選択をする物語、

重厚でありつつ、卑近なテーマで観る者も考えさせられる作品、
『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』。

役者の死を逆に作品に反映させるという手法は、
節操が無い気もしますが、

しかし、内容面で、中々に面白い作品に仕上がったと言えるのではないでしょうか。

 

ラストシーンでは、
ティ・チャラの隠し子が発覚し、

シュリは、この世に肉親が居り、
自分が天涯孤独では無いと知ります。

これは、
困難を乗り越えたが故に知る事が出来た、
ご褒美というか、一筋の救いですが、

同時に、
後継者問題として、
国を二分する可能性もある事態の発生でもあります。

今後のワカンダ国が、
「マーベル・シネマティック・ユニバース」の中でどう描かれるのか。

そこにも、
期待大です。

 

 

 

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