1940年5月9日、英国。内閣不信任決議が出され、チェンバレン首相は辞任を迫られる。欧州を蹂躙中のナチス・ドイツに対抗すべく、与野党連立の挙国一致内閣を統べる人物として白羽の矢が立ったのは、嫌われ者のウィンストン・チャーチルだった、、、
監督はジョー・ライト。
イギリス出身。
文学っぽい香りのする原作が好みの印象。
主な監督作に
『プライドと偏見』(2005)
『つぐない』(2007)
『アンナ・カレーニナ』(2012)
『PAN~ネバーランド、夢のはじまり~』(2015)等がある。
主演、ウィンストン・チャーチル役にゲイリー・オールドマン。
まさかの特殊メイクでソックリに化ける。
主な出演作に
『JFK』(1991)
『ドラキュラ』(1992)
『レオン』(1994)
『裏切りのサーカス』(2011)
『猿の惑星:新世紀』(2014)
「ハリー・ポッター」シリーズ
「ダークナイト」シリーズ、等多数。
他、共演にクリスティン・スコット・トーマス、リリー・ジェームズ、スティーヴン・ディレイン、ベン・メンデルソーン等。
時は1940年、5月10日。
ナチス・ドイツのベルギー、フランス侵攻開始と時を同じくしてウィンストン・チャーチルが首相に就任する。
本作は
英国がナチス・ドイツに対し、どの様なスタンスを採るのか、
首相就任直後のチャーチルがそれを決断するに至るまでを描く作品です。
実話ベースの本作は、チャーチルの様々な人物エピソードを交えながら、
一個人が選択が如何に世界を変え得るのか、
その事を描写しています。
チャーチルでは首相にふさわしく無いと愚痴る者が居り、
ベルギー、フランスと陥落し、いよいよ首が絞まってきた情勢の中、
内憂外患に如何に対処するのか、
難しい決断をするリーダー像の物語です。
政治家としての手腕、
人間としての魅力、
彼が居なかったら、今の世界は無かったと言える人物、
その一面を知る契機となる、
映画『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』は、そんな作品です。
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『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』のポイント
決断し、責任を取る事がリーダーの条件
政治家、チャーチルの手腕
人間、チャーチルの魅力
以下、内容に触れた感想となっております
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- DARKEST HOUR
本作『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』は邦題、
原題は『DARKEST HOUR』となっております。
では、「DARKEST HOUR」とはどの様な意味が込められているのでしょうか?
Wikipediaの記述を参照すると、
「DARKEST HOUR」とは、
英国がナチス・ドイツの侵略にさらされた時期、
とりわけ、1940年5月15日のフランス陥落~1941年6月22日のロシア侵攻に至るまでの期間で、
ウィンストン・チャーチルが述べた言葉です。
ダンケルクからの撤退~バトル・オブ・ブリテンの勝利までの間で、最も暗黒だった瞬間は、
1941年5月10日のロンドン空襲の時だと言われています。
また、英語のことわざに
The darkest hour is that before the dawn.
(訳:最も暗い時は夜明けの直前である)
という言葉があります。
本作で言いますと、
史実では、この映画での描写の後、「DARKEST HOUR」に突入して行く事になります。
しかし、一方で、徹底抗戦という方針を打ち出すまでの、その決断こそが一番難しい、
つまり、チャーチルが議会や人民に認められる寸前までの期間、という意味での彼個人の心情としての「DARKEST HOUR」の意味合いも含まれているのだと思われます。
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チャーチルという人物の魅力
本作の主役、ウィンストン・チャーチルの生涯とその経歴は、とても一言では言い尽くせない程波瀾万丈に満ちています。
そこに人間的な魅力を感じる一方、実際には敵も多く作ったハズです。
映画内の描写でも、ガリポリの戦いにて失策を演じたチャーチルは、その非を責められており、
しかし、本人はベストを尽くした結果だと、めげる事がありません。
また、実生活でも、小難しい老人そのものの様子、
初勤務のタイピストを怒鳴ったり、
地下鉄に一度も乗った事が無いと嘯いたりします。
しかし、
そういう欠点に溢れ、憎らしい一面をも持ち合わせた人間だからこそ、
観る人間に共感をもたらし、「チャーチルの言う事ならば」という説得力を持つ事にもなっています。
チャーチルという人間は、紛れもない傑物です。
しかし、彼も一人の人間であり、
そんな一個人が、悩み、苦しみ、自分の判断に揺らぎながら下した決断が世界を変える事になったという事実に、震えを禁じ得ません。
世の中や、政治に、自分の声は届かない。
本当にそうでしょうか?
一個人の決断で世界が変わるのなら、自分の言葉も、世界に何らかの意味をもたらすのかも知れない。
そんな希望すらも感じます。
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劇場型政治家、チャーチル
Success is not final,failure is not fatal: it is the courage to continue that counts.
(成功が終わりでは無く、失敗とは致命的では無い。肝心なのは継続する勇気だ)
本作のラストでも述べられたこの名言。
ウィンストン・チャーチルは言葉を武器にして人の心を掴んだ人物です。
何しろ彼は、1953年にノーベル文学賞を受賞した程なのです。
生涯に5千冊の書籍を読破し、並外れた記憶力で常人の倍の語彙を持つという彼は、
その一方で簡潔で分かり易い言葉を選んで、力強く印象に残る演説を行いました。
政治的手腕は色々とありますが、
暴力や粛正による陰キャ的恐怖政治よりも、
民衆を巻き込んだ劇場型の陽キャの方が強い、
チャーチルの事を考えると、その事実に思い至ります。
とは言え、劇場型政治には危険がつきまといます。
指導者が獲得する圧倒的人気は、しばしば独裁を招くからです。
何をか言わんや、かのヒトラーも劇場型政治家なのですから。
実際、チャーチルも、
ダンケルク撤退の為に、カレーの守備隊に捨て石になれと信じられない命令を下します。
将棋で「歩」を捨てるかの如く、
人間の命を切り捨てるという苛烈さは、戦略的には正しくとも、常人を超えたものがあります。
一方、本作では英国王ジョージ6世に、
「国民に誤解を与える言説は控えよ」とたしなめられる場面もあります。
チャーチルの場合は、国王という存在が暴走の歯止めになっていたのかもしれません。
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貴族院と庶民院
チェンバレン辞任後、もう一人の首相候補として名前が挙がったのが、ハリファックスです。
彼が首相にならなかったのは、貴族院出身だったからだと言います。
貴族院とはいったい何なのでしょうか?
イギリスでは
いわゆる上院を貴族院(House of Lords)、
下院を庶民院(House of Commons of the United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland)
と呼びます。
貴族院は、非公選制の終身任期。
庶民院は公選制となっています。
20世紀以降は、貴族院議員が首相になる事は、憲法慣習として避けられているそうです。
ハリファックスもそれに倣ったのでしょう。
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関連映画作品
本作に関連した映画作品で先ず、思い浮かぶのは『ダンケルク』です。
これは、英国陸軍のダンケルクよりの撤退、「ダイナモ作戦」を描写した作品です。
また、英国王ジョージ6世の事を描写した『英国王のスピーチ』もオススメです。
前王エドワード8世との関係、
吃音に悩むジョージ6世の苦悩などが描かれています。
これらの作品を同時に観賞すると、時代の背景を見晴るかす視点が立体的になる事請け合いです。
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出演者補足
まず、ハリファックスを演じたのは、スティーヴン・ディレイン。
映画の出演に『めぐりあう時間たち』(2002)、『ゼロ・ダーク・サーティ』(2012)等があります。
ですが、やはり一番印象的なのは、ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』のスタニス・バラシオン役でしょう。
敵対者との対話と宥和をめざしたハリファックス、
敵対者との対話を一切拒んだスタニス・バラシオン、
方針は全く違えど、融通無碍の頑固者という印象は共通しているのが面白いです。
英国王ジョージ6世を演じたのはベン・メンデルソーン。
英国俳優が固める中、オーストラリア出身の彼が英国王を演じた所が興味深いです。
普段は癖のある悪役が多いですが、本作ではカッコイイ役です。
主な出演作に、
『アニマル・キングダム』(2010)
『ダークナイト ライジング』(2012)
『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命』(2012)
『エクソダス:神と王』(2014)
『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(2016)等があります。
物事は、成し遂げる直前が一番困難である。
そんな「DARKEST HOUR」を描写した作品が『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』です。
どんな傑物でも、一個人の人間である事は変わらない。
しかし、決断し、敢然と進むことこそが、一番の勇気なのだと、
本作ではその事を訴えた作品なのだと言えるのです。
勇気を持って前へ進む。
我々も、そうありたいものです。
*現在公開中の新作映画作品をコチラのページで紹介しています。
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映画『ダンケルク』について語ったページです。
こちらも合わせてご覧頂くと、より時代の空気が理解出来る事と思います。
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さて次回は、自ら決断せず、権力者に寄りかかる事を選んだ人間は?小説『忍法双頭の鷲』について語ります。